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Memory of ReLIFE  作者: 雨霧紅人
第1章 始まりの一週間
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5話 知らないわからない

 テンに抱えられ、屋根の上を駆け上がってからおよそ三十分――

 目的地だと思われるところに到着したらしく、ここから大きな円形の形をした広場が見える。広場の中心には噴水があり、そのすぐ近くには時計塔と思われるものが立っている。花壇や椅子があり、休憩広場といったところか、だが昼間なのに人通りは少なく、ちらほら広場を歩いているのが数人見える程度だ。


 「し、死ぬかと思った…」


 「私もこれまでで多分今までで二番目か三番目ぐらいのランキングで死を覚悟したよ…」


 「情けないなお前ら」


 「だ、誰のせいだと思って、るんだ…」


 少年とエレナの顔色は真っ青で安定して座れる場所の屋根にへたり込んでいた。

 

 テンに抱えられ屋根を駆け上がってから三人は屋根の上を飛んだり走ったりして目的地まで移動をしていた。そこで屋根の上から何度も滑り落ちかけた。安定しない足場に十メートルぐらいの高さゆえの恐怖心から、何度も落ちかけ、そのたびにテンが助けてくれたのだが。

 体を瞬時に捕まれ、体が宙に浮く感覚を何度も味わい、宙に吊るされた姿を見てエレナも顔を青くして体を震わせて今に至るというわけだ。 


 「一時間おきにブラッドにはこの場所に帰って来るように言ってる。もう少ししたらここに来るはずだ」


 「――何で屋根の上から行ったんだよ…死にかけたし、人もこんなに少ないなら裏路地とか通っていったほうが良かったんじゃないか?」


 「あまり人目に付きたくなかったんだよ。それにこんなに人通りが少ないのは俺も想定外だった」


 「―――大分落ち着いてきたわ」


 隣で震えていたエレナは心臓の部位を掴みながらも立ち上がり、広場の方に顔を向ける。


 「たしかにこんなに人が少ないなんておかしいわ。いつもならこの場所に子供達がよく遊んでいるのに…」


 「―――」


 「俺の存在がバレたからなのか…?」


 少年が異能を使ったところを傭兵に見られたから、王都中に連絡が行き、人通りが少なくなっているのかと思ったが、それだと展開が早すぎる。

 傭兵に異能と言われているものが見つかってからまだ一時間も経っていない。それなのにこの状況をいくら何でも早すぎる。何か王都で問題があったのか――


 「存在がバレたというのは何だ?」


 テンは少年の発言に疑問を感じ、問いかける。もともと凶悪面の原因となっている三白眼が更に恐みが増す。


 「いや、別に……それよりあんたは俺を知ってるんだろ?俺についての話を聞かせてくれよ」


 咄嗟に話題を変えたが、テンの視線は変わらない。だがそこまで深くは聞く気がなかったのかすぐに引き下がり、少年の話に応じる。


 「――記憶を無くしたってのは本当なんだろうな?」


 「本当に本当。記憶がないから今もメッチャ焦ってるよ」


 「そうは見えないけどなぁ」


 冷ややかな目で少年を見て、そう告げる。見た目少年は記憶を失って焦っているような感じは見えない。それはエレナから見てもそう思える。どこか抜けているのか、記憶がなくなったことがあまり重要ではないように見えている。


 「レオ、記憶を失ってからはどこで何をしていたの?」


 エレナは少年を見て真っすぐに真剣に話す。青く輝くコバルトブルーの瞳に自分の顔が映り、おもわず顔を逸らす。


 「……ああ、えっと、確か俺は…裏路地のゴミ捨て場で目が覚めたんだよ。そこからは自分が誰で、ここはどこで、何をしていたのかとか全く覚えてなかったんだ」


 「裏路地ってさっきレオが行ってた場所だよね?」


 「ああ、そこだ。そこで目が覚めたから何か手掛かりがあると思っていったんだけど、何もなくてな」


 「―――またなのか……」


 「え?何だって?」


 「―――何でもない。その話は後でだ。ブラッドが来たぞ」


 テンは広場の方を指さし、その方向に目を向けると広場の奥、街の風景に見える異物。屋根の上を走ってこちらに向かってくる男。


 見た目は茶髪に爽やかな優男の雰囲気に、服装は黒を基調した衣装を着ている。身長はテンより低く見える。


 「テン、レオ!」


 屋根を走ってくる男は名前を呼び、こちらの屋根までやってくる。両の茶色の瞳はテンと少年を見て、すぐ横の少女に目を向ける。


 「―――こちらは誰だ?」


 「あ、私はエレナ。隣にいるレオの……友達よ」


 少し間があったが、友達という間柄だったらしい。少年からすればエレナは恩人である。何も知らなかった地で事情も知らない男に飯を寝床を与えてくれた。


 「まあ、俺の恩人でもあるけどな。それより君の名前を教えて欲しいんだけど」


 「―――?僕に言ってるの?そのエレナに自己紹介すればいいのか?」


 「ああ、いや、まあ、とりあえずは…」


 「?どうしたんだレオ?―――まあ、とりあえず僕はブラッド・ルインソンだ。よろしくね」


 「ブラッド・ルインソン…」


 少年は顎に手を当て、茶髪の少年の名前を繰り返す。茶髪の少年――ブラッドは少年の言動に不可解に感じ、テンの方に顔を向ける。


 「どうしたんだレオは」


 「どうやらレオはどっかで頭打って記憶が吹っ飛んだらしい」


 テンは両腕を組み、少年の現状を伝える。

 少年の現状にブラッドは顔を顰める。


 「レオ。それは冗談…だよな?」


 「冗談で言っていたらおもしろかったけどね。本気の本気で目が覚めたら記憶がなかったんだよ」


 「どこで目を覚ましたんだ?」


 「その話も君が、ブラッドが来るまでに話したんだけど、裏路地のゴミ捨て場で目を覚ましたんだ。そのゴミ捨て場も特に何もなかったからな。原因を探そうとしていたらこのテンに捕まったんだよ」


 「捕まったとは人聞きの悪ぃな」


 少年は記憶がなくなってからテンと出会ってからの出来事を二人に話す。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 

 一通りの話を二人にして、さすがに屋根の上にずっといるわけにはいかずに裏路地の通りに下りていた。

 

 「―――と、とりあえず俺が目が覚めてから今日までの出来事だ」


 「冗談ではないか…」


 ブラッドは今までの話を聞いて、少なくとも嘘ではないと判断してくれたらしい。テンの方は未だ疑ってはいるが、少なからず納得はしてくれた感じだ。


 「まあ、信じてもらうってしか言いようがないからな…とりあえず君たち二人の目的、俺も含めた三人かな?今まで何をしていたか教えて欲しい」


 自分が何者か証明しようにも手持ちには何もない。これからの外見や言動だけで信じてもらうしかない。


 「そうだな、だけどその前に自己紹介をしよう。もしかしたら何かの拍子に思い出すかもしれないし。僕の名前は――ブラッド・ルインソンだ」


 「俺の名前はさっき言ったが、テン・ミラーだ」


 二人は改めてこちらを向き自己紹介をしてくる。確かにこれから話すことで自分の記憶が戻る確率がゼロではない。だけど―――


 「まず、俺の名前は何だ?本当の名前があるなら知りたいんだけど」


 「名前?名前ならさっきそこの女の子が話していたじゃないか」

 

 「―――それは呼ぶときに不便だからって話で……」


 少年はレオと呼ばれているがそれが本当に自分の名前なのかはわからない。自分の名前も忘れてしまい、腕についていた傷の文字からレオとエレナは呼んでいたのだ。


 「――お前の名前はレオ・パーシバル・フェルムだと、あのとき…言っていたが…確か」


 「そうだ。レオ・パーシバル・フェルムだと言っていた」


 少年の名前の話で言葉が詰まっていたブラッドの代わりにテンが話を引き継ぐ。どうやらレオ・パーシバル・フェルムという名前が少年の名前で間違いはなかったようだ。

 

 「じゃあ、レオ。僕たちは三日前にこの王都に来た。それは記憶にあるか?」


 「いや、ないな」


 「三日前に僕たちはある人がここにいるという情報を聞いて、ここに来た」


 「じゃあ、人探しに来たのか?」


 「まあ、そうとも言う…」


 ブラッドの言う言葉は歯切れが悪い。だが人探しのために三日前にこの王都に来た。これだけでも十分の情報だ。今まで自分が誰で、ここはどこで、何をしていたのかはわからなっかたので、かなりの進歩と言える。


 「その目的の人は見つけたが、かなりまずいことになった…」


 「まずいってのはどういうことだ?」


 「――騎士団だ。王都の中心の城であいつを見かけた。恰好は騎士団の制服だった。」


 「―――」


 「騎士団……」


 二人はそれ以上何も言わず、エレナは騎士団と言われ何か思うことがあるのか顔を顰めている。

 そこに―――


 「――見つかったならいいんじゃないか?騎士団ってのは見たことないが王都を守るためにいるんだろ?」


 三人は驚いた眼でこちらを見つめた。

 はっきり言ってこのような顔をされたのは昨日から何度もあるのでたいしたことではないが。

 

 「――お前、本気で言ってる…のか」


 「あのな、レオ。騎士団ってのは確かに王都を守ってるやつらのことだが、守ってるのは王都の人、この国の住民だけだ。俺らは対象じゃない」


 テンは何か言いたげだったが、ブラッドが変わり早口でそう答える。


 「俺らが対象じゃない?それはこの国の出身じゃないからか?」


 「それは違う。レオは知らないが、俺はこの国の出身だ。対象じゃないっていうのは俺らが異能をもっているからだ」


 「さっき、私が言ったでしょ?異端者っていう人たちは世界の嫌われ者なんだって」


 異能。今日で何回聞いたかわからないぐらいの単語だ。エレナに聞かされた世界からの嫌われ者の話。

 だからと言って、俺まで被害が遭うってのはおかしな話だ。自分はいたって普通の人だと自覚している。今は記憶はないが、記憶を失う前も悪党ではない…と思っている。


 「――その、異能ってのは…」


 「――!」


 ―――瞬間、裏路地が急激に温度が下がっていっているのがわかる。凍てつくような温度の変化が体の皮膚に刺さり、痛いくらいだ。吐く息も白く冷たくなっているのがわかり、裏路地の地面が凍って凍結していっている。


 壁が、地面が、空気が淡く青い輝きを持ち、さっきまで見えていた数メートル先が全く見えなくなっている。


 「何だよ、この気温の変化は…寒すぎだろ」


 少年は両腕で体を擦り、体温を高めようとするが気温はそれでも下がっていき、体を擦っているだけでは体温は上がっていかない。手を温めようと息を吹きかけるが、何も感じることができない。

 隣にいるエレナも両腕で体を擦っており、歯をカチカチと震わせていた。


 「――おい、エレナ…これって…」


 エレナを触れようと近づこうとしたときに、少年、エレナとテン、ブラッドの間に青く透き通っているように見える檻が現れる。


 「―――何…が…」


 エレナをその場に倒れるように少年にもたれ掛かる。エレナの顔は青白く、呼吸も薄い。危険な状態であるとはっきとわかる。だが、何故か声を上げることができない。肺が痙攣して、心臓の鼓動が小さく動いていることがわかる。なぜ、どうして。


 不味いと頭の中で思っているが、体が寒さによって思うように動かない。


 ———マズイマズイ、なんできゅうにこんなていおんになって………


 「―――レオ」


 「―――れ…」


 遠くで誰かの声が聞こえる。だけどそれがどの声だったかなんて―――


 頬が冷たいものに当たっているのを感じるが、体を動かす気にもならない。体中がひんやりと冷たさを感じるが、何故かそれが心地よく感じてきている。

 

 自分が地面にうつ伏せになっているのも気づかない少年は―――


 「―――え、エレ……ナ…」


 遠くなっていく意識の中で手を伸ばして、倒れている彼女の手を握ろうとする。


 ―――冷たい。薄れていく意識で、自分が陥っている事態にも気づかぬままに何もわからない少年は視界が暗く、暗黒に飲まれていく。

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