ショート 白い鳥と、白黒に少し黄色の虎
白地に黒く細い縦線の虎が球場全体に聞こえるよう、咆哮を響かせた。打ち返した白球は一本の線となり、風を切って飛んでいく。
もはやそれを見る必要も無いとダイヤモンドを悠々と走る虎が観客席へと前足を振る。
棲家へと戻る虎を見つめながら、私は膝に掛かったビールがだんだんと体温に近づくのを感じていた。
チケットを貰ったのは偶然で一枚しかなかった。仕事の都合で行けなくなり、代わりに見てきてくれと言われたが、野球に関しての知識なんて持ち合わせていない。
私なんかよりも他の人に渡した方が有意義に使ってくれると断ったが、同志が増えると逆に押し付けられてしまい、ここに座ることとなった。
まさか、食い入るように見ることになるとは。家を出るまでは仕方なく見てやろうと思っていたのに、先程の咆哮が私の何かを目覚めさせた。
新しい虎がバッターボックスへと立ち、その牙を見せつけ、獲物が飛んでくるのを待ち構える。
白い鳥が飛び立ち、羽ばたくのと同時に姿勢を低くし、牙へと力を込めたのが分かる。
射程圏内に入った鳥を牙で捉えようとするも、するりと鳥は逃げ去る。周囲のどよめきが耳へと入ってくる。
ああ、さっきの雄叫びをもう一度聞かせてくれ。狩猟本能を呼び起こさせる、あの熱い声を。
その日、虎の牙が再び白い鳥を捉える事は無かった。ツバメ達は歓声を浴びながら上空を旋回し、巣へと戻っていくのだろう。
球場を出てすぐに、感謝の電話を入れる。
「野球って、すごいですね。今まで興味を持って見てこなかったのが勿体ないと思えるくらいに感動しました」
「……すまない、今日は勘弁してくれ……さっき速報を見て落ち込んでるところなんだ。仕事もまだ終わらない」
虎の勇姿を生で見たかった同志へともう一度だけ感謝を伝え、次の試合のチケットはどうやったら手に入れられるか検索し始めた。
もし次の狩りがテレビ越しだったとしても、私の血を湧かせるには十分なはずだ。
ユニフォームを見て、突発的に。