今の父は脇役でしかない
う~ん、しかし参ったな。
どんなに性能が良くても、中身が子どもでは見た目に気圧されないようになるまで、時間が掛かるな。
愛しい娘たちは、思っていた以上に現段階では宝の持ち腐れ状態。
侵入者…侵入してきたモンスターと言うべきかな。
そのモンスターたちは、私たちに対して向かってくるわけでもなく、ただ正対して威嚇するような状態に止まっている。
いや、左右のモノが私たち親子と大豪寺君に向かい合って牽制し、中央のヤツは視線を室内に巡らせ何かを探しているという感じだ。
…困ったな。
知性の感じがあるぞ。
話し掛けるかどうか迷っていたら、大豪寺君が話し掛けてくれた。
「なんだ、お前たちは!?」
背筋を伸ばし手を開き前に構えるような体勢で話し掛ける、大豪寺君。
ふと気づいたが、彼の身構え方って『透明な竹刀を持っている』と想像すれば、まんま剣道の構え方だった。
私自身が2段で止まっているが、一応は剣道の心得がある。
おかげで気づいたのであるが
『一流の技はすべてに通ず』
脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
竹刀が無くとも、今の彼なら十分に強いのでは?
これはもしかすると、大豪寺君が踏ん張ってくれれば、この緊急事態は乗り越えられるのかもしれない。
完全に他力本願な思考ではあるが、未知数過ぎる私の風能力とやらを当てにするよりも、遙かに現実的である。
「我々は助けに来たのだ。」
周囲に気を配っていたヤツが、頭だけを巡らせ大豪寺君に話し掛ける。
…凄い。
普通に会話できるんだ。
交渉が可能なら生存率は一気に跳ね上がる。
だが、左右の2体は警戒を解く様子もなく牽制し続けることが、交渉も容易ではなさそうな雰囲気を伝えてくる。
「…別に俺たちは何も困っていないぞ?」
相手の目的が救援と言われてしまって、警戒しながらも大豪寺君は会話を続ける。
うんうん、難しいよね。
敵対ではなく協力と言われると迷うから。
私は聞き耳立てつつも警戒を解くつもりはない。
続く会話の内容次第では娘たちの能力を当てに出来ない以上、スッピンのままで何とかしなければならない。
協力だろうと敵対だろうと、こっちは戦力外通告のオッサンに、今は怯えて戦力にカウントできない子ども達なんだから、対応に限りがある。
こうなれば嫌でも流れは大豪寺君の判断次第になってしまう。
…何とか我々親子の安全も保証してもらわないと…。
私は美緒と沙羽の頭に優しく手を乗せながら優しく語りかける。
「大丈夫だよ、美緒ちゃん。沙羽ちゃん。
見た目は怖いけど敵じゃないって言っているから。」
本当はもう少し色々と吹き込んでおきたいのだが、とりあえずは戦力として機能してくれないことには絵空事だ。
私の言葉に反応して、美緒ちゃんは視線を私に向け、沙羽ちゃんは恐る恐るながらも相手を見るのが、手に伝わる感触で何となく分かる。
「大丈夫だよ、沙羽ちゃん。
私が傍に居るでしょ。」
いつの間にいたのか、いや登っていたのか。
例の動き出した人形が、沙羽ちゃんの右肩で器用に座っている。
…そういえば居たな、こんなの。
聞こえた声に思わず頭を巡らせると、人形は私の方を見上げており、右手を上げ挨拶してくる。
…もしも五指があるタイプだったら、任せろと言わんばかりに親指でも上げるつもりだったのだろうか?
割り込んでくるコミカルな状況が、有り難いことに慌てそうになる私の思考を平静にしてくれる。
このやり取りを話し掛けてきたヤツは確り聞いていたようで、大豪寺君を見ながら左手を掲げ親指で私を指してくる。
「そこの役立たずな男も言っているだろう?
我々に敵意は無い。
大人しく話を聞いて欲しい。」
偉そうな態度に思わず怒りを覚えるが、ここで向かっていこうモノなら三下扱いな展開で返り討ちは確定事項だろう。
それは困るので、今はその怒りを堪える…でも覚えてろよ。
助けに来たと言いながら、人を雑魚扱いした報いは必ず受けさせてやるからな。
…そうできるくらいのチートが本当に欲しかった。
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