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ラスタリア王国へ

 盗賊は、傷の手当てをしてロープで縛って放置した。

 斬り落とした腕や指は焼いた。煙も出てるし、気付いた人が盗賊を見つけて衛兵に突き出すだろう。賞金も出るし、見つけた人にとってはラッキーかも。

 盗賊は、人差し指と親指しか残っていない。物を摘まんだりはできるだろうけど、もう武器を持つことはできない。反省したら、ちゃんと働いてほしいわね。


「さて、トラブルはあったが先に進むぞ」

「はい」


 十人以上の盗賊を相手にしたのに、イズは息一つ切らしていない。

 私は、初めての戦闘でいっぱいいっぱいなのに……やっぱり、騎士ってすごいわね。


「どうだった?」

「え?」

「初めての戦闘にしては、筋が良かった」

「あ、ありがとうございます」

「だが、まだ硬い。任務が終わったら私が鍛えてやろう」

「え」

「ふふ、実に素晴らしい剣筋だ。お前は剣の神に愛されている」

「えっと……」


 返答に困るわね……剣の神様に愛されてもなぁ。

 私は首を軽く傾げ、曖昧に微笑んだ。


「さて……少し、急ごう。ラピス、少し前へ」

「え?……あっ」


 イズは馬に飛び乗る。そして、私を抱えるように座り、手綱を握った。


「今日中にラスタリア王国に入りたい。少し急ぐぞ……ハァッ!!」

『ブルルルルッ!!』


 手綱を引くと、馬が走り出した。

 

「わ、わわわっ」

「摑んでいろ!!」

「は、はいっ!!」


 私は、イズのシャツを掴んでいた。

 横座りしたまま馬を走らせるなんて初めて。なかなかバランスが取れない。

 でも、イズは私が落ちないように、腕で身体を支えていた。


「…………ぅ」


 なんだか恥ずかしい……早くラスタリア王国に到着しないかしら!


 ◇◇◇◇◇◇


 夕方。ラスタリア王国に到着した。

 ラスタリア王国……貴族の集まりや夜会で何度か来たけど、貴族令嬢だった頃とは違う視点で見てる。

 表通りは華やか……でも、路地裏に目を向けると、物乞いのような少年がこちらをジーっと見ている。路地裏の奥は暗く、ラスタリア王国の闇が見えた気がした。


「……典型的だな」

「え?」

「華やかな表通り、だが裏通りは……見ろ、物乞い、孤児、そして不衛生な環境。そのすべてが揃っている。さらに、見ろこの活気……とても、国境がラグナ帝国軍に占領されたことを知っている活気とは思えん。我が軍がラスタリア王国の国境を占領して一月以上経過しているんだぞ? それなのに、何も知らないような住人たち……参ったな。王都に入って数分で、この国の現状が見えてきた」

「…………」


 王都……そういえば、私に求婚してくれたグレンドール様も、いるのよね。

 オブリビエイト侯爵家は、貴族街に館を構えていたはず。


「とりあえず、宿を取って情報収集だ。小さい村ならともかく、これだけ人が多い城下町なら、そうそう怪しまれることはない。酒場、商店関係で金を使いながら、さりげなく情報を引き出すぞ」

「はい。わかりました」

「……何か気になることがあるなら今のうちに言え」

「…………」


 私は、少し考えた。

 ここでため込んでいると、イズはきっと私を不審に思うはず。

 なら……ちゃんと言うべきかも。


「宿でお話します……」

「……わかった」


 イズはそれ以上何も言わず、近くの宿を取った。


 ◇◇◇◇◇◇


 宿屋で、私は全てを話した。


「なるほどな、お前の婚約者か」

「元、です」

「……お前も苦労しているんだな」

「…………」


 イズは煙草を吸いながら私を見た。

 私は、思わず言ってしまった。


「憐れまないでください。私は、衛生兵として頑張ったつもりです」

「……すまなかった」

「私のことがわかりましたか? 私は実家や国に未練はありません。この話を信じてもらえないようでしたら、私のことは信用しないで結構です」

「…………」


 目頭が熱くなってきたわ……泣いちゃダメ。

 私は上を向く。涙を流さないように。


「……ラプンツェル」


 イズは、偽名でなく本名で私を呼ぶ。

 そして、私に頭を下げた。


「これまでの非礼を詫びる。お前の誇りに因縁をつけ、厳しい言葉をぶつけてしまった」

「……いいんです」

「私は、お前を信じようと思う。お前の剣に迷いはなかった……ラグナ帝国のために振るう剣、私もお前がどのような剣士。いや騎士になるか、見てみたい」

「き、騎士って……わ、私は女です。騎士になんか」

「なれる。私が、このイカリオスが保証しよう」


 イズは優しく微笑んだ。

 不思議……イズって、こんなに優しく笑うんだ。


「さて、ラピス。さっそく情報収集といこうか」

「……はい!」

「お前の働きに期待する。さ、行こうか」


 イズは私に手を差し出し、私はその手を優しく掴んだ。

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