一晩経ったら、少しだけ優しく会話出来ました
久々に感想を、いただきました。
チートさも活劇感も未だ未だですが、親心で遅れをとるつもりは、ありません。
今後とも、親子で考えた異世界冒険談を、よろしくお願いします。
異世界に召喚されて1日。
一緒に持参出来た腕時計を頼りに細かい計算をすると、17時間といったところだろうか。
私は目を覚ますと、目を開け頭だけを巡らせる。
疲労感もあってグッスリと寝込んでいたようだが、昨日までとは変わっているシーツの感触に違和感を覚える。
違和感の理由を頭の中で思い返し、一気に意識が覚醒する。
そうだ。
ここは異世界だった!
私は上半身だけ起き上がると、最初に飛び込んできた視界に映る異形に、思わず身を竦めてしまう。
昨夜、言葉を交わした烏天狗。
それが腕を組んで佇み、私たち親子が眠っていたベットを真っ直ぐに見ているのである。
見ているというか、見守っているのかな…多分。
私は身体を起こそうとして、自分の周りを先ずは確かめる。
右手側には沙羽ちゃんが寝息を立てて眠っている。
その手にはユキちゃんが確りと握られている…あ、目が合った。
ユキちゃんが凄い表情で此方を睨んでくる。
何というか、私なりにアフレコをすると『やっと起きましたかコノヤロー』って怒りを孕んだ感じだ。
昨日までは動くことも叶わずに抱き締められるだけの存在だったもの、それに自我(が有るものと仮定する)が宿れば動けることに対する満足だけでなく、動かせなくなることへの不満も生まれるらしい。
そんなことを考えて左手側を見れば、美緒ちゃんが私に足の裏を向けて寝転がっている。
沙羽ちゃんと違って、美緒ちゃんは寝相悪いのだよねぇ…。
こうして頭の向きが変わっているのなんて日常茶飯事だ。
今日はベットの上なので、むしろシーツの範囲を超えて落ちていない分だけ幸いとも言える。
そして…いつもの感覚で沙羽ちゃんに向かって声を掛ける。
「おはよう、沙羽ちゃん。」
私の声に反応するように、沙羽ちゃんはパチっと目を見開くと私の方に顔を向けてくる。
いつも通りの反応。
我が娘ながら大したもので、睡眠時間を守らせると沙羽ちゃんは本当に寝起きが早い。
早いという表現が正しいのかどうか自信が持てないが、とにかく睡眠時間が十分だと直ぐに意識を目覚めさせる。
本人曰く「パパが起きるのをいつも待っている」のだそうだ。
「おはよう、パパしゃん。」
この呼び方は沙羽ちゃんが『甘えん坊さんモード』の時にする、私の呼称。
こういう朝の寝起き時や、ゆったりとしている時なんかに使ってくる。
「おはよう。
昨日はちゃんと眠れたかな?」
ここが異世界だろうと、いつものように眠り目覚めたのならすることは変わらない。
『おはようの挨拶』を沙羽ちゃんと交わすと、いつもと変わらない寝起きの動作を繰り返したおかげで頭が冷静になる。
そこで漸く、私は烏天狗に向かって声を掛ける。
「一睡も、していないのかい?
沙羽ちゃんに仕える身なんだろうけど、休息を挟まずに続けると体調が乱れないかな?」
正直なところ、烏天狗に対する口調をアレコレ考えている最中だ。
なので今朝は、私が友人に対する時の対応を意識して話し掛けてみる。
烏天狗は沙羽ちゃんに一度視線を向けると、改めて私の方に向き直る。
「私は沙羽様の命令がなければカードに戻ることも出来ません。
そしてカードから呼び出されている間は休息を必要とはしません。
ですから貴方の言う体調の乱れは、与えられた魔力が無くなるまであり得ません。」
昨夜は何か戸惑ったり会話に間が空いていたけど、今朝はスンナリと教えてくれる。
有り難いことに補足まで付けて。
でもそうなると、一晩だけ見守って意見が変わるものなのだろうか?
逆に、そんな疑問が浮かんでしまう。
「理由は分かったけど、それは私に教えても大丈夫なのかな?」
ちょっと言い方に含みを持たせる。
私はこの世界で『崩壊者』なんていう物騒な呼ばれ方をされてしまっている。
そう考えると、今の烏天狗は私のことを親であろうとも、沙羽ちゃんとは別物と考えているのではなかろうか。
私が沙羽ちゃんの情報を得ることで、結果として沙羽ちゃんが不利益を被る。
散々に寝返り続けている『崩壊者』の理論でいけば、私のことを信用する方が難しいのだろう。
アレコレ語るのは面倒だし、沙羽ちゃんの前では触れたくない内容でもある。
たかだか7歳の子どもだが、侮ってはいけない。
既に7歳としての知能は十分に持っているのだ。
折角なら『沙羽ちゃんの下僕たちはパパと仲良し』そういう情報で満たしてあげたい。
親とは…何とも我が侭で、独善で、手前勝手で、都合良く、配慮なく、子どもに『自分の信じる道』を押しつける。
成長を願いながらも、親自身が経験してきた痛みや辛さという『負の面』は避けさせたいと望む。
賢くなって欲しいと望んで、自分が同世代の頃には絶対しなかった、逃げてきたことを『経験』させようと躍起になる。
だから『不快』に繋がることは『大人の事情』なんていう都合の良い壁で隠してしまう。
だが、それが親なんだ。
親の欲目って言うヤツなんだ。
もしかすれば沙羽ちゃんは分かってくれる、いや、分かっているのかも知れない。
それでも今は、陰よりも陽となる情報を一つでも多く与えておきたい。
そこまでのことを烏天狗が察するはずも無い。
だが、私の言わんとすることは、汲み取ってもらえるのではなかろうか?
そんな気持ちを短い言葉にしての問い掛けだった。
「構いません。
沙羽様にとって大切なことですから。
貴方は私の直接の主では無い。
ですが、貴方が沙羽様の親であるならば、私は沙羽様のために貴方にも従います。」
私の求める以上の断言で烏天狗は語ってくれた。
昨夜の時とは打って変わっている。
一晩掛けて色々と考える時間はあったのだろう。
そして、その結果が一応は私のことを信じてくれるということだ。
「貴方が今までの沙羽様の父親として積み上げたもの。
それが曲がらない限りは。」
…最後に確りと釘は刺してきたけどね。
そうか。
沙羽ちゃん視点での情報を共有しているって事だったな。
あれ?…それって、ただの子煩悩な中年オッサンじゃない?
そんなことを考えていたら、沙羽ちゃんが私の肩を、優しくポンポンと叩きながら声を掛けてくる。
「パパ、おしっこ行きたいです。」
…本当にブレないね、君は。
確かに、いつも通りの言葉と要求だけど。
毎日、沙羽ちゃんが寝起きで私に掛ける言葉
「おはよう」と「おしっこ」
異世界に来てもブレない感じは頼もしくもあるんだけど…もう少し何か別の…
私が少し、ほんの少しの間だけ戸惑っていると、沙羽ちゃんがさらに言葉を被せてくる。
「一緒に行きたいです。」
はいはい。
とりあえずはトイレ先に済ませようね。
本気で話が進まないし、烏天狗に対して抱いた私の思いまで水に流されそうだから。
いや、この世界に水洗は無さそうだけど…。
読んでいただけることに感謝を。
叶うなら意見、感想、要望を頂けると嬉しいので、よろしくお願いします。




