岩下 さくら編 アークと魔法の本 その5
<北条 彩乃サイド>
やったぁ!! 遂にアークと魔法の本こと岩下 さくらが結ばれたね!!
両手で水晶を持ち上げ、食い入るように異世界を見つめるわたし。
しかし…憤る雑貨屋の店主オーガイルは、シルシーを殴り飛ばす。おいっ! シルシーはまだ子供だぞ!? 騒ぎを聞きつけたシスター・ベルティーアが止めに入るが、シスターも殴られる…。
酷い…。焦ったわたしは、異世界を改変できる万年筆で、オーガイルを心臓麻痺で死亡と記述するが。
【改変エラー:改変は生贄導入時のみ可能です】
なんで!? 誰か!! シルシーとシスターを助けてあげて!!!
ここでも経験したことのない感情が入り乱れる。でもこんなに他人のことを助けたいと思っても、自分では何もできない…。悔しいよ。悲しいよ…。
そこに、真っ白な髭をお腹まで生やした老人が孤児院に入って来て、魔法でオーガイルを金縛り? にした。老人が魔法の本の代金と迷惑料を支払い…無事? 事件は解決したようだった。
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<異世界(岩下 さくら)サイド>
「ベルティーア。これだからスラム街の子だけは、やめておけと言ったろうに」
「ウズベェータお兄様。しかし…助けを求める子を放ってはおけません」
ウズベェータは孤児院が嫌いだった。なぜなら自分も孤児だったからだ。ベルティーアとは血が繋がらない兄妹だ。今回は、偶然に孤児院から漏れた禍々しい光に誘われて来てしまったのだ。
「この本は…。あんな本から…なぜ? このような禍々しい妖気が??」
アークの持つ本。それは、何日か前に雑貨屋で見た役に立たない魔法ばかりの本だった。ウズベェータは、持ち主となってしまった少年を見る。
「うん? この子は…目が見えないのか?」
「はい」ベルティーアではなく、アーク自身が答えた。
「目が見えぬのに…魔法の本を手にして、どうするつもりなのだ? 例え…私に読み聞かされたところで、目で見えぬ魔法書は、効力を持たないのだぞ?」
この異世界で魔法を封じる方法は、喉を潰すか、目を潰すかだ。目で認識した魔法の本の言葉を、実際に声に出すことで、魔法という事象は完成するのだ。
「そ、そんな…」アークの夢は早くも崩れ去ってしまう。
「それに…魔法使いが契約できる魔法の本は、生涯に一冊のみ。その魔法の本は…役に立たぬ魔法ばかりじゃ。まぁ…どの道、お主に魔法は使えぬのだが…」
泣き出すアークを見てられぬと、ウズベェータは、孤児院から去って行った。
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<北条 彩乃サイド>
「そ、そんなのアークが…可哀想じゃない!!」