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子煩悩は子どもがピンチになると『何か』目覚める…というか出る、地が

「…ふう…。

 こうして湯船に入れるだけでも有り難いと思わないとだな…」


 王様との謁見の後、別に案内された食堂で夕食を済ませた私たちは、そこから大豪寺君と別れドンボリさんから宛がわれた部屋へと移動した。

 その部屋の片隅。

 木製の仕切りで隠しながら、大きなタライに湯を張り身体を浸けている。


 先に入浴を済ませた娘たちは、ドンボリさんから渡された服に着替えてキャッキャと、はしゃいでいる。


「しかし…これからどうしたものかな…。」


 上半身を湯の外に出した状態で、私は天井を仰ぎ見る。

 タライの湯は有り得ない波を立たせながら流れている。


 私自身の風能力とやら。

 せっかくなので色々試してみたら『考えるだけで大体は思い通りに発動する』ようである。


 無詠唱の魔法っていえばファンタジー世界っぽいけど、今この瞬間に両足の裏から噴出させることで得られるのは、ジェットバスのなり損ないのような水流を産む程度のモノだ。


 それなりの場所と準備をすれば、限界を推し量ることも可能なのだろうが…今は初心者レベルのような優しい風が出るくらいだ。


 …いや、塔から飛び降りた時のことを思い出せば、それなりの威力は出ると思うよ。

 でも、夜中に確認することじゃないからね。


 なので考えているのは風能力をどれほど持続させることが可能かを体感的に推し量りつつ、これから…いや、明日からのこと。


 一応は勇者…というより、勇者に成るために行動を開始しなければならない。

 手頃な考え方で言えば、敵をサクサク倒してレベルアップっていう展開なのだろうけど…


 この世界が何をもって『レベルアップと扱われるのか』が分かってない。

 むしろ『レベルという概念』が存在するのかどうかも疑わしい。


 経験値的なモノで数字としてレベルアップするならともかく、修練や環境、経験や素質に付随するモノだと『人としての限界』が早々に来そうだ、という予感がある。


「大豪寺君とも別行動になってしまったからなぁ。」


 この部屋に案内されるまでの経緯を振り返り、彼との別れが予定されていたモノとはいえ…初期段階でのヘッポコおっさんステータスを補って貰うつもりだっただけに痛い。

 あわよくば大豪寺君がガンガン行こうぜ!な感じで前衛を張ってもらえれば、我々親子は後衛でノンビリ能力修行なんていう可能性も見いだせたのだろうが…。


 大豪寺君は当然ながらドンボリさんが丁重に、もてなしていた。

 そりゃそうだ。

 空中浮遊こそ出来ないが、身体能力はチートレベル。


 ドンボリさんの説明によると、20年前から召喚された勇者たちは期待以下の性能しか発揮出来ていないらしい。

 多分、好き勝手に会得した能力が『凡人以上英雄以下』だったのだろう。

 この説明のせいで『数値的なレベル』という強さの目安基準が疑わしいモノとなってしまっている。


 その所為もあって、大豪寺君に対する期待値は天井知らず。

 基本能力(チート)魔法能力(チート)を掛け合わせるため、暫くは修行するのだとか。


 …それに対して我々親子への扱いは…


「明日までお待ち下さい。

 私に考えがありますので。」


 それがドンボリさんの言葉だった。


 どんな考えがあるのだろう?

 少なくとも排除するような扱いは受けることは無さそうだが…美緒ちゃんはともかく沙羽ちゃんはムラがありそうで扱い辛い感じなんだよね。

 7歳の子どもに世界の命運託すのはアニメ世界ぐらいのモノだし。


 答えの出ない考えを続けていると、不意に声を掛けられる。


「パパ。

 ドライヤー無いけど、髪はどうやって乾かすの?」


 用意されていた真新しい綿のシャツとズボンを着た美緒ちゃんが私に問い掛けてくる。


「そうだねぇ…。」


 元来た世界の時のような家電は一切存在しない。

 髪一つ乾かすにも地道にタオルで拭くしかないのだが…。

 私は少し考えると、手招きして美緒ちゃんに近づくように促す。


 近づいてきた美緒ちゃんの頭に優しく右手を乗せると、そのまま風能力を発動。

 微風を意識しながら徐々に徐々に、掌から吹き出る風が強くなるように意識すると…。


「わ~、コレ面白いね。」


 美緒ちゃんが嬉しそうな声で感想を述べる。

 私の掌から生み出された風が、温度調整の利かないドライヤーのように髪を乾かしてくれる。


 そして、その様子を見ていた沙羽ちゃんがは、黙ったまま美緒ちゃんの横に並ぶと期待に満ちた目で私を見つめてくる。


「分かってるよ。

 沙羽ちゃんも、頭を出してごらん。」


 同じ様に左手を出して沙羽ちゃんの頭にも、ドライヤーっぽい風を吹き掛け髪を乾かしてあげる。

 ある程度続けていると、不意に美緒ちゃんが頭を引き離れる。


「乾いた。

 ありがと~。」


 本当に髪を乾かすだけが目的だったと言わんばかりに、美緒ちゃんは私に背を向けるとスタスタと離れて行ってしまう。


 その様子を困ったように見つめている沙羽ちゃん。

 私は苦笑しながら


「沙羽ちゃんも、もう乾いているから。

 美緒ちゃんと遊んでおいで。」


 私が促すように言葉を掛ければ、沙羽ちゃんは無言のまま頷く。

 そして美緒ちゃんの後を追うように私から離れていく。


 こういう所は何とも不思議なモノで、同じように生活しているはずなのに姉妹で性格がガラリと違う。


 2人とも自由奔放という点では似ているのだが、美緒ちゃんの方は自分が先に。

 沙羽ちゃんの方は誰かと一緒になら、っていう感じがある。

 結果として美緒ちゃんが引っ張り、沙羽ちゃんが付いて行く。というのが私の認識だ。


 おそらくだが、さっきの沙羽ちゃんは美緒ちゃんに付いて行きたいけど、パパに髪を乾かして貰っている途中で離れるのは申し訳ない。みたいなことを考えていたのだろう。


 2人の普段と変わらない様子に、私の思考が意味のない暢気なものに変わってしまう。

 と、突然聞こえてくる美緒と沙羽の悲鳴。


 私は急いで湯から起き上がると2人がいるはずの場所へと駆け出す。


 そこで私の視界に入ったのは、どこからともなく侵入してきたカラス天狗たち3体。

 内の1体は沙羽ちゃんを左脇に抱え、抱えられている沙羽ちゃんは恐怖で竦んだように青ざめて震えている。

 悲鳴を上げていたはずの美緒ちゃんは、叫んだ後に沙羽ちゃんが捕まってしまったのだろう。

 どうすればいいのか分からずにオロオロと迷っている感じが伝わってくる。

 まあ、それでも掴まっていないだけ有り難い状況だ。


 3体は私に気づくと、沙羽を抱えたヤツが私から見て左。

 美緒と向き合っているのが右。

 そして中央のヤツが私に声を掛けようとする。


「おい貴様。

 動けば貴様の娘は…はっがっ!」


 口を開こうとしたカラス天狗は、最後まで言葉発すること叶わず白目を剥いて倒れる。

 カラス天狗の顔には、私の左拳が言葉の途中でメリ込み意識を失わせる。


 左右の2体が呆気にとられる前に、私は全裸のままで仁王立ちしながら怒鳴りつける。


「きしゃぁん!なんばさらしよっとなぁ!?」

 意:そこの貴方!一体何をしているのですか!?


読んでいただけることに感謝を。


叶うなら意見、感想、要望を頂けると嬉しいので、よろしくお願いします。

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