プロローグ
第二部、書き直します。
よろしくお願いします。
影が芦原遊子に拉致される事件から、半年が経った。
あれ以来、日向と影の周囲は平穏を取り戻し、平凡な日常が舞い戻っていた。
だが学校には未だに御鶴城研吾殺しを調べるためか、時々ながら刑事が足を運んで来ることもある。その度に、御鶴城の死に関する真相を蓮本奈緒から聞いている日向は気が気ではなかった。
ある刑事は影に少なからぬ疑いを抱いているらしい。
「九連、影!立って!」
そんなある日の昼休憩。
事件以来、学校生活において奈緒との距離が縮まったか、日向・影の双子兄弟は彼女との昼食が恒例になっていた。いつものように教室で集まって弁当箱を広げていると、中断していた奈緒が戻って来るや否や、日向と影にそう言ったのである。
「え?」
影が丸い眼を更にまん丸にして彼女を見上げると、奈緒は
「良いから!」
と叫び、日向と影の片腕をそれぞれ掴むと、弁当箱はそのままに教室を飛び出した。
昼休憩でざわめく廊下を、走る走る、走る。
「い、いきなりどうしたんだよ!蓮本っ」
「前に言ってた刑事がまた来てたのよ!見つかったら面倒だから、逃げるのっ!」
ドタバタと駆け抜ける三人を生徒や教師が何事かと眼をやるのが恥ずかしいのか、影が頬を紅潮させ俯きがちにして走る。
(俺たちは御鶴城の死の真相について知ってるけど、影は違うんだが・・・、)
奈緒によれば、影は“赤い眼”になっている最中の記憶がないのだという。
御鶴城を殺したのは、“赤い眼”の影の時だから、影は彼の死については覚えていないし、教えれば深い心の傷になるのは間違いないだろうので、黙っている。
ただ刑事が影を疑っていることは、湾曲な理由を添えて説明はしている。疑われることは好ましいことではないので、影も刑事に会いたくはないだろう。
「それより、何処に向かってる訳?」
「さあ」
(さあ、って・・・・・)
それでも奈緒が自分たち兄弟のことを案じてくれていることは伝わって来るので、文句は言わない。
こうして逃げ回ることで、疑いが深まるであろうことは分かっていても、やはり刑事には会いたくない。恐らく、自分は事情を聞かれたらぼろを出すと分かっていたから。
「影、大丈夫か?」
日向が声を掛けると、影は必死にこくこくと二度ほど頷く。
「とりあえず、屋上に向かうわ」
どうやら行き先は屋上に決定したようだ。日向はただただ奈緒に従うだけだった。
今頃刑事が教室に来て、級友たちに質問をしているのだろうなと頭の片隅で考えながら。