思っていた以上にマッチングしていた魔法少女能力
私たちが座れば、これに応じるように烏天狗も腰を下ろす…のは近くの鏡台。
しかも椅子の方ではなく鏡台そのもの。
背丈があるせいで普通の椅子では座り辛いのかな。
一応は味方という立ち位置らしいので、好意的な解釈をして行儀の悪さには目を瞑る。
すると私の肩に乗っていたユキちゃんが、目の前のテーブルの上に飛び降りる。
飛び降りると都合上は説明するが、質量的なモノの関係で『ふわっ』って感じで降りていたが。
「では、パパさんに美緒さん。
早速ですが沙羽ちゃんの能力について、説明をさせていただきます。」
子ども向け映画で見るような場面。
丁寧に片手を前に出し頭を下げ会釈するユキちゃん。
そういうネタになりそうなものは、是非とも沙羽ちゃんが起きている時間にやって欲しいものだ。
余計な茶々を入れて会話が途切れるのをは困るので、今は静かに頷いて
「よろしくお願いします。」
と返しておく。
もうちょっとサクサク進めて欲しいものだ。
沙羽ちゃんの能力を理解することは大切だが、最近、夜更かしを覚えつつある美緒ちゃんの体内時計を、これを機に沙羽ちゃんと同じくらいに戻してやりたいという気持ちが私にはある。
なのでウッカリ興味を引く話を延々とされても困るのである。
必要最小限に情報さえもらえれば、後は追々で理解すれば大丈夫だと考えている。
むしろ、何故急いで説明したがるのかが今は分からない。
オジサンだって早寝したいんだぜ?
「お気付きだと思いますが、沙羽ちゃんの能力は『人形使い』と『魔法少女』です。
『人形使い』に関しては『沙羽ちゃんが動くと信じた物』が自立思考を持って動き出す能力。
『魔法使い』に関しては敵をカード化、カード化したモノを自身の力として利用出来るという物です。」
両手を広げて素晴らしいことを説明している感じを演出するユキちゃん。
だが、大凡の予測で分かることは、この際だからザクっと省いてしまいたい。
肝心な話の時に、眠気で思考が途切れるのは避けたい事態である。
私は右手を挙げ質問の意思を見せる。
するとユキちゃんは、私の方に右腕を差し出し
「はい、パパさん。」
発言を認めてくれる。
いよいよ動きや行動が、魔法少女に出てくる『ノリの良いマスコット役の妖精』という感じである。
だとすると、此方の求める回答や疑問解消までに時間が掛かる恐れが増す。
説明役の立ち位置は時として丁寧すぎて時間が掛かるから。
本来の当事者である沙羽ちゃんがいないことだし、危惧することを先に解消させて貰おう。
「君たちは、どうやって動いているのかな?」
複数形で問い掛けたのは烏天狗にも向けての言葉。
ユキちゃんが元気よく解説しているせいで静観しているけど、今段階で『個別の能力で稼働している』ってことに対しての危惧がある。
この2人…人?まあいい、2人で行こう。
この2人が『沙羽ちゃんから魔力的な供給を受け続けて動いている』と考えると、油断すれば『魔力が切れた沙羽ちゃんが倒れる』という事態にも成り得るのである。
そんなリスキーな能力だと面倒なので、基本説明よりも『今この瞬間に把握すべきこと』を求める。
「私は沙羽ちゃんが『動け』と念じた時点で、沙羽ちゃんが消費した魔力で動いています。
必要な魔力は対象の材質や形状、大きさや構造の複雑さに応じて比例し変わります。」
ユキちゃんの説明だと、沙羽ちゃんは図らずも少ない魔力消費で達成出来ているということだ。
次からは、ちゃんと本人に理解させてから使わないと駄目だな。
「私は捕らわれた時点で魔力による拘束を受けた。
そして今のように具現化する際に魔力を消費する。」
続いて烏天狗の説明。
カードに変換するのと、カードから取り出す際に魔力が必要…という理解をしておこう。
ただ、私の欲しい答えとしては半分だ。
なので補足を求める。
「発動という意味では分かったけど、今その状態を維持するのには『何か』を消費しているのかな?
例えば、今寝ている状態の沙羽ちゃんから魔力を貰っているとか。」
分かり易く例えるなら、花火みたいなモノだ。
瞬間にパーッと綺麗に弾けるだけでなく、厄介なことに今現在も燃え続けている。
今日1日だけでも散々に感じた無敵感の脆弱な世界。
散々に能力を使ったら、朝には衰弱死なんて御免被る。
押さえるべき所は、ちゃんと押さえておきたい。
「ああ、そういうことですか。
それなら私たちは、沙羽ちゃんから貰った魔力分だけで動いています。
維持するための魔力は、自然界の魔力を吸収していますので、ご心配なく。」
薄々感じていたが、情報さえ与えればユキちゃんは賢い作りのようだ。
烏天狗もひっくるめて維持費は自家発電で賄ってくれるらしい。
…てことは、考えようによっては沙羽ちゃんの能力って、天然系ながらも応用次第では『凄く使える能力』に昇華出来そうだ。
細かい設計で作った能力ではない。
だから不具合が思わぬ形で現れることに成るだろうけど、当面の私が危惧していたことは大丈夫と思っておこう。
「ありがとう。
私が事前に知っておきたかったことは、沙羽ちゃんの能力に関する不具合や危険度だったから。」
そう言って頭を上げる。
私の態度に、烏天狗は何故か困ったような表情を浮かべている。
はて?
何か変なことでも言ったかな?
おそらく私の表情に出ていたのだろう、そんな疑問のようなものが。
烏天狗は我に返ると少し考えるように口を塞ぐ。
そして考えがまとまったのか、私に向かって説明をしてくれる。
「父上殿。
私は沙羽様に捕らえられることで、沙羽様の視点から貴方たちの元来た世界に関する知識をいただいている。」
黙って聞いていると何気に凄いこと言っているぞ。
沙羽ちゃんの魔法能力で隷属しているのは分かっていたが、情報面でも共有出来るっていうのは凄いな。
私たちの中で最年少である沙羽ちゃんの知識っていうのが少し残念な感じだが、それでも細々とした説明を省けるのは大きい。
私が理解したことを伝えるように頷くと、烏天狗はさらに話を続けてくれる。
「父上殿たちが元来た世界と比べると、この世界は魔法による技術が発達している。
そして繰り返し続けている勇者召喚は、何かしらの技術や文明の発展を、この世界にもたらしている。
私自身も勇者の1人が『陰陽術』という能力で生み出した『式神』の一種だ。」
式神とな。
西洋風ファンタジーの世界観で思い込んでいたから、ちょっとビックリ。
どこの時代で出てきたんだろう、そんなマニアックな勇者って。
ひょっとすると指先一つで人体を破砕するヤツとか、1秒間に100発殴れるヤツとか居るのではないだろうか。
物語としては最強でも、魔法なんていう術が当然のものとして認識されている世界ではルールが違う。
大豪寺君のような能力ならオールラウンドでやっていけそうだが、それも使いどころや条件を見誤れば失敗する可能性は否定出来ない。
つくづく難儀な世界に呼び出されてしまったものだ、という思いが拭えないでいる。
うまくこの世界に馴染めるかなぁ…。
100年以上掛けても世界の安寧が得られていない理由も、その辺りにあるのだろうね。
烏天狗の説明を聞きながら思案に耽ると、私の肩に寄り掛かってくる感触。
頭を巡らせれば…美緒ちゃんが寝入っていた。
…そうだね。
君から見れば、自分が使えない能力について夜中に語られても集中力は続かないよね…。
「とりあえず今夜はココで打ち切ろうか。
明日から追々、話の続きを聞かせてくれれば大丈夫みたいだし。
君たちも休んで下さい。」
寝入ってしまった美緒ちゃんを姫抱きで抱え、私はベットの方へと足を向ける。
1日で色々あったから、私自身も疲労感が否めない。
とりあえず今はユックリ眠れる場所があるのだから、その環境に甘んじるとしよう。
そういえば、烏天狗の困ったような表情の理由を聞き忘れていたな。
微睡む意識の中、明日まで今の疑問を覚えておかなければと考えていた辺りで私の意識は途切れた。
読んでいただけることに感謝を。
叶うなら意見、感想、要望を頂けると嬉しいので、よろしくお願いします。