岩下 さくら編 アークと魔法の本 その3
<北条 彩乃サイド>
ちょうど学校も夏休みに入っていた。高校に入学すると、知り合いの先輩たちから、部活への勧誘がひっきり無しに来たのだけれど、一つに絞れないまま帰宅部となっていた。授業の雰囲気が好きであり、勉強も楽しかったため、誰とも合わない夏休みは、少しだけ寂しい気分になっていた。弟はいつも通り、両親と共に長期休暇中は海外の親戚の家に行ってしまった。
わたしはパジャマ姿でポテチを食べながら、王都ベスベスタの貧民街で繰り広げられる、ほのぼのとした日常を眺めていた。驚くことに今までと違いこんな怠惰な恰好が心地よいのであった。
シスター・ベルティーアは、夜遅くまで夜泣きする赤ん坊の世話をしながらも、朝は誰より早く起きていた。人間なんて誰も見ていない場所では、本性を曝け出すものだ。しかし、わたしが一日中眺めていても、そんな素振りは全く見せなかった。
異世界の一日は、こちらの3倍以上のスピードで過ぎていくのだ。タイミングが悪いと、ずっと異世界人は寝てたりする。
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<異世界(岩下 さくら)サイド>
9歳のアークと7歳のヒルクの男の子同士の会話も結構気に入っている。いつも前向きのアークとかまってちゃんのヒルク。今日はどんな楽しい会話を聞かせてくれるのか。
「アークはどんな魔法使いになりたいの?」
「そうだな〜。炎で魔物を倒してもいいし、傷ついた人を治療してもいい」
「両方出来たら?」
「あぁ、最高だな。でも、10歳にならないと、魔法の本持てないからな」
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<北条 彩乃サイド>
ブシューッ!! コーラーを思いっきり吹き出した。
えっ? アークって、後何ヶ月で10歳になるのよ? さくらが、魔法の本になってスタンバってるのに!! 困ったな。どうしよう??
何かいい方法がないか考える。アークを10歳にしちゃえば解決? 早速、異世界を改変できる万年筆で改変を!!
【改変エラー:改変は生贄導入時のみ可能です】
うん? 改変は、誰かを異世界に送り込んだときのみ?
今は特に誰かを送り込む気はないから、他に方法がないか考えてみる。
倍速、早送り、指定日時などなど…。おおっ! 時間を任意に進められるみたい!! あれ? 進めるけど、戻れないの? う〜ん。でも、まぁ、急いでないし。このままで!
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<異世界(岩下 さくら)サイド>
「ねぇ、シルシー! アークが欲しいものがわかったよ! 魔法の本だって!」
シルシーは、アークのことをお兄ちゃんと思い込んでいる6歳の女の子だ。