第23話 異端者
「貴様!この僕を騙したのか!獣人に精霊を従わせる力はない!」
「僕、一言も獣人なんて言ってないんだけどなぁ。」
前へと出てきた陽輝に対して皇眞はそう叫んだが、勝手に皇眞が獣人だと勘違いしていたのだ。
陽輝としてはどうすることもできず肩をすくめる他なかった。
「この僕でさえ精霊と契約できないのになぜ貴様なんだ!」
「人族は元々精霊との契約が難しい、魔力が低いなら尚更だよ。」
「黙れ!貴様に出来てこの妖精族に血を引く僕が出来ないはずがないだろう!」
「…君は僕に何て答えてほしいの?僕が力ずくでシャルと契約したとは思ってないでしょ?」
精霊族は気に入った者が現れるとその者に近付いて、精霊側から契約を願い出るのだ。
精霊との契約は精霊に名を与えて魔力を流し込むことで成立する。
精霊と契約すると、精霊自身の魔力を分けてもらえ、より強力な魔法が使えるようになるのだ。
だが精霊は邪心が強い者の前に現れることはない。
皇眞の場合は邪心が強いこともあるが、精霊の言葉がわからないことも、姿が見えていないことも要因に含まれているだろう。
「魔力を持つ君ならもう分かってるはずだよ。君は…」
「黙れ黙れ黙れ!!〔火よ!我に害成す彼の者を業火の炎で焼き尽くせ!炎の光線!〕」
陽輝の言葉を遮るように皇眞は声を荒げると詠唱を行って火炎放射を繰り出した。
昨日の火球は陽輝に簡単に塞がれたためか、今回は少し威力をあげているようだ。
だが陽輝は、避けることなくそれを獣化させた右手で受け止め、反撃することなく皇眞を静かに見つめる。
皇眞から見たその表情はまるでこちらを哀れんでいるかのようだった。
「そんな目で僕を見るなっ!!〔火よ!我に害成す彼の者を火の粉の雨で覆い尽くせ!炎の雨!〕」
皇眞は次々に詠唱を行っては攻撃を繰り出しているが、陽輝はその全てを右手で打ち消していく。
そして攻撃を出し尽くした皇眞は息を切らしながら陽輝を睨みつけた。
「クソッ!クソッ!クソッ!…この、化け物め!!」
「っ!………そう、かもしれないね。」
自分の攻撃が全く通用しない陽輝に対して皇眞はそう暴言を吐いた。
陽輝はその言葉にピクッと反応し、悲しそうな表情で獣化した自身の手に視線を落とす。
その表情に気分を良くした皇眞がニヤリと笑みを浮かべ、顎を上げて見下した。
「っは!なんだ貴様、自分が化け物であると自覚していたのか?それで良く僕ら人間様の前に姿を見せれたものだな!」
「………。」
陽輝は反論することなく、ただただ悲しい表情を浮かべるだけだった。
もちろんその暴言は周りの者にも聞こえていて、美羽とシャルムは「今すぐあいつを殺したい」、そんな表情で殺気立っており、周りの者が恐怖で後ずさるほどだ。
生徒を平等に扱わなければならない精華でさえも皇眞を睨みつけていた。
周りで観戦していた生徒も皇眞の暴言に眉を顰める者が多い。
そんな周りに気付いていないのか、皇眞の暴言は続いた。
「貴様のような化け物は生きる価値もない!僕ら人間様を脅かす魔物同然だ!貴様のような異端者がなぜ平然t[ドーン!!!]」
陽輝を含め、皆何が起こったのか分からず、皇眞の言葉は大きな衝撃音と同時に途絶えている。
陽輝は驚いて顔を上げるが砂埃が舞っていて周囲が見えない。
少しすると、皇眞の頭が何者かによって頭を地面に押さえ付けられているのが見えた。
それも地面が割れるほど強く押さえ付けたようで、皇眞の頭が地面にめり込んでいる。
陽輝は美羽が我慢できずに彼を殴ってしまったのかとそのめり込ませている者に視線を向けると、
「…え…」
「貴様!こんな事をしてt[ゴン!!]」
「黙れ、人間のゴミが。」
そこには皇眞の頭を再び地面に押さえ付けている累の姿があった。
その声は陽輝が今まで聞いたこともないほど低く、その表情も人相が変わるほど皇眞を睨みつけて殺気立っている。
その行動に陽輝はおろか、殺気に満ちていた美羽とシャルムまでも目を見開いて、累の行動に驚いている様子だった。
累は皇眞が動かなくなった事を確認すると、頭から手を離して立ち上がる。
「こんな奴の言葉などに耳を貸す必要はないぞ。」
そして陽輝の方に向けた累の表情は先程とは打って変わって優しい目をしていた。
その優しさに思わず泣きそうになってしまう陽輝だが、皇眞の言葉がどうしても耳から離れず下を向いてしまう。
「…僕は彼の言う通り化け物なんだよ、膨大な力を持て余した他とは違う異端者だ。」
美羽に記憶を操作されている陽輝は過去のことを覚えていない。
だが、天界からの使者であることと、膨大な妖力と魔力両方を得ているということから、自分が異端であると思っているのだろう。
入学式の様子から見てもその事を気にしているようだった。
「他と違う?それがどうした、この世界には誰一人として同じ者は存在しないぞ陽輝君。」
「累…でも…。」
累が力強くそう言葉を投げかけても陽輝の表情は晴れない。
累はその様子を見て仕方ないなと溜息をつくと、累が持つ全ての式神をこの場に出した。
小鳥、狼、鬼人など他8体、合計11体もの式神が累を中心にずらりと現れ、周囲の者をざわつかせたが、累はそれらを無視して陽輝と向き合う。
妖達から狙われやすい祓い屋が手の内を明かすことは自殺行為に等しいが、累はそれを承知で式神を全て出した。
累の意図が分からず慌て始める陽輝だが累はいたって冷静に口を開く。
「私の一族は、単独で行動する祓い屋だ。他の祓い屋と違ってこのように式神を一度に多く操ることが出来るからな。」
祓い屋には呪印の書かれた陣を使って祓う者や、妖怪と契約して祓う者などがいる。
その中でも式神を扱う者が最も多いのだが、累のように一度に何体もの式神を操れる者は神山家だけなのだ。
他の者は、どれだけ優秀な者でも精々3体までしか操ることはできない。
式神は隷属のようにそれぞれが意思を持って行動しているわけではなく、祓い屋本人が、式神に妖力を込めて命令することで動いているのだ。
だから祓い屋の妖力量が多くなくては何体もの式神を同時に操ることはできない。
しかし、神山一族は例外なく妖力の多い者が生まれる家系で、どの代でも最低7体は同時に操れている。
その中でも累は才能が有り、初代を除けば最も多く式神を操ることができるのだ。
「これも陽輝君の言う他とは違う、私の一族は異端の祓い屋ということだ。」
「違っ!僕はそんなつもりで言ったんじゃっ!」
その言葉を聞いていた陽輝は目を見開いて首を横に振った。
累は「分かってる」といった表情で優しい笑みを浮かべて頷く。
「神山家が特殊であることはこの先ずっと変わらない。だが私の力は初代様から代々受け継がれてきたもの、むしろ誇りに思っている。」
累の知識や力は初代を始め、先代達が自分たちに遺してくれたものなのだ。
陽輝のその力も月読命と精霊王が与えてくれたものなのだが陽輝はそれを知らない。
だが、累が言いたいのはそういうことではないのだ。
累は出した式神を消すと、陽輝に歩み寄ってその獣化されたままの右手を両手で握った。
「異端者、と言えば聞こえが悪いがこうとも言い換えられる。陽輝君、君は〈唯一無二〉の存在なんだ。」
「っ!!」
「だからもっと自分を誇れ!」
陽輝の手をギュッと握って力強い瞳で見上げてくる累に、陽輝は思わず下を向いて目をそらしてしまった。
陽輝は薄々、累が美羽から色々と聞いていることに気づいていた。
それでも尚、累は陽輝のことを信じてくれている。
「…ありがとう累。」
とても小さな声だったが、累にはしっかりと聞こえたようでニコッと笑うと、少し高い位置にある陽輝の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「盛り上がっているところ悪いんだが、一応実力テストだったことを忘れていないか神山。」
「! …申し訳ない理事長、だが…。」
「あぁ、別にお前を咎めるつもりはないよ、むしろ良くやった。」
すると、その様子を黙って眺めていた精華が歩み寄ってきた。
その後ろには風紀委員の3人と、美羽と肩に乗ったシャルム、そしてシノブがついて来ている。
累は思わず美羽の方に目を向けるが、美羽もシャルムもちょっと感心したように親指を立てていたためホッとする。
実力テストと言った以上、どんな理由であれ精華が手を出すわけにはいかない。
美羽とシャルムに至っても、従者である者が手を出せば問答無用で失格だろう。
「とは言っても、実力テストは行わなくてはならない。だから梓竜院、ブレイジェル、東雲、それぞれ陽輝と美羽、そして神山の相手をしろ。」
「「「…はい?」」」




