貴方は私を愛さない
貴方は私を愛さない。
それならば……
私がここを去ってもいいでしょう。
貴方と妹が幸せになるのを指をくわえて見ているほど暇では無いのよ。
私は時間が惜しいの。
だから……
さようなら……婚約者
だから……
さようなら……美しい妹
私から全てを取り上げた。
要らないわ。
婚約者も護衛騎士もメイドもみんな妹が盗ると良い。
私を見ないお父様。
私に笑いかけないお母様。
私から全てを取り上げる妹。
私を睨む弟。
妹しか見ない婚約者。
全て捨てて行くわ。
家族だから愛さないといけない。
そんな鎖から解き放たれて……
私は自由になる。
*************************************
【アリステア】
ボォオオオオォォォー
汽笛が辺りに響き渡る。
霧の中見送る人も無く、私はぼんやりと甲板から港を眺める。
今頃館では元婚約者と妹との婚約発表が行われているはずだ。
私は一人隣の国に向けて出港する船に乗る。
半年に一度隣の国の島に向けて船が出る。
精霊祭の為だ。
巡礼者は一度はヘレナ島の聖セレナ神殿に巡礼したいと願う。
多くの人混みの中に私は紛れ込む。
質素な巡礼服に身を包んだ私は、妹と元婚約者の婚約発表に詰めかけた人々の馬車とすれ違ったが。
誰もわたしだと気付かない。
ただの巡礼者だろうと思われただけだ。
美しいストロベリーブロンドに赤い瞳。月の女神の様だと噂される妹。
美しい妹に比べたら私の容姿は地味で平凡だ。
だから……婚約者も妹に魅かれたのだろう。
家出にはもってこいの日。
父も母も妹も弟も私の事など忘れている。
どっちにしろ1週間後、私を辺境の修道院に送るつもりなのだから。
彼らの中では私の存在は既に無いのだろう。
いえ……昔から私は幽霊の様な存在だった。
父と母と妹と弟がお出かけするのをいつも指をくわえて見ていた。
私は体が弱いと言う事になっている。
外に出してもらったことは無い。
父と弟以外で異性に会ったのは婚約者だけだ。
いえ……元婚約者ね。護衛騎士も数に入れるべきかしら?
婚約者だけは初めて私に与えられた人だった。
でも……
金髪で銀色の瞳のあの人の瞳はいつだって切なげに妹を見ていた。
一月に2・3度訪ねて来てくれた。
3人だけのお茶会。
何故か妹がいつも彼の隣にいたわ。
楽しそうに彼とお喋りする妹。
嫉妬で心が黒く塗りつぶされる。
いけない……いけない……心まで醜くなってはいけない……
茶髪でアンバーの瞳の私は平凡な顔だ。
人混みに紛れたら見つからないモブね。
私は何度も何度も自分に言い聞かせた。
人を引き付ける外見だけでは直ぐに飽きられる。
お洒落よりも知性を磨くべきよと……
婚約者に相応しいレディにならなくてはと一生懸命勉強した。
家庭教師の先生も褒めてくださった。
先生達は皆女性で家庭教師として自立していた。
先生達は自分の仕事に誇りを持っていた。
羨ましいと思った。先生達のように誇り高く生きれたら。
妹に醜い嫉妬を持たずに済んだだろうか?
婚約者はデビュタント用にとドレスと首飾りとイヤリングを下さった。
平民の成人は15歳だが、貴族の成人は16歳だ。
婚約者の瞳と同じ銀色のドレス。首飾りは妹の瞳と同じ赤いルビー。
この国のデビュタントは婚約者がいない場合は白いドレスだ。
婚約者がいる者は婚約者から婚約者が纏う色のドレスを贈られる。
アクセサリーは自分の色だ。
私が贈られたドレスは婚約者の瞳の色。アクセサリーの色は私ではなく妹の色だった。
誰を思って作られたドレスか直ぐに分かった。
一度も身に着けることのなかったドレスと宝石。
それは売り飛ばされ私の旅費になったから完全に無駄と言う訳では無かった。
メイドも護衛騎士も初めは私にもいたわ。
メイドの名前はエラ・ミエド。男爵家の5女で10年以上我が家に仕えている。
私が5歳の時、私の専属メイドになった。
護衛騎士の名はアデソン・スエルテ。彼は公爵家の3男で私より5歳年上だ。
彼は私が10歳の時私の護衛騎士になった。
でも二人共私が15歳になった時……妹に仕えるようになった。
誰もいない小屋。屋敷の下級メイドが食事だけを運んでくる。
私は家族と一緒に食事をしたことがない。
籠に入れた洗濯物を持って帰ってくれるが、掃除はしない。
私は一人で身の回りの事をするようになり、穴の開いた塀を抜けて町に出かけるようになった。
塀に穴が開いているのを見つけたのは9歳の時で、たまに外に出て散歩をする様になった。
塀の穴は草木が生い茂っているため気が付きにくい。
だから町の人とは顔見知りで、普段は質素な身なりをしている私は平民と思われていたみたいだ。
私は刺繡が得意だったからハンカチに刺繡して洋服屋に売りに行った。
住んでいた小屋のロフトにあった古い買い物籠、その中にハンカチを入れて出かけた。
店の主人は喜んでハンカチを買ってくれたわ。
私は色々刺繡すると店の主人に買ってもらった。
60代の店主は優しいお婆さんで二人でよくお茶を店の裏庭で飲んだ。
何気ないおしゃべりで、私は民の生活を学び。
店主とのお茶は婚約者とは違う心温まる物だった。
妹が居ないから特にそう感じたのかも知れない。
15歳になった時。
私の側に誰も居なくなった。
メイドと護衛騎士が居なくなって何となく分かっていたの。
婚約を解消されるって。
いつの間にか彼は私の所に来なくなった。
私は家族が住んでいる館とはかなり外れた小屋に住んでいる。
昔庭師が住んでいた小屋だとエラが教えてくれた。
「エラ……私はお母様の子供では無いの?」
子どもの頃エラに尋ねた事があった。
エラは幼い私から目をそらし。
「お嬢様は奥様のお子さんですよ」
ただお嬢様の本当のお父様は、お父様の兄上だったんですよ。
と小さく答えた。
私の実の父が亡くなり母は父の弟と再婚したのだと理解したのは10歳を過ぎてからだった。
私の実の父は女にだらしなくいつも母を泣かせていたらしい。
洗濯をしていたメイドのおしゃべりで知った。
メイド達は茂みに私がいることを知らず喋っていたのだろう。
父の肖像画は屋敷の中には無くって。
私は父の顔を知らない。
ただ父と叔父は似ているらしくて。
画家を呼んで家族の肖像画を描かせた時に、画家がそう言っていた。
母と叔父と妹と弟だけの家族の肖像画。
私は何処にも描かれていない。
割と有名な画家に描かせた家族の肖像画は結構な枚数あるのだが……
本当に私はどこにも存在しないようだ。
父も母も私の実の父を嫌っていたんだ。
そのことを知ったときストンと理解できた。
私は異質なのだと。
母の子供ではあったが、叔父の子供では無いのだと。
嫌いな男の子供より自分の子供は可愛いものだ。
ああ……なんだ……そういうことか……
私は誰にも愛されないんだな。
努力は実を結ばず。
婚約者は妹を選んだ。
私の誕生日に元婚約者と妹は婚約する。
本当ならば婚約者に貰ったドレスを着てデビュタントするはずだった。
一つ違いの妹がデビュタントに出るのは来年だ。
白い花冠に銀のドレス。
婚約者がいない者は白いドレス。
婚約者がいる者は婚約者の色を纏う。婚約者に手を取られデビュタントに出る。
私の婚約者だった人に手を引かれ妹はきっと幸せそうに笑っているのだろう。
私には何も無い。
彼は私を愛さない。
家族は私を愛さない。
ならば……好きに生きてもいいでしょう。
私が居なくなっても誰も困らないわ。
その三日後、私が乗った船が嵐にあった。
これは……天罰なの?
ごぼごぼと口から空気が漏れる。
苦しい!!
海に沈みながら何か大きな生き物がゆっくりと私に近づいてきた。
暗い海の中、不思議なことに私にはそれが見えた。
海竜だ!!
海竜に食べられる!!
そこで私の意識は途絶えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【???? 親子】
「パパ!! パパ!! 人魚姫が倒れているわ!!」
嵐の去った海岸を犬を連れて散歩していた娘が騒ぐ。
その腕にはウサギのぬいぐるみを抱いている。
昨日寝る前に読んだ【王子と人魚姫】の影響か娘が可笑しなことを言い出した。
流木を人魚姫に例えているのか?
あの年頃の子供は想像力が逞しい。
!!
いや違う!!
よく見たら本当に人が倒れていた!!
「君!! しっかりするんだ!!」
慌てて抱き起す。
若い娘だ。16歳ぐらいだろうか? 巡礼服を着ている。
巡礼者?
長い髪は濡れて白い顔に纏わり付いてって。
水滴が日の光に耀き、まるで王冠の様だ。
本当に人魚姫のよう。
ぼ~と見とれていたが、直ぐに抱き上げ館に運ぶ。
犬が騒ぐのを不審に思ったのか、館から人影が出てくる。
「旦那様? そのお方は?」
執事が走って来た。
「直ぐにドクターを呼んでくれ!!」
「はい。直ちに!!」
執事は慌てて村に居るドクターを呼びに行くように下男を走らせる。
私はメイド達に指示を出して彼女の服を脱がせ風呂にいれ、冷たい体を温めさせた。
客室に彼女を寝かせる。
「パパ……人魚姫は大丈夫?」
銀髪碧眼の娘は心配そうに私に尋ねた。
青い瞳が潤んでいる。
「ああ。大丈夫だよ。きっと良くなるよ」
両親との死別のせいで娘はナーバスになっている。
私は娘の頭を撫でながら優しく微笑む。
大丈夫だよ。人魚姫は助かるよ。
だってこんな素敵な娘が助けてくれたのだから。
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【エラとある親子とメイド】
「ここは……?」
私は知らない部屋で目を覚ました。
波の音が聞こえる。
海の近くなんだろうか?
微かに潮の香りもする。
上品な客室だ。
貴族の別荘か金持ちの館なのかな?
ふと人の気配がして横を見ると7歳ぐらいの少女が、心配そうに私を見つめている。
「パパ!! パパ!! 人魚姫が目を覚ましたよ!!」
少女は勢い良く部屋から駆け出すと父親を呼びに行った。
「? 人魚姫?」
私はポカンと少女が出ていったドアを見つめた。
しばらくすると少女が父親を連れて来た。
目も覚めるような美青年がドアから入ってくる。
彼も少女と同じ銀髪碧眼だ。
日に焼けた逞しい体つきで27・8歳ぐらいだろうか?
先ほどの少女を抱っこしている。
少女は興奮気味にウサギのぬいぐるみをぎゅうと抱きしめて私を見つめる。
チョッキを着てミニのシルクハットを被ったウサギは紳士の様に大人しく少女の腕に抱かれている。
「良かった。気が付いたんだね」
彼は優しく微笑んだ。
「はい。助けていただいてありがとうございます」
私はベッドから起き上がろうとして眩暈を覚える。
「無理をせずまだ横になって居なさい。私の名はサミュエルだ。この地の領主をしている」
いつの間にか控えていたメイドが私を支えてくれた。
「まあ。領主様でしたか。この様な格好で申し訳ございません。名も名乗っていなかったですね。私の名はエラ・ミエドと申します」
若い男はこの地の領主だった。クラウドは確かウドス国の領地だ。
私は前から考えていた侍女の名を口にした。
エラと言う名はよくある名前で、私の国では広場で石を投げればエラに当たると言う歌があるぐらいありふれた名前で。
ミエドと言う苗字もありふれていて、騎士家の半分以上はミエド姓だ。
茶髪でアンバーの瞳の平々凡々の娘がありふれた名を名乗っても誰の気にも止まらないだろう。
「巡礼服を身に着けていたが、ヘレナ島のセレナ神殿に巡礼に行く途中だったのかい?」
「はい。長年お仕えしていたお嬢様が修道院に入ることになりまして暇を貰いましたのでセレナ神殿に巡礼に行った後ウドス国に渡り王都のキイナに行こうかと思っておりましたが……嵐に遭い……気が付けばここに……」
「そうか……しかし……おかしいな」
私はこくりと首を傾げる。
私の噓がバレたのだろうか?
「あの……なにか?」
私はおずおずと尋ねる。
「確かに昨夜の嵐は酷かった。しかし……君以外誰も居なかったんだ。それどころか何の漂着物も無かった。船が沈んだなら鞄なり木片なり流れ着くはずだ。いや海流からするとヘレナ島に流れ着くはずだ」
「私は嘘をついていると」
「いやそうではない」
「あ……まさか……」
「なにか思い出したか?」
「船が沈むとき大きな海竜の影を見たような気がしました」
「海竜?」
「凄い!! 凄い!! 人魚姫は海竜に助けられたの? きっと海竜は人魚姫が聖女様に似ていたから助けたんだわ」
「?? 聖女様?」
「ああ。君の国ではあまり伝わってないかも知れないが。聖女様が勇者と旅をしている時にこの地で怪我をした海竜の子供を助けたと言う。海竜は聖女に感謝してそれ以降海で溺れた者を助けて陸まで運ぶようになったと言う伝説があるんだよ」
「そんな伝説が……私の国にはそう言う伝説は伝わっていませんね。魔王を倒しその地に王都を築き勇者と結婚して幸せに暮らしたと言う話しかありません。最も私は伝説に詳しくないので王家に伝わる古文書に書き記されているかも知れませんね」
「あなたは聖女様に似ているから海竜が助けてくれたのよ」
「私が聖女様に似ているんですか?」
「そうよ。これはわたしの大切な絵本だけど貴方に見せてあげる」
少女は大切そうにしている本を差し出した。
「王子と人魚姫?」
私は困惑した。
「ああ。その絵本の王子と人魚姫は勇者と聖女がモデルなんですよ。だから人魚姫は聖女様と同じ茶色の髪とアンバーの瞳なんです。ちなみに勇者は黒髪に黒目だそうです。貴方の国の王族に多い色ですね」
「お詳しいんですね」
「何を隠そうその絵本は義姉が描いたものなんです。義姉は絵本作家でした」
「そうよお母様は絵を描くのもお話を作るのも上手だったのよ」
少女は少ししんみりする。
「素敵なお母様ね」
「うん。お父様もお母様も大好き」
キラキラとした瞳で少女はそう答えた。
「それでね。それでね。このウサギのぬいぐるみもお母様が作ってくれたの♥」
若い領主は苦笑しながら少女の頭を撫でる。
優しい手つきだ。徐にアリステアの方を見た。
「疲れただろう。食事を持ってこさせるよ。後でドクターを呼ぶよ」
「いえ。もう私は大丈夫です」
ベッドから起き上がろうとしてまた眩暈がする。
彼が抱き留めてくれる。彼が触った肩が熱い。
体が冷えすぎて常温の領主様の体温を熱く感じるのだろうか?
思っている以上に体力が落ちているようだ。
「すみません……」
赤くなって謝罪する。本当に無様だ。
この有様を見たら、マナーの先生に怒られるだろう。
「クリスティーナ彼女はまだ疲れているからまた後でお話ししようね」
「はいパパ。エラまた後でね」
少女と青年は出ていった。
しばらくしてメイドと医者が現れた。
医者は私を診察するとまだ暫くは寝ているように言うと出ていった。
あの青年に報告に行ったのだろう。
メイドは恰幅のいい40代の女性で、ニコニコしながら私の世話をしてくれた。
彼女の名前はハンナと言う。領主様が赤ん坊の頃から仕えてきたそうで。
この館の管理を夫と一緒に任されているそうだ。因みに旦那様は執事だとか。
この城はクラウド領の海沿いにあり避暑に使われているとか。
たわいもないおしゃべりの後、ハンナさんは言う。
「本当にあなたは運がいい」
「そうですね」
私はハンナさんが持って来てくれたかゆを食べながら相槌を打つ。
「あなた家族はいないの?」
「はい。家族は流行り病で亡くなり。侯爵家でお嬢様のお世話をしていました。お嬢様が修道院に入ることになって侯爵家に暇乞いをして巡礼に出たんですが……」
「嵐にあって生きていられたんなら神の加護があったんだね。それとも死んだご両親が見守ってくれてたのかも知れない」
ずきりと胸が軋む。
母と叔父と妹と弟が私の事など思ってくれている訳ではなく。
まして死んだ実の父が私の事など思っていてくれる訳はない。
ポロリと涙が零れる。
「ああ……ごめんよ。悲しいことを思い出せてしまったね」
「いえ……良いんです」
「今はゆっくり休みなさい」
ハンナさんはまるで母のように慈愛の眼差しで私を見ると皿をもって出ていった。
私はこれからどうしようかと考えた。
下着に括り付けた財布はさっきハンナさんがテーブルに置いてくれた。
暫くはこのお金でしのげるだろう。
でも鞄を失くしたのは痛かった。
服や下着や靴や日常品が入っていた。
今からそれらを揃えるとなると持っているお金の半分は飛んでしまう。
それから王都に行く旅費を考えると……
足りない。
仕事を見つけねば。
この館の近くに町があったはず。
そこで仕事を見つけられないかしら?
そう考えながら私は眠ってしまう。
眠りの中海竜の歌声を聞いた気がする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【 エラとクリスティーナとサミュエル 】
「ねえねえ。エラまたあの歌を歌って♥」
「いいですよ」
クリスティーナに強請られて私はまた歌を歌う。
エラ エラ エラ 愛しい僕のエラ~♪
今日君にプロポーズする為に指輪を買った~♪
公園で君を待つ~♪
あんまりエラが遅いから小石を蹴ったら本屋のエラに当たった~♪
本屋のエラに怒られて僕は謝る~♪
本屋のエラに謝っている時に、美しい僕のエラがやって来た~♪
でも君はいきなり現れた男にプロポーズされて僕の目の前で承諾した~♪
ああ~~僕は失恋した~♪
花屋のエラが僕を慰める~♪
パン屋のエラがハンカチを差し出してくれる~♪
酒屋のエラが黙って酒を差し出す~♪
半年後~♪ 僕はエラと結婚した~♪
女の子が生まれたらエラと名付けよう~♪
エラ エラ エラ~♪
僕の愛しい人~♪
エラとエラに囲まれて僕は幸せだ~♪
クリスティーナはクスクス笑う。
「この歌の男の人が結婚したのはパン屋のエラ? それとも花屋のエラ? 本屋のエラ? 酒屋のエラ? それとも違うエラ? それに彼がプロポーズしようとしたエラは幸せになったのかしら?」
「本当に誰と結婚したんでしょうね。この歌はエラという名の娘がいかに多いかというのを歌った歌だから。でもこの男の人はとても幸せそう。別の人のプロポーズを受けたエラの事は分からないです多分幸せに暮らしているのでしょう」
「物語の終わりはハッピーエンドでなくっちゃ~」
そうですね。と私は笑う。
実は私はクリスティーナの子守を任されている。
次の日彼が来て「クリスティーナの子守を辞めさせたので君に子守を頼めないか」と言われた。
何でも子守はクリスティーナをほっぽって彼に纏わりついて、職業放棄していたらしい。
私は二つ返事で承諾した。
兎に角お金を稼ぐ必要に駆られたのだ。
首になった子守には悪いのだけど、背に腹は代えられない。
私達は手をつないで『愛しき僕のエラ』の歌を一緒に歌う。
「ねえねえエラ。貴方の国ではどんなダンスが流行っているの?」
「流行りのダンスはよく分からないけど。デビュタントのダンスは知っていますよ」
「わあぁ~~♥ デビュタント? 私も白いドレスを着てお城で踊れるかしら?」
このウドス国のデビュタントは皆白いドレスだそうだ。花冠は白いバラで決まっているらしい。
無論。男性も白いタキシードで胸には白い薔薇をさして踊る。
「もちろんだよ。僕のお姫様」
「あっ!! パパお仕事終わったの?」
「ああ。やっとね。ウドス国のデビュタントは白い服と白い薔薇だけど君の国では少し色があるんだね」
「はい。私の国では婚約者に自分が纏う色を贈ります。アクセサリーは婚約者の色を贈ります。婚約者のいない娘は白いドレスです。国によってデビュタントも少し変わるんですね」
初めてサミュエル・T・ベリー侯爵に聞いた時はビックリした。
そう彼はサミエル侯爵様。品があると思った。
そしてウサギを抱いたこの愛くるしい少女はクリスティーナ・T・ベリー侯爵令嬢。
彼女の両親は事故に遭い亡くなってしまった。
サミエル侯爵はクリスティーナを引き取り養女とした。
この国の貴族法によると養子としないと彼女は平民になってしまうのだ。
酷い男が侯爵家を継いだらクリスティーナ様は孤児院に送られただろうとメイドのハンナは言っていた。
屈託なく笑うクリスティーナ様を見て、私も幸せな気分になる。
去年ご両親を亡くされたばかりだと言うのにクリスティーナ様は明るい。
サミュエル様が優しいからだろう。
こんなに笑うのは何時ぶりだろう?
あの家にいた時は声を出して笑うのははしたないと怒られたから。
婚約者の前では微笑むぐらいはしていたが……
いつも婚約者は妹を見ていた。
きっと婚約者は人混みの中で私を見つけることはできないだろう。
「エラ私にダンスを教えて」
「クリスティーナにはまだ早いよ」
「あら。お父様とお母様は子供の頃からダンスの練習をしていたとハンナが言ってたわ」
「二人共生まれる前から婚約が決まっていたからね。政略結婚だったけどとても仲が良かったんだよ」
「政略結婚でも幸せな結婚もあるんですね」
「極まれにね」
サミュエル様は寂し気に笑う。
「パパもお母様と一緒に踊ったの?」
「エリーナはダンスが得意だったから、私も兄さんもクタクタになるまで踊らされたよ」
クスクス笑うクリスティーナ。亡くなった両親の話を叔父に聞くのが楽しくてしょうがないのだろう。
私は実の父の名前を聞くのさえ禁句だった。
「お手をどうぞ。お嬢さん」
おどけてサミュエルはエラに手を差し出す。
「私ダンスはあまり得意じゃ無いんです。足を踏んだらごめんなさい」
「小鳥のように軽い君に踏まれても大したことは無いよ」
サミュエルは笑ってエラの手を取る。二人は浜辺でクルクル踊る。
クリスティーナも見よう見まねでウサギとダンスを踊る。
アリステアは幸せな時間を過ごした。
あの館に居た時とは比べ物にならないぐらい穏やかな時間だ。
自分の所にこんな穏やかな時は来ないと思っていた。
今なら元婚約者と妹に感謝出来る。
そんな三人を崖の上から見詰める人影が居た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【 ソフィア 】
何故? 何故? 何故?
こんな事になったの?
姉の婚約者だった人を奪った。
これは……罰?
薬を飲まされ声を出す事が出来ない。
意識はあるが体が痺れて動けない。
薬を飲まされた。
お城に来て王様に婚約を認めてもらう為に父と母とエイデン様とバーグ侯爵と来た。
4大侯爵家の婚約は王の前で行われる。
他の貴族は教会で行われるが。4大侯爵家は特別なのだ。
私は一人控室で待たされ、父と母とエイデン様は用事で出て行かれた。
王様に謁見する前に控室で出された紅茶。
あの中に薬が入っていた。
紅茶を飲むと痺れて動けなくなった。
私は黒いマントに身を包んだ男に秘密通路を使って城の地下へと連れ攫われ。
抱きかかえられた私の後ろを父と母とエイデン様が無言で付いてくる。
いつの間にか皆黒いマントに身を包んでいる。
エイデン様の顔色は悪く。今にも泣き出しそうだ。
白いドレスに身を包んだ私は、ロープでグルグル巻きにされ、逆さまに吊るされた。
松明が地下の祭壇を照らす。
床には溝が彫られて魔法陣が描かれている。
かなり古い物で古代アルメキア語で文字が彫られている。
ここは城の地下にある神殿だ。しかもかなり深い場所にその封印の間はあった。
「君はどうして自分がこんな目に遭っているのか分からないと言う顔をしているね」
私に話しかけているのはエイデン様の父親であるジェフリー・バーグ侯爵だ。
この間バーグ侯爵と婚約パーティーで会ったばかりだ。
60代のバーグ侯爵は白髪の将軍で鍛えられた体は老いを知らない。
その後ろに両親と婚約者と神官と黒いマントに身を包んだ人達が20人ほど居る。
お母様は蒼ざめお父様に支えられている、今にも倒れそうだ。
暗くて他の人達の表情は分からないが、緊張しているようだ。
「怨むなら姉を怨むんだな。最も最初の生贄は君だったんだが。まあ元に戻ったと言うだけだ」
この人は何を言っているの?
ああ……お父様!! お母様!! エイデン様助けて!!
婚約パーティーの日に姉が出奔した。
お父様とお母様はお姉様を修道院に送ると言っていたから。
何処かでその話を聞いて出て行ったのだろう。
大して気にもしていなかった。
姉は居るが居ない扱いだったから。
姉と会うのはエイデン様が来るお茶会の時だけだ。
エイデン様は地味な姉には勿体無いお方。
お茶会の時だってエイデン様と碌にお話しできないから、代わりに私がおしゃべりしてあげてた。
俯く姉を見て面白かった。
姉は勉強は出来たが、エイデン様の前だと上がってしまい口が聞けなくなるのだ。
家庭教師の売れ残りの小母さん達は口々に姉を褒め称えるが私は鼻で笑った。
いくら勉強が出来ても地味な姉は婚約者にも他の男にも相手にされない。
家庭教師と同じよ。
「お姉様は赤い色が好きだからアクセサリーは赤い色の物を喜ぶわ」
この国のデビュタントは婚約者がドレスやアクセサリーを用意する事になっている。
ドレスは銀色で良いとして、アクセサリーは何がいいだろうと相談された時私はそう言った。
極まれに婚約者の色では無くて好きな色を贈ることもあるのだ。
贈られたアクセサリーを見て泣きそうな姉の顔を見るのは面白かった。
でもエイデン様も本当は私にドレスを贈りたかったんだろう。
でなければ赤い色など贈らない。
私とエイデン様の婚約発表のパーティーがあった次の日。
メイドが食事を持って行った時には、既に姉はいなかった。
恐らく婚約発表のパーティーの時に出て行ったのだろう。
父親と母親は慌てて従者に探させた。
世間体が悪いせいだと思っていた。
必死に探すその姿は何処か滑稽でもあった。
今まで散々放置していたのにね。
エイデン様も探していた。
罪悪感から探していたんだと思っていた。
数日後、お姉様が乗った船が嵐で沈んだと従者が告げる。
生き残った人たちの中に茶色の髪の少女が海竜にくわえられいずこかに連れ去らわれるのを見たと言う者が居た。
おそらく姉は海竜に食われたのだろう。
その知らせを聞き、母は泣き叫び。父は必死で母をなだめている。
無様にうろたえる両親の姿を見て違和感はあった。
放置していたのにそんなに大事な子供だったの?
それからだ……
父も母も婚約者もあの目をするようになった。
憐みの目だ。
意味が分からなかった。
何故みんなそんな目で私を見るの?
今意味が分かった。
生贄。
私は生贄なのだ。
「君は思っているよね。何故自分が生贄にされるのか。それはね。君が聖女様の血を引くからだよ」
私は眉をひそめる。
「うん。分からないって顔だな」
おバカな子供に言い聞かせる様にバーグ侯爵は喋る。
「君もこの国を建国したのが勇者と聖女様だと知っているよね。聖女は男の子を2人と女の子を4人産んだんだ。その子たちは勇者の仲間だった4人の所に輿入れした。後の4大侯爵家だよ。だから……君や私達には聖女様の血が流れているんだ。勇者と仲間たちは魔王を地下に封印した、でも殺さなかった。魔法陣を描きこの世とあの世の狭間に封印した。そして魔王の魔力がこの地に流れるように魔法陣を彫った。20年して魔王が封印を解こうとして聖女様を殺した。聖女様は運悪く魔法陣の点検に来ていて魔法陣の中に立っていたんだ。聖女様の血が魔法陣にかかり魔王は再び封印された。それ以来10年ごとに魔法陣の結界は弱まりその度に聖女様の血を引く女の子が生贄に捧げられてきたんだよ。10年前は私が没落した男爵令嬢に産ませた娘でエイデンの姉にあたる娘を捧げたよ」
バーグ侯爵は深いため息をついた。
「君の姉のアリステアの父親は確かに妾を囲ったろくでなしに見えただろうが。彼は4大侯爵家の義務を果たそうとしただけだ。ぶっちゃけると4大侯爵家は妾の子を生贄に差し出してきた。病気や事故で死んでもいいように最低2人は女の子を産ませてきた。生まれた女の子は情が移らないように修道院で育てた。私は実の娘の名前を呼んだことも抱いたことも無い。リックも自分とシエラとの間に出来た子を生贄にしたくなくって子を産ませたが運悪く男の子だった。妾にリックが殺された時パイソン家を継いだ、君の父親は直ぐにアリステアを生贄に指名した。生贄の話は当主じゃ無ければ教えられないんだよ。君の父親はシエラを愛していたから妾は作らなかった。断言する。愚かだと!! その愚かなつけを払うことになる。君を生贄にしてね」
私は震える。
父も母も弟もエイデン様も私を助けてくれない!!
「バーグ様、王が来られました」
若い神官がバーグ侯爵に告げる。
「待たせた」
王がやって来た。
王様もまた黒いマントに身を包んでいる。
皆が一斉に膝をつき頭を下げる。
「苦しゅうない」
王は方手を上げ皆に立つように告げる。
「今回の【乙女】はリチャード・パイソンが子。ソフィア・パイソンです」
老いた神官が王に告げる。
いつの間にか人々は魔法陣をぐるりと取り囲んでいる。
魔法陣の中に居るのはソフィアだけとなる。
母親のすすり泣く声が漏れる。
人々はじっと事の成り行きを見ている。
「この地に繫栄を。己が使命を果たせ」
王は両腕を上げた。
後ろに控えていた神官たちはぼそぼそと呪文を唱える。
風が起きソフィアの白い喉を切り裂いた。
赤い血がほとばしり魔法陣の溝の上に落ちた。
魔法陣は血を吸って黄金色に輝く。
もっと血をよこせと言わんばかりに赤い血が次々と魔法陣の中に吸い込まれる。
「ここに封印の儀は終わった」
王は儀式の終わりを告げる。
儀式は10分もかからなかっただろう。
魔法陣の上に吊るされたソフィアの死体は干からび、先ほどまで零れる若さも生の輝きも失われまさに搾りかすの様であった。
4大貴族の当主と嫡男達の口からほっと吐息が漏れる。
儀式は為され次の10年後までこの国は豊穣に満たされるであろう。
すすり泣く母親と父親に誰も同情の眼差しを向けない。
彼らには警告は与えられていたのだから。
10年前いや!! 先代のリック・パイソン侯爵が亡くなりリチャードがパイソン家を継いだ時から、貴族の務めを王と他の3家当主から聞かされた。
当主が代替わりするたびにこの地下にある儀式の間で誓うのだ。
自分の娘を生贄に差し出すと。
エイデンは呆然と婚約者だった少女の亡骸が下ろされるのを見ていた。
亡骸にしがみ付いて慟哭するパイソン夫婦。
やがて干からびた少女の亡骸は棺に入れられ奥の遺体安置所に置かれる。
そこには歴代の生贄に選ばれた少女達が眠っている。
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【エイデン】
何処で間違えた?
エイデンは自問自答する。
アリステアの婚約者になった。
その時は子供だったのでよく分からなかったが、後で考えるとパイソン侯爵家の監視だったのだろう。
生贄を差し出した家は次に生贄を差し出す家の監視もする。
60年ほど前に娘を生贄に差し出す事を拒み逃げた家があった。
結局家族はつかまり娘2人は続けて生贄に差し出された。
その当主は罰を受け、地獄を味わう。
それ以降互いに監視するようになった。
アリステアは地味な女の子だった。
ありふれた茶色の髪にアンバーの瞳。
縋りつくような瞳はうっとうしく。
取柄は真面目に勉学に励んでいる事ぐらいだった。
それに比べてソフィアは一緒にいて楽しい女の子だった。
勉強してどうする?
生贄に差し出されるのに?
その努力は全て無駄だ。
アリステアを見るのは嫌だった。
何も知らない哀れな少女。
エイデンは幼い頃から生贄の儀式の事を知っていた。
見たこともない少女が自分の姉で生贄だと知ったのは8歳の時だった。
魔法陣の上に吊るされた姉は茶色の髪にアンバーの瞳で……アリステアに似ていた。
そのせいか……益々アリステアが苦手になった。
姉の事を思い出すから。
この国の繫栄と平和をもたらす為の必要な犠牲。
やがて自分も妾に娘を産ませ生贄に差し出さねばならない。
4大侯爵家の義務。10年ごとに自分の娘を生贄に差し出せばこの国は繁栄する。
安いものだろうと誰かが言った。
いや。そう言ったのは王だった。
娘を生贄に差し出せば魔物がこの国を荒らすことは無く。大地は実り豊かで、疫病も戦も無い。
まさに聖女に守られた国だ。
正しくは聖女の血筋を生贄にして守られた国だ。
でも……
アリステアはこの国を出ていった。
アリステアは生贄の事を知らなかったのだろう。
父親のせいで疎まれていると思っていたのだろう。
生贄の事を知っていれば……
アリステアはこの国を出て行かなかっただろう。
妹を生贄にはしなかっただろう。
今更だ……
アリステアが居なくなって。必死で彼女を探した。
それはソフィアを生贄にさせないためか。
それとも……アリステアを愛していたのか……
探索魔法で自分が贈ったドレスとアクセサリーが売り飛ばされたと知ったとき、ショックを受けた。
自分との思い出の為に手元に置くと思い込んでいたから。
一度も身に着けた事のないドレスとアクセサリー。
妹の色のアクセサリーなど誰が欲しがる?
これほどまでに蔑ろにして。彼女が今でも僕を愛していると考えるのは愚かなことだ。
信頼も愛情も踏み躙って来たのだから。
何故? 好かれていると思った?
彼女の妹に鞍替えした男を……
誰が愛するのか?
僕は彼女を愛していなかった。
彼女も僕を愛していなかった。
あっさりと売り飛ばされた服とアクセサリーが語っている。
数年後、風の噂でウドス国に【海竜の聖女】が現れたと噂がたった。
何でも嵐の夜に海竜に助けられたのだと、もっぱらの噂だ。
彼女は初代聖女と同じ茶髪でアンバーの瞳で。
クランドの領主の元に嫁いだと言う。
バイバー国に贈られた肖像画は領主とその娘と彼女が居た。
【海竜の聖女】は家族に囲まれて幸せそうに微笑んでいた。
~ Fin ~
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2019/4/25 『小説家になろう』 どんC
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~ 登場人物紹介 ~
★ アリステア・パイソン (16歳) ♀
茶髪でアンバーの瞳。侯爵令嬢。父親に似ている。
体が弱いことにされて、外に出してもらえなかった。
10歳の時婚約して婚約者がいる。
しかし婚約者はアリステアが15歳になった時、婚約は解消され妹の婚約者になる。
その為アリステアは屋敷から家出する。巡礼地に向かうが船が嵐に遭い沈む。
海竜に助けられる。海岸に運ばれ、そこである親子に会う。
アリステアは父が弟の婚約者だった母をレイプして出来た子。
アリステアが出来たため父と結婚する羽目になった、母にも叔父にも嫌われる。
★ エイデン・バーグ (20歳) ♂
元アリステアの婚約者。アリステアが15歳になった時妹の婚約者になる。
アリステアに銀のドレスとルビーの宝石を贈る。
初めはアリステアの妹のソフィアが生贄だったが、当主が代わりアリステアが生贄に代わった。
アリステアに贈ったドレスは追跡の魔法が掛けられていたが。
アリステアは知らず質屋に売っぱらっていた。
行方不明になったアリステアを探すために追跡の魔法を使えば。
質屋に売り飛ばされていてショックを受ける。好かれていたから、ドレスと宝石は大事に持っていると己惚れていた。アリステアが逃げ出したからソフィアが生贄になる。
こんなことなら婚約を解消せずアリステアを生贄にしてからソフィアと婚約すればよかったと後悔する。アリステアと婚約したのは生贄の監視の為。
★ ソフィア・パイソン (15歳) ♀
アリステアの妹。ストロベリーブロンドで赤い瞳。母に似て美形。
頭の良いアリステアが気に入らない。
父に頼んでエイデンの婚約者にしてもらう。
その為アリステアは家出した。代わりに生贄になる。
ソフィアもデズモンドも浮気で出来た子。
★ デズモンド・パイソン (13歳) ♂
アリステアの弟。ストロベリーブロンドで赤い瞳。
アリステアが生贄になることを知っていた。
どうすることも出来ず。罪の意識に苛まれる。
彼もまた爵位を継げば、自分の娘を生贄に差し出さねばならない。
★ シエラ・パイソン (34歳) ♀
本当はリチャードの婚約者だったが、リックにレイプされアリステアを身ごもる。
泣く泣くリックと結婚する。その為アリステアを憎んでいる。
ソフィアとデズモンドはリチャードとの不義の子供。
ソフィアが生贄になった為寝込む。
★ リック・パイソン (享年25歳) ♂
弟の婚約者のシエラに懸想してレイプした。
アリステアが出来て舞い上がるほど喜んでシエラと結婚する。
4大貴族の義務で娘を生贄に差し出さねばならない。
それを嫌い。愛人契約をした女に女の子を産ませようとするが。
それが女狂いに見えて益々シエラに嫌われる。
愛人? との間に男の子が生まれるが、教会に押し込んだ事で愛人? が逆上して刺され死亡した。
★ リックの愛人?
リックと愛人契約する。男の子を産む。正妻の座が手に入ると期待したが。
息子はさっさと教会に入れられる。女の子が生まれても教会に押し込めて生贄の時に教会から出す。
4大貴族はだいたいそのやり方をしている。
その事を知って、逆上してリックを刺し殺す。かなりの美人だったがお頭が少々足りなかった。
牢に入れられ毒殺される。彼女が産んだ息子は教会で飼い殺しで子供を残せない。
★ サミュエル・T・ベリー侯爵 (23歳) ♂
ウドス国クラウンド領の侯爵。
兄夫婦が亡くなり姪のクリスティーナを引き取り養女とする。
ウドス国は次男を神官にする風習がある。
次男は長男のスペアで長男に世継ぎが産まれたら、還俗するかそのまま神官を続けるかの選択が出来る。
嫁に行った妹が二人いる。性格の悪い従兄弟が侯爵家を継ぐとクリスティーナが迫害されるため環俗した。聖魔法が使える。割と高位の神官だった。
★ クリスティーナ・T・ベリー (8歳) ♀
サミュエルの兄の子。サミュエルの姪にあたる。
貴族法でそのままだと平民となり孤児院に入れられてしまうためサミュエルが養子にした。
ウサギのぬいぐるみは母親が作ってくれた形見である。
母親は童話作家であった。
★ エリーナ・T・ベリー (享年25歳) ♀
クリスティーナの母親。絵本作家でもある。
馬車の事故で夫と共に死亡。政略結婚ではあったが、夫とは仲は良かった。
割と普通の顔立ち。
★ エルセード・T・ベリー (享年30歳) ♂
妻と共に事故で亡くなる。可もなく不可もなく平凡に領地を運営していた。
妻が童話作家だったことにも理解がある。ハンサムだった。
★ ハンナ (43歳) ♀
ベリー家に古くから務めるメイド。
みんなのおっかさん的存在。
夫は引退した執事。避暑地にある城を任されている。
★ バイパー国の4大侯爵家
聖女の娘が嫁いだ侯爵家。南のパイソン侯爵家、北のノースカロライ侯爵家、東のイズルス侯爵家、西のジョバンニ侯爵家がある。
当主は生贄の儀式の為、娘を最低2人は確保しなければならない。
大概は愛人に娘を産ませる。産まれたら男女とも修道院に入れられ、人目を避けて育てられる。
10年ごとに生贄を捧げる。80年前流行り病と事故でイズルス侯爵家が娘を三人亡くした。
その時の生贄は王家から差し出された。メイドとの娘で10歳の子供であった。
イズルス侯爵家はペナルティーとして2人の娘を生贄に差し出す事になった。
60年前に逃げたのはジョバンニ侯爵家。娘二人のうち一人は孤児と入れ替えていた。ジョバン二家は当主と母親と娘が捕まって死ぬ。
一人は孤児として育ち、後にアリステアと出会う。服屋の主人のおばあさんがジョバンニ侯爵家の生き残りである。ジョバンニ侯爵家は叔父が継いだ。
★ ウドス国
サミュエルがいた国。聖女が海竜を助けたと伝説がある。
★ バイバー国
バイバー国を作ったのは勇者と聖女。協力したのは4人の仲間。
後に勇者は王に聖女は后になる。4人の仲間は4大侯爵になる。
勇者と聖女は2人の王子と4人の娘に恵まれる。娘は4大侯爵に嫁ぐ。
魔王を封印しその上に城を築いた。
20年して封印が解けかかっていることに気付いた聖女が魔法陣を点検している時に魔王の攻撃に遭い亡くなるが、聖女の血が魔法陣に飛び散り魔王を再び封印する。聖女の血筋の娘の血で封印の強化が出来る。その為10年ごとに生贄を差し出す。
魔王の復活を防ぐため10年ごとに生贄を差し出す。
★ ヘレナ島
ヘレナ島にあるセレナ神殿に半年に一度信者は巡礼を許される。
最後までお読みいただきありがとうございました。