王様との初謁見と初期装備(の一部)を確認
草原に引かれた街道を進み続けると、いかにも中世ヨーロッパって感じの農地を抜け城壁に囲まれた街に着いた。
いわゆる城塞都市ってヤツなのだろう。
小高い丘になっている場所に設けられていて、中央には大きな城が見えている。
ちなみに現在は馬車で移動中。
…なのだが、美緒ちゃんと沙羽ちゃんは物珍しさが先に立ち、何故か馬そのものに跨がっている。
御者の方、本当にゴメンなさい。
2人は元々の服装に戻っている。
美緒ちゃんはピンク色のポロシャツに紺色のジーンズとスニーカー。
沙羽ちゃんは一見すると白地に水色ボーダー模様のシャツと紺色スカートなのだが、実はこの服、ワンピースだったりする。
そして履いているのは白いサンダル。
遠目には動物と触れ合えるレジャー施設の一環のような光景になっている。
こんなにノンビリと移動出来るって事は、街道沿いに関しての治安は高いのだろう。
城門に近づくと衛兵が駐留している。
臨戦態勢では無いがダラ気ても居ない。
練度の高さと意識の強さが窺える。
馬車が城壁の門に差し掛かれば、堀の広さと深さが窺える。
天然のモノではなく綺麗に整備された構造であることは有り難い。
建築方面に関しての考察は深そうだ。
兎にも角にも今までの常識を根底から変える必要があるのだ。
私は元の世界から持ち込めた数少ない私物、手提げバックの中からスマホを取り出すと、所構わず撮影開始。
被写体は所構わずだが、撮影に関しては一応の注意を払う。
どう考えてもこんな機械工学のシロモノなんて普及しているはずがないのだ。
心無い輩に獲物として捉えられようモノなら一発でアウト。
代替えも補償も無い世界では立派な貴重品となってしまっている。
…購入した時にはネタ商品と侮っていたが、ソーラー充電器を持っていて本当に良かったよ。
どんなに微弱でも、この世界で充電出来る事実は大きい。
それと腕時計。
耐圧式生活防水等の機能もそうだが、何よりも有り難いのは『タフソーラー』とかいう機能。
ザックリ説明すると、ある程度の光さえあれば半永久的に充電稼働出来る物だ。
時計とスマホ(あとスマホは充電器もね)。
何とかこのアドバンテージを大事にしていこう。
ちなみに城門のところで馬から車の方に子どもたちは乗り換えている。
おかげで我々の姿は外には見えていないはずなのだが…道行く人々が見物しようと集まってくる。
気張って撮影に夢中になっていたが、人々の群れを前にして我に返るとスマホをバックの中へと収める。
あ、そうか。
冷静に考えてみれば、ガチ装備のドンボリさんが馬車に従って進んでいるのだから嫌でも目立つんだ。
思うところがあるので、沙羽ちゃんを膝の上に抱えるようにし胡座を描いて座る。
美緒ちゃんは私の隣にピッタリと寄り添って座っている。
今はまだ、この国々の人たちに自分たちを印象づけるつもりは無い。
そういう思惑を大豪寺君には説明していないので、荷台から背後に向かって顔を出して様子を見ている彼と我々親子は明暗分かれた状態になってしまっているなぁ。
まあ、彼には明るい未来が待っていることだろうし…。
余計な警戒心を与える必要も無いだろう。
暫く馬車に揺られた後、とうとうたどり着いてしまった。
今度は城壁の方ではなく城そのものの城門。
ドンボリさんが下馬し我々を案内するように先に立つ。
こうなると今は流れに乗るしかない。
そう思いつつも馬車から降り立った後は、大豪寺君が先に進むように歩幅を調整しつつ、美緒ちゃんを右、沙羽ちゃんを左に並ばせて手を繋いで歩き続ける。
暫く歩き続けると小さな階段が設置されていて、そこからは赤絨毯が道のように真っ直ぐ伸びている。
距離でいうと30メートル位だろうか。
その先には映画やゲームでお馴染みとも言える煌びやかな大広間。
中央には大きな椅子いわゆる玉座に腰掛ける男性と、その周りに佇む数人の衛兵たちがいた。
召喚されたとはいえ、いきなり謁見が叶うものなのだろうか?
そんなことを考えてみるが、思い返せばそのためのドンボリさんとも言える。
こちらの未把握能力を見破ることが出来る位なのだから、ゲームでいうところのステータスに該当するモノまで把握済みって事なのかも知れない。
「そこで止まれ。」
一番近い位置にいた2人の衛兵が槍を交差させ進入禁止を示してくる。
…違った。
普通に警戒されていた。
私たちが立ち止まると、ドンボリさんだけが当然のように進み、腰掛ける男性の前へ。
男性は頭に王冠を乗せ、私よりも年下ではあるかも知れないが、青年よりは少し歳を召した感じ。
「シャルル王、今回召喚された方々を案内して参りました。」
ドンボリさんが跪いて両手を前に突き出すように重ね合わせ頭を下げる。
「うむ、ご苦労。」
シャルルと呼ばれた王様は片手を揚げドンボリさんに挨拶らしいモノを示すと、ゆっくりと立ち上がり数歩だけ前に出る。
「召喚され今この場に居るということは、我らヴィレスティン王国の勇者として協力してくれる者と理解しておる。
我が祖父のように、どうか我が国のために頑張って欲しい。」
両手を広げ堂々と話す姿と張りのある声。
さすが王様と褒めたくなるくらいに立派だ。
いや、立派なマントに騙されそうになるが、よく見ると結構…いやかなりの筋肉質。
頬は痩けているというよりも精悍で物腰もガッチリしている。
孫ってことは勇者の血筋として十分、現役張れるかも知れない。
再び異世界召喚の必要性に対する猜疑心が、心の中で頭を持ち上げてくる。
そんなに繰り返す必要があるのか?
いやいや。
せっかく友好的に扱って下さるんだから、もう少し前向きに考えよう。
…なので、お願いですからもう、これ以上は私のことを邪険にしないで欲しいです。
さすがに王様にまで邪険にされると臍曲げそうですから、私。