説明は自分が理解していることを、相手にも理解出来るように伝えることが大切です
またもや前話での誤字に気づきました。
もう少し落ち着いて投稿するように心掛けます。
カラス天狗Bが無残な姿になって倒れている所へ、烏天狗は錫杖を上段に振り上げる。
それが『止め』の為だと容易に知ることが出来、私は迷わず叫んでいた。
「止めろ、殺すな!」
恐らくは脳天に叩き付けるつもりだったのだろう。
烏天狗の錫杖は私の声で迷いを見せ、カラス天狗Bの右肩に打ち下ろされる。
カラス天狗Bには叫ぶ余裕も無かったのか、呻き声というよりも瀕死の呼吸が衝撃でリズムを崩したような吐息が漏れる。
錫杖は容赦なくカラス天狗Bの右肩の形を歪ませ、肩から先の手は構造上有り得ない向きに曲がってしまっている。
「何故、邪魔をする?」
烏天狗が私を見る。
昼間に出会った時のような嫌悪感は一切無くなっているが、今の表情は邪魔をされたことに対する苛立ちのようなモノに見える。
「兄弟なのでしょう?
だったら殺すのではなく、生かす方に意識を向けて下さい。」
当面の危機が去ったおかげでバスタオルを手に取る余裕が出来る。
さすがに着替えながらだと締まらないので、そのままバスタオルを腰に巻き付けておく。
そうして私は烏天狗の方へと歩み寄ると、そのまま脇を抜け沙羽ちゃんの前に立つ。
「沙羽ちゃん。
今、疲れているかな?」
私が優しい声音で問い掛けると、沙羽ちゃんは頭を元気よく左右に振る。
「ううん。
ベシャって落ちた時は痛かったけど、キツくは無いよ。」
擬音で床に落ちたことを表現し、疲れをキツいという言い方で伝えてくれる。
そうか。
カード化するのは簡単なんだな。
もう少し魔力的なモノを消費して、疲労があると困ったことになると考えていたのだが、それならば問題なさそうだ。
「それじゃあ、そこに倒れているカラス天狗たちもカードにしてみようか。」
私の提案に反応を示したのは烏天狗。
何を考えているのか、大凡を察してくれたらしい。
それを言外に示すように、烏天狗は錫杖を持ち上げ佇まいを整えると私たちの方を静観する。
「でも、パパ?
どうやってカードになるか分からないよ?」
沙羽ちゃんは困ったように私の方を見上げながら告げてくる。
抵抗していたから気づかなかったのかも知れない。
私が憶測ながら説明しようとすると、沙羽ちゃんの頭の上に乗っていた自立型ぬいぐるみが先に口を開く。
「簡単だよ、沙羽ちゃん。
ステッキの先にある青い宝玉で触れれば、それだけでカードに出来るから。」
憶測通りだった説明を聞いて、私は内心で焦りを覚える。
それは言い方を変えると、ウッカリ触れるのも危ないって事になるんだよね…。
何かフラグを立てる趣味はないが、かなり重要なことを世間話のような気楽さで言われるのも困ったモノである。
「それじゃあ、沙羽ちゃん。
今、うさちゃんが説明してくれた方法で、残りの2体をカードにしてみようか。」
私がそう言って促すと、何故か沙羽ちゃんは不満そうに頬を膨らませる。
「違うよ、パパ。
うさちゃんじゃなくて『ユキちゃん』だよ。」
…あ、ぬいぐるみの名前を間違えたことに不満を訴えているのか。
妙なところに拘りを見せるな沙羽ちゃんて。
「えっと…じゃあユキちゃんの言う通りにできるかな?」
「うん。
やってみる。」
私が改めて言い直すと、今度は直ぐに頷いてくれる。
子ども心は難しいなぁ…。
沙羽ちゃんの様子を見守りながら苦笑を浮かべると、烏天狗が凄い眼差しで私のことを睨んでくる。
なんというか、仕える主を馬鹿にされて怒りを覚える従者のように…。
ま、説明するのも面倒だから、今は気づかない振りで誤魔化しておこう。
そして沙羽ちゃんが説明に従ってカラス天狗Bに近づき、…ボロボロに打ちのめされて瀕死の様子に恐れをなしたのか、爪先に宝玉を触れさせると烏天狗の時と同じように1枚のカードへと変わる。
現れたカードは魔法的な加護でもあるのか、クルクルと独楽のように回りながら空中に浮かび続ける。
「それじゃあ、次もお願いね。」
「はーい。」
私が促すと沙羽ちゃんは元気に返事をして、私が最初に打ち倒していたカラス天狗Cに近づく。
そして同じように1枚のカードに変えると、ユキちゃんから説明が入る。
「沙羽ちゃん。
2枚のカードを意識して呼び寄せてみて。」
その説明に対して、沙羽ちゃんは困ったように私の方を見つめてくる。
私は沙羽ちゃんの言いたいことを察すると、苦笑を浮かべたまま説明する。
「とりあえず、呼び寄せてごらん。
来いとか、おいで…みたいな言い方で。」
動物でもあるまいし、無機物のカードが自分から動くことを当たり前のように意識しないと、呼び寄せること自体が『有り得ないこと』なんだから。
ユキちゃんは、その辺をもう少し優しく説明してくれないとね。
私の説明で何となく理解はしたのか、沙羽ちゃんは空いている左手を前に出し掌を広げる。
「カードたちよ、来い。」
…何かの魔法少女アニメであったような、決め台詞っぽい言い方で沙羽ちゃんは宣言する。
すると回転していたカードたちが、示し合わせたように沙羽ちゃんに近づき、重なり合って左手の中へと収まっていく。
そしてカードを抱えた状態で…再び私の方を困ったように見つめてくる。
「え~っと、ユキちゃん。
このカードは何かに収めたり出来るのかな?」
私の問い掛けを受けて、ユキちゃんも気づいたようだ。
…凄いな。
ぬいぐるみで眉毛なんて無いのに、何となく表情が読めるぞ。
おそらくだが、人で言う所の眉毛がある場所が持ち上がったから。
「それじゃあ、沙羽ちゃん。
今度は『収納』と唱えてごらん。」
「収納!」
ユキちゃんの説明を受けて、叫ぶように宣言する沙羽ちゃん。
恵心出来たことなので自信もって言いたかったようだ。
「これで封印の行程…えっと、敵をカードにして封じ込める方法は終わりだよ。」
ようやく自分の物言いが、小学生には難しいことに気づいてくれたみたいである。
ユキちゃんは沙羽ちゃんにも分かるように言葉を選ぶと、右手を持ち上げグッと見せつけてくる。
「パパ。
もう寝たい。」
「…」
一連の手続きが終われば、緊張が解けたこともあって沙羽ちゃんは眠気を訴えてくる。
入浴前にテーブルの上に置いていた腕時計を確認すれば、時間は午後8時40分。
元来た世界では、毎日午後8時30分までには就寝するように心掛けていたからなぁ…。
「そうだね。
今日はもう寝ようか。」
私は沙羽ちゃんの手を引くと、部屋の中に設置されているベットへと移動する。
その様子に対して、どう反応して良いのか困ったように烏天狗が見送っていた。
ちなみに、ユキちゃんは元来た世界の時と同じように、沙羽ちゃんに抱きかかえられ一緒にベットへと入った。
読んでいただけることに感謝を。
叶うなら意見、感想、要望を頂けると嬉しいので、よろしくお願いします。