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Memory of ReLIFE  作者: 雨霧紅人
第1章 始まりの一週間
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11話 名無しと騎士団

 赤い鳥が輝き羽を広げ、羽ばたいている。少年の目の前を通り落ちてきた場所から上へ上へと飛んで行った。


 「どこから…」


 どこから来たのか。赤い鳥が来たのは壁が壊された、室内に続く大きな穴だ。

 少年は前に進み壁の穴の前まで歩く。


 「覗いて大丈夫なのか…中でヤバい奴がいるんじゃないか…」


 壁が壊されてからは誰もこの穴から出てこない。中を覗こうと思ってもあの赤い鳥の飼い主が、もしくは騎士団の誰かがいるかもしれない。

 ここで止まっていても上にいる騎士か、鬼気を発していた者が来る。現に殺された。あの傷がなんで消えたのかは今もわからない。だが直前に見た青い鳥。それと似た赤い鳥が出てきた場所。なにか手掛かりがあるのではないかと思っていた。


 「迷ってる時間もねえな。早くこの場所から立ち去らないといけないんだ。覚悟決めろ」


 そう言い壁に手を当てて覗き込む。


 「何もねえ、廊下か…」


 中を覗くと、この聖堂に入ってきたときに見た長い廊下だ。扉も点々と存在し、調度品が見える。


 「どこも壊れていない、それに人気がない」


 さっきまで上にいた騎士も降りてくる気配がない、それに加えて人の気配がまるでない。上にいたはずの人物もどこかにいったのか、エレナはどこに連れていかれたのか。わからないことだらけだ。


 「さっきの大広間が確か七階…ここが六階か。上に行くよりは…下に行ったほうがいいか」


 上に行くとまたあのとてつもない鬼気を発した人物に遭遇するかもしれない。その人物がどのような者かは知らないが、少なくとも友好的だとは思えなかった。


 「クソ!何でこんな目に会わなきゃいけねえんだよ!」


 悪態をつきながらも下に行き、脱出を図り、あの二人と合流して、そこからエレナを探す。その方が効率がいいと考える。

 場所も、抜け道も、逃げ道も知らない人物より、自分よりは知っている人物に頼った方がいいに決まっている。


 「―――少し待っててくれよエレナ…」


 ルシウスがエレナを丁重に扱い、自分が仲間だと知っても傷つけるような行動を起こさなかった。そのことからも少なくともエレナが被害に遭うということはなさそうだ。


 「下に行く階段…」


 右と左と見てもそこは長すぎる廊下。ドアが点々としているだけで階段なんて見えない。右の方は少し奥の方で明かりが見える、右の方を向いて、


 「とりあえず奥まで行こう…」


 少年は廊下に出て人がいないことを確認して思いっきり床を踏みしめ走り出す。普通に歩いていても見つかる可能性は変わらない、それに加え時間が圧倒的にない。この二つの要因を考え少年は廊下の突き当りまで走る。


 突き当りに着くと左右の分かれ道があった。右の方は今来た廊下と同じようにドアや調度品が立ち並ぶ長い廊下で突き当りが見えるが多分同じように左右の分かれ道があるだけだ。左の方は奥の方に階段らしきものが見える。


 「見つけた、階段だ」


 階段の方に走り出し、内装と変わりない豪華な造りの階段の前までたどり着く。現状まだ人の気配が見えない。

 上にいたときに騎士団と交戦していたときに突如背後からとてつもない鬼気が現れ、逃げてきた。その人が騎士団の者なのか知らないが、騎士団の面々も自分と同じように驚き、恐れていた。また、あの鬼気の存在と出会うことがないよう願い階段に足を踏み入れる。


 六階も五階と変わらない、長く続く廊下にドアが点在しているのが見える。


 「ルシウスに連れてこられたときに見た場所のはずだけど…」


 六階とあまり変わり映えのしないところで溜息が出てくる。これなら他の階層とあまり変わらないだろう。


 「クソ、廊下が長いのもそうだが、人が本当にいないぞ。どうなってんだ」


 そう言いながらただひたすらに長い廊下を走る。人と出会わないように行動をしようとしていたが、今は人が本当にいるのか怪しくなるレベルで人の気配がない。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 「マジで、どう、なって、るんだ…」


 息を切らしながらひたすらに走り、少年が今いるところは二層。

 今まで降りてきて人の気配はまったくしなかった。これだけの大きさの建物に人が一人もいないなんてことがあるのか。


 「こんなに人がいないなんて…あのときいた騎士団の連中はどこに行ったんだよ」


 エレナ以前に騎士団の一人もいない、この状況にさすがに何かあったのかと考えるようになる。


 「俺を刺した奴を追いかけたのか、そいつにやられた…か?それともあのヤバそうなやつが俺を刺した相手で……それから…あの青と赤い鳥もよくわからないし」


 少年は膝に手を当て息を整えている。六階から二階までノンストップで走り続けた体は酸素を欲していた。


 「―――はああ、よし体力回復できた…ああ」


 ふと少年は気づく。肌を刺すような寒さに、自分が出す息が白くなっていることに、床が、廊下が凍っていっていることを―――


 「これは…あのときの」


 少年がエレナと一緒に裏路地で逃げていたときに急な寒さに襲われ、氷の檻に閉じ込められ、意識を失った。あのとき感じた空気の冷たさと同じ現象が今起きている。


 「また、この異常気象…室内で起こることがあるなんて…だれかが氷を廊下にでも置いたのかよ…」


 ―――足音が聞こえる。正面から誰かが近づいてくる。


 更に温度が下がり、自分の両肩を抱き擦る。またあのときと同じことがおきないように落ちてくる瞼を無理やり上げ、正面を見る。


 ―――騎士団の服装。短い銀髪をした男が立っている。丁寧にセットされた髪型に体つきは細身だが弱弱しくなくレオよりは身長はある。腰には剣を下げている。佇まいからもただ者ではないと感じる騎士だ。


 「―――騎士団所属の騎士。ノア・スペンサー」


 そう目の前に立つ青年が口を開く。

 辺りが白く地面が、壁が天井が、廊下が凍っていっている。


 「やっと人に会えたと思ったら…寒さ感じるイケメン騎士様かよ…」


 「―――」


 「この寒さは一体何なんだよ…王都ではこんな異常気象があるのか…」


 「―――いやね、この寒さは私の異能だよ」


 「―――異能…お前、異端者かよ。勘弁してくれよ」


 ノアはこの寒さの原因が自分の異能であると言う。そうだとしたらおかしい。世界に嫌われているとされている異端者が国を守る騎士団に所属しているなんて―――


 「異端者が…騎士団にいるなんて…騎士団団長に聞かれたらまずいんじゃないか」


 「――そんなことはないよ。団長は既にもう知っておられる。私が異端者だと知っていながら国を守るための騎士に任命して頂いた」


 「そう…ですか…」


 寒さが増していき、少年の体温がどんどん奪われていく。手足が凍り付いていくような感覚。意識が朦朧としてくる中でも目の前の男からは目を逸らさない。


 「何で…お前らは俺を狙うんだ…?」


 男は腕を組み、溜息を吐いている。腰にある騎士剣が音を立てる。

 寒さで震える唇で、カチカチと言いながらそう話す。

 自分が王都のゴミ捨て場で目が覚めてからというもの、記憶がなく何もわからない自分に何かわからぬままに誰かに捕らわれて、騎士団本部に連れていかれ、腹に剣を刺されて死に…かけて、騎士に理由もわからず痛めつけられ、今もなお目の前の人物に命の危機にさらされている。


 はっきり言ってうんざりだ。何故自分がこんな目に会わなくちゃいけない?


 「―――お前らが…俺の何を知ってるんだよ!!俺ですら自分が誰なのかわからねえっていうのによ!!」


 記憶を失い、命を狙われて、自分は世界の嫌われ者だなんていわれてもピンと来るはずがない。何も知らないのに、何もわからないのに、何もできないのに———


 「俺がお前らの言う世界の厄介者に見えるか!?俺がそんなに脅威に見えるのか?お前らの言う異能すら知らなかったていうのに、騎士一人も倒せずに、一人の少女すら救えないのに…こんなに弱いのに!!」


 寒さで震える体を動かし、自分にも相手にも聞かせるように大声で喚く。目の前にいる男には何を言っているのかわからないと思うが、自分の中にある鬱憤を晴らすためにだけに男に八つ当たりする。


 「―――話はあとで聞いてやる。だから今は眠れ…レオ」

 

 すると目の前に氷でできた杭のようなものが浮かんでいる。青く輝き、触れれば簡単に斬れそうな氷で出来た十センチ程度の杭が約三十個。これも異能の一種なのかと朦朧とする頭で、眼で見ている。


 意識が飛んでいく。体の冷たさはもう感じられない。ただひたすらに眠気を感じて足元がふらつき、手が震える。起きないとヤバい、眠ったらマズイ、そう頭で考えても体は言うことをきかない。

 氷で出来た杭は少年の首元に、頭に、足に腕に突きつけられる。


 「―――ふん!」


 「―――!」


 近くで浮いている氷の杭に自分の左腕を斬りつける。左腕からは赤く温かい血が溢れ出てくる。温かい血が腕から流れ体を伝い足元に血だ垂れる。斬りつけた直後の痛みは冷たさにより感じなかったが、血の温かさにより徐々に体の熱が戻ってくる。それに加え痛みも戻ってきており、痛みに耐えるために唇を噛む。


 目の前の男は少し驚いたような顔を見せる。

 氷で出来た杭はいまだ少年の周りを囲んでいる。首元に頭に触れれば今のように致命傷が避けられない。


 「―――お前の好きにはさせるかよ…俺は今ここを出て女の子を…エレナを助けにいかなくちゃいけねえんだよ!」


 少年は舌を出しながらもそう吠える。

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