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選ばれし勇者の覚醒

 性格も育ちも勇者な感じである、大豪寺君。


 彼はもの凄く冷静で頭のキレも良かった上に、なんというか正直だった。


 世代的に合致したというのもあるんだろうけど、正直、オジサンは憧れちゃったね。


 ソレ凄く格好良くねぇ!?って。


 私たち親子の一連の流れを傍で静かに見守っていた彼は、ドンボリさんから問い掛けられると用意していたかのようにソファーから立ち上がり、自信を見せつけるように右手を突き出す。


 「俺は…こんな感じでいきます!」


 一拍、間を開けて彼は宣言する。


 その言葉と同時に彼の身体が黄金色に発光する。


 もう少し具体的に言うなら、彼の身体の周囲に可視可能なエネルギーの奔流が溢れ出す。

 髪は逆立ち…黒髪は素敵な金髪へと変わっている。


 どう考えてもアレだ。


 地球という枠には収まりきれず、己の身体一つで趣味の戦闘の為なら惑星や時空を股に掛ける。

 それが結果的に勧善懲悪になるヒーロー。


 これが獲得能力の『1つ目』ってカウントの範囲内だったら、見事なまでのチート。


 ここから更に何を上乗せするつもりなのだろう、彼は。


 今までの散々な流れもあってか、ドンボリさんの表情は感心を通り越して歓喜一色である。


 「何と素晴らしい。

  『覚醒限界突破』に『魔法全系統』ですか!」


 …おい。

 オジサンは風属性オンリーなのに、彼は後付け設定対応可能な感じだよ。


 しかも『覚醒限界突破』ってのは考えようによっては2つ分を兼ねている気がする。


 覚醒があって、その先に限界突破が来ると思うんですよ、オジサンは。


 …いや。

 コレが頭が固いって事なんだろうね。


 考えるな感じろ。


 脳裏にこんな言葉が浮かんできちゃったし。


 案の定、美緒ちゃんも沙羽ちゃんも満面の喜色を浮かべて彼を褒め、両手を叩いて持て囃す。


「お兄さん凄い!」

「沙羽ちゃんもソレが良かったなぁ。」


 ああ、そうだよ。


 君たちが操作説明読まずにゲームをプレイするような事するから、こうやって短時間でも練り上げた彼の能力は一目瞭然な仕上がりに、勇者仕様に成っているんだよ。


 思わず内心で毒づいてしまうが、今さら変えようもないことなので、拳を握り込み歯を噛み締めて発しようのない怒りを堪える。


「ありがとうございます、神道さん。

 おかげでイイ感じの能力に出来ました。」


 あ、ヤバイ。

 一瞬だけ彼の顔面目掛けて、風能力の試し打ちワンパンを考えてしまった。


 その言葉は素直に感謝として受け止めて大丈夫だよね?


 ウッカリ、おっちょこちょい、ずっこけ喜劇を展開した私たちに対する嫌味じゃないよね?


 ね?ねぇ?


 真相を聞き出し彼との関係を険悪にしたいわけではない。


 だからと自分の意見を力任せに押し通すこともしない。


 …いや。


 ほぼ確定で現時点はオジサンの方が負けているから。


 下手するとワンパンどころか指先一つでダウンさせられそう。


 だから耐えるさ、この理不尽に。


 会社の歯車さんを舐めるなよ。


 …そういえば、週明けの会議ってどうなるんだろう?


 異世界召喚されて強制的に部外者となった身であっても、そうそう簡単に気持ちは切り替えられない。


 昨日までのリアルだった我が身を思わず振り返り、内心の怒りを抑えようと気持ちを巡らせれば、帰れなくなった世界の予定に心を裂いてしまう。


 すると荒れていた気持ちが、すぅっと一気に収まる。


 思わぬ形で心情操作の術を会得してしまった。


「それは何よりです、大豪寺君。

 是非とも勇者として頑張って下さい。」


 嫌味を言うつもりは全くなかったのだが、思うまま口にした言葉が聞きようによっては嫌味に聞こえる台詞になってしまった。


「はい。

 俺、絶対この国を救ってみせます!」


 闘気を溢れさせ自信持っての宣言。


 良かった、エエ子や。


 まあ、勇者召喚されるぐらいだから人格面でも善い人寄りなんだろうね、多分。


 手前勝手な予測をしていると、大豪寺君が笑顔のまま突きだしていた拳を私の方へ向ける。


 …間違っていたら恥ずかしいな…


 と思いもしたが、彼の言葉を聞き眼差しを見る限り間違いはないだろう。


 そう考えて私は真似るように右手の拳を作ると、彼の拳に向かって軽く打ち合わせる。


 軽く『ゴン』と打ち合う音を立て離れる互いの拳。


 年の差はあっても、きっと男なら夢見る気持ちは変わらない。


 ステゴロ最強。


 男児ならきっと誰もが夢見る憧憬。

 自分は成れなくとも彼は会得した。


 手前勝手な思い込みだとしても、今の彼となら一緒に笑い合える。


 そう思っていた所に、痺れたような感覚から私は視線を自分の右の拳に向ける。


 その中指は見事に骨折していた。

 傍目にも分かるほどに。


 どす黒く変色し反逆心を示すかのような、支えきれず浮き上がった状態で。


 …加減してよ(スーパー)地球人!



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