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15、玲治

玲治登場の回です。

「開けるよ」

二回ほど軽いノックがされた後、ドアの外側から少年の声がした。

凪砂は、読み込んでいたノートから顔を上げ、何故か慌ててそのノートを敷布団の下に隠した。

「は、はい!どうぞっ」

「では・・・」

片手に料理ののせられたお盆を手にゆっくりとドアを開けたのは、凪砂と同年代くらいの少年だった。

もしかしたら、自分より1.2歳は年上かもしれない、と凪砂は思った。

「夕食です」

「あ、ありがとうございます」

凪砂がおずおずと礼を言うと、少年が微かに微笑んだ――――哀しげな笑みだと凪砂は思った。

「あ・・・あの、あなたは・・・?」

微かに色素の薄い黒髪、髪と同じ微かに色素の薄い瞳。

視界を遮るかのように長めに伸ばされた前髪の下の顔は、整っていると言っても差し支えないだろう。

しかし、何処かぼんやりしたような眼付きが憂いを帯びているように見え、近寄りがたい印象を与えている。

そして、長袖のシャツから覗く手首の細さに、凪砂は眼を見張った。

凪砂も小柄で細い方だが、眼の前の少年ほどではない。

「・・・・・」

少年が、眼を伏せて料理を机に並べて行く。

「俺は、碧石玲治(あおいしれいじ)。この屋敷で、暮らしてる」

ぼそぼそと、呟くような口調。

「きっと、君と一番歳が近い。だから、何かあれば、教えて」

「あ、ありがとうございます」

本来、面倒見は良いのかも知れない、と凪砂は勝手に判断する。

「君は、・・・奈緒さんと知り合いだって、遊子から訊いたけど、」

玲治が、そんなことを訊いて来た。

「知り合いって言うほどでは・・・。ただ、今日同級生に絡まれている僕を助けてくれて、それで少しお話ししたくらいで・・、」

そうなんだ、と溜め息交じりに玲治が相槌を打った。

「あの人が、人助けを・・・」

信じられない、という思いがあるのが伝わって来る。

(・・・・この子、陽さんに似てるから・・。それで、奈緒さんはこの子を助けた・・・)

他人には無関心(相手に拠るだろうが)な奈緒が、好き好んで見ず知らずの人間を助けるという光景がどうしてもはっきりとした映像を結んでくれない。

ならば、陽に瓜二つだったからこそ、この少年を放っておくことが出来なかったのだと考えた方がしっくりと来るのだった。

「玲治、さん・・・?」

じいっと見られていることに戸惑いを覚えたのか、はたまた怯えているのか、凪砂が微かに身を引いた状態で玲治の名を呼んだ。

「ごめん、何でもないよ。・・・それじゃ、俺はこれで・・・食べ終わったら、食器はドアの外側に置いておいてくれたら良いから」

「はい。ありがとうございました」

頷き、玲治は凪砂に背を向けた。

不意に、凪砂は玲治が右足を微かに引きずっていることに気付いた。

(怪我でも、してるの・・・かな、)

しかし、会ったばかりの人間にそういったことを訊く勇気のない凪砂は、玲治に問うことはしなかった。

―――――――――――玲治のその右足が引きずられている原因が、遊子の暴力だということを凪砂が知ることになるのは、まだずっと先のことだった。







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