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ご利用は計画的に

 結果から言うと、チートは無理でした。


 とりあえず召喚された部屋から移動する運びとなった。

 レンガブロックの部屋では殺風景だしね。


 部屋の移動がてら、一緒に召喚されていた青年と簡単な自己紹介を交わす。


 見た目通りというか、彼は体育会系高校3年生の剣道部だった。

 しかもキャプテンで玉竜旗高校剣道大会のベスト8まで経験しているのだとか。


 いよいよ剣で戦う勇者まんまだな、彼は。


 ちなみに名前は『大豪寺 英雄』くん。


 名前だけでも十分、勇者じゃね?


 今この瞬間も手を繋いで共に歩く娘たちが居なければ、思いつく限りの罵詈雑言を撒き散らしながら、やさぐれそうになる勇者選考外の中年には泣きたくなるような情報である。


 やがて案内されたのは、応接室みたいな場所。

 中世の感じで説明するなら貴賓室の類いになるのだろうか。


 部屋の中央には四角いテーブルと、周りを囲むように並べられたソファー。

 部屋の両端に置かれている本棚と、テーブルを見下ろすように設置されている机が、良い感じの雰囲気である。


 机の後ろには観音開きタイプの窓があり、その背後に広がる草原と木々の風景が嫌でもここが異世界であることを伝えてくる。

 少なくともアスファルトで舗装されビルに囲まれているような場所ではない、と。


 私たちはドンボリさんに促されるまま、席に着く。

 机の前にドンボリさん。

 ドンボリさんから見て右手に大豪寺君。

 そして左手に私たち親子。


 ここで召喚者についての特典というか、チート獲得チャンスが有ることの説明を受けたのだが、大豪寺君は望む通りにチートを獲得し、我々親子は恩恵を棒に振った。


 正確に言うと、娘たちはチート獲得チャンスを半端に浪費して、私は気づいたらチートを願う前に終了していた。

 そんな感じだった。


 この経緯についてはドンボリさんの丁寧すぎる説明が、結果として仇になったような感じである。


 掻い摘まんで説明すると、召喚された者たちには『自由に特異能力を得ることができる』という恩恵があるのだ。

 それも最初に2つ。


 実際にドンボリさんの説明は丁寧で分かり易かった。

 そう、7歳の子どもでも理解できるくらいに。


 タイミング的には『得られる能力は想像次第で万能なのだ』という辺りであった。


「わ~。本当に動いた~。」


 子どもらしい明るい声で、次女の沙羽が感想を言う。


「「え?」」


 図らずも声を合わせて沙羽の方へと頭を巡らせるドンボリさんと私。


 そこには、沙羽の両手によって掲げ上げられたウサギの人形が、意思を持つモノのようにモゴモゴと手足をバタつかせていた。


 …ちょっと何を無駄遣いしているのぉ!?


 心の中で悲鳴のような叫びを上げるが、現実にはそれをグッと我慢する。

 だって、ドンボリさんが本当に呆気にとられた表情を浮かべていたから。


 視界内に自分よりも驚いている人が居ると、不思議と見ている側は落ち着いていられるモノだよね、こういう場合。


 しかし、ここで事態は更なる混乱へ拍車が掛かる。


 妹の様子を見ていた長女の美緒が恵心したような言葉を発する。


「なるほど。そういうのなら私は最強の女戦士がいいな。」


 言い終えるのが早いか否か。

 それほどの急なタイミングで美緒の身体の周りがボヤける。


『ブゥゥン…』


 なんとか擬音として表現するなら、そんなデジタルチックな音。

 そんな音と共に美緒の着ている服が、紺色全身タイツにボディスーツを重ね着したような姿に替わっていた。


 …私の記憶で該当するのは、アニメに出てくる特殊部隊の出動服に女性を意識した感じの姿。


 違う、違うよ美緒ちゃん。

 ソレはアレだ。

 サイバーでデジタルなSF最強の主人公だよ。

 マジックでファンタジーな世界では、お門違いってヤツだ。


 手に負えない感じで次々と、ドンボリさんの意識外へと発展する娘たちの創作魔法。


 もう少し冷静に時間を掛けアイディアを練って、チートな魔法を思いつくことも出来たはずだった。


 だが『子どもの柔軟な発想』という自由に変幻自在な天然素材は、その裏にある無邪気なんて優しげな言葉で隠されている手前勝手な悪魔である。

 そして悪魔は容赦なく、後先考えない『その瞬間は面白いこと』で選択肢を潰していく。


 さすがに事態を理解した私は、慌てて子ども達を止めようと試みる。


 この勢いで2つ目の特異能力までも無駄にするわけには行かない。

 目も当てられない事態に発展するのだけは避けなければ。


 しかし、父の制止が言葉となって発せられるよりも早く、先ずは美緒ちゃんの方が動き出す。


「じゃあ2つ目は、こんな感じで。」


 そう宣言した途端に、美緒ちゃんの身体は背後に向かって高速移動する。

 そして次の瞬間、その背後に設置されていた本棚が『バァン!』という炸裂音と共に収められていた本を弾き飛ばし砕ける。


 …多分、身体強化の類いなんだろう。

 そういえば、あのアニメの世界は脳みそ以外が機械で出来ているんだっけ。


 辛うじて2つ目はチートと言えばチートなんだろうが…傍目には、ただの脳筋仕様だな。


 口を開け唖然とした表情で固まっている父の隣で、沙羽が対抗心満々の言葉を発する。


「美緒ちゃんズルい。

 じゃあ沙羽ちゃんはコレだ。」


「いいぞ~沙羽ちゃん。

 いまこそ変身だぁ。」


 ここでまさかの動き出した人形から煽り。

 え?この人形を動かす能力って自立型なの!?


 父の思考が沙羽の発した言葉の内容よりも、動いて話すウサギ人形に意識を取られている間に最後の能力獲得。


 おそらく沙羽の能力で動いている。

 その根源による影響なのだろう。

 ウサギ人形は正確に沙羽の願望を語っていた。


 つまり…


 百聞は一見にしかず。

 それを体現したような光景が、目の前で展開される。


 沙羽の全身が黄色い球状の粒子で包まれたかと思うと、それはすぐに弾けて消える。

 まるで光の粒子で作られたシャボン玉のようだった。


 そして光が消えた後には、黄色が基調となっていてフリル感が少なくピシとした張りある印象の衣装に身を包んだ沙羽が立っていた。


 まさかの『魔法少女』が爆誕であった。


 たしかに考えようによってはファンタジーに即していると言えば即している。

 けど、なんだろう。

 誰も選ばないというか、選べないカテゴライズな気がする。


 大の大人どころか、高校生でも結構微妙だよね。

 素顔晒す状態での、この姿って。


 変身モノの主人公たちが顔を隠す理由が何となく合点いったよ。

 コレ恥ずかしいモノ。

 無邪気という名の思考状態じゃないと耐え難いわ。


 この歳になって覆面の大切さが身に染みてしまった。



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