岩下 さくら編 アークと魔法の本 その4
<異世界(岩下 さくら)サイド>
元々スラム街で生まれ育ったシルシー。欲しい物は盗めと教え込まれていた。善悪の区別も、それを考える常識もないシルシーは、貧民街の雑貨屋から、一冊の本を手に取り走り出した。
「おいっ!! こらっ! 待ちやがれ!!」
接客の途中で死角になっていた格安魔法の本コーナ。しかし偶然に落とした銅貨を拾う時、目の前で小さな女子が万引きするのを目撃した雑貨屋の店主オーガイルは、接客を放置して走り出す。
(うん? えっ!? 私、誘拐されているの!?)
毎日、毎日、通りを行き来する人たちを観察するしかなかった。私を誘拐!?
そうね。私の価値がわかる魔法使いもいるってことね!
「くだらぬ魔法ばかりじゃ」と言ったあの老人を今でも怒っています。
私って結構根に持つ方です!
さてさて、盗まれたとしても、どんなイケメンが私を盗んだか、確認する必要があるわ!
(はいっ!? 子供?? あぁ…。終わった…。落書きされるか、破かれるか、そんな未来しか想像できないわ!! あれ? 本ってどうなったら死ぬのかしら?)
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<北条 彩乃サイド>
うん? まさかの!? 万引きから…アークと魔法の本が出会う?
わたしは食べかけのポテチを大量に含んだ口を大きく開けて、成り行きを見守る。
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<異世界(岩下 さくら)サイド>
シルシーが息が苦しくても足が疲れても全力で走った。スピードを緩めずに最終コーナを曲がると、孤児院まで最後の直線となる。そのまま個人の扉を開けると、アークの座っているテーブルに駆け込んだ。
「アーク!! 本!! 魔法の本だよ!!」シルシーは目の見えないアークの手を取り本を渡す。
「シルシー? この本は…どうしたの?」
「アークにあげる!! 大切にしてね!!」
シルシーがどうやって本を手に入れたか、ちゃんと確認すべきだった。しかし…魔法の本を手にした喜びのほうが大きく、何より…本が語りかけてきた。
(汝、魔導を極を六芒星に捧げた書物である我と契約せよ!)
はっ? 勝手に…口が…動く…。
「うん、契約するよ!」
魔法の本から放たれた赤黒い光は、孤児院の窓や開いた扉から漏れ、大通りまで照らしたのであった。
「ま、まさか…契約しちまったのか??」
雑貨屋の店主オーガイルは焦った表情になる。




