いきなり最終決戦さながらの風景
ざっと互いの数を見比べると魔王軍20に対して勇者軍1って感じの比率。
…実力伯仲だったら勇者軍が蹂躙されて終わりという感じなんですが。
それは何かの約束でもあったかのように、互いが同時に行動を開始する。
勇者軍の頭上にゲームなどで見かける魔方陣のエフェクトが浮かび上がる。
それと同じくして魔王軍の頭上にもエフェクトが。
数の比率でいけば魔王軍4に対して勇者軍1
エフェクトは赤、青、黄、緑と様々な光沢を放っていて、円形状のモノがあれば2つの円が交差したモノや3つ、4つと重なっているモノがある。
重なり合うエフェクトを比率で比べると、勇者軍が10割、魔王軍が2割といった感じである。
しかも魔王軍は2割の殆どが2つの円が重なったモノばかり。
互いのエフェクトが2重の線に文字を挟んだような構成で出来ている。
そして時間経過と共に文字が一つ一つ光沢を強くしていく。
円が1つだけのモノが完全に光沢を放つ円形を描くと、その中央に六芒星のを描く直線が浮かび上がる。
赤いモノは炎、青いモノは氷や水流、黄は稲光、緑は突風のようだった。
円1つのモノが完成し放たれるエネルギーが勇者軍の頭上に達する頃、勇者軍の円2つの魔方陣が完成。
円1つのモノよりも明らかに高出力となって、魔王軍から放たれていたモノを相殺。
あるいは凌駕して魔王軍の頭上へと殺到していく。
ただし、凌駕したモノは放たれた時よりも出力は落ちている。
おかげで魔王軍から放たれた円2つの出力に対抗できずに掻き消される。
そんな上位互換による魔法の打ち合いは、円4つの魔法が完成した時に勇者側の圧倒的な威力と範囲を誇って魔王軍の頭上へと放たれる。
そして魔王軍に達する瞬間、何か見えない壁にでも当たったかのように霧散する。
炎なら『チュン』。
氷や水なら『ジュッ』といった感じで、瞬時に消火、蒸発させられた印象を受ける。
エネルギーの膜とでも表現すればいいのだろうか。
見えない壁が横一文字に空中に横たわっていて、魔王軍を守った感じだった。
霧散したせいで爆発音的なモノは聞こえなかったが、放たれる瞬間は『ゴウゴウ』と燃えている感じや『パキパキ』と空中で凍てつくような音が聞こえていたので、予測ながら威力の程は想像できていた。
え~っと。
様子から察するに、この世界の魔法は使おうとする魔方陣が展開されて詠唱することによって完成、放出。
重なる円の数が単純に威力の目安となってくるみたいだった。
魔王軍の方は打ち合いこそ負けているが数で応酬。
しかも魔法障壁(と今は仮称する)が魔王軍は堅くて、結果的に魔法は目くらまし状態になってしまっている。
そんな撃ち合いが10分くらいは続いていたのだろうか。
互いに魔方陣が浮かばなくなると、今度は魔王軍から無数の矢が飛来してくる。
昔見た映画のような光景。
スクリーン一杯に広がっていた鏃が高速で集結し、中央に立っていた主人公目掛けて殺到してくるシーンを思い出してしまう。
その様子と遜色ないほど、視界一杯に浮かんでいた。
我々の頭上に。
おおい!
守ると宣言して殺す気満々かよ!?
思わず娘たちを抱きかかえ背を向けると、その前に立ちふさがるように大剣を持った勇者たちが数名集結する。
「「「パワーウォール!」」」
重なり合う怒声と共に叩き付けられる大剣。
その切っ先が地面に達すれば土砂が激しく吹き上がり壁のようになる。
そして土砂だけとは思えないほどの強度を誇り、飛来した矢全てが弾き止められる。
土砂に鏃が当たる音は、まるでガラス窓に当たって弾ける雹のような衝撃音を放っていた。
やがて衝撃音が止むと互いに湧き上がる鬨の声。
魔王軍からは異形らしく(?)人語では発音し難い唸り、叫び声。
勇者軍からは安定の(?)「おおおおぉ!」っといった鼓舞感のある声だった。
またもや映画のような風景。
TRPG原作ファンタジー映画のように魔族と人間。
剣と魔法が入り乱れる乱戦が始まる。
勇者軍の質は高く、殆どが一振りで魔王軍を絶命させている。
だが、絶命させ損なうと途端にピンチとなって、数本の棍棒や農具、鋭い爪で打たれ引っ掻かれ叩き伏せられる。
地面に転がった者には容赦ない追撃が浴びせられ、周囲の気づいた者が援護に入り助け起こす。
助け起こされた者は瀕死ながらも生きてはいるようで、瞬く間に身体が光を放ち完全回復。
殴られ過ぎて鎧の所々が制作者の意図と離れた凹凸を描きながらも、再び乱戦に参加していく。
不思議な位に勇者軍に死者は出ていないらしい。
恐らくは肉体の強化が凄まじく、一撃絶命でもしない限りは延々と負傷と回復を繰り返しているのだろう。
…いやいや。
状況に流されていたけど、おかしくないか!?
召喚されたばかりの勇者とは言え、これほどの激しい消耗戦を展開してまで奪い合う価値があるというのだろうか?
規模に圧倒され前提への考察が麻痺していた。
魔王軍は人海戦術として想定内かも知れないが、勇者軍は一歩間違えば1人の新人勇者のために数十名の古参有勇者を失いかねない勢いだ。
割に合わない消耗戦はどれほど続いていたのだろうか。
魔王軍に立っているオークとゴブリンの姿が全く見えなくなった頃、突然に響き渡る角笛の音。
まるでそれが合図のように、殺到していた魔王軍が一気に離れていく。
勇者軍の周りには魔王軍だけが死屍累々となっており、その中で勇者らしき者が膝を着き踞っていたり、倒れ伏している。
だが瞬く間に回復して元のように立ち上がり構える。
互いが最初に魔法を打ち合った位置まで戻ると再び聞こえるのはドンボリさんの声。
「魔王軍よ退け!
今回の勇者は我々の側になる!」
…何か事前に所属について説明があったのなら…と恐ろしい想像をしてみる。
召喚できる国は固定で時期も固定。
どういう理由で魔王軍に初期所属する勇者が出るのかは不明だが、今回の衝突に関しては勇者側に軍配が上がったらしい。
リスクの大きさ度外視な感じで守られると、後々魔王軍に寝返るのって心理的に出来ないよね、こうも重宝されちゃうと。
読んでいただけることに感謝を。
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