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大人の目を盗むのが子どもの特徴

 ティアさんの前に浮かんでいる3枚のカード。

 一見すると、カードの上半分ぐらいにモブゴブリンの姿が描かれており、その下半分には説明文がある。

 よくよく見れば姿絵の周りに数字や記号らしいモノがあり、元来た世界であったカードゲームのような表記になっている。

 どういう不思議変換が掛かっているのかは不明なのだが、表記は見事に日本語。


 …これ、ティアさんにはイラストぐらいしか伝わらないのではないかな…。

 私はそんな心配をしていたが、ティアさんは気にしていないのか…読めないことについては気にしていない様子であった。


 「これは…沙羽ちゃんの『勇者としての力』ってことですか?」


 さすがは学者さん。

 召喚時に授けられる勇者能力についても、ご存知のようだ。

 これなら説明する必要もなくて楽ができそうだ。


 …いくら何でも異世界の方が日本語を読める…ってことはないよね?

 それとも召喚される勇者の国は日本のみとか…。

 いやいや。

 この国の王様はシャルルって名乗っているし。

 …でも入り婿だったら分からないか…。

 細かい説明はなかったけど、シャルル3世とかなら無きにしも非ずで…。


 ぐおおぉぉぉ。

 どうでもいいことに思考が裂かれていく。

 でも気になると止まらない。


 私がそんな本当にどうでも良さそうな推察に悶々としていると、ティアさんは3枚のカードの中から真ん中のカードを手に取っていく。


 「…なるほど。

  こうやってカードにすれば正体が判明してしまうのですね…」


 驚くと言うよりは呆れるような。

 感心すると言うよりは諦めたような口調で、ティアさんは大きく息を吐き出しながら言葉にする。


 私も気になって残っていた2枚から1枚を手に取って見る。

 私自身も気づいていなかったのだが、描かれたイラストは個々別々のモブゴブリンになっていて名称に変化がない。


 …良かった。

 ちゃんと『モブゴブリン』って書いてる。

 じっくりと見るのは初めてだったので、心のどこかでちょっぴり心配もしていた。

『モブゴブリン』って書かれていなかったらどうしよう、と…


 「これではどんなに謎存在でも、沙羽ちゃんがカードにしてしまえば存在を知ることが出来るのですね」


 ティアさんの沈みかけていた眼差しに光が戻ってくる。

 そして沙羽ちゃんの方を向くと一気に詰め寄ってくる。


 「他には!?

  他にはどんなカードがありますか!?」


 学者らしい好奇心を前面に押し出して、ティアさんは沙羽ちゃんに『次』を願い出てくる。

 後から考えれば疑うべきだった。

 私の把握する限り、他のカードは『烏天狗』しかない。

 その先入観が間違いだった。


 「うん、あるよ。

  それじゃあ、(みんな)で1枚ずつ出ておいで」


 再び手をティアさんに向かって沙羽ちゃん。

 …皆って言った?

 烏天狗のみではない?


 そう、私はこの時まで完全に忘れていた。

 子どもは好奇心の塊であることを。

 しかも沙羽ちゃんはその色合いが強いということも。

 元来た世界の頃も沙羽ちゃんは…何というか野生児感が強かった。

 走り回るのが好きで草花だけに留まらず、街路樹に自生したキノコを手に取って実食してお腹を壊したり、土の味や生きている鯉の鱗の感触を知っていたりと…。


 本人にしてみれば、いつもの行動。

 親の目を盗んでいたつもりは毛頭無い。

 だが結果として私は把握していなかった。


 考えようによっては沙羽ちゃんは頑張り屋さんだ。

 頑張り屋さんだから自分の授かった能力を把握しようとしていたのだろう。


 沙羽ちゃんの言葉に応え追加で現れるカードたち。

 その枚数…20枚は下らないな…それが一斉にティアさんの周りに展開されるのだが、次の瞬間には悲鳴が添えられていた。


 「ひぃいい!」


 ティアさんは悲鳴と共に、沙羽ちゃんから距離を取るために数歩下がる。

 そのため背中付近に展開していたカードがティアさんの身体に触れ、そのまま足下に落ちる。


 端で見ていた私にも分かったのだが…いつの間にこんなに捕まえていたのやら。

 詳細はあえて省くが、その辺にいそうな虫やら小動物がカードとして収められていた。


 ちょっと驚いたのは『犬』や『猫』。

 …これ野良だよね?

 飼い犬や飼い猫を、くすねてきたりしていないよね?

 という心配だった。


 ティアさんが悲鳴を上げた理由は、目の前に展開されていたのが『ハバカリスライム』のカードだったせいだ。

 …ハバカリ?

 もしかして、トイレの中に潜んでいた謎生物を捕まえていたの!?

 何処!?何処のだ!?

 それとも野良でいるのか!?

 中身は、やはりというかスライムだったのか!?


 ちなみにティアさんの背中に当たって床に落下したのは『ウリボー』のカード。

 本当に何処で捕まえたのやら…。


 私も動揺してしまうが、目の前に展開されたティアさんはもっと動揺したことだろう。

 それでも数歩しか下がらなかったのは、さすがというか肝が太いというか。


 たまたま私の近い位置に展開さえていたのは『烏天狗』。

 何気に手に取って見ると、説明の欄に私の目を引く記載がされていた。


『陰陽術によって生み出された妖怪

 繁殖能力が無い代わりに自然種よりも上位の存在となっている』


 …ああ、それで生殖器についての知識が無かったのか。

 最初の日に対峙したときの動揺。

 その理由を知ることが出来た。

 …制作者が誰だったのかは不明だが、そういう常識は教えておいてあげないと…。

 結果は私にとって利と働いたから文句を言うのも間違いかもしれないが、何というかもう少し『愛』を盛って生み出してあげて欲しい。


 とりあえずは場の収集をするべく沙羽ちゃんに声を掛ける。


 「沙羽ちゃん、ありがとう。

  でも、もう分かったみたいだから全部戻そうか」


 「もういいの?」


 「うん、もう大丈夫。

  ティアさんも知りたいことは分かっただろうから」


 本人の承諾は得ていないが、無理に掘り下げる必要もないだろう。

 私の要求を受けて沙羽ちゃんはカードを収める。


 「それじゃあ(みんな)まとめて収納」


 …あ、別に手元に引き寄せる必要はないんだ。

 妙に手慣れた感を出しながら、沙羽ちゃんはカードを一斉に消してしまう。


 さきほどティアさんが移動したせいで、取り残されていた1枚のモブゴブリンのカードは移動することなく同じ場所に浮かび続けていた。

 それも纏めてすべてのカードがポン!と音を立て消えるのは大した物である。


 そして残されたのは戦いた姿勢で固まっていたティアさんだけになる。


 「その…突然目の前にハバカリスライムが…」


 ああ分かっていますよ。

 さすがに私でも同じ反応を…していたかな?


 多分、ちゃんと知っていたからこその反応だったのだろう。

 ティアさんが悲鳴を上げなければ、私では『ハバカリスライム』が何なのかすら知らなかったから。


 …でも考えようによっては、私が初見だったなら手に取って詳しく読み込んでいたのかもしれないのか。


 分かった瞬間に、生理的な反応で取り落としていたのは間違いなさそうだな。


読んでいただけることに感謝を。


次話も、よろしくお願いします。

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