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アクションスターではないので次は無理

 とにかく夢中だった。


 空中へと躍り出た娘たちを追い、私自身も空中へと身を投げる。


 空が飛べるわけでも何か策があるわけでもない。

 だが、躊躇なんてしていられなかった。


 馬鹿な行動と頭では分かっていても傍観なんて論外だ。


 私は水泳選手の飛び込み姿勢を意識し、指先を伸ばし身体を線のように伸ばす。


 せめて何とか抱き寄せて、この身がどうなろうとも娘たちだけは!


 時間にすれば10秒そこそこの出来事だったはずだ。


 死を目前にして時間がユックリ流れるような感覚。

 走馬燈ってヤツなのだろう。


 異様に冷静な自分がいることを感じながら、徐々に2人へと迫る。


 あと少し!


 迫り来る地面を意識しながら真っ直ぐに見据えると美緒ちゃんと視線が交わる。


 『あれ?パパだ。』


 実際に口にしたわけではないが、美緒ちゃんの表情は物語っていた。


 身体強化の賜物なのだろう。

 沙羽ちゃんを左脇に抱え、右手を此方へと伸ばすような姿勢で落下している。


 だが、その様子はまるで落ちていることは当然…のような様子だった。

 私が追いかけてきたことが想定外。

 そんな表情だ。


 …もしかして、身体強化に絶対の自信を持っている?


 私の脳裏に思い浮かんだ予想は、冷静に考えればあり得る可能性だった。


 しかし、実際にはもっと簡単だった。


 目の当たりにしてみれば当然のことなのだ、今の美緒ちゃんの姿なら。


 伸ばしていた右手の手首付近。

 何か輪っかでも填めたかのように膨らんでいる部分から、白い糸状のモノが飛び出している。

 いや、飛び出していた。

 随分前から。


 その先端は飛び出した窓の枠に張り付いていて、降下用ロープの役目を果たしていた。


 …そういえば、あのアニメって頻繁にワイヤーアクションあったよねぇ。


 恵心した途端に我に返る。

 我が身の危機に。


 待って!待って!待って!待って!待って!待って!待って!


 胸の内で誰にも聞こえない叫びを発しながら、私の身体は地面目掛けて落ち続けている。


 空中で急ブレーキでも掛かった様に急停止する娘たちの脇を抜けて。


 伸びきっていた身体は、恐怖で膝が曲がり正座でもするような体勢になる。


 いや。


 思考の速度に身体の動きが追いついていなくて、ここまでしか動けなかったのだ。


 死ぬ!


 呼吸すら忘れ身体を硬直させながら地面に達する、その瞬間。


 駆け巡っていた走馬燈が助かるための可能性を示唆する。


 『風!風!風!風!風!風!風ぇっ!』


 胸の内で無心に繰り返し唱える、自分に備わっている能力。


 夢中で繰り返した言葉が作用したのか、最も地面に近い位置にあった両掌から『何か』が吹き出る。


 結果として私の身体は、正座…いや、まるで土下座のような体勢のまま空中でビタッと停止する。


 おおお、出来た!


 瞬時に湧き上がった歓喜の思いは、次の瞬間打ち消された。


 停止後も吹き出し続けた『何か』は、そのまま私の身体を後方目掛けて押し出し続ける力へと切り替わってしまう。


 凄まじい勢いを付けて後転させられ続けたようなモノである。


 目まぐるしく入れ替わる上下に平衡感覚を狂わせ転がり続けた結果。


 「がはっ!」


 この場合は運が良かったと言うべきなのだろう。


 飛び降りてきた建物の壁に背中から衝突。

 頭から衝突でなくて本当に良かった。


 それまで無意識に止めていた呼吸の残りカスのような空気を、悲鳴と共に肺から絞り出す。


 肺から空気を押し出されたせいで、私の身体は呼吸を思い出したようだ。


 大きく口を開けたまま、息を吸い込み吐き出す。

 それが切っ掛けとなり肩で息をする。


 助かったという安堵は、私の全身から汗を噴き出させ死の恐怖を思い出させてくる。


 見栄を張る余裕も無いまま深呼吸を繰り返していると、私のすぐ横に娘たちが降り立ってくる。


 「パパ、大丈夫?」


 美緒ちゃんが心配そうに問い掛けてきた声のおかげで、思考が一気に冷静さを取り戻す。


 「ああ、大丈夫だよ。

  でも次からはイキナリ飛び出したりしないでね。

  パパ、凄くビックリしちゃうから。」


 私は素早くその場に立ち上がってみせると、額の汗を眉から上に向かって手で拭い後方へ掃き飛ばす。

 何とか余裕ある父であるために何事もなかったような口調を意識する。


 すると、抱えられていた沙羽ちゃんは地面に降りながら一言。


 「パパ、凄かったねぇ。

  沙羽ちゃんたちを追い抜いてゴロゴロゴロって転がっていたね。」


 そうだね。

 結果が無事ならアクション映画さながらの動きだったよね。


 …二度とゴメンだけど。


読んでいただけることに感謝を。


叶うなら意見、感想、要望を頂けると嬉しいので、よろしくお願いします。




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