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Memory of ReLIFE  作者: 雨霧紅人
第2章 本物の悪意
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4話 話せない

 レオとブラッドはティムとの対話を終え、各々空いている空き家をティムに紹介され、そこで過ごすことになった。


 「汚いな…」


 レオがティムから紹介されたのは小さな小屋。一部屋に腐敗している床に上を見上げれば、穴が開いていて空が見える。ドアの立て付けも悪く、半開き状態だ。

 

 「とりあえず、片付けから始めるか」


 小屋の中に転がっている腐敗した木材、ゴミなどを集めて外に放り投げる。外にはもともとゴミを溜めるゴミ捨て場と思われるものがある。

 ブラッドはすでにティムから他の余った小屋を紹介されており、そこで今日一日を過ごすと言っていた。


 リアとテンは未だに目が覚めず、最初にレオが目を覚ました小屋の中に養生している。

 エレナは流石に貧民街で過ごすことはせずに、五層で宿をとると言っていた。そのため目が覚めてからエレナとは顔を合わせてはいない。自分が捕まっている間にエレナに何があったのかなど、聞きたいことは沢山あるが、今は仕方ない。


 「それよりマジで汚いな。それに臭い」


 貧民街はゴミが腐敗しているようなにおいが充満しており、それはこの小屋の中でも例外ではなく鼻が曲がりそうな匂いをしている。小屋の中のゴミを捨てているが、匂いばかりはどうしようもない。


 「匂いは慣れるしかないか…」


 レオは小屋の中にあるゴミや木材を外に片付け、持っていた大き目なタオルを床に敷いて、寝っ転がる。屋根に穴が開いているため、空の星の景色が広がって見える。

 星の輝きを眺めながら、疲れた体を休め目を瞑る。

 

 ――思えば、この一週間ゆっくり休んだ覚えがないな。


 静かな、虫の声だけがやけに大きく聞こえてくる。重くなった瞼や傷ついた体は休息を欲しており、そのまま意識が遠のいていく。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 重い瞼を開けるときに、喉の急激な渇きを訴えていた。

 そういえば、目を覚ましてからというものの、食べ物や飲み物を一時口にしていないのを思い出す。


 「――ああぁぁ」


 重く、きつい体を起こして周りを見る。薄暗い小屋の中、穴の開いた屋根からは陽が差し込んでいる。


 「朝か…」


 足に力を込めて、立ち上がり半開きとなっている扉から外に出る。

 眩しい陽を全身で浴びながら、目的の小屋に向けて歩き始める。


 体の調子が万全ではないレオは、足取りが悪く、十メートル歩くだけでも一苦労だ。


 ヒビの入っている壁に手を付きながら、目的の小屋の前までやってくる。目的の小屋とは、テンとリアが眠っている小屋だ。そこに確か食料や飲料があったはずと、記憶をたよりに小屋の中に入っていく。

 中にはいまだに眠っているテンとリアの姿が——————


 「リアがいない…?」


 昨日見ていたときは確かにテンの奥にリアが眠っていた。だが、そこにリアはおらず、敷いていたタオルに手を当てるとまだ温もりが残っている。さっきまでここで寝ていた証拠だ。


 喉の渇きも忘れ急いで外に飛び出し、辺りを見渡す。貧民街に住んでいる人がちらちらと見えるが、肝心な少女の姿は見えない。

 リアは空色の青髪に整った顔立ち、そしてこの貧民街に住んでいる者とは違い、綺麗な服装をしていた。ここから見ても目立つはずだ。


 「まさか…」


 レオは咄嗟に王都の五層の方へ走り出す。すれ違う貧民街の住民からは包帯をぐるぐるにまかれた少年が王都に向かって走っていく姿を好奇な目で見られているが、関係ない。

 

 リアがもしかしたらまた騎士団に捕まったのかもしれない。そう考えるだけでも足が動いていた。


 貧民街を出る通りを抜けようとしたところで、目立つ髪色をした男と出会う。


 「――ティム!!」


 「え?ああ、レオ君。起きたんだね、貧民街での寝心地はどう」


 「リアが小屋の中にいない!リアはどこだ!!」


 レオはティムの体を大きく揺さぶり、問い詰める。ティムならリアの行先を知っていると言う確固たる自信があった。リアを治療したのはエレナとティム、エレナは宿に泊まっており、残りはティムしかいない。


 「おお、お落ち着いて、ください」


 体を揺さぶられながらも、声を出すティムだが、レオの方にはあまり届いていない。


 「――私がどうかしたの?」


 ティムを掴んでいるレオの後ろには綺麗な青髪をした美少女、リアが立っている。腕の方に包帯を巻かれているが、順調に回復していたのか、普通に立って歩けるぐらいにはなっていた。


 「リア…無事だったか。良かった」


 「うん。でもレオがそんなに私のことを心配してくれるなんて驚いちゃった」


 「心配するのは当たり前だろ。それよりどこにいたんだ?」


 「エレナのところに行ってたの。宿をとっていたらしくてね、私もこれからは宿で過ごすことになったから、それを伝えにね」


 「そ、そうか、そういことね」


 レオがそう納得するその手には体を揺らしすぎて目を回しているティムの姿が。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ティムに詫びを入れ、そのまま別れ今はリアと共にレオが使っている小屋の中にいる。


 「リアが目が覚めたからにはいろいろと聞きたいことがあるんだ」


 「――うん。そう、だよね」


 敷いていたタオルに向かい合うように座り、リアはこの質問が来ると分かってたかのように軽く息を吐きながらレオと視線を合わせる。


 「――まず、俺が記憶喪失だってのは知ってると思うけど、俺とリアの関係ってなんなんだ?」


 「うん、まあ当然の質問だよね。まず私とレオは昔、一緒に生活していた。いうなれば、幼馴染ってわけだね」


 「昔、一緒に生活をしていた?」


 「そう。もちろん私とレオだけではないけどね。他にも沢山の子たちと一緒に過ごしていた。大体一年半ぐらいかな」


 「他の人…その人たちは今どこにいるんだ?」


 「それは…わからない。私もレオと出会ったのはそれ以来だから大体七年前ぐらいかな」


 「七年…よく俺だってわかったな。七年も経ってるのに」


 「それはね…レオは皆の憧れだったから…」


 途中リアの言葉は聞き取れなかったが、それよりも自分を知っている人がまだ他にも沢山いたということだ。


 「それで…俺の名前なんだけど…レオ・パーシバル・フェルムだっていってたか?その頃の俺は」


 疑問の一つ。自分の名前、自身の名前は未だによくわかっていない。腕に彫られていた血の文字、そこにレオ・パーシバル・フェルムと書かれており、テンやブラッド、リアがレオと呼んでくれるからそう関連付けたんだが。


 「昔はレオとだけ。レオ・パーシバル・フェルムは私も初めて聞いたよ。そんな名前だったの?」


 「レオだけか…いや、俺の名前は腕に彫られていたやつだからよくわからないしな」


 それでも、レオという名前は昔から名乗っていたらしく、腕に彫られていたレオ・パーシバル・フェルムという名前も自分の名前の可能性が高くなってきた。


 「それよりも俺とリアは七年前に出会っていて、そこからこの王都で再会した。それでいいんだよな?」


 「うん、そうだよ。レオと別れてからは一度も会えていなかったから…」


 それならレオが前にいた場所も知らなそうだ。ブラッドもテンもつい一ヶ月前に出会ったと言っていた。それならつい1ヶ月前までは自分は何をしていたかはわからない。


 「また、振り出しか?いやでも自分の名前や過去にリアと他の人と生活していたってのは十分な情報だ。――リアは七年前に俺と他に誰と生活してたんだ?」


 今まで何もわからない状態だったが、テン、ブラッド、リアのお陰で少しずつだが過去の記憶を集められている。

 自分と彼女と生活していた他の人がいたのなら、その人を探しだせばもっと自分の記憶を集められるはずだ。それを彼女から聞き出せば——————

 

 「――それは言えないです」


 「え?はあ?言えないって何で…」


 「これは皆で決めた契約だから。レオであろうと誰にも言えない契約」


 「そんなの…契約なんて破ってしまえば…俺は自分の過去を知りたいだけなのに」


 「その契約はレオとも、他の人とも結んだ契約。それに破ることはできない」


 彼女は目を鋭くして、決して譲らない。契約なんて言葉は初めて聞いた。契約が一体何なのか、それよりも破れないほど、過去のことは話せないことなのか、過去に何かがあったのか。


 「その契約が…いやもういい。それよりも俺の異能について何か知らないか?」


 「レオの異能?」


 「俺は異端者なんだろ?俺の異能について詳しく知りたい。リアなら知ってるだろ、俺の過去を知ってるお前なら」


 「私もそんなに異能については…それにあの頃の話はあまりしゃべれないから。それとレオ————」


 「―――?」


 「異端者という言葉は使わない方がいいよ。あまりいい印象ではないから」


 「ああ、わかったよ」


 理由はわからないが、そういうことなんだろう。

 だが、リアが契約とやらに縛られている以上、これ以上何か聞き出そうにも聞き出せない。


 その時、レオが腹の音を鳴らしリアが少し笑みをこぼす。くすくすと笑いながら、立ち上がり「ご飯持ってくるね」といい、半開きの扉から外に出ていこうとする。


 「――リア」


 不意にレオに呼ばれて、リアはその場で振り返る。


 「リアは……俺の味方…何だよな?」


 「――?当り前でしょ?」


 そう言い、リアは外に出ていってしまった。

 

 リアは何も言えないが、自身の仲間、味方。

 レオはその場で体を倒して、上を見上げる。


 わからないことだらけの記憶でも、昔の自分はそんなに仲間がいたのかと。


 本当のことかはわからない。だが、リアが嘘をついているとは思えない。

 壊れた屋根から眩しい陽を浴びながら、レオは目を閉ざした。

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