1話 目が覚めたらそこは見覚えのない場所でした
「―――どこだここは……」
少年は暗闇から目覚め、周りを見渡し明かりを目指して走ると人が多くいる大通りに出た。後ろを見ると幅の狭く、暗い路地裏があった。どうやら自分は路地裏で目が覚めたらしいと自己分析をする。
「――えっ……ゴミ捨て場で寝てたのか……俺……」
ひきつった顔で呟き、足元にあった水たまりで自分を見る。
少年は黒い髪に少し幼さがあるが整った顔をしている。身長は大体百七十センチぐらいか、筋肉はそんななく華奢であった。服はゴミ捨て場で寝ていたから貧相なものだと思っていたが、少し埃がついているが黒いズボンに黒いシャツを羽織っており、ちゃんとしたもの着ていて少しホッとした。
辺りを見回し、大通りを歩き始める。
「あれ、自分の名前がわからない…」
大通りのど真ん中に立ち止まり、小さな声で呟く。
「名前もそうだけど、寝る前に何やってたのかも思い出せない…」
顎に手を当てて考え込む。自分の名前どころか何をしていて、ここはどこなのかもわからない。頭の中から自分のことがすっぽり抜け出ている。
自分自身もわからない、この事態に少年は非常に落ち着いている。理由はわからない、だが頭の中は異様にクリアになっている。
「これはあれだ…記憶喪失というやつか…」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――とりあえず自分の所有物を確認。
アクセサリー類は着けておらず、手には何も持っていない。ポケットに手を突っ込んでも何も出てこない――
「あれ?何も持たずにここに来たのか?俺…」
――不意に自分の右腕に痛みが走る。
「っつ!」
右腕のシャツの袖をめくると、赤い血がべったりとついており、その血がついている原因となる傷が右腕に文字のようなものが書かれていた。血も乾いておらず、ついさっき付けた傷なのかと思い、傷でできた文字を見ると――
「――レオ・パーシバル・フェルム…人名だよな…これ…」
赤く、肌に彫られた傷ははっきりとそう書かれていた。
「これは俺の名前か…いや、さすがに自分の名前を自分で彫るわけがないはず、だから、彫った人の名前か…悪趣味だな」
右腕の血が地面に垂れる。周りを見ると大通りを通る人たちから好奇な目で見られていることに気づく。
好奇な視線を浴びせられ、視線を避けるように大通りの端に寄り腰を下ろす。
大通りには人が多く歩いており、通りに馬が荷物を運んでいるのを見かける。行きかう人々も少年と同じ服装な者もいれば、少し派手な色をした人もいる。髪色に関しては全てが派手だ。赤、青、緑、ピンク、紫と様々な人が大通りを行き交っている。
地面も石で綺麗に舗装され、建物も木材、石材で作られているのが見える。
「人に聞くのが一番だよな…」
とりあえずここはどこかを知りたい。そのためには人に聞いた方が一番早い。だが、さきほど好奇な視線を浴びせられたからか、それとも人見知りな性格なのか少し人に聞くことを躊躇っている。
「ねえ、あなた大丈夫?」
不意に声を掛けられる。鈴のような声色が少年の耳に入ってき、その声の正体の方に顔を向ける。
「右腕から血がすごい出てるけど、どこかでぶつけたの?」
少女だ。金髪の髪に青く、空を映し出したかのような瞳の色。透き通るような真っ白の肌にシンプルな白いローブを着ている美少女。
「あ、えっと、その」
いきなり声を掛けられて咄嗟に言葉が出てこない。人と話すことがあまりなかったのかと自分でそう思う。
「とりあえず、傷の手当をしたほうが良さそうだから私が泊っている宿に来ない?」
「いや、そんな、さすがにこんな傷は唾つけとけば大丈夫だから…」
「こんな傷って、結構血が出てるけど…」
右腕を見ると何も処置をしていないから当たり前だが、血がドバドバと出ている。見るからに痛々しいが、感じる痛みはそこまでない。今の置かれている状況が深刻すぎて腕のことはあまり気にも留めていなかった。
「とりあえず、ついて来て」
そう少女が言うと、少年の腕を掴み大通りを歩いていく。
一生懸命に力強く腕を引っ張て行く少女の姿を見て腕を振りほどくことなんてできず、少年はされるがままに少女の後に続いて行った。