第20話 2度あることは…
「シノブも同じクラスだったんだね。」
「はい、陽輝さん、気づかれてなかったんですね。」
「じゃあシノブは気付いてたんだ。」
「皆さん目立っていらっしゃったので。」
シノブも玖牢学園に通っているようなので一緒に向かっていたが、クラスも一緒だとは思っていなかった。
美羽と累が気にしていないところを見ると気付いていなかったのは陽輝だけのようだ。
教室へは入ると早速テストを行うようで、来たものから外へと出るよう書かれていた。
外へと出ると結構な人数が集まっていて、今年入学した者全員が行うようだ。
陽輝達も時間になるまで適当に待っていようとしたが、視線を感じて居心地が悪い。
『…何故皆さんこちらを見ているのでしょう?』
「…君がいるからじゃないかなぁ。」
陽輝の肩に乗っていたシャルムが不思議そうにそう呟くが、ほとんどの者がシャルムを珍しそうに見ていた。
シャルムが精獣と気付いているものは少ないが、精霊を連れているということで珍しがられているのだろう。
『私は見世物ではありませんのよ!』
「みんな何言ってるかわからないから、いい子にしてて。」
見られていることが気に食わないのかギャンギャンと騒ぎ出したシャルムを陽輝は顎を優しく撫でてなだめた。
シノブもその様子を優しい目で見ていたが、一方で美羽は険しい表情で一点を睨みつけている。
「…懲りない人間ね。」
「?…どうした?」
美羽が校舎の方を睨みつけて独り言を呟き、それを隣で聞いた累が一瞬美羽を見上げて何かあるのかと美羽と同じ方向に顔を向ける。
だが累が見ても何もなく、もう一度美羽に聞こうと美羽を見上げると、校舎の方が少し騒ついた。
累がもう一度そちらを見ると何かがこっちに向かってくるのが分かる。
陽輝もそれに気付いたようで、シノブを背後に隠すように庇った。
肩に乗っているシャルムも陽輝の雰囲気が変わったことに気付き、臨戦態勢をとる。
「全く、何がそんなに気に入らないのかな。」
そう言葉を発した陽輝の視線の先には、邪魔だと言わんばかりに周りを蹴散らしてこちらに向かってくる皇眞達がいた。
その視線は真っ直ぐ陽輝に向けられていて、今にも攻撃してきそうな雰囲気だ。
シノブも皇眞達に気付いたようで、耳を垂らして怯えている。
「貴様、獣の分際でよくもコケにしてくれたな!しかも貴様らはAクラスらしいな!何故獣風情がAクラスでこの高貴な僕がDクラスなんだ!」
「何でと言われても、精華さんにそう言われたからとしか…。」
「あ、あの、陽輝さん。クラスは魔力、妖力の量によって分けられてるんです。」
皇眞にそう怒鳴り散らされたが、クラス分けの意味を知らない陽輝は首をかしげる他なかった。
するとシノブが怯えながらも陽輝の裾を引っ張って、クラス分けの説明をしてくれた。
シノブ曰く、1学年AからFまでのクラスに分かれていて、魔力、妖力の多い者からAクラスへと入れられるらしい。
入学する際の試験は、力の量を図りどのクラスに入れるかを決めるためなのだそうだ。
だからアルファベットが早いほど、力の量が多いということになるのだ。
「あ、そうなの?じゃあ君より僕の方が力の量が多いからだね。」
「は、陽輝さんっ。それは火に油…」
「〜っ!どこまでこの僕を馬鹿にする気だ!もう僕と勝負しろ!貴様の不正をこの僕が正してやる!」
「不正?あぁ、試験をしてないからか。でも試験なしでも良いって言ったのは精華さんだしなぁ。」
「〜っ!!」
皇眞は顔を真っ赤にさせて声にならない程激怒しており、反対にシノブは今にも倒れそうなほど顔を真っ青にさせていた。
周りにいた者達もヒートアップしてきた声に何事かとこちらに集まり始めている。
「美羽君、陽輝君には今の世界の現状よりも前に人との関わり方を教えるべきではないか?」
「言わないで、今痛感してるから。」
陽輝は良くも悪くも正直で素直な性格をしている。
そのおかげで救われた者も多いのだが今回はその性格が仇となったようだ。
皇眞の後ろに控えていた2人も怒りで顔を真っ赤にさせていて、今にも襲いかかってきそうな勢いだった。
すると、突然人集りに道ができ、こちらに誰か駆けつけてくる。
「やめなさい!何を騒いでいるんですか?!」
「陽輝じゃん、昨日ぶりだね。何?またこいつらに絡まれてんの?」
駆けつけてきたのは昨日出会った李音とサクマだった。
その後ろからは晶と精華がこちらに歩いて向かってきているのが見える。
「李音にサクマ?晶に精華さんまで、どうしているの?」
「どうしてって、テスト見学するためだよ。理事長は分からないけど。」
サクマ達は毎年行われるこの実力テストを監視も兼ねて見学しているのだ。
そしてその実力が優秀だった者は風紀委員に勧誘しているとのこと。
力が多いからと言ってそれをうまく使えているとは限らないため、こうして実力テストで判断しているのだそうだ。
昨日の「また明日」というのはそういうことかと陽輝は理解する。
風紀委員は今のところ4人なのだそうだが、昨日もいなかったもう1人の者は今日もサボっているようだった。
「じゃあ精華さんはなんでいるんですか?」
「お前がいるのに私が見に来ないわけないだろう!」
「そんな当たり前のように言われても。」
「貴様!いい加減にしろ!この僕を無視するな!」
「いい加減にするのはあなた達です、これ以上揉め事を起こすと処罰の対象になりますよ。」
「黙れ蜥蜴風情が!獣の分際で僕に指図するな!狐野谷は兎を相手しろ!アマナはあの女をやれ!こいつの相手は僕がする!」
李音が間に割って入り止めようとするが、皇眞は聞く耳を持とうとせず、孤野谷もアマナと呼ばれた巨体の男も同様だった。
李音は呆れるあまりため息をついて実力行使に出ようとしたがその前についてきていた精華に止められる。
「まぁ待て、陽輝が相手なら大丈夫だろう。テストの代わりということで許可しよう。」
「何故ですか?授業以外での力の使用は規則違反です。」
「だからテストの代わりだと言っただろう。それに理事長である私が良いと言っている。まぁ黙って見ていろ。」
真面目な李音は納得のいっていないような表情だったが、この学園のトップである精華に言われると何も言い返せず黙って従う。
陽輝達の周りにいた者達を、サクマと晶で飛び火しないくらいまで遠ざけて、場所の準備も整え終わっていた。
獣人の中でも戦闘向きではないシノブを流石に狐野谷と対峙させるわけにはいかないため陽輝はシノブを累に預けて皇眞達の前へと出る。
すると皇眞が陽輝の肩に乗っているシャルムに気付いたようで、睨みつけるため細められていた目を大きく見開いた。
「っ!その肩に乗っているのは精霊族じゃないか!何故貴様のような獣風情が契約している!」
『先程から陽様に対して獣などと…これだから人間は嫌いなのです。全くもって礼儀がなってませんわ。』
「やっぱり彼らは人間なの?妖精の血を引いてるって言ってるけど。」
『皇眞という人間は妖精族、狐野谷という人間は妖怪族、アマナという人間は巨人族の血をそれぞれ多少、引いているようですわ。』
多少ということを強調するように嘲笑したシャルムはそう答えた。
シャルムは相手の魔力、又は妖力の混ざり具合をみて、その者が純血かそうでないか、何の血が混じっているかを細かく見極めることができる魔眼を持っている。
その程度で妖精の血を引いているなどと、という意味で嘲笑したのだと気付いた陽輝は苦笑いを浮かべる。
『あの人間、陽様に対して無礼にも程がありますわ。陽様、あの者の相手は私が引き受けてもよろしいですか?』
「いや、たぶん僕が相手をしないと彼の気は収まらないだろうからね。僕1人で相手してもいいんだけどそれだと君達が納得しないでしょう。」
『勿論ですわ。』
「当然です、なんなら私1人でも充分です。」
「シャルは狐野谷っていう彼の相手を頼むよ。だから美羽はアマナっていう彼の相手をよろしくね。」
『むぅ…仕方ありませんわね。陽様がそうおっしゃるなら。』
「…承りました。」
シャルムも美羽も不服そうではあるが仕方ないという表情で了承した。
向こうは1人ずつ相手をするつもりのようで、アマナだけが前へと出てくる。
「おい女、さっさと出てこい。可愛がってやるよ。」
「昨日主に手加減されたうえで気絶していたのによくそんな大口叩けるわね。」
「黙りやがれクソ女、昨日は油断しただけだ。今日は初めから本気でやってやるよ。」




