3話 散策と出会い
――エレナの話を聞いて少年はとりあえず自分がどう生活していくかを考える。
エレナと国の話をしたのは昨日の出来事である。とりあえず聞きたいことを聞き、感謝をして出ようかと思ったが、エレナが「もう、夜も遅いから泊って行って。」と言った。断ろうとしたが取り合ってもらえず、なし崩しにその日はエレナが休んでいる宿に泊まった。
彼女は自分が女で泊める相手が男だということをわかっていないのか。それを話すと彼女は首を傾げて、何を言ってるんだという目つきで見られた。エレナの将来が心配だ。
「とりあえずここら辺を散策してみるか――」
朝起きてレオはエレナにここら辺を散策してくると告げ、朝早く散策に出かけた。エレナも記憶喪失なんだから私も付いて行くと言った。さすがにそこまでしてもらうのは悪いと思い断ろうとしたが彼女は意外と頑固な性格であったので、エレナも買い物に出かけたいとのことで途中まで付いて行くことで決着がついた。
朝だが人々は活気があり店も開けているところがチラホラ見える。
「なんか、見られてるな…」
歩いてまだ少しだが、いろいろな人の視線を感じる。
「――これは、黒髪が珍しいからか?服は特に普通だし、顔も…普通だよね?」
顔を両手で触り首をかしげる。自分の顔を見たのが昨日の水たまりだけだからまだ自分の顔をまじまじとみてはいない。だが、そこまで不細工でもなく、めちゃくちゃかっこいいというわけでもないはずと自負している。
「―――?レオは普通だと思うけど…?」
「だ、だよね!」
エレナが少年の顔を覗き込みそう答える。相変わらず心臓に悪い。
「とりあえず昨日の目が覚めたところに行ってみるか…」
昨日の目が覚めた場所からエレナが泊っている宿まではそこまで遠くはない、昼までにここまで帰ってこれるだろう。
そう思い、昨日通ったであろう道を思い出し、歩く―――
「戻って来たぞ…」
時間にして二十分程度で昨日の場所と思われる路地裏に到着した。エレナは買い物に行くとのことで別行動となった。宿までの道も覚えているし、そこまで過保護になる必要はないと言っておいた。
「昨日は詳しく、調べられなかったからな…」
――路地裏は暗く、朝にも関わらず明かりもほとんど通っていない。
「特に何もないな…」
ただただ裏路地が一本道で広がり、廃材や木の欠片などがゴミ捨て場と思われる場所に積まれているだけだ。
「さて、これからどうするか…」
エレナのもとでこれからずっとお世話になるわけにもいかない。だが、自分は手持ちに金がなく、どこかに泊ることもご飯を買うこともできない。自分の生まれかもしれないオルレアンの国にも行けない、なんならこの王都からもでられない可能性すらある。
「はあー、どうすればいいんだ」
記憶喪失と聞いたらまず医者に行くべきだと思ったが、記憶がないこと以外は特に異常もなく、まず突き返されるだろう。右腕の傷もあれほど血が出ていたが、今では痛みもなく包帯がただ赤く染まっているだけだ。
「俺、これからどうすればいいんだよ…」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
軽くため息を吐きながら路地裏の奥に足を進めること十数分、向こう側から明かりが見えてくる。
路地裏の向こう側も人々で賑わっておりさっきまで歩いていた大通りの道とさほど変わらない。
「収穫が本当にないな…とりあえず、戻るか」
何も収穫が得られず来た道を引き返そうとする。
薄暗く、光が差さない裏路地を再び歩き始める。
すると先ほどまでは見えなかった奥で人影が見える。
「さっきまで誰もいなかったのに…」
すると女の悲鳴が聞こえる。それに聞いたことのある声。
「―――!」
急な悲鳴に少年は声のする方に走り出す。
そこにいたのは金髪に碧眼の少女、エレナだ。さっき別れたばかりだというのに一体何をしているのか。
エレナを囲む三人の男たち。ガラが悪く年齢は十代後半から二十代ぐらいの薄汚いみだりをしている。
「―――ナンパか?あれは」
その光景を見た瞬間に、自分の中に思いもよらない感情が押し寄せ———そこからは体が勝手に動き始めた。
少年は走った勢いのままに地を思いっきり踏み込み飛び上がる。そしてエレナを囲っていた男の一人の頭に向かって蹴りを入れた。
「がはっ!」
突如後ろからの蹴りを受け、男は前に倒れこむ。そして仲間がいきなり倒れたことに二人の男は少年に向かい合う。
「てめぇ、なんの用だよ!」
一人の男が声を上げ、拳を構える。
少年は素早く反応し、顎に右ストレートが決まる。
「おおっ!」
自分でも驚くぐらい、体がスムーズに動く。記憶を失う前の自分は武術の心得があったのかと思うぐらい的確な攻撃方法、攻撃の捌き方を体で感じる。
すると最後の男が刃物を懐から取り出しこちらに向ける。
少年は咄嗟に後ろに回避しようとステップを踏む――だが、最初に倒したであろう男が地面に這いつくばりながら少年の足を掴んだ。
「なにが…」
正面から来る刃物を持った男の攻撃が来る。ギラつく鋭い刃物が柔らかい皮膚に刺さり、出血して死が―――
少年は咄嗟に右手を前に出す。すると―――
―――ガキンッ!
刃物が金属に当たるような音がした。
見てみると右手に刃物が刺さっておらず、刃物が右手に刺さっているという感じもなかった。
「はあ?」
刃物を持った男は目の前に広がる不可解な光景に驚きの声を上げた。
少年はそのまま刃物を右手で掴んで、木の枝を折るかのように真っ二つに割る。今の光景に動揺している足元にいる男を右足で蹴りつける。歯が折れて、血と一緒に宙を舞う。
そして右手で刃物を持っていた男の鳩尾を殴りつける。男は地面に転がり無事に傷一つ負うことなく少女を救えたとホッとする。
――だが、少女は信じられないような顔でこちらを見ていた。
「あれ?」
てっきり、感謝をされるか怖かったといって泣いて抱き着いてくる展開を予想したが、そんな顔をされるとはと少し残念な気持ちになる。
それとは別にさっき起こった謎の現象のことだ。一体何が起こったのか、確かに自分は右手に刃物が刺さることを覚悟した。体の急所に当たるぐらいなら右手に当てた方がいいと瞬時に判断したからだ。
「あのレオは…それにさっきの刃物は大丈夫だったの?」
エレナの声を聞き、顔を上げる。エレナは心配そうな、何か怯えるような目で見つめていた。
「それよりもさっきのって異能なの?」
「異能?」
「おい、そこのお前今、異能と言ったのか?」
いきなり異能と言われ聞き返そうとすると、知らない声が聞こえてきた。声のする方に振り返ってみると、大きな鉈をを携帯し、動きやすそうな軽装をした男が立っていた。
あれが、エレナの言っていた騎士団なのか?と思ったが、身なりからして違いそうだ―――
「傭兵…」
エレナがそう呟く。
少年は何なのかと思ったが、今の状態を見て、顔を顰める。男が三人少年の周りで目を回し、倒れている。
―――これ俺が男三人に暴行を加えたみたいになってんな。
そう思い、少年は路地裏の来た方向から逃げようと思いエレナに声を掛けようとする。
「―――走って!」
突然エレナに手を取られ、路地裏から走り出す。少年は何も言い出せず、ただされるがままにエレナと走る―――
「―――待て!」
後ろから傭兵といわれていた男が声を出し、追ってくる。
エレナと少年は路地裏から大通りに出て、小さい道などに駆け込み、男を撒く。エレナはここら辺の土地に詳しいのか、どんどん先に進んでいく。
「――ハア、ハア、ハア」
エレナは息を切らしながらもなお走り続ーける―――
少年は何もしゃべらずただエレナにされるがままに走る走る走る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数分近く走り続け、ようやく少女は足を止めた。
「―――ハア、ハア、やっと撒けたかな…」
エレナは息を切らしながら話した。
「―――まあ、撒けたんじゃないか…それよりどういうことなんだ?さっきのは…」
少年はエレナに問いかける。
「レオの方こそどういうつもり?いくら明かりの通ってない路地裏だったとしても、王都で異能をつかうなんて、それに異端者だったなんて…」
「――だから、その異能って言うのは何なんだ?」
エレナは驚き、何を言ってるんだという顔をした。
「異能を知らない?それともさっきのって異能じゃなかったの?」
「異能だとか、異能じゃないとか、何だよ。さっきのって刃物を手が弾いたことか?」
「うん、そうよ」
さっきの刃物が少年の右手で弾いたというのは驚いた。それに弾いたときに、金属同士がぶつかる様な音がした。少年はそのとき金属系の物は持ってなかったし、手には何もなかった。だからおかしいと自分でも思っていたが。
自分の右手を見ても、特に怪我もなく、普通の肌の感触である。
「俺もよく知らない。俺は記憶喪失なんだから…」
改めて自分の現在の状況を話し、異能について聞こうとする。
「異能については私も詳しくは知らない。だけど、特殊な異能を持った人たちが世界に複数人いるって聞いたことはある。それに異能持ちの異端者は世界からの嫌われ者、国によっては見つけ次第に即粛清対象だと言われているところもあるの」
「―――!」
つまり異能を持った人間は国から命を狙われるということなのかと解釈した。
「――もし、俺が異能とやらを持っていたとして、その話が本当なら、俺はこの国からさっさと出なくちゃならないということか…」
その誰かに見つかり、国からの粛清をされる前に。
「それで、さっきのやって来た男って…傭兵ってエレナは言ってたけど…」
「さっきのは傭兵ね、私傭兵嫌いなの…」
エレナは悲しそうな顔をしてそう言った。
だが、少年はそれに構わず話を続ける。
「その異端者が嫌われ者で粛清対象なら、エレナは何で俺を助けた?異端者だとわかってなかった昨日はともかく。さっきの男たちから救ってくれたからか?」
「――それも勿論あるけど、私は昔に能力者の子と一緒に生活してたの…」
「一緒に過ごした時間は短かったけど、私はその子のおかげですごい救われた。確かに世界に脅威しかない異端者達だけど、優しい人だっているんだって私は思った…」
エレナは悲しそうな顔をしながらも、淡々と自分の過去を語った。
少年は何も言えず、ただ彼女の話に耳を傾けていた。
その世界に脅威となる能力者達ともし自分も異端者だとしたらと考え、自分の過去の記憶が少し怖くなってくる。
「痛っ!」
突如右腕の傷が痛み始める。昨日から今日にかけてあまり痛みもなく、気にしていなかったというのに。右腕の包帯を外すと、また赤い血が流れだしている。
「レオ・パーシバル・フェルム…」
エレナは少年の右腕に書かれていた傷の字を読み上げる。
「傷がまた開いたのか?さっきちょっとした運動したからか」
「レオ、貴方の名前レオ・パーシバル・フェルムっていうの?」
「え?いや、俺は自分の名前はわからないよ。それに書かれている名前は知らないし」
少年は右腕の傷を抑えながらそう答える。
「エレナ・パーシバル・フェルム…」
「え?何て?」
「私の名前はエレナ・パーシバル・フェルムよ。レオ・パーシバル・フェルム君」
エレナ・パーシバル・フェルムは笑顔で改めて自分の名前を話した。