第15話 美羽の思惑
この世界全ての者が妖力か魔力どちらかを持つ。
その力の使い方を学ぶため、3つの国全てに玖牢学園のような学校があるのだ。
だから玖牢学園はその学校のうちの1つにすぎない。
「悪いが、君達が理事長と話している内容をこの子を通して聞かせてもらった、と言っても一部だけだがな。」
そう言って累が指に乗せたのは、小鳥の姿をした式神だった。
それを見た美羽は特に驚くこともせず累の話に耳を傾けている。
美羽が理事長室を出る際、精華は「協力は今日までだ」と言っていた。
だから初日である今日だけ制服などという不必要なものを着てくるように指示していたのだろう。
(理事長は陽輝君にこの世界のことを知ってほしいような口ぶりだった。だが、美羽君にも協力していたということは…)
「陽輝君の過去に何かあった、そして君がその何かを隠しているということは分かった。」
「それで?仮に私が隠し事をしていたとして、あなたに何の関係があるの?」
「私自身には関係ない、だが君の主である陽輝君にとっては関係があるんだろう?」
「……。」
「私の勘違いかもしれないが、君はこの事を私に気付かせたかったんじゃないのか?」
美羽の時折見せるあのやるせない表情は必ず累にしか見えないように、陽輝には見えないように浮かべていた。
そして陽輝の話の内容の矛盾。
陽輝自身、その矛盾に気づいておらず、何の違和感もなさそうに話していたことを察するに、何者かが彼の記憶を消す、もしくは操作しているとしか累は思えなかった。
(先程見た美羽君の翼、歴史の本に載っていた天使の翼の倍は大きかった。)
翼の大きさはその者の才を表す、この言葉はその本に書かれていたもので翼の大きさと才能は比例するというものだった。
言葉の通りならば美羽は才ある者、そのような者が人間に思惑を気付かれるなんて失態を犯すはずがない。
「私に背後を取られるという失態は本当のようだがな。」
「…うるさいわね。…はぁ、ご名答よ。確かに私は主に隠し事をしている。でもね、それは主を守るものなの。もし主が本当の事を知ってしまうと間違いなく主は壊れてしまう。」
「壊れてしまう?」
「そう。…主を信じるって言うあなたの言葉、私はそれを信じるわ。だから、一つだけ約束してほしい。どんなことがあっても絶対に主を、【月草陽輝】を拒絶しないと。」
そう力強く言い放った美羽の顔付きは、今までに無い真剣な表情で真っ直ぐ累を見ていた。
美羽が何を思い、何を考えてそう言っているのかは累には分からない。
本来、服従対象である自身の主に対して隠し事など言語道断、それが主に関することなら尚更だ。
だが、美羽のその表情からはそれ相応の覚悟と意思を感じ取り、累はそれに応えるように左胸に手をあて口を開く。
「私は自分の言葉に嘘を付くような愚か者ではない。」
「……変わらないわね。」
「?」
そう力強く言い切った累の言葉を聞いた美羽は嬉しそうに笑みを浮かべ小さい声で呟いた。
初めて見せる美羽の笑顔に累は一瞬ドキッとするものの、美羽の言葉の意味が分からず首を傾げる。
美羽は累と初めて会った時から言葉では言い表せないモヤッとした感覚が自分の中で渦巻いていた。
彼と話すに連れてその感覚が何なのか分かりつつあったが、そんな訳ないと思い込み、その感覚に蓋をしようとした。
しかし、心のどこかでそうであってほしいと思っていたから、僅かばかりのヒントを与えたのだ。
その普通であれば気付かない些細なヒントを彼は見事に拾い上げ、正解もとい自分の元へとたどり着いた。
累が先程宣言した言葉、美羽は似たような台詞を遠い昔に一度だけ聞いたことがあった。
『私は自分の言葉を偽るような莫迦じゃないわ。』
累と彼女の言葉が重なって聞こえた美羽は思わず笑みを浮かべてしまった。
天使である自分の背後をたかが人間である彼が取れるわけはなく、それこそ神の加護でも受けていないと絶対にありえないのだ。
(もう疑いようがないわね、やっぱり彼は…)
「どうしたんだ美羽君、急に黙り込んで。」
「……なんでもないわ。」
美羽は言いかけていた言葉を飲み込み、首を横に振った。
今はまだ時期ではないと判断したから。
累は今後陽輝が陽輝であるで為のキーとなる。
だからこそ累には陽輝すら知らない本当のことを知ってもらう必要があるのだ。
「主はあなたに自分のことを天界からの使者だと名乗った。事実主もそう思い込んでるわ。」
「思い込んでる?それは天使の能力なのか?」
「いいえ、違う。私のこの能力は主と主従の契約をした際に与えられたものよ。だから私だけではこの【精神操作】は扱えない。」
契約を交わす流儀はどの種族も同じで、忠誠を誓う相手の血を受け入れることで成立する。
血の中にはその者の妖力も含まれており、美羽はその妖力を使うことで初めて【精神操作】を扱うことができる。
美羽の与えられた【精神操作】は、対象の記憶を操作したり、思い出せないように蓋をしたり、幻覚を見せたりすることができるのだ。
「契約のことはもちろん知っているが能力を与えられるなんて聞いたことないぞ。」
「それはそうでしょう、人間のあなたが知るはずもないわ。これは天使の極一部しか知らないことよ。」
「ちょっと待て、そんなことを私に言っていいのか?」
「別に隠している訳ではないし、秘密事項っていう訳でもないわ。それよりも私はあなたにに真実を知ってほしいの。」
主従契約は子供でも知っているような、一般常識とさえ言われている契約だ。
だが、累の言葉通り、忠誠の代償として【能力譲渡】などというのは前例がない。
(いや、前例がない訳ではないのだろう。美羽君の言う通り私たちが知らなかっただけだ。…それを出来る者がこの世界にいないから。)
美羽が言っていた「天使の極一部しか知らない」、そして才ある天使である美羽がそれを知っていてその能力を得ている。
累の知っている限り、天使が己の主人であると認める相手は1種しかいない。
「…ここに来る前、主はあなたに対して〔常識の枠には収まらない〕と言ったのを覚えてる?」
「ああ。」
「その様子だともう気付いてるみたいね。でもそれはまだ正解じゃない。」
「まぁそうだろうな。」
「あら、驚かないの?」
「私たち人間だって元を辿れば陽輝君と似たようなものだからな。だから珍しくても陽輝君が神から生まれたと言われても驚かない。」




