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アピールは上手で簡潔に情報を多くして下さい

 準備した規模に対しての結果からすれば、微々たる被害で終わったのだろう。


 魔王軍は勧告に対して素直に応じるかのように、踵を返し粛々と引き上げて行った。

 …あの規模がどこに向かって引き上げていくのか。


 兵站について思いを巡らせると、このまま返して大丈夫なのか?


 分不相応ながらも、そんな思いを馳せてしまう。


 先ほどまでの激戦地。

 死屍累々となった死骸を処分し始める勇者たちがいる。


 今し方まで散々に拝んだ魔方陣が展開され、一部の骨さえも燃え尽きてしまうほどの火力で火葬していく。

 なるほど。

 後片付けまで想定の範囲内ってことなんだ。


 私がその様子を眺めていると、近づいてくる面々がいる。


 鎧を着込んで馬に跨がったドンボリさん、ガン無視ライダー、ドラゴンウォーリア。

 そして、この場所に立った時から護衛してくれていたモンスターたち。


 我々親子と大豪寺君が並んで立ち、その向かい側にドンボリさんたちが居る状態だ。


 「お待たせしました、皆さん。

  それでは改めて説明を続けましょう。」


 ドンボリさんは何事もなかったかのように語り始める。


 色々と質問したいことがあるのだが、とりあえずは事の成り行きを見守った方が良さそうだ。


 「察して頂けたかも知れませんが、召喚の儀式は周期を計算出来てしまうので、どうしても今回のような小競り合いが発生してしまいます。」


 傍目には命がけだった印象を受けた戦闘が小競り合いで片付けられるって、どうよ?


 心の内で突っ込みを入れてしまうが、ドンボリさんの様子は平静そのもの。


 召喚システムにテコ入れみたいなの出来ないんだろうか。

 もう少し根本的な所に改善を求めたくなってしまうのだが、おそらくこの世界の方々には『慣れてしまったこと』として扱われているのだろう。

 しかも対策することに慣れ過ぎていて変革させようという考えが出てきていない。


 …いや。

 今回のようなことが対策の結果なのかも知れない。

 実際に勇者軍に被害は無かったのだし。


 「本来であれば皆さんの身柄はヴィレスティン王国が預かるべきなのですが…」


 ドンボリさんの言葉を横からモンスターが遮る。


 「お待ち下さい、ドンボリ殿。

  その説明では貴国に正当性があるように聞こえる。

  以前からお願いしているように公平性を保って頂きたい。

  我々とて支援している立場なのだから。」


 モンスターの言葉を受けると、ドンボリさんは一度口を噤む。

 そして大きく深呼吸をすると


 「これは失礼しました。

  では言い方に気をつけましょう。

  皆さん。

  今回ここにいる我々は4つの国を代表しています。

  勇者として召喚されたからといってヴィレスティン王国の所属というわけではありません。

  4つの国から自由に選んで頂き、その国家を救うために勇者になって頂きたいのです。」


 応接室での説明を思い起こすと内容が随分と様変わりしてしまっている。

 おそろらくだが、ヴィレスティン王国は召喚システムを実行することは出来るが、どこかのタイミングで魔王軍に勇者を獲られる。

 あるいは魔王軍だけではなく他国にも勇者が流出してしまったのだろう。


 敵対関係にある魔王軍に獲られるくらいなら、という消去法から他国の協力を仰ぎ、とりあえずは召喚したばかりの勇者が魔王軍に属するのだけは阻止している。


 だが協力を求めた手前、ヴィレスティン王国で召喚した勇者を独占することを認められなくなった。

 そんな所かな。


 こちらは召喚されたばかりで国家間の関係や何よりも地理さえ真面に把握出来ていない。


 …いや。

 わざと、そういう点を隠すことでヴィレスティン王国に属し易くしているのかも知れないな。


 乱入して来た時のことを振り返ってみると、お世辞にも友好的とは言えなかった。

 むしろ、あんな登場の仕方では第一印象は悪いと言って差し支えない。


 何から何まで憶測の域を出ないのだが、あんな変身ヒーロー紛いの勇者には『派手な登場』という間違った前提があるのかもしれない。


 派手な登場はどうしても諸刃の剣だ。


 カッコイイという認識をしてもらえなければ、ただの『礼儀知らず』『乱暴者』『粗野』でしかないのだから。


 そんな思考を巡らせていると、先ずはガン無視ライダーが口を開く。


「俺の国、スペルニアダ王国はヴィレスティン王国と違って一年中暖かい国だぞ。

 緑が多くて資源豊かだ。」


 次に口を開いたのはドラゴンウォーリアの赤い人。


「我々のイスティリンス諸国はヴィレスティン王国から南に位置する。

 海を挟んでいるので魔王軍からの脅威は少ない。

 交易関係が盛んでヴィレスティン王国に比べてチームを組んでいる勇者が多い国だ。」


 最後はモンスターたち。


「我らはナパージュ領国だ。

 ヴィレスティン王国からは東に位置していて幾つかの島々に分かれている。

 我が国に属すれば幾つかの特殊な魔術を習得出来る。

 ヴィレスティン王国の精霊魔法と違って身体に反動が来ないのが特徴だ。」


 …最初のは簡潔過ぎて論外だな。

 不便さを精神論で跳ね返せって言われた気持ちになる。


 他の2国についても説明が簡潔すぎる上に相手よりも良い所を訴えていて悪い所を紹介していない。


 これまでの経緯も合わせると…ヴィレスティン王国以外を選んだ人たちって、どんな基準で決めたのかを知りたくなってしまう。


 思い出したように大豪寺君の方を見ると明らかに困った顔をしている。


「何か悩む理由が?」


 私の問い掛けに大豪寺君は困ったように笑う。


「いやぁ~。

 さっきまで助けてもらったのにヴィレスティン王国以外を選べって言われると思わなかったので。」


 予想通りと言えば予想通りの返答。


 明確にどの国に行きたいという言葉ではなかったので、私が考えていることを口にしようとする。


 と、沙羽ちゃんが私の手を引いてくる。


「ん?

 どうしたの?」


「パパ、おしっこ」


 …そうだね。

 難しい話をしているよね、パパたち。


 会話にいまいち参加出来ていない子からすれば、生理現象の方が先に立ってしまうよね。



読んでいただけることに感謝を。


叶うなら意見、感想、要望を頂けると嬉しいので、よろしくお願いします。

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