北条 彩乃編 彷徨う心 その3
<異世界(岩下 さくら)サイド>
通知らしい何かが頭に直接送り込まれた。
【通知:あなたは”北条 彩乃”によって異世界に送り込まれました。送り込まれた先は、魔法の本です】
■名前:暗黒六芒星魔導書 ■職業:本 ■性別:− ■年齢:6500 ■Lv:1
【ヒント1:異世界から転生してきたことは口外しない方が良いでしょう。異端者として討伐される可能性があります】
【ヒント2:元の世界に帰るには、”帰らずの島”と呼ばれる島にある”北条 彩乃”の魂を破壊することが条件です】
【ヒント3:この世界で死亡は、元の世界の死と同じ概念です。死なないように頑張りましょう!】
待て! 何で彩乃が?? えっ…。どういうこと? 彩乃に嫌われちゃったの!?
わかんないよ…。
(彩乃っ! 聞こえる? た、助けてよ!!)
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<北条 彩乃サイド>
謎の声に唆されるように、親友の”岩下 さくら”を異世界に送ってしまった。送ってしまった後で、この世から抹殺してしまったと同義であることに気が付いた。つまり…わたしは殺人を…親友を殺してしまったと…。
しかも親友を本にしてしまうなんて、何で…あんな声に唆されてしまったの!?
生まれて初めての失敗。それも大失敗である。罪悪感が心を黒く染め始めたとき、彩乃は今までなかった水晶に写し出された時間と点数に気が付く。
【転送リミット。異世界へ1人送ることにより、168時間加算されます。時間が0になると北条 彩乃は死亡します】
何度も登場する【死】というキーワードに、恐怖という感情が生まれた。
待って!! 他にもあったはず…。必死に思い出す。恐怖というものが、ここまで頭を混乱させるということを初めて知る。上手く記憶が取り出せないっ!?
た、確か…。そうね…。まとめると。168時間以内に誰かを異世界に送る。送る時のシナリオも採点される。時間が過ぎても、採点結果が悪くても、私は死亡する。いや…それだけじゃない。異世界に送った人物が、えっと…島? にあるわたしの魂を破壊するとか…きっと、それでも死ぬのだろう。
えっ!? わたしは、わたしの魂を破壊させるために…。異世界に人を送り込んでいるの??
異世界に送り込まなければ自分が死ぬ、送り込めば他人が死んだも同然、送り込むときに不幸を撒き散らす、送り込んだ相手がわたしを殺す可能性がある…。
送り込む罪悪感。自分が死ぬという恐怖。この2つを同時に感じたことで、いかに今までが恵まれた環境で幸せだったかに気付いたのだ。そして生きているという事を感じ始める。負の感情があるからこそ、喜ぶことも悲しむこともできるのだという、簡単なことに気が付いた。
だけど…死にたくない。誰かを殺してでも、自分だけは生き残りたいと強く願うのであった。