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Memory of ReLIFE  作者: 雨霧紅人
第1章 始まりの一週間
11/25

10話 赤の鳥

 「―――」


 「――――――」


 「―――――――――っああああ!」


 とてつもない恐怖に襲われ、暗闇から覚醒する。右手で自分の胴体に手を当てる。

 目を開けると豪華なシャンデリアがある、たしか騎士団のどっかの大広場だったかと考える。


 「なんだ…」


 変な夢を見た。自分が騎士団に捕まり、尋問まがいのものをされ、エレナが何か感情が―――


 「―――っ!」


 思い出した。腹に剣を刺されて死ぬような痛みを味わって意識を失った。はずだ。だが今自分は生きている。さっきまでの出来事が夢だったのかと思い少年は周りを見渡す。


 「何…んで、生きて、いるんだ……」


 数人いたはずの騎士たちはおらず、一人少年の横に騎士がいるだけだ。その騎士が何かを呟いているのが見える。

 部屋がところどころ荒らされ、すぐ横の壁が大きく壊され外の景色が見える。ルシウス、エレナもいない。

 ふと自分が拘束されていた枷と鎖が不自然に外されていた。腹にあった傷も、手足にあった枷の痕もなくなっており、服についた傷も乾ききっていた。


 「夢じゃない…だとしたら何で傷がない」


 もしや自分の能力が生き返る能力、もしくは再生する能力なのではと考える。だが再生するとなると腹に剣を刺される以前から傷はところどころ負っていた。そうしたら生き返る能力なのではと思うが確かめられない。


 それとも第三者の介入が原因か―――


 「何故、あの傷で……生きていられんだ」


 横から声が聞こえてくる。

 横にいた騎士に目をやると男は腰にあった剣を構え、こちらに向けている。


 「なぜあの状況から生きられている」


 服を捲っても傷はもうない。そのほかに傷ができていたところもなくなっており、痛みもない。異常なことだが、何者かがこの場を荒らして、自分もその騒ぎに巻き込まれた。そう考えるが、


 「騎士団がいなくなったのもそうだが、俺はどれだけ眠っていた?」


 眠るという判断でよかったのか。あのとき少年は確実に死を覚悟した。

 溢れ出す血も声がでないぐらいの激痛もなかったことのように。


 「ルシウス殿にも言われていたが…とりあえず今のお前を放置しておくわけにはいかない」


 そう話した騎士服を着た男が剣を握りしめこちらに走ってくる。


 「くっ!」


 剣を持って走り出してくる男から逃げようと後ろに下がるが後ろは大穴が開いた壁になっている。穴から下を覗いてみても高くとても降りられそうにない。身を防ぐものもなく、少年は咄嗟に右手を前に出す。


 目を覚ます前に少年は体を剣で刺された。その時になぜ異能が発動しなかったのは謎だ。自分が意識していないところは発動ができないのか、発動できる場所が限られているのか、発動できる回数があるのかは不明だ。


 ただ今できるのは右手を前に出して剣を弾いてくれるように願うだけだ。


 「!?」


 「――っだあ!」


 ――結果無事に右手で剣を弾くことには成功した。

 弾かれた男の剣は驚きながらも二手、三手と剣を振るってくる。


 「うおっ!りゃっ!」


 金属と金属が打ち合う音が鳴り響く。右腕の手の甲、肘、手のひらに器用に当てる。当たっても剣の冷たさを感じるだけで痛みは感じられない。

 自分の異能が使える時間が短いというわけではなさそうだ。


 「待てって、俺はどうしてこんな目に、会ってるんだ?たしか腹に剣を刺されたはずだ!」


 少年が両手を前に出して、騎士服を身に包む男に問いかける。男は足を止める。どうやら話は聞いてくれるそうだ。


 「お前は剣で刺されて血を流して、致命傷だと判断された。これから身柄を…運ぼうとしていたんだが」


 「それならあいつはどこだ、それにエレナも」


 「―――それは今お前に話す必要はない……」


 そう言うと騎士は剣を握り直し、少年に剣先を向ける。

 この国の騎士の実力が未だ未知数であり、どのくらい強いのかを知らない。一目見て実力者だと判断できたのが、騎士団団長、騎士団副団長、そして近衛騎士のルシウスの三人。


 今目の前にいる騎士が自分でも対処できるのかわからない。さっきの剣を弾いたのだって、まだあの騎士が動揺していたから防げただけだ。


 「―――!」


 剣を持った騎士が距離を詰め、剣を振るう。横一線に胴を狙った剣先、足を縺れさせて後ろに退く。剣先は服を掠り、二手目が今度は縦一文字に振り下ろされ、腕を斬られる。


 「くっ!」


 斬られた傷は浅い。血が垂れてくるが、それに構ってる余裕はない。目の前の騎士が振るってくる剣が一手一手、致命傷は避けてくるが、体の各部位を狙われる。

 首や頭を狙えばそれで終わりなのだが、急所は頑なに狙わない。何か理由があるのか、騎士だからこそ急所など狙わらないのか知らないが、振るわれる剣先を紙一重で避けていく。


 目が覚めてから傷はなくなっていた。だが、今まで蓄積された疲労はなくなってはいない。数日間軟禁された体は上手く動かしずらく、体の節々が痛く、怠く感じる。だが、体を、足を止めれば体は斬り取られ、意識も奪われる。


 「―――なのに、何で手を抜いて戦ってくるんだ……」


 目の前にいる騎士は明らかに手を抜いている。それなのに、顔は憎いもの、歯ぎしりをしながらも剣を振るっている。


 「―――クソ!あんな命令がなければお前なんか……お前なんか!」


 「何…言ってんだよ…お前」


 迫りくる剣先を最小限の傷で抑えるべく、体を捻り、避けきれない剣撃は右手に力を込める。すると右手が金属のように固くなり、剣先を弾く。金属と金属がぶつかる様な音が大広間に響く。


 「―――っ!!」


 放たれる剣撃を逃げるように躱していくが、剣先を何度も掠る様な怪我を次々と負っていき、血を流し、痛みを覚える。剣を持った一人の騎士と剣も武器も持たない一人の少年とでは戦闘力が違う。得物を持つというリーチが違う。


 それ故に少年は一度も騎士に攻撃を加えれてはいない。防御に、逃げに徹しているため。


 ———ここから扉まで三、四十メートルぐらい。エレナや他の人たちがいないとなると、上か下に逃げたと考えた方がいいな。


 「そう考えると、何でこいつはここにいるんだ……」


 自分を剣で刺した相手は騎士の誰か。自分が世界の嫌われ者であると聞いた時にはすぐにでも首を落とされることを覚悟していたが、違った。


 ―――俺が剣で刺されたときに見たあいつの…ルシウスの顔を見たら、


 何かに驚いたような、呆気にとられたような顔をしていた。何か想定外のことが起こったような顔、そして気を失う前に聞いた声も、きっとルシウスの声だ。


 「つまり、俺が死にかけたのは想定外で、騎士団の中で何かが起こった。それの対処で騎士団がここを出ていった。そして俺の移動のために一人残って……」


 迫りくる剣を逃げながらも頭を回転させ考える。


 「だとしたら、俺の傷が治った理由がわからねえな。やっぱり俺の異能だと考える方が妥当か?それとも…あの鳥か」


 少年が死にかけて、気絶する前に見た青く輝く綺麗な大鳥。この大広場にいるはずのない煌々とした存在が少年を強く印象付けた。

 

 「―――うおっ!」


 剣先を鼻先を掠め、後ろに転がる。考えることに意識を割きすぎて、一太刀を浴びかけた。

 

 上から剣を振り降ろされ、避けきれずに肩を斬られる。歯を喰いしばり、唇から血が垂れてくる。足に力を込め、横から流れるように振られる剣を前方に転がり躱す。そのまま騎士の横を抜けて前の扉に向かっていく。


 今この騎士と戦う理由はない。戦ったら、傷が増えて体力を失う。

 現状の目的はここからの脱出、それと捕まっていたはずのエレナの行方を探すこと。それからテンとブラッドと合流ができればベスト。


 だけど———


 「テンとブラッドが本当に俺の仲間なのか…」


 テンとブラッドのことは記憶がないから、当たり前だが出会いもどんな人物がわからない。ただ自分を知っているとだけがわかっている。だが、それも嘘だったら?もし自分が捕まってのはあの二人の策略だとしたら———


 「そうはないと思いたいがな…」


 扉まで全力疾走しながらそう呟く。

 扉まではあと十メートルもない。後ろから来る騎士も速度を上げた少年には追い付けない。このまま逃げれれば———




 ———瞬間、背後からとてつもない鬼気を感じる。


 背後には何もないはず、さっきまでいた騎士だけで、何もいなかったはず。

 ゾッと背筋に怖気が駆け抜け、手足が痺れたように動かなくなる感覚を止められない。それでも足に力を入れ唇を噛み走る。


 少年が感じた背後からの圧倒的鬼気。ここにいてはいけないと体が思考が勝手に判断する。振り返ってはダメだ。足を止めてもダメだ。

 ただただひたすらに前に走る。後ろのやつに追い付かれたらそこで終わると、そう感じた。


 光が――――――


 背後から爆発が起こったような光が立ち込める。後ろを向いていたら一瞬で目が眩み、前が見えなくなっていたかもしれない。それほどまでの光。


 それも気にせずにドアの取っ手に手を掛ける。


 ドアを開けると、目の前に大きく輝く美しい赤い鳥が横切る。


 「―――なん……」


 その後に言葉は続かなかった。

 足が床から離れ、宙を掻く。体が揺らぎ、体勢が崩れる。


 ―――何が起こった…?


 浮遊感が体を襲い、手足を動かしても何も触れられない。さっきまで自分は地面に足をつけていたはず、それなのに地面がない。


 体勢が整えられず、上を見上げても———穴がある。


 瞬間、背中から衝撃が。口から血が噴き出る。そこまで落ちた場所が高くなかったのか、背中を強く打ち付けただけで、骨も折れていないはず。何故落ちたのか、呆然と痛みと不可解な起こったことに手足を軽く動かして力が入ることを確認する。


 打ち付けた体は痛みがあるがまだ体は動く。


 「―――何が………落ちたのか俺は…」


 足に腕に力を込めて立ち上がる。見渡すと薄暗い一室のようだ。瓦礫があり、汚れているがテーブルや椅子があることから普通の一室のようだ。


 上を見上げると、五、六メートルくらい上に穴が開いている。そこはさっきまで自分が立っていたと思われる場所。そこから落ちてこの場所に来たのか。


 上は登れそうになく、上にいた鬼気を発していた者がいるとなると上に行くことはしたくない。さっきまで目が眩むような光ももう見えない。


 このままここにいても上にいた騎士も下に下りてくるかもしれない。上から見ても穴から下に降りてこれるほどの高さだ。


 「とりあえず…逃げなくちゃな。―――扉か」


 薄暗い一室に目を凝らすと奥に扉が見える。そこから出て取り合えずはこの建物からの脱出、エレナの安否の確認。それを実行すべく扉に進むと、扉が目の前で壊れる。


 壊したものは赤い輝く鳥。さっき扉を開けた先に見た同じ鳥だ。


 「―――何なんだよ、こいつは!」


 身構える少年の前をまるで眼中にないように悠々と飛び去っていく。上に上に、穴が開いた、少年が落ちてきた穴から上に行く。


 少年はそれをただただ見ているだけだった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 少年が落ちたところの壁の穴からこちらを覗いていた一つの影があった。


 「――見つけた…」


 掠れた呟きを漏らした―――

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