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強制イベント襲撃発生

 「スイマセン、神道さん!」


 状況に気づき、慌てながら謝罪の言葉と共に近づこうとする彼を、私は素早く左手を広げて突き出し制止の意を伝える。


 「待った、待った。

  多分、今の君に触れられると私の手が粉々になる心配あるから。

  大丈夫だから、そのままで。」


 親切心が仇になりそうな予測を彼に告げれば、有り難いことに理解頂けたようで踏み止まってくれる。


 拳を打ち合わせた時から続いていた痺れが、徐々に湧き上がってくる痛みへと変換されれば、脳裏に浮かぶのはドンボリさんの説明。


 所作として正しいかどうかは不明だが、そうであって欲しい。

 そんな祈りを込めつつ。


 「治れ治れ治れ…」


 患部に左人差し指を軽く触れさせながら繰り返し唱えてみると、まるで長時間映像を高速巻き戻しのように、私の指が赤黒い色から元の肌つや、正しい指の並びに戻っていく。


 「「「「おおぉ~」」」」


 大豪寺君に娘たち。

 そして何よりも私自身が感嘆の声を上げてしまう。


 思った以上に凄い感じだ、ファンタジー。


 ノーマル仕様のオジサンですら、この出来映え。

 これは異邦者という見えない隠れステータス的なモノが作用しているのかも知れないが、とりあえずは信頼できそうだ、治癒能力。


 さしたる疲労感も感じないことに喜びながら、脳裏では怖い予測を。


 コレって何を代償に治癒できたのだろう?


 思わず率先使用してしまった治癒能力の発動条件に思いを巡らせれば、今までの様子を静かに見守っていたドンボリさんへと視線を向ける。


 …そういえば全然慌ててなかったな、この人。


 「お見事でございます、シントウ様。

  結果的にですが、私も説明しやすくなりました。」


 嬉しそうな笑みを浮かべつつ、両手を組み合わせソファーに腰掛けている様子は、予測の範囲内だったのだろうか。


 組み合わせた手を解き、こちらに座るようにジェスチャーを交えて促してくる。


 「どうぞ、改めてお掛け下さい。」


 全く状況に参加せず傍観していたことに多少の不安を覚えないわけでもないが、圧倒的に不足している情報を得るためにも、今は些末な問題として頭の隅に追いやる。


 そして始まった話を幾つかの項目に分けると


 この世界で異世界召喚が可能なのはヴィレスティン王国だけらしい。


 ちなみに国家は大きく分別すると7つに分かれた状態。

 大きくと前置きをするのは、合衆国みたいなモノから諸部族のような規模もあるため。


 国家という規模の枠組みで、固め難い集合体もあるからだ。


 種族という枠組みを設けると

 人類、エルフ、ドワーフ、ホビット、魔獣、魔族

 となる。

 ただし、ハイエルフやダークエルフのような亜種を語り出すと切りがないので、今はこの程度に収めておく。


 そしてヴィレスティン王国は異世界召喚を10年周期で繰り返しているのだが、大きな世界規模の変革をもたらした勇者が100年前と80年前、そして20年前に出現したそうだ。


 「100年前の勇者は…」


 ドンボリさんの説明が途切れる。


 正確には


 『ガシャン!』『ドッドドン!』


 ガラスの爆ぜる音に続き、重量感のある物が床板に落下する音。

 連続音からして複数の何かがガラス窓を割り室内へと侵入したようである。


 おかげでドンボリさんの説明は中断。


 っというか。

 窓を背にして座っていたので、今ので負傷したのではないか?


 …訂正。


 負傷なんていう優しい言葉では済まなかった。


 位置的な結果なのだろうが、侵入物は窓から入り込み机の大半を削ぎ落とし、ドンボリさんの座っていたソファーを破砕していた。


 ドンボリさん、即死?


 でも遺体がない。

 それどころか、何一つ痕跡がない。


 ソファーだった物の残骸と机に使われていた木片が潰れている。


 それ以外には血の一滴だって確認できない。


 頭の中にある魔法と剣のファンタジーな世界基準を思い起こし予測を立てる。


 幻術とか身代わり的な魔法を使っていたのが打ち消された…のかな?


 等と思案を巡らせていると、視線の先では侵入してきたモノが動き出す。


 初めは黒くて大きな球、そんな印象を受けた。


 だが、球だと思ったのを正確に言うと、有翼生物が身体を丸め込みうように身を固めていただけ。

 それが3体。


 「クカカカカカッ!」


 人の声帯では到底真似できない、カラスの声が一番似ていそうな鳴き声。


 声に合わせてソレは立ち上がる。

 人の形をしているが、大きさは優に2メートル近くあり、立ち上がり背から生えている真っ黒な翼を広げる。


 おかげで此方は臨戦態勢。


 臨戦なんて表現をするが、やったことはソファーから立ち上がり中腰で両手を胸の前に手を広げて構えるだけ。


 格闘家でもない普通の中年には、この程度の対応が関の山なんだよ。


 目の前の生物らしいモノを注視し、記憶の中にある幻想生物で一番似ているモノで例えると


 「カラス天狗に似てるな…」


 思わず呟いてみたが似ていても非なるモノ。


 頭の先から全身を羽毛で包まれ、背中には翼、両腕が翼とは別に生えていて膝下辺りから鳥の脚だ。


 ファンタジー基準で言うなら『男型のハーピー』と言った方が、しっくりと来るのかも知れない。


 私の声に反応するように、一番近くに立っているヤツが身体ごと向き直ってくる。


 正対すると睨み合い開始。

 娘たちに害ある恐れは基本、敵。


 怖い、おっかない。

 そう考え怯え震えるよりも、敵対者に対する威嚇の為に私は怯まない。


 というか怯んでいられない。


 虚勢でも親が余裕を見せれば、子どもは不思議と踏ん張れるものだから。


 美緒ちゃんは怯えるように父の左側に身を寄り添い、背後に隠れながら相手を見る。

 沙羽ちゃんにいたっては、怯えすぎて声も出せずに父の右側から抱き付いている。


 …あの、あれだよ。

 泣き叫んで逃げ出したり、恐慌状態には陥らないって意味だからね。



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