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凡夫は日々常々、冒険よりも現状維持と泰平を求める

 私の能力が選択でないのは勇者選考外だからなのか、日々の子煩悩のなせるワザなのか。


 多分、無意識下で考えていることを固定されちゃったんだろうね。


 でも正直なところ、1つは選択肢に余裕とユトリを求めたかった。


 RPGゲームでよくあるじゃない。


 『本当に、この能力でよろしいですか?』


 みたいなヤツ。


 チュートリアル無しの世界には必須だと思うんですよ、迷う時間。


 攻略方法が最初から分かっているとか、前世の記憶を継承しての転生とか。


 異世界召喚される物語は、それなりに読んでいたつもりだった。

 なのに、どうして私の場合は半ば強制っぽいのだろうか。


 もしも神様って方がいて介入できる力を持っているのだとしたら、ほぼ間違いなく私に苦笑いをさせたいのだろう。

 そんな邪推まで湧き上がってしまう。


 正直、私のは思いも寄らない形での獲得だった上に、修練という代価を払わない限りチートにはほど遠い能力だった。


 風能力と治癒能力。


 これはドンボリさんによる判定の結果。

 眼鏡の効果なのか個人の特異能力なのか。


 もしもステータス的なものを可視化できるなら、是非とも使えるようになりたい。


 出来る、出来ないで天地の差となるのは明白だし。


 私が美緒ちゃんを助け起こしていると、ドンボリさんは落ち着きを取り戻したように平静な声で説明してくる。


 本棚を壊してしまった件については謝罪をするも本当に問題ないようで、改めて美緒ちゃんをソファーに座らせると、当たり前のような様子で説明が再開される。


「大丈夫ですよ。

 この部屋は今のような場合のために、特別に用意されている場所ですから。」


 その言葉を受けて改めて室内を見回してみる。


 そういえば本棚を派手に壊した割りには、その背後の壁にはヒビ割れ一つ入っていない。


 考えようによっては、本棚が一応のクッション代わりになったとも考えられる。

 つまり、ある程度の破壊力のある衝撃が起こりうること前提に作られた部屋の強度なのだ。


 …もしかして異世界者を召喚すること自体が、それほど珍しくもない世界って事なのかな。


 私の疑念に答えるように、ドンボリさんからの説明が入る。


 「我が国では10年周期で勇者様を招かせて頂いています。

  ですのから、ある程度の予測に基づいて備えられたのが、この部屋になります。」


 10年周期か…。

 思ったよりも短い。


 私の感想はコレである。


 異世界召喚自体は確かに特別な部類なのだろうが、こうも短い期間で繰り返せるモノだと、勇者という名の冠を被せられた特異戦士。


 しかも『消耗品』に属する可能性が濃厚だ。


 つい先ほどまでの遣り取りで、私の中で『善い人』認定されたドンボリさんが、一気に『距離を置いて付き合いたい人』のトップに躍り出る。


 我ながら随分と容易にランキングの変動が激しいとは思うが、こればかりは仕方ない。


 一家の大黒柱ってヤツは楽できないモノである。

 愛する娘達の順風満帆な成長を担う保護者としては、適宜その都度の状況に合わせて対応する必要に迫られる。

 軽々な選択で危険を冒すわけにはいかないからだ。


 しかも異世界。

 社会保障どころか基本的人権の尊重も現段階では危ぶまれる。


 そう考えると娘たちの能力選択は、あながち外れとも言い難くなってくる。

 少なくとも父が何らかの形で欠け落ちても、2人で協力すれば何とか生きていくことだけは出来そうだ。


 随分とネガティブな思考と思われるかも知れないが、こちとら召喚されるまで父子家庭状態で生きてきた身分である。


 常に最悪を想定して対処する癖を付けていないと、毎日笑って明るい家庭なんて続けられるモノじゃない。


 そう考えながらも、外見的な私は暢気とも言えるような雰囲気を絶やすことなく努める。


 余計な勘潜りは与えず、今は必要な手続きに集中して頂きたいからだ。


「それで改めてシントウ様の能力なのですが、どうやら貴方様は既に習得済みの状態にあるようです。」


 有り難いことに、ドンボリさんは容赦のない説明を継続してくれる。


 そうですか。

 自動習得でしたか。

 それじゃあ選ぶ間もないですね。


 しかし風固定って…本当に勇者扱いしてもらえないんだね、オジサンは。


 大抵、こういう場合の勇者ってヤツは全属性だとか希少価値の高い光や闇の使い手と相場は決まっているようなモノである。


 なのに一般的に習得可能かつ戦闘には単純破壊力の弱そうなヤツに成ってしまっている。


 まあ、治癒については何となく思う所がある。


 ここが異世界。

 というよりは中世風の雰囲気だと思った時に、とっさに脳裏に浮かんだのが衛生管理という言葉だった。


 有名どころで例を挙げるなら『黒死病』いわゆる『ペスト菌』というやつだ。


 ファンタジーな世界だからこそ、魔法ってヤツが万能過ぎて見落とされがちなのだろう。

 今居る部屋だけでも、目的もって一瞥すれば気づけるのだが、機械工学的な大量生産に分類されるモノが凄く少ない。


 どんなに評価しても産業革命の黎明期って頃だ。


 となると、医療方面の発展は調べなければ分からないが、下手すると病原菌による体調不良を『何かの呪い』という分類で扱っている恐れがある。


 結果、『回復』よりも『治癒』。

 病巣等の回復では治し得ないモノを、根本から断絶できる方に能力が割り振られたのだろう。


 子ども達の前では、いつも身綺麗でいる。

 父親はいつもハードボイルドに振る舞っていたい者なのさ。


 だから弱みは見せない、嘆きもしない。


「いえいえ。

 ご説明頂けたので混乱せずに済みました。

 後は私が慣れるよう努力しますから。」


 事も無げに笑顔を浮かべながら、右手を胸の前まで掲げて余裕を見せる。


 頭の中は、先ほどとは別の意味でブンブンと高速回転が始まっている。


 発動形態は固定なのか?

 応用が利くのか?

 代価として払うのは魔力ってヤツなのか?等々。


 能力という言い回しにも疑問がある。

『魔法』と言わずに『能力』と説明されているってことは、『魔法』と『能力』は個別のモノとして扱われているのかも知れない。


 そうなると…変な縛りを受けそうな予感があるんだよね、私の『能力』ってヤツは。


 凡夫は御都合主義に身を任せるより、石橋を叩いて渡る。

 いや、石橋どころかガッチガチの鉄筋とコンクリートで固めてくれるまで渡りたくない。


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