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これが今の日常です

 「本日の天気は絶好の洗濯日和。朝から夕方まで気持ちの良い天気となり、素敵な洗濯日和でしょう。」


 そんな事前の天気予報を受けて納得してしまいそうなほどに、どこまでも澄みきった空。


 平日に職場から窓の外を眺めれば、こんな青空の日には仕事なんて休んでノンビリと弁当片手に散歩にでも出かけたいなぁ…。

 仕事中にそう考えていた時間も、今では愛おしいと感じられるほどに過ぎ去った過去となっている。


 意識を現実逃避さながらの郷愁から自分が置かれた現実に戻そう。


 青空の下、舗装のなされてない道ばたで遭遇と相成る。

 視界に捉えたのは5匹のオーク。

 頭が豚で身体は人間。

 ファンタジーでは定番とも言える敵役だ。

 ただ、現物を目の前してみれば成人男性でも頭の位置にオークの胸板が来るほど、その体躯は大きい。


 どうやら『お食事』の真っ最中らしく、5匹とも頭を付き合わせ座り込んでおり、その中央には鮮血と死骸らしいモノが見え隠れする。


(どうか被害者が可哀想な旅人ではなく動物の類いでありますように)


 慌てることなく真っ直ぐに歩み寄りながら、オークの獲物が人間でないことを祈る。


 距離にして100メートル近くまで寄っているが、オークはこちらに気づく様子は無い。

 これなら十分にイケそうだな。


 心の中で算段を付けると、左右に控えていた娘たちに声を掛ける。


 「美緒ちゃん、沙羽ちゃん。2人で先に行ってごらん。」


 私の声に2人は元気よく声を合わせて


 「うん!」


 応じると同時に走り出す。


 美緒と呼ばれた少女は小学校高学年といった容姿である。

 髪質は黒髪天然パーマをポニーテールで結び、濃紺の全身タイツにボディスーツを重ね着したような姿。


 ただし、その脚力は異常とも言える速度で、傍目にも野生動物並みの敏捷さを意識させる。と、突然その姿が景色に溶け込むように消えていく。

 リズミカルに巻き上がる砂塵が、少女の姿が消えても走り続けていることを教えてくれる。


 沙羽と呼ばれた少女は小学校低学年といった容姿である。

 こちらは黒髪ストレートを同じくポニーテールに結んでいるが、着ている服は一見して『魔法少女』という出で立ちである。

 黄色が基調となっていてフリル感が少なくピシとした張りある印象の衣装である。


 この子は軽い感じでスキップをすると、3歩目には空中に浮かび上がりオーク目掛けて飛んでいく。


 そして私自身も走り出すと、少し前屈みのような姿勢になりながら言葉を発する。


 「風神(ヴァーユ)


 発した言葉に応じるように私の背後から突風が巻き起こる。

 ただし、その規模は狭く限定的なモノで、結果は私専用の追い風となって常人では有り得ないほどの加速を与えてくれる。


 グングンと距離を詰めていけば、オークの1匹が私に気づいたらしく、獲物の脚を口に咥えたまま唸るような声を漏らす。


 「フガァ?」


 だが、その声を発し顔をこちらに向けた瞬間、その顔は眉間の中央から歪に窪み、短い悲鳴を上げ仰向けに倒れる。


 「ブフゥア」


 どうやら先行していた透明の美緒が正面から遠慮のない膝蹴りをお見舞いしたらしく、蹴られたオークは顔面を真っ赤な鮮血で染め白目を剥いたまま痙攣し動けないでいる。


 「グギャ!グギャア!」「フゴフゴフゴッ!」「フグッフゴゴ!」「フグッ…ギャァア!?」


 残りの4匹が口々に叫びながら立ち上がろうとする。だが、最後の1匹は掛け声が途中で悲鳴に変わる。


 オークの群れに達した私は、両手を地面に向けて伸ばし身体を背中から持ち上げるように身体を起こす。

 それと同時に再び言葉を発する。


 「風神(ヴァーユ)


 淡々とした口調でも、突風は申し分の無い威力で私の両肩から地面に向かって吹き出す。


 その結果、私の背中は凄まじい加速を得て伸び上がり、その先に居るオークの身体を空中へと放り上げる。


 これがオークの悲鳴の原因であった。


 急に空中へと身体が浮き上がり、パニックのような表情を浮かべるオーク。

 さらに何かを叫ぼうと口が動き出した途端


 「えい!」


 活発な子どもらしい掛け声が聞こえると、オークの身体はポップコーンの弾けるようなポン!という音と共に掻き消え、1枚のカードとなってしまう。


 そしてカードの先にはステッキを持った沙羽が浮いていた。

 先端に青く発色する石が付いているステッキだが、石の左右には光の粒子で象られた翼のようなモノが浮かんで見える。


 あまりにも早い展開に、残った3匹のオークは一連の事象を惚けたように眺めていた。


 だが、それもほんの束の間。


 「グフッ!」


 続く悲鳴は仲間がカードの変わるのを眺めていた3匹の中央に位置するオーク。

 仲間だったカードを見上げた姿勢のまま、顔の中央が靴底のような形で窪む。


 どうやら姿の見えない美緒は絶賛活躍中のようである。


 踏まれたオークを左右のオークがこれ以上無いくらいに驚愕の表情で見つめていると


 「3コンボ~♪」


 何かのゲームで遊んでいるような沙羽の明るい声。

 それに合わせるようにポポンポン!と3匹のオークは殆ど同時にカードへと変わってしまう。


「これでぇ~、お終い。」


 空中に旋回しながら浮かんでいたカードを次々と左手で掴みながら沙羽は宣言すると、最初の不意打ちで倒れていたオークにステッキの先端を触れさせる。

 それと同時に他の4匹に漏れることなく、オークの身体はポン!という音と共にカードに変わってしまった。


 「沙羽ちゃん、よく出来ました。」


 私は笑顔と共に労いの言葉を掛けながら沙羽の頭を優しく撫でると、嬉しそうに沙羽は笑顔を浮かべる。


 と、その直ぐ右隣に美緒の姿が現れる。


 どうやら透明の効果を解除したらしい。

 何か言いたげな表情でこちらを覗うように見上げている。


 私は笑顔を絶やすことなく沙羽の頭から美緒の頭に手を移動させ、同じように優しく撫でる。


 「美緒ちゃんも頑張ったね。お陰で今日も沙羽ちゃんのカードが増やせたよ。」


 私の言葉に応じるように美緒は笑顔を浮かべる。


 こうして今日もまた、日本に居た頃には想像もしていなかったバイオレンスな私の子育ては続いていく。


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