2
VOLUME・3★モンスターの脅迫★
エロティカは、グラマラスな体を黒のシルクタフタのスカート、綺麗な上半身を黒革のビスチェで締め付け括れを強調させ、肉付きのいい膝下からシルクが広がった。その上から白のスーツジャケットを着てシルバーのボタンで締めてから胸元にチェスの騎馬を模った大振りスワロフスキブローチをつけ、ハイヒールをはめ、金髪のロングに風を含ませ、鍔の広い帽子はその揺らめく金髪の上に斜めに掛けられ黒の大きなサングラスを掛けると、蛇と孔雀のハンドバッグを持って颯爽と歩いた。
白の金のリムジンに乗り込んだ。
足を組み、太陽の屈折率が一番高く美しいとされる22,5金の大振の髑髏で、目が黒ダイヤの重いピアスを耳にぶらさげて、シャンパンをグラスに注がれたのを受け取って、ルージュの口元で微笑んだ。
「英一に会いに行くから、送ってね」
「分かりました」
部下は頷き、コックピットマイクに呼びかけた。
グレービロードにシルバーシルクタフタ、黒シルク糸の豪華な刺繍の天井に、白馬の毛皮の座席、黒シルクの垂れ幕、チタンカラークリスタルのシャンデリアはやはり鋭い。
こちらに顔を向ける白熊の床の下のペルシャカーペットにニシキヘビがのたうって男の足元にうごめいた。
モノトーンの彼女は実に珍しい。肌の露出はゼロに等しかった。だがそのサングラスの下からのその目の妖しい光りは見て取れそうだ。
金の透かし彫りのケースのふたを開け、4本ある中の羅字の美しい紫の煙管を出した。横の黒檀にプラチナで薔薇が象嵌されたふたを開き、中の刻み煙草を丸め落としてから、火を掠めさせるように落とした。
高貴で、甘い香りが微かに鼻腔を掠めた。
「紫貴に連絡を」
部下は車内電話の番号を押してから彼女に渡す。しばらくしてから紫貴が出た。
「今から行くから支度をしておいて頂戴」
手短にそう言うと、彼女は部下に渡して、膝をつけていた彼は自分の座席へ戻り切った。
エロティカは樫本と紫貴を見つけた。
路上をプランツクーペで走らせている。可愛い英一を微笑み見てエロティカはくすりと妖しく微笑み部下は腕を伸ばした。
外観まで豪華絢爛なリムジンがその横を通り過ぎた頃には、クーペの中は空になり、英一は朝も早い内から熱烈なエロティカのキスを自分から離れさせた。彼女は妖艶に微笑み唇をなめ、猫の様にくすりと微笑した。
「勘弁してくれよ俺は既婚者だ」
「知ってる。男ヤモメって意味でしょう?」
「そんな日本語覚えなくていい」
「でも合ってるんじゃん?男やもめって」
英一は弟を睨んで姿勢を正した。
「ねえ貴方、翔と良い仲ってどういう事よ。面白いこと、聞いてるの」
「どういう仲だ。俺はランに関係する人間とゼブラナの周辺を調べるためにイサ姐に任されて見ているだけだ」
「そうなんだ」
「紫貴」
「俺じゃねえもん」
英一は「ったく」と言い捨てた。黒紫色の毛皮のスツールに紫貴は背を着け、絨毯の床に片足を放ってニシキヘビを撫でた。
翔が今後どういう方向性に向うかは紫貴には分からないが、ゼブラナでショウちゃんがこれから働き始めるとしたら葉斗自身が他との関わりを認めなく、イサ姐が考えて兄貴に黒の様子を探らせてくる筈だ。
エロティカなら同盟を結んでいるからいいものを。紫貴はエロティカの視線を気にして横目で彼女を見ている兄貴を一度上目で見た。彼女は色目を使って彼を見ていて、視線が絡まる前に英一はふいっと目をそらして組んだ足にロメオYジュリエッタを軽く叩きつけ火をつけた。
確実に気にしている。
もしかして?
兄貴をそのままエロティカにつけるべき?
紫貴が、またろくな事を考えていないのだろう。目があっちに行っているのを見てから英一はエロティカを見た。
「バンドの話はどこまで行った」
「契約が決まれば3ヵ月後からバンドの子達を海外へ連れて行くわ。それまでは峰に下手な手は下さないでもらいたいの。それまではコチラも猶予を持って準備をしなければならないから。それまでの間を日本では彼らに都市毎のアングラライブハウスでイベントをやって新曲を増やして活動してもらう。峰は契約を局と結んだら起動を始めるわよ」
「海外で何の仕事をやらせるつもりかそろそろ言え」
エロティカは上目で微笑んで、英一の所に体を伸ばすとその耳に囁いて、英一は横目で彼女のサングラス越しの艶の酔うな瞳を見た。
エロティカは微笑してからゆっくり体を戻し足を高く上げ組みなおし、煙管を蛇紋岩の灰皿のシルバー悪魔の装飾部にカンッと打ち付け、気の無い英一を横目で睨んだ。
「貴方何考えてるのよ。バンドを崩すのはやめて。翔は峰を崩すまでは渡さないわ」
「あの女を取ったのは俺じゃ無い。イサ姐だ」
「彼女は知らないからよ。翔は何も考えてなんかいない。ゼブラナをやめさせるように圧力を掛けて頂戴」
冷たい流し目を流してから新しく煙管を吸いつけ煙が流れた。
正直、英一が自分には素っ気無いからエロティカはつまらなかった。彼の為にしっかりとめかし込んできたのに誉めてもくれない。自分の事を大して見てもこない。
鈴と結婚をし、子供が生まれるまであんなに応えてくれていたのに。どこまでだってそうだった。
英一は、エロティカが主にNYで幅を利かせていた時代に出会ってからの自分の男だった。英一は留学期間の大学時代も終わると勝手にデ・リューを辞め日本に帰った。葉斗に参入し始めると、今度は勝手に結婚までして。あたしと婚姻を結んだというのにこれだ。
離婚すらしていない。
だが英一はそんな結婚していた時代の事も既に忘れていた。エロティカが自分の女だった時期は覚えているのだが。
エロティカは英一がいるから葉斗と契約を結んだし、可愛い紫貴の望みをどこまでだって聞いてあげる。
「あたしが結婚して、あげましょうか?」
「お前が?」
英一は眉を潜めてエロティカの顔を見て、肩をすくめ首を振って笑った。
そんな英一を見ると、エロティカは片眉を上げて黒のパネルのシルバーのボタンを一つ押した。
ウィイイイン、と音がして、一瞬何が起きたのか分からなかった。きっと、座席が反転した。
英一が車内から消えた。
兄貴が道路に派手に転がって行ったから、紫貴は叫んでドアを開け後方を見た。エロティカはふん、と流し目を他所に向けてから、リムジン自体を勝手にバックさせた。紫貴は彼の腕を引き上げ英一は頭を押さえうずくまっていた。
「エロティカ!兄貴は橋から海に捨てる死体じゃ無いんだぜ!」
紫貴は怒って部下と共に兄貴をリムジンに引き起こした。
歪めている顔を上げて、英一はまた機嫌を損ねたエロティカを見てから、痛めた足を引き寄せた。落ちた反動がまだ残って、声は出なかった。
それで思い出した。身内内の地下ホールで式を挙げ、妖艶な披露宴パーティーを開きそして4年して留学帰還を終えることを利用して、エロティカから逃げた事だ。
彼女は、その内にも力を巨大化して行くしそのまま共にいれば充分良い思いを出来たのは確かだったが、結局、彼女のやり方がどうも自分の腹と納まらなかった。組織進行上物事を推し進める毎に意見が合わなくなって来ていたし、激しくこそはならなかったが口論が重なる毎に考え方の違いが多く見え始めていたのだ。
それに夫婦生活の方も浮気がばれる毎に、銃口を向けられ殺されかけて来たし、ホテルの最上階のVIPルームから黄金のラスベガスの電飾を背に突き落とされそうになったし、鰐など打ん投げても来た。鞭の嵐など傷こそ着けなかったが強烈に肌を焼いてきた。どんなに流石に切れてぶん殴ってもエロティカは倒れないし、怒鳴ろうと出て行こうと女王はどんと構えて、外の色が変わるまでには全てに水を流し「あたしの元に帰って来ないと殺しちゃうわよ」と電報を送って来る。
どこにいようが必ず見つけ出してくる。蛇のような女だし、バッファローの様に強烈だ。そして、最上に良い女でもあったが、限度が過ぎた。
大学にまで、彼女の移動用の居室でもあり、2階構造でバスルーム、リビングルーム、主寝室、キッチンの内臓されているダンプトラクター3台分ものど派手なスーパーリムジンモンスターで乗り込んで来た時には、もう終わりにしよう、と思った瞬間だった……。
元々条暁にもアングラ内での結婚や、ギャングに加わって指揮していた事は知られていなかった。下手に大学に裏でやっている事が知られる前に大人しく大学を抜け出して行った。
でなければリムジンの屋根のガラス枠の扉が跳ね上がり、巨大スピーカーが出てきて、リムジン後部ボックス席に座った彼女から、マイクロフォンから何を言い渡されるのか分かったものでは無い。
エロティカはモンスターだった。ギャングのボスとして、時代を一からのし上って来た人間が普通のはずも無いのだが。
部下はその挙式の開かれた時代からボスの側近として働きかけていたものだから、英一が逃げた気も分かるのだが……。
しかも、英一は自分が彼女に離婚も言い渡さずに日本に逃げてきた事を思い出した。言えばきっと、この身の上にどういった具合かで吊り上げられたビルディングが脅迫されつつも落とされるに決まっていると思ったからだ。それか、彼を拘束して自分がその下に仁王立ちし、離婚を迫るならあたしは潰されるわよ、良い事。などと、どちらにしろ脅迫してきた事だろうからだ。
勘弁してくれと、歪める顔で腕をさすって英一は溜息を吐き出した。
普段なら、彼女は実に色っぽく、アダルトで可愛らしいのだが一度性格が変わるとやる事に予測もつかない。
すぐに行動を翻して来る。有無を言わせず全てを成功させる。何するか分からなくて見ていて危険なパンク少女をそのまま大人にしてしまったみたいな女だった。それで影響力とカリスマ性、動かす力を有しているから恐ろしい。
エロティカは、彼のあの鋭い目と強い微笑み、他のボス達を一気に黙らせるような考え方ややり方と、鬼神のような殺気で来る日本刀さばき、甘い微笑み、アメリカの男には無いような頑なな男らしいプライドや、アメリカの男とは視点の違う所に置く、頑固な種類が好きだった。それに彼は雅だ。
英一に逃げられた時には、流石にエロティカは女らしく後悔した。
「翔は奪われるわけにはいかないわ。他に合うような子はいない」
「ショウがやりたがっている事だろう。俺にどう」
「何を言っているの?貴方らしく無いじゃない。それに、紫貴があたしにお願いしてきたから峰との間を綱渡りしているのよ?葉斗の元で動く貴方が行動しやすい様にね」
「メンバー変えはその後の海外進出には」
「関係あるに決まってるじゃない。トータルで局は買ってそこで進出につなげるんですからね」
「その頃には峰を乗っ取ってる。メンバーの変えくらい有無を言わせず進めさせろよ」
「まあ!誰に言ってるのよこの小僧が!」
「ジェグリア。あのショウを近くにおいて何かをさせるようならイサ姐を裏切る事になる。それは出来ない事だ」
「随分御執心な事」
「命を捧げているからだ。葉斗にな」
「あたしには捧げないくせに」
「危険なんだよお前……護る為でなく誓いを果たさせるために命を投げ出せという女だからな。大きな違いだ」
「同じだわ!」
英一は本気で命を投げ出してでも葉斗イサと豪を護って来た事は分かっていた。自分の主を護る。毎回頭を自分を盾にし護って、イサが他の組員のボスに殺されかけた時も背に刀を受けてでも守り、尚も敵を切り殺して守ったくらいだ。エロティカへの忠誠心の差は大きい。
英一は葉斗の守護神だ。護れなく失った彼の命、剣道道場のまるで変わりを護るように剣を振るった。どんな襲撃も彼は完全に崩しきる。アメリカでの抗争でもそうだった様に。それを、エロティカにも向けてすればいいのだ。別に死ねとかそういうんじゃ無い。それほど大事に思えという事だ。
「分かったわ。せめても3ヶ月はゼブラナを週休制にでもして頂戴。彼の買収に関わっている任務をあの子は担っているのよ。その先の任務を遂行させるべきだわ。その3ヶ月後なら、完全無休体制にでもしてもらって結構よ。もちろん、それまでには新しい子を見つけてもらってね。イサによ。こちらは、バンドメンバーに他の子を探させないわ」
エロティカは熱を持った眼で口端を上げ、サングラスをはめる目で見て、英一は口をつぐんで前方に視線を移した。
紫貴はさっきから2人のそんな一つ一つのシンクロしあう仕草に、相当仲がよさそうな雰囲気を感じた。
結婚させようそうしよう。
「兄貴。俺が祝辞読んでやるよ結婚しちゃえってよ〜」
「朝も言ったが俺はこの女を親族に加えるつもりは無い」
「英一!」
「ほらーエロティカもこうやって激しくモーション掛けてるんだしさ〜しちゃえよ俺がしちゃうぞ〜」
「あら。紫貴ったら相変わらず可愛い」
エロティカと葉斗の人間が結婚などしたら、それこそどうなるか分からない。
エロティカは微笑して紫貴の顎を撫でた。
「今の問題は耳に入っているのか?」
「どの問題かしら?」
「アメリカ者がイサ姐に喧嘩ふっかけて来ている事だ」
「ああ。あれね」
彼女は組んだダイナミックな足をぶらつかせ、シートに背をつけてアームに肘を乗せ流し目で二人を見た。
伏せ気味に視線を反らして今度は違う種類の刻み煙草を全プラチナ製の煙管に落とし火を軽く載せ軽く吸い付けた。
「あたし達とは関わってはいないわ」
富豪や金持ち連中は滅多な事ではギャングと手を結ばない時代だ。
ゲームの線かもしれない。
「関わる?どういう事だ」
「さあどういう事かしらねえ」
「言え」
「サーア」
英一は目をくるりと回してから言った。
「言わないならどんな手を使ってでも吐かせる」
「お得意の方法でなら喜んで」
英一は彼女の目を睨んだ。サングラスをしていようが分かっている。視線の持って行き様も。口元でいくら笑っていなくても、楽しくて仕方が無い目をしている。目は微笑んでいる。底意地悪く。面白がって状況を見ている。全く手を下す気は皆無。協力するつもりなど毛頭無い。自分が手を下せば、吐息一吹きで一瞬で渦を凪に変える事を知っているからだ。それでは彼女的にぜんぜん面白くない。
詰まらないのなら完璧に横槍を入れ崩しめちゃくちゃにして事実をかき乱すか、全く関わらないか、どちらかしかエロティカには無い。
そこまで大きな力が加わって今回の事を動かしている、という事か。それか、別に大して興味も引かない事が小さく動いているだけなのか。でもつまらないなら嫌でも面白くするだろう。関わるべくして関わっている黒幕が、裏にいるという事だ。
「分かっているのか?黒幕を」
「誰かしらね」
「言わないなら今お前に進めさせている計画を消す」
「兄貴俺バンドやりたいんだけど」
「お前等だけでも出来る。契約も済めばな」
「ちょっと?限度があるわよ。条件も済めばお払い箱って事かしら」
「そうじゃない」
「ねえ英一……」
彼女は英一の横に来てしなだれかかり、肩に頬を乗せた。
彼女の顔は帽子の鍔で隠れ、腕をさする白い指が上腕から肘に降りてきた。
英一は顔をゆがめエロティカの頬を張って肘を押さえた。彼女は座席に吹っ飛びくすりと微笑した。鋭い煙管の吸い口を肘の傷口に刺したからだ。彼女は飛んで行った帽子を拾って顔に掛かったブロンドの髪を首を回しさらっと流し意地悪っぽく微笑んだ。英一は冷や汗を流し肘に刺さった煙管を抜き取り地面に投げつけ肘を押さえた。
「糞女、」
「ねえ、英一?あたしはどこまでだって協力するわよ?貴方にね。そして可愛い紫貴にも」
そう紫貴を見て、英一は恐い目でエロティカを睨んだ。
下手をするようなら、紫貴の命を取るつもりだ。
紫貴は兄貴がラン追跡中に何者かに撃たれたらしい腕を押さえるのを見てからエロティカを見た。
「葉斗を潰す事も出来る。貴方達がなにやら進めている日本の計画もおじゃんに出来る。いいこと?裏切りはやめるのね」
そう、低い声音で言ってから、口はしの血を舐める。
煙草を灰皿に潰し消す英一は眉を潜め彼女を鋭く見据え、彼女の腕を強引に引き寄せ叩き付けた。
「上等だ。どんな手だろうが下手は下させない。横槍を入れたいなら今回はやめておくんだな」
「ええ。そのつもりよ?楽しみたいものねえ」
英一は管を巻いて腕を離した。
「とにかく、ショウの代わりを探してもらう。いいな」
エロティカは最後まで英一が意見を翻してこなかったから不服そうにワインのグラスを傾け、まあ今のこの状況を高みの見物をみている事にした。
バンドの話も彼女の趣味で融資してやっているだけだし、峰がどうころんでも、デ・リュー側がどうこうなるわけでもない。
可愛い兄弟が手に入ればいいのだ。それにあの可愛い紫貴はもう手に入る。
★セクシーバスタイム★
翔は携帯に紫貴が全く出ないからがなって投げつけた。
名前をどうやら親につけてもらわなかったらしい女は、ユニットバスに頭を突っ込んでいた。
あの真っ黒い長々しい髪は、ユニットバスの湯の中で不気味に渦巻いている。
死んだわけじゃ無い。
髪を洗っているのだ。
死体のように見えるのだが。しかもUSA物のお子様用で、アップルの匂いがする真っ赤赤のゼラチンジェルのジャンプーだから、それをピンク色のクマさんのプラスティックボトルから出し、手首にたれている風情は手首を切ったそれに見えた。
「もっと健全な、バスタイムッ考えられねえのかっ」
「提供者によるわ……」
遊飴が言った。
「うるっせえよ!不気味なんだよ!」
「素敵なバスタイムの演出は今度あたしがしてあげるから」
「他の男共のいねえ所で見せてくれ」
「アフターサービスはどのランク?」
「今回はAAランクで」
「あんOK?」
翔と遊飴がじゃれあい始めたのをよそ目に大滝は円卓にそろえてきた書類を開いた。
シャンプーはあの長い髪で泡立つと、ユニット一杯一杯になった。大滝がトカゲに「これを見てくれ」と言い書類を差し出したのを聞いて女が顔を上げたからピンク色の巨大な泡のアフロは1,5メートルで、遊飴は面白がって翔から離れアフロに向ってタトゥー雑誌の色とりどりの紙飛行機を投げつけた。
「いいか。これだけはよく覚えておいて貰いたいんだが、契約が切られる、つまり、既に海外進出をしませた時の事だ。局が続行で契約を渡して来る時の伝達人には俺は既に向うことは出来なくなっている。その時に行かせる人間にこう言うんだ。Bは続行しCは捨てる」
「Aは局との契約でBは武器輸送。Cはスポンサーの事か?」
「そうだ」
「駄目だ。エロティカをスポンサーから外させる事はしない」
「捨てる」
大滝は強い目でそう言った。
「峰側の手だけで充分だ」
そう言ってアタッシュケースを閉めた。
「エロティカが許さない」
「それはどうかな」
立ち上がり「今日はここまでだ」と言い、歩いて行った。
その背を黙って見ていた。トカゲは目を細め翔を横目で見て合図をしあった。
「何かでかい手でも峰に着いたのか」
翔はそうトカゲに聞いた。
「タクロス達の商売が消えたから、その分の穴埋めに武器密売の契約でも新しく結んだのかもしれねえな。それがタクロスの上層組織とも言える。峰が引継いだって線でな」
「まさか。話が早すぎるぜ」
「単に俺がそうだと思っただけだ」
まさか、この期間になにやら怪しいって定評のあの堅気、品川社長と手を組んで何かの契約でも?考えられても実行しずらい。内容が掴めない限りは品川には今の時期余りに危険過ぎる話になるのだから。
「それにもし、後続を引き継いだとしても俺達には言わない確立は大きい。峰と勝手が違うサンペギと今逃げているタクロスに繋がっているからというのもあるだろうし、これから武器輸送を海外でやるとしたら幾つかのギャングと契約を結んで総合的な運び屋の名目で進めた方が多くの利益になるし、いろいろな融通が利く。その中にタクロス達の元根があるとしたら、海外に出た後に言うだろう」
紫貴は、峰とは離れさせると言っていた。エロティカは葉斗に協力する人間だと。元々バンドは葉斗系列だ。
「大滝がその後つかない事は次の事に行っているからか、立場がやばくなるから下っ端にやらせるのかどちらかだろう。危険を避けて。まあ、エロティカを切ろうっていうんならどんな目に遭わされるかわからねえからな」
名がなくなってしまった女は、髑髏のマークの真っ黒のボトルのゴールデンデビルでトリートメントに入っていた。
★ボイス★
エロティカから開放された後、プランツクーペから出て英一と紫貴は歩いて行く。
ピンカラペンポカポパキャパペカピン!
紫貴の携帯が妙な音を立てた。彼は出て声を張り上げた。
「翔!!!てめえ昨日の昼一体何処で何やってやがった!!!」
「……」
英一は拳骨して紫貴は気絶した。
英一は目を細め弟の手から取って耳を当てた。
「おーいなんだよさっきのバキッて音。お前一体どんな声出せれば気が済むんだよ」
ショウの声では無い。見下ろして、紫貴の足を蹴ったが目覚めなかった。
「誰だ」
「………」
ガシャッ
翔は驚いて切って自分の携帯を見下ろした。口を引きつらせ、冷たく低い声音の男が出たから首を傾げた。紫貴の携帯だったはずなんだが、やはり紫貴の『6G#』だった。
ビーッ ビーッ ビーッ
「うおおっ掛かってきやがった、」
翔はびびって放っておいたが、二回目で黙って出た。相手も黙っていた。だが、相手が言った。
「お前、ショウか?」
俺はあんたなんか知らねえぞっ
そう思いながらも歩いていき、視界の先に見覚えのある白と黒と紫を見つけた。
その横に、背を向け軽く腰に手を当て携帯を持つ男がいた。
「でっ」
翔は咄嗟に隠れて、鼻と目だけ覗かせた。紫貴はぶったおれている。男は顔を横に向けて、通路の遠くを見渡した。
「あれって……」
顔は知っていた。樫本英一。葉斗の幹部だ。条も注意しろと言っていた。白の奴が惚れているからと。
「……おい返事くらいしろよ」
「ああ、ええと、ええっと、うふふふふふふ……」
「はあ?」
「あはあたたたたしのお友達の携帯の筈だったんだけど、なんであぁたが出てるの?」
「……。お前、頭打ったのか?」
「え、え、ええ、そ、そ、そうなの」
「………」
「………」
沈黙が流れた。
「………。……今日、店に行くから……」
「………」
翔はまた、顔を覗かせ肩越しに見た。
彼は口をつぐんで一度俯き、目を閉じて地面を見て、どこか悲しげの樫本英一の横顔を見た。すぐに目を上げ細めて、その目で辺りの街を見回した。
翔は顔を下げうつむいてから携帯電話をオフにした。
白の事に口出しはしないが、白自身はあの男をどう思っているんだとふと思った。
翔はそのまま来た道を歩いて行った。
★強制誘拐★
白とプラチナのリムジンが横切った。
「きゃー」
翔は連れ去られた。
「翔」
「エロティカ。驚かせるなよ」
「こんなお昼から何をふらふらしているの?雪男みたいに」
「エロティカこそ珍しいじゃねえか。リムジンでお迎えかよ」
「ちょっと近くまで物用でね」
彼女はグロッシーな深紅のグラマラスドレスに着替えていた。首の石材からホルターネックのように吊るされ目元につけた黒ビロードのアイマスクからサファイアの瞳が彼を見た。
いつものエロティックで適当なオーラで艶めかしい彼女の様には見えずに、迫力と貫禄と気迫があった。声もいつもの深いボルドーワインのようなセクシーボイスが、気迫同様ぴしゃりとした声になっていた。
いつもの倦怠的な風は無い。
「パーティーか?何か身体に身につけてるなんて珍しいじゃねえか美人ちゃん」
彼女は口元を微笑ませて「座って」と、手腕を伸ばして促した。
翔はアゲハ蝶とモルフォ蝶が2匹ずつ舞っているリムジン内を見回してから座って背を折り、目の前のサングラススーツのしかめっ面男をねめつけてからくるんとそのままの上目でエロティカを見た。
彼女は口元を強く微笑させ、男に組んでいた手を掲げて戻した。男は目礼してスピードを上げさせたが、それはリムジン内では体感出来る速度では無い。
このまま翔を拉致して、あの人から離させてしまえばいい。
そうすればいいのだ。
そのまま超リムジンは進んで行くと10カ国の国旗の掲げられたグランドホテルに到着しドアマンに笑顔で開けられ落ち着き払ったエントランスを進んだ。いつのまにかエロティカは目元をサングラスにはめさせていた。
翔は黒石材と茶赤の太い柱、赤茶の木材、赤のビロードや黒石材、金装飾で出来上がった空間を見回してエロティカの背後を歩いた。
「もしかしてエロティカの館か?」
「いいえ?」
「もしかしてマダム?」
「さあ」
「ここが噂のエッフェル塔か?」
「無視していい?」
「……うん」
寂しい。
そのエントランスホールは鎧を着け背に絨毯を乗せた黒馬やアラブ種馬の剥製、西洋甲冑がボルドーワインカーペットロードの横で構えては、太い柱の間にメープル材で象嵌の施された年代物のチェンバロやハープが置かれていた。ラウンジの暖炉の上のコレクションサーベルが黄金のシャンデリアの光を受け調度品と共に配置されていた。
蛇紋岩の柱と上部にドラゴンのレリーフの施された黒石材壁の空間に来ると、繊細な金装飾フェンスの先のエレベータにつくと尾ホテルスタッフが微笑み、彼らは乗り込んだ。
エロティカは一度肩越しに微笑み顔を戻して言った。
「遊飴も後から連れて来るからゆっくりしていて」
「おういいね〜今頃コンビニから出て消えた愛しの俺を探してるだろ」
「分かったわ」
だがその浮気者遊飴は英一を見つけて手をぶんぶん振っていた。
「英一じゃな〜い!偶然!きゃあどうしたのよ〜!きゃ〜!紫貴!」
我等がチタンのヴォーカルは気絶していた。
英一はショウに冷たく切られた携帯電話を見下ろして溜息をついてから、遊飴に携帯を投げ渡して歩いて行った。
遊飴は深紅のラインストーンでアイホールを鋭く覆った真っ黒まつげの上目で彼を猫のように見上げて、微笑ませる黄金ルージュを舐めて肩を縮めた。大喜びして英一の首に飛びつき熱烈にキスをしようとしたらフイッと顔を反らされた。
「いやんまさかこれって英一へのプライベート携帯?きゃあなんだかラブラブ!て、紫貴のじゃない!!」
遊飴は振り返ると、角を曲がった英一は既にいなくなっていた。
「もー!少しは邪念な小悪魔の相手してくれてもいいのに!」
今日は黒革のミニフリルスカート上の紫ビスチェを着たくびれた腰に手を当てたから紫貴の横にしゃがんだが、黒革に黒髑髏ワッペンのポリスハットを残して彼女は「きゃー」と連れ去られた。
「翔〜!何あんたこんなに豪勢な一人暮らししてるわけ〜?!」
彼は黒スキンのソファーに転がり金透かし彫のテーブルに足を放って腹の上のフルーツバスケットのトロピカルフルーツを食っている所「ん?」と、振り返った。遊飴はチタンカラーシルクと黒ビロードの天蓋ベッドのフッドに座るとつけられたアルマジロ革の衣装ボックスに綺麗なストラップハイヒールの足を揃え乗せた。
「ねえ動物いないの?バスルームは綺麗?素敵?」
「エロティカが好きに使えだってよ」
「やった〜!じゃあパーティーね!ジェ・ディールクラブの奴ら呼びましょうよ豪華なショーよ妖艶にショー!」
遊飴は色気ある仕草でホールを行きバスルームを見に行った。ドラッグ置いてないの〜?と金のキャビネットや孔雀の羽根の挿された花瓶台の引出しを見ながら窓の無い重厚な空間を見回したが、引出しには弾の詰まっていない銃しかなかった。
この空間の墨のドアは白に黄金と赤が挿色で豪華絢爛なテーブルセッティングのなされたダイニングルームがあり、向い暖炉の横のドアが会議室。その横の開かれた扉はこのホールの2倍の第2のリビングルームがあった。階段を上がって行くと繊細な青銅枠でアイアンフェンスがエレガントなサンルームベランダがあり、緑だけの観葉植物が密集していて中央のアイアンテーブルにはティータイムを美しく優雅に過ごすための全てが揃って緩い曲が流れていた。
そのアイアンの椅子にはエロティカのシルバーチンチラがお行儀良く座っていて、シガリロを見つけると遊飴は適当に吸いつけ椅子に腰掛け背もたれにゆったり肘をつけると猫と見つめ合った。
逆側に黒い石材とアナコンダをぐるりと模った巨大浴槽の広い浴場とスパ空間がガラス壁の向こうに見える。階段から突き当たりの大きな扉がどうやら主寝室の様だ。
30分ゆっくり一服すると2階部から翔のいるホールを見下ろし、2階部吹き抜けから吊る下がる豪華な王宮シャンデリアは手が触れられそうに圧巻される威厳がある。
「ねえ。ハネムーンみたいね翔」
遊飴はそう微笑み戻って来て上目で彼を見てアームに両腕を乗せ足をぴんとさせくすりと微笑んだ。マスカットを一房掲げて一粒食べて上品で瑞々しい美味しさににっこりした。
遊飴はアハハと笑いホールを可愛らしくセクシーに踊り始めた。
柱のビロード垂れ幕の横に大きな金のボタンがあって、壁が大きく移動して行った。
豪華なカジノルームが現れると2人は目を見合わせそちらに行った。その突き当たりに緞帳の開かれたオペラハウス並広さとシャンデリアが綺麗な舞台装飾のステージがあり、2人はそこに上がると、舞台道具のロココ調の椅子が置かれていてその上には猫革で猫の形を取られたアイマスクが置いてありそれをはめて遊飴は微笑んだ。
まだ誰もいない客席カジノやその奥の先ほどの絵画の中のように絢爛なリビングルームを見回してから礼をして、たまにはロマンティックにダンスを始めた。
★タクロス★
彼は随分苛立った様子で一人掛けソファーの重厚なアームに手を置き闇を見つめていた。
組まれた足に落ちた灰も気にせずに睨みつづけた。
あのデ・リューには報復が必要だという事は彼の中だけでなら分かっていた。
かすむ闇の向こうのグレーの照明が上から広がる下、遠方でカジノが繰り広げられ、低い笑いが恍惚と渦巻くがこの闇の中、それらは涼やかに消えてはまた現れる。
彼は黒の髪を大きな手で撫でつけるとそのままうなじに手を置き俯き目を閉じた。
顔の横を腫らせた義弟は彼に灰皿を横から差出し、彼はそちらも見ずにかれの黒い手に葉巻を押し付け消した。その時の顔には怒りが横目にあった。
弟はそれを歯の奥を噛み締め絶え終えると、灰皿を背後の女に渡し、彼女は腰をおろす円卓にそれを置いて視線を闇の先のカジノに転じた。
「俺らが棄てられたのはあの女のせいだ。お噂のエイイチの野郎が繋がってやがる。葉斗なんかに入りやがってこちらの勝手が出来ねえと踏んだ上か。日本って国は嫌いだぜ」
「上からの指令は無い。完全に見切られた後の高飛びの準備は整っ」
弟の体が彼の拳の手の甲に、背後の闇に追いやられ円卓も巻き込み静かに転がった。女は灰をまわせ転がった灰皿だけを拾い、煙管のヘッドをカンッと打ちつけた。
「ねえタクロス?あたし、今度は島国に行きたいな」
そんな事を言ってタクロスは彼女を睨み見上げてから、また顔を戻した。
左側の端では女が白いライトに照らされる下でレザーに転がり髪を変えていた。
元がモデル出のその女は髪をてこで男に引き伸ばさせていた。ゆったり微笑み目を閉じて、見をレザーに落ち着かせている。こちらの会話には皆目興味も無い。
「生きるか死ぬかの瀬戸際だろうが。上に見切られて俺らでどうしろっていうんだ?どこのリゾートさんも俺らをお断りの体勢で構えるだろうよ」
「それって、弾丸打ち込んでもいい範囲?」
「俺が死んだら好きにしろ」
タクロスは身を立ち上がらせると、弟に言った。
「翔を俺の前に連れて来い。あの倦怠野郎は俺が殺す」
「わーっす」
その翔が両手に銃をたらふく抱えてドアを足で開け締め入って来た。
「はあ。何のために来た」
タクロスはそう聞き、翔は箱を足元に置くと歩いて来た。
「葉斗の様子、窺ってるんですか」
「お前はどうだ?スパイをするつもりはあるのか?」
「分かりません」
「エイイチ。名は知ってる筈だ」
「………。はい。日本のやくざだ」
翔はいつものだるそうな目でタクロスを一度見ると、その頬に手の甲が飛び彼は吹っ飛んで行った。
女は駆けつけ、翔を引き起こした。彼は悪態を小さく付きゆっくり女に引かれ立ち上がった。
「探ります。あの組は存在していても俺らのお上の邪魔だ。これからの事考えても、完全に上まで乗っ取るつもりでいるかもしれない」
そんな事はまっさらなでたらめだ。タクロスが下手をして、葉斗に因縁をつければそれこそ今の単独時、タクロスはいちころだ。
だがその考えはいつもの翔の冷めた目からは浮かばせなかった。
「いいや。エイイチを連れて来い。俺が殺す」
もしもここにその例のエイイチが現れればまた何か言うつもりかと女は口をゆがめてドアの方向を無意味と分かっていながら見ると、翔の腕を撫でてタクロスの再び座ったソファーのアームにケツを滑らせしなだれるように翔をゆっくり上目で見た。
「ねえ翔。あんたって確かサンペギに言ったようじゃない。葉斗の人間と繋がっているって」
糞、と悪態を付きそうになって女を睨むこともせずに動揺もせずタクロスの次の言葉を待った。サンペギの密告は今となっては遅い。
「トカゲの浮気者はここに現れもしねえんだ。挨拶代わりに何もよこさねえのか」
「分かりません」
「お前の分かりませんは毎回堂が入ってくるな」
「分かりません」
後ろ手で組んだ手は床に染み込んだ酒の匂いをさせ、翔はそんなことよりさっさと右側壁の取り付けシャワーを浴びたかった。
そのモルタル床にタクロスはタンを吐き棄て翔を睨んだ。
「お前、葉斗と繋がってやがるな?」
「いいえ」
「その葉斗のお知り合いとやらを調べたっていいんだぜ」
それがバンドの紫貴に直結している事も、樫本の弟である事もタクロスは知らないままだ。サンペギは一瞬暗闇の中からくれてきた紫貴の異常な、不気味ともとてる横目を今でも憶えていて、言えなかったのが事実だった。遊飴を捕まえ吐かせて翔と紫貴の話す路地裏に行き様子を窺い、紫貴は言葉を切る前に気づいていた。サンペギの存在にだ。
わざと放っておいたのだ。下手に動いて見切らせる事が翔とトカゲを離れさせる。エロティカから目をつけられる事になる。
紫貴は危ないものをサンペギに感じさせると闇の中にその不気味な雰囲気の目を消し去った。
血の滴る口元を微笑ませた黒豹の様に。
翔は前方の闇から視線を反らさずにいたが、身を返して箱を持って来た。
タクロスの前に音を立て置くと、一度ナマケモノのような背を丸めた体勢でタクロスを上目で睨むように見て、背を伸ばしまっすぐにした。
「どういう手土産だ」
「新しく峰が卸しているブツだ。かき集めて中身を調べたが、今峰が強気になってる理由が分かった」
「ほう」
「峰はアメリカ者から仕入れて流してる。誰が手を貸してやがんのかは知らないが、最近からの事だってトカゲも言ってる」
「お前等が手を回して調べたのか」
「はい」
トカゲも何もひまして女とばかりいる訳でもない。切られるかもしれない峰の情報を裏から探っているのだ。紫貴に頼まれた日本企業の品川の件で、そこからの手ではないらしいと分かった強気がどこから来るのかも。
「俺はなあ。翔」
「はい」
「お前を使って行きてえという気持ちはあるんだぜ。だがお前、自分の失態に気づいているか?」
「ここに現れた事以外にも多く思いつく」
「皮肉はいいんだよ」
タクロスは背後の弟を手で軽く促し前に来させた。
「殺し合え」
「………」
まただ。タクロスは余興にこうじるように立ち上がると手を顔横で一度叩いてカジノの連中、4,5人はそちらを見て闇を窺った。
歩きながら言う。
「お前等がどちらが使い物になるか、アメリカ者の卸した銃がどんなもんか試そうじゃねえか」
しんっと闇に指鳴りが響くとカジノテーブルは床に下がって行き、そしてフラッグが2本立ち並んだ。
生存の旗だ。
「どうだ?」
振り返り首を傾げ聞き、闇に炎が広がり揺れて、翔も弟もそれを感情もない眼で見てから何も言わなかった。
一番の不必要はお前だと、つい口をつきそうになったものの抑え、溜息混じりに2人は他所を向き合い顔を戻した。
「下らない争いだ」
そうタクロスは言うと、銃を2丁指に掛け揺らした。
「葉斗を探るんだよ。その特権を命に変えて与えてやる」
2人は銃を手にし、先へ進んだ。
銀のスポットライトの下向き合い、しなやかな弟の背をカジノをしていたブラックの女が周りのソファーに座り横の男がシェリーを渡したのを微笑み見上げまた視線を戻し微笑んだ。
弟はやる気の無い翔を見て、弟自身もこの下らない事には溜息をつきそうになってはいるが、固い頬は動かずに剣呑と翔を見下ろしていた。
翔は銃を下げて首を鳴らし、弾を確認した。
まるで警報音のように一度だけ音が鳴り、銃声がそれをかき消した。
弟の背後の男が倒れた。
翔の背後の女がうずくまった。
タクロスは手を一度頭上で叩き座るソファーに背を沈めた。
「さっさと始めろ」
翔は唾を横に吐き棄て弟を上目で睨み、弟は一度ちらりとタクロスを見てから2度目の音が鳴った。翔は飛び退り転がり発砲して弟は一度天井に向けると、発砲しあたりは闇に満ちた。
スポットライトはもう一度火花を派手に散らすと彼らの頭上に降りかかり幾つものオレンジが走り、女の髪を伸ばしていた男がドアの光に掛けより室内の灯りを着け見渡した頃には、押し黙った。
翔も弟も立ち横に腕を掲げ銃を片手で構えていて、その2人の銃口の先のタクロスは、血を流しソファーにもたれかかっていた。
生きていて、痙攣を繰り返している。女は組んだ足を避けさせ、タクロスを見下ろし口をつぐんで誰もが2人を見た。
向き合い顔を見合わせるように見ている翔と弟は質悪そうに上目で微笑み合っていた。
タクロスはむぞおちに一度手を当て、首を垂れさせた。
翔は今度は鋭い目で弟を睨み、弟は銃を横に放り投げた。
「ボスジェグリアバンは今回の事にご立腹だ。お前は葉斗の友人に手を貸せ」
不可解なことを言って弟は翔の首を傾げさせた。
エロティカの本名を翔は知らない。ギャングボスという事もだ。
「お前……。タクロス同様ロシアマフィアの部下だろうが。何の事だ?峰と手を組んでるアメリカ者のスパイか?」
「そのアメリカ者には俺は興味は無い。行け。お前は生かされる事になっている」
「誰に買収された。何時からだ。見切られた時からか?」
「お前に関係は無い」
弟は背後の女を立たせて彼女は微笑み肩に手を置き、翔にも微笑んでから歩いて行った。
既に髪を伸ばさせていた女も血を流して眠ったような微笑む顔のまま息絶えていた。
「はあ。ねえ、南の島は?」
「さあ」
翔は応えた。
「またおじゃんね」
そう、煙管に火を落とし、3人が出て行った後もアームによったり腰掛けたまま天井に煙を吐いていた。
通路に出ると弟は言った。
「余計なことはするな。峰のアメリカ者は厄介だ」
「はっ、お前も厄介だろうが。誰を味方につけたかしらねえが、ボスにどう見られるかなあ」
「ロシアマフィアは既に無力に等しい。協定を結ぶ気なら別だがな」
「せいぜい利用されて殺されねえようにしろよ」
翔は歩き黒のドアから出て行き、女は肩に肘を乗せ歩いていたのを一度頬にキスを寄せると彼の肩についた焦げを払った。
翔はバイクにまたがるとゴーグルを下げ、物気の空で無機質なコンクリート空間の地下駐車場を見回してから革の指だしグローブをはめエンジンを唸らせ走らせた。
紫貴に連絡を取るが繋がらない。
VOICE・4★朝陽★
紫貴は朝陽にころころ転がり、ころころ転がってはころころ転がりつづけていた。
「わ、わけわからん、」
あのエロティカの部下、ミサイルガン男は紫貴が縦横無尽に転がりつづけるのを見ているのも止めてリムジンに乗り込んだ。
ここはとある洋館のパーティーホール内だった。
上はガラスドーム状の明り取りの天井だから、朝陽がまるで斜めのガラス質の様に、空間を切り裂き壁に差し込んでいた。
けたたましく咆哮を上げる険しい顔の獅子の銅像を突き刺す剣のようにも見える。
あの馬鹿をこれからボスの夫そしてファミリーに迎えにゃならんのかと思うと、馬鹿らしく思えてきたのだった。
まだ先のことにあるだろうといっていた。まあ、それまでにはもう少し背も伸び頭の配線も正しくなって男らしくなっているだろう。
こんな話に誰もが紫貴を暗殺しようと考えるが、それをボスはフと、見回した視線で誰をも凍らせ黙らせた。
あの英一のときなら幾ら暗殺者を仕向けようと、返り討ちを浴び殺されてきていたから、その内恐れられるようになっていた。今など、狙おうなどと思う者もいなかった。奴は切れて殺気を持つとやばい。それを誰もが知っているからだ。強いことはもとより、何かが、ヤバイのだ。それに、今はああやって冷静だが、あの時代は普段は冷徹さを持っていても、頻繁に斬るような激しい勢いと威圧的な凶暴な様を覗かせた。異を唱えるだけで酷かった。
そんな遺伝子が紫貴にも無いとも言い切れない。
紫貴は転がり飽きて起き上がると、リムジンから引っ張り出した紫と黒の重厚な刺繍の施されたスツールを引っ張り出して、それに背を乗せて仰向けに伸びたまま、シャンパンをラッパ飲みしたものだから、ごへごへごへっと咳込み、地面に落ち苦しがってもう男は紫貴を放っておいた。
あれはあの紫貴と英一とどう繋がる血があるのかが、全く不明だ。</p>]</body>
★帰る★
紫貴は南の国の屋敷からリムジンに乗り込んだ。
エロティカはヘリポートまでを進めさせる。
今から日本に帰るのだ。
「………」
兄貴は、ショウちゃんの男を撃ち殺した。堅気の男だったらしい。その事を従兄弟の桐神から聞いた時、はっきり言って愕然とした。
確かに兄貴は鈴を失って、目の前に男がいて手に入らないショウを見つけて完全に彼女に心向いていた。だからって、まさか失った者を奪い取ろうなんて外道をするなんて、信じられなかったからだ。
愛するはずの彼女を絶望させることを、鈴とアタルを想って来た兄貴がしただなんて。
兄貴は頭に葉斗を破門されたと聞いて、紫貴自身も屋敷を蹴り出された。
言い知れない悲しみが襲った。自分が、殺されそうになった時よりも、死にそうになった時よりもだ。兄貴が事をやらかしてしまった事で……。一瞬の感情で兄貴の信条を消し去った兄貴自身に。
それでも、兄貴はまた葉斗屋敷に戻ったというのだ。
きっと、兄貴には大きな苦痛だったと思う。それでも、詫びるべきだ。面と向ってショウちゃんに詫びて、続けるべき事は続けるべきだ。
絶対にこれ以上、俺の兄貴を格好悪いままにはさせない。
絶対にこれ以上は道を外させない。
陽気な空気は紫貴の視線を奪った。
濃い緑と生息する生命、その声、きらめき。
やっていかなければならないんだ。地球は続く。
VOICE・5★アシさん★
翔は闇の中から聴覚が働き始めた。車道、車が移動する音、白の奴の笑い声が体にこだましてる。低いエンジン音は極めて少なかった。車内か。アシさんの話し声がした。
「素直な性格じゃ無いわよね。アシモちゃんって」
翔は目を開こうと重い瞼をこじ開けた。
「別にひねくれていないはずだ」
ひねくれてるですって?!アシさんが?!
「まあそうい…………ぅうぃゆぬ、うぇえええ〜〜い」
「うるっせえっからっ」
「よーうようアーシさんじゃ〜ん」
翔はクラブコンパートメントに足を広げ乗せて、夕は彼の頭を叩いて足を下ろさせた。
「お前本っ気で神出鬼没だよな」
「だってさ〜アシさんと話してえからさ〜。兄貴みてえに思っていいっすかー?」
「勝手にしてくれ」
「じゃあ勝手にそうさせてもらいますんで〜い」
「その喋り方やめてくれ」
「いいじゃねっすかんなのさー何処行くんすか?」
「さあ。白って奴に聞いてくれ」
「アッハハハハハんな芸当出来るわけないっしょ!」
「よっく言うぜ……」
夕は完全に呆れ返って首を振った。
「アシさんの部屋行きましょーよ部屋〜。何かレコードとか貸して下さいよ」
「今駄目だ」
「えーなんで」
「女が上がってる」
「お。いい女っすか〜俺に今度流して下さいよー!」
「おい。今のその格好で言うと2人そろってそういう店に売り飛ばすぞ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおあんっじゃこのかっかあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
翔は大驚きして全ての服を放り出し始めたから、夕は目を開き顔を引きつらせ、信号を渡り始めていた人間達は顔を引きつらせてそれをみていた。
夕は誤解される前に翔を拳骨して急いでやめさせた……時には、既に前が白の皮製で後ろが豹の毛皮パンツ一丁に変って、両腕を頭の後ろにして足を放っていた。
ジロジロ通行人が見るのを、メイクをしたままの顔で男の体の成りで窓を開け、窓枠にケツを乗り出し「をおおおおおおっをおおおおおおおっ」と雄叫びを上げはしゃぎ始めたから、勘弁してくれよとわざと電柱間近に走る。
翔が「うおおおおおおっぶ!!!!イエス!!!」と、仰け反り避けて「チェスト!!!」と言ったから夕はもうそのまま放っておいた。
「でーでーアジだんゴンピピよっでっでゴンピピ〜。メイグオグがうがああああううううううううわっほ〜〜い!!!」
「お前熊か……」
コンビニに到着すると彼はそのままの格好で窓枠からくるんっと回転し地面に裸足で降り立ち歩き入って行った。メイクオフを買ってコンビニの洗面所に行き口笛を吹きながら戻って来た。
買って来た3本のホットドッグを食いはじめている。
「腹へってるのか?」
「ん〜ん腹減ってふ」
「何か食いに行くか」
「いいね〜。いい店知ってそう」
「最低限服は着てくれ。この車のドレスコード今度から決めるからな」
「ほーい」
「どこで買うんだ?」
「どこでもいっすよ。食う店に向うまでの所で」
「そうか」
「ええ」
翔は開かれた窓からの風を気持ち良さそうに受けては3本目も食べ終わった。
それを足元のトラッシュボックスに投げ捨てた。
翔のことだから3本とも窓の外に放り投げると思ったのだが。
「……お前ってまさか、A型か?」
「え?そっすよ?」
「……全ッ然、見えねえ……」
「ああよく言われる言われるから言わねえのお馬鹿に見せる方が気楽ってね〜。でも身の回りが汚れてんのってすっげー嫌なんっすよ。路地のゲロとか汚ねえ街並みとかどうでもいいしあ〜の乱雑感がいいんだが、身が不潔なのってね〜嫌なんっすよー」
「それは誰もでもそうだろうな」
「アシさんは?」
「え?B型」
「っへー!まあ、なんとなく分かるけど」「悟られたことは無い」「A型気質っすからね〜」「ああ」
夕は肩をすくめて店の前で停まった。
翔は札をふわふわの毛皮のケツに差して髪をかきあげ口ずさみながら歩いて行った。
しばくして、乱闘が始まったらしかった。夕は目をぐるりとさせてキーを抜き車を降りてから店に駆け込んだ。
札が舞っていて翔が男を薙ぎ倒し拳を振り下ろす相手の血で赤く染め、跨り殴り続けいつの間にか夕から擦ってる拳銃を男の顔横に撃って立ち上がった。
男の股を蹴り散らして、跳ね返る頭を撃ち殺そうとした翔の首に、腕を掛け夕は彼を投げつけた。
きっとケツから札を抜かれたのだろう。
翔は「イジジッ」と腰を浮かせ押えて立ち上がると、一度男の頭を蹴り上げがなり立て、札を拾い上げて唾を吐き夕に銃を投げ渡しカウンターに服を出した。
その場で白革と豹の毛皮のパンツを放って濃紫の海洋パンツを履くと服を着てから歩いて行った。
夕は溜息をついて床の修理代を店員に渡し「すまなかったな。騒がせて」と言い店を後にした。車に乗り込み豹のパンツを翔の顔に叩きつけた。
翔はそれを白の奴の服を放った後部座席に放った。
夕はクラシックサングラスを掛けた。
「まーまーそう顔を隠さずに」
「知り合いに見られたく無いんだ」
「まーまー。あの服どこかに売ります?あの女馬鹿みてえに服に金使うからああ見えて相当の値打ち掛かってますよ。あれで7000万行ってるでしょー。あの趣味悪い傘とあのイカレた白の履物とー、アクセサリーとー、時計とー、バッグとー、あの気違いな白ミニフリワンピの、服」
正確には2億4千万だった。
「あいつって馬鹿っすよね〜女って本当わけわかんねー」
「うんお前もな。何食う?」
「ガッツリ食える所」
翔は座席を倒してごろごろ転がり出してケツを押えた。
「おい、どうしたんだよお前」
「ケツいてえ」
「は?」
「痔かも」
「野菜ばっか食ってるんじゃねえだろうなお前」
「違うっすよ〜いてーパンツ変えたらいてー」
夕は一度顔を歪めて翔はケツを擦る背を見てからそのままの顔で前に向き直った。なんだか食欲が失せて来てそれは翔も同じだった。
「おい大丈夫か?」
「あの女何しやがったんだよ、マジ胸糞悪いうえ吐きそ……」
走行中のドアを本気で開け、吐いた。
「おいっ、お前、考えろよ!!」
「だっで、ぎぼぢわりいんだおあああああ」
「……もうお前、もう本気っでやだ……」
翔は吐き戻って来て、自販機の前で停車したのを夕に蹴り出され落ちてそのケツに金をバシッと叩きつけた。翔はぶつくさ言って雪男のように起き上がった。
ミネラルウォーターを買い口をゆすいでは顔に掛けてごみ場にシュートさせると、ケツを押え押えしながら戻って来て夕を見上げた。
「食欲出た」
「腹の物強引に出したからな」
翔は車に乗り込んでさっきコンビニで買って来たガムを噛み初めて味をなくして行った。
「ライカ白の奴と関係無いんだぜ。ライカの奴よくもつよなあ。大体よお、白の奴一体どこでやってんだろーなー」
「さあ。お前がその分発散してればそうも性欲起きねえだろ」
「そりゃまあそうか。俺の女可愛いんだよね〜セクシー馬鹿」
「へえ」
可愛い馬鹿という所で夕は反応して、一度翔を見た。翔は意外がって夕が顔を向けてきたのを微笑んだ。
「ああ気になる?高いっすよ」
「冗談」
「アシさんの女は?ああ今部屋にいるんだってな」
「ああ」
電柱横を通り際ガムをふっと吐き付けて、夕は呆れて彼の頭を叩いた。
「モラルは守って俺の車に乗ってくれ」
「ほーうい。遊飴呼ぶ?今頃ヤサでしょー」
「お前の可愛い馬鹿か?」
「そーそー。でも、アシさんのタイプとは異なるか」
「何で俺の女に手出しするんだよ。呼びたいなら呼べ」
「ういっす」
翔は後部座席に背を伸ばしてハンドバッグから携帯電話を出した。
遊飴に掛ける。
「ああ翔〜?今何処?」
「起きてるのかよお前。珍しいじゃねえか」
「誉めてよ。今病院」
「え?何で」
「下半身見てもらってるの」
翔は顔をひきつらせ、瞬きもせずに聞き返した。
「ガ、……ガキ?性病か?!エイズか……?」
「え?あーあ。痔よ痔」
「うっそん俺も痔」
「うわ〜おーう痔カップル」
「おい。こいよ痔カノ〜」
「何処よ痔カレ〜」
「お前等どういう会話すれば気が済むんだよ、」
「すいませんアシさん。ちょっと寄り道」
「あーあーお前も診てもらってこいよ」
そういう事で、アースホールを煩った座薬カップルは揃って乗ってきて、夕は「ああ律子の所に帰りてえ……」とぼやいてキーを回した。
今から食事店へ走らせる。
★食事屋★
「ねえなんて言う先輩〜?きゃあきゃあ格好いい〜!」
「アシさんアシさん」
「あんたこんな格好いいアシもってたのー?」
「そのアシじゃねえよ。なんだっけ名前」
「芦俵夕」
「ユウって何のユウっすか」
「芦に俵に夕」
「アシさんの意地悪っ!」
「可愛い子ぶるな……。芦屋に、米俵に夕陽」
「ああ、なんか良いね〜」
「きゃあ夕って呼ぼう!」
「おーい俺の先輩だぜ」
「え?何の?」
「心の中のカオスに淀む」
バキッ
「きゃあ翔〜!」
「ちっ、いってえなー!」
「俺を変人呼ばわりするな」
「してないっすよー」
「あら?ねえこれなあに?」
そう薔薇の薫りの染み込んだ真っ白のカップ咲きローズシルクプリントのフリルミニワンピースを掲げた。
「あー。それ俺の女装用の時の衣装だから放っておいて」
「あっは何それイケてる〜!」
「お前はお馬鹿だなあ。男っていうのはね?様々な方面持っている物なんだよ?」
「諭さないでよもう受けるー!どうせ翔の事だから女の子浚って来てヤッてどこかに棄てて来たんでしょ」
店につくと夕は彼等2人に金を渡して去って行こうとしたから、翔が轢かれてまで、引き止めた。もう勘弁してもらいたい……。
夕は店に入って行き、絶対に恥をかくから個室に彼等を押し込んだ。
「きゃあきゃあ!ねえねえすっごく素敵!ねえ翔ナニにする〜?」
「そうだなー何にしよっか。アシさんは?」
「Rコース美味いぜ」
「俺も」
「じゃあんあたしもん!」
夕はシャツのポケットの中のソフトパックから振り出して火を着け、遊飴も欲しがったから突き出したのを2本投げ渡し、翔の方を見ると彼は首を振った。
夕は頷いてジッポーと共にテーブルに置き、遊飴は翔にキスをしてからにっこり微笑んだ。
ショウとはどこまでも、別人だ。
これは面倒でもあった。しばらくは観察してイサさんに報告する必要もあった。
大掛かりな密輸の為にこれから、ショウとしての白の身分でも、黒の翔を連れて行こうとするスポンサーというのも気になる。だhが変にこちらからは聞かない方がいいだろう。
遊飴は堀りコタツの中で精神病末期色という色のタイツ足を伸ばしたから夕は顔を上げて遊飴を見て、立てていた片膝を倒して降ろしていた方の片足を堀りコタツから出して畳に伸ばした。
遊飴は頬を膨らめて上目になった。ナッツを剥いていた翔は、横目でそんな遊飴を見下ろし、夕は慌ててテーブルに身を乗り出し翔の背を掴み遊飴をぶん殴るのを引き剥がそうとしたが離さなかった。
「この売女が!!!」
そう怒鳴りがなって、顔に血をまみれさせた彼女を蹴り出して彼女は地面に転がり顔を押えて、夕が彼女を引き起こした。
「俺の前から消えうせろ!!」
「おい翔お前やりすぎだぞ」
「分かったわよ馬鹿!!!」
「おいユイ!」
「くたばれ!!」
「上等よ!!」
遊飴は泣き叫び走って行ってしまった。夕は追いかけた。翔は「糞が!!!」と壁を蹴り穴が空き追いかけた。
「やめて!!離してよ!!!」
「おい!翔!!」
遊飴の腕を引っ張って片腕を持った。遊飴は涙と血にうもれる顔で翔を見て、翔は舌を打って乱暴に手を離し彼女の肩を片腕に抱いて席に戻った。
遊飴はひっくひっく泣きながら翔の腕の中で子猫の様に泣きついて、彼にくっつき歩いて行った。あれはドMだ。
そんな2人の背を見て、「もう逃げてえ……」と夕はがっくりうなだれて個室に戻って行った。
「お願いだからお前等静かにしてくれ。迷惑掛けるなよ。……おい、壁に穴が何で空いてんだ」
「コンクリートじゃねえ壁なんて信じられねえよ」
「あのなあ。いい加減にしてくれ。ガキじゃねえんだぞお前等。ここはお前の行く界隈じゃ無い。俺がもうこの店に2度と来れなくなるだろうが」
「ごめんなさいー」
遊飴の顔を布巾で拭きながらそう面倒くさそうに言い、遊飴にキスをしながら口の中の血を無くした頃には、遊飴の目はめろめろになっていた。夕はもう呆れて放っておいた。
翔とキスをしながらまた遊飴は懲りずに足を伸ばして来たから蹴り散らしておいて無視した。
食事が来て箸を割った。
「アシさ〜ん。紫貴っているでしょー」
「ああ。何度か来たな」
「辞めたらしいんすよ」
「そうか」
「さっき伝言メッセージ入っててさあ」
白に辞めさせられたも同然だろいう事は夕には分かっていた。目の前の翔は知る由も無い。
「お前はいいのか?」
「俺は辞めろって前から言ってたんっすよ。危ねえ橋渡るなってな」
「お前もな」
「ハッ、俺は普通っすよ問題無し」
遊飴は白い目をして翔を見た。
「イヤ〜ンこれおいち〜!翔食べてみてこれ〜!」
「マジ?あーん」
「あ〜ん」
グサッ
「うごっ」
翔は顔を押えて「はなはなが鼻の穴ぐあ」と座敷にのめって、遊飴はッベー!と舌を出した。
「んのやろっ!ケツの穴に箸突っ込んでいかせてやるっ」
「きゃああごめんごめん」
「ケツの穴出」
バンッ
ビクッとしてふざけあっていた2人は遂にキレてテーブルを叩いた夕を見て、彼のおっかない顔に同時に顔を引きつらせて「エヘヘッ!」と、2人で笑ってすごすごと大人しく座って肩を寄せない、「お、おいちょっとくど過ぎたぞお前、」「しょ、翔こそ!」とこそこそ言い合い、ペロッと2人でおどけた。
「下品になるのは2人の時に幾らでもしてくれ」
「ほーい」
親猫に無く子猫のように2人揃って声を揃えてそう言った。
これでここにあの紫貴が加わっていたらカオスだと思って、翔が引き続きあの樫本の弟を携帯で呼び出さないことを願った。
「紫貴の兄貴って、最高に格好良いわよね!翔」
「あ?お前なんで知ってんの」
「だってこの前浮気しちゃったも」
遊飴は慌てて口を塞いで口笛を吹いた。翔は眉を潜めて遊飴を見て、夕は口笛を驚き吹いた。翔は「これはしめた」と思った。
「おい遊飴。お前、そのまま紫貴の兄貴誘惑しろ」
「………。翔君?元々おかしい頭打ったの?お姉さん診てあげるわよ?」
「いいからそうするんだ。いいな」
「おい翔。そういうやり方やめろ」
どうせ白から気を他所に向けるつもりだろう。
「いいですか。アシさん。白の奴は性格がマジで悪い。俺は知ってるんっすよ。好きな男に屈辱を味合わせる為になら、その男を椅子に拘束させてその前でその白自身の嫌う男にヤラせる。しかもその男の部下にな。そういう女だ」
「冗談」
「俺は前その状況で目覚めた」
「……。あの白が?」
「ええ。前、親父の会社の重役の男と浮気してて、その時にその妻が押しかけて来た。その時にそれをした。つまり、浮気相手のその旦那を椅子に拘束して妻と白はヤッた。妻は泣いててもう浮気でも何でもしろとかって叫びまくってたし、白の浮気相手もショック受けて真っ白になってその会社を自主退職した。元から高飛車で、我が侭で性悪なんすよあの女はね。とにかく、俺は俺だ」
夕は眉を潜めて翔を見て、遊飴は「白って誰?」と翔に聞いていた。
そんな話はあのショウからは信じられない話だ。まあ、嘘だろう。
とにかく翔は、どうしてもゼブラナなど白に辞めさせてバンドの為に海外に行きたいのだから。
「遊飴。彼はやめた方がいい。お前、彼氏なら自分の女にそういう事言うなよ。分かってるだろう」
「まー。遊飴の浮気癖が治れば黙ってやる。つうか、本気でヤッたのか?」
「うん」
「ったく、どうしようもねえなあこの悪戯好き。よく殺され無かったな。またお前が強引に迫ったんだろう。お前、強烈だから」
「ふふ〜ん」
まあ、刀で斬りつけられる所だったのだが。遊飴は肩をすくめて箸を進めた。
「紫貴のお兄さんって何者。なんだか普通じゃなかったんだけど」
「さあ。師範の付き人だって話だ」
「やっぱり〜?そうよねー。筋者の人間っぽかった。英一ってエロティカとも仲良さそうな雰囲気だったからな〜」
「え?マジ?」
「あーん」
「あーん」
「うん。あんた浚われたじゃない」
「さー」
「ま。寝てたしね」
だが、英一があの時今にも崩れそうな雰囲気で静かに涙を流していた事は言わなかった。
あの兄弟揃ってつるんでいるのかと思って翔は唸った。だが樫本英一は俺等の味方だ。バンドは葉斗が資本を出している。紫貴が辞めた分、葉斗がこれからも着くとはいえないのだが。
「あーれあんた等野郎同士でデキてんのかと思っちゃ」
「ブハッ」
「きゃああ汚いわねえ!!!」
翔も夕も吐き出してごほごほ咳をして、夕は火傷した口に布巾をあてた。
「冗談よせよってめえ馬鹿野郎が!!お前、手前の男一体何だと思って、」
「ちょっと〜あんた惚れてソッチに行かないでよね〜え。女の面子丸潰れになんだからさー」
「行くっわけっねえだろうが!!!いい加減気色悪い事抜かすと噛み付くぞっ!!GHAHHHH!!!」
「きゃあああ〜〜〜!!!」
「本ッ気で!アシさん本ッ気で頼む!!!な!な!」
「いやそこらへん俺に言われてもなあ」
「な!遊飴!頼む!」
俺の体は俺のもんだ。第一、あの一度見た白と話す樫本英一の目は完全完璧に白を女だと勘違いしていた。
樫本は白がまさかニューハーフだという事は知らないに決まっている。
確かにそうだった。
樫本はショウを列記とした女だと思っている。ショウを見つけた瞬間、ゼブラナがニューハーフの店だという事実も吹っ飛び、ランもユウコも完璧に声も体も女に改造されている。
だから、樫本はショウが普通の女ホステスだと思っているし、彼が真淵家を調べたどの場合でも、パーティーや学園でも真淵家のお嬢様で通っていたから、一企業のご令嬢だと思っている。
第一、樫本は正常に男嫌いだ。確かに性癖に関しては妻と行く高級ホテルではルームに総支配人からの用立てで毎回ドラッグがドレッサーの引き出しに用意されていて行為もSだったが、異性に行く気など毛頭、無い。
★呼び出し★
「わーいっす」
「ショウ」
「うお、」
翔は飛び驚いて携帯電話を見た。
「あ、は、は、はああ〜ぃいいい?」
「何々誰から〜?」
「遊飴もいるのか?」
「え、あ、えっと、うふふふふふ、」
「来い」
「え、はい?」
樫本は場所を言うと一方的に切った。しかも非通知だった。
翔は「じゃ。お先!」と席を立って去って行った。
夕と遊飴はそんな背を振り返り首をかしげながら見送った。
翔は店の外に出て見回し、そこらへんでバイクを盗み走らせて行った。
「………」
混沌とした物が駆け巡る。風を切り、格好はこれじゃあまずい。
女の服屋に入ると全て女物のスキニージーンズと、白のシャツ、水色のスニーカーに着替えて腰に銀メッシュのベルトを嵌め、スッピンの為に黄緑と茶色の大振のサングラスを嵌めるとバイクに跨った。
まさか、ぶっ殺されるんだろうか。
さっき、夕からまた拳銃を奪い持っている。殺されそうになったら出せる。
「………」
白の奴を、諦める様に言うつもりだ。
★対峙★
翔は吉祥寺に着くと井の頭公園へ入って行った。
公園で木に寄りかかり、待った。
銃を探り、確認する。その手は汗で滲んでいた。
車の停車した音が聞こえ、翔は固唾を飲んで思い切り振り返った。
樫本英一は洒落た外車から颯爽と降り景色を見回し歩いてきて、翔を見たのを翔は肩に力を入れる事で身構えた。
「………」
樫本はそこまで来ると翔を静かな目で見下ろし、翔は腰に手を当てていて、背後の拳銃は木を背に立っているから見えなかった。
相手。
拳銃はきっと胸部だろう。
心臓を撃っても跳ね返される。
翔は相手を上から下まで観察し、上目で顔を鋭く睨んだ。
考えている事は探れない。
相手はかなり歴史の古い家柄で刀の扱いに慣れ、葉斗でも守護神だ。
自分は銃の扱いには自信はあるが一ごろつきに変りは無い。
返り討ちは凄まじい筈だ。
樫本の目が変った。
翔は罰が悪そうに視線を落としてから、きっと殺気を探られたのだろう。
空気も揺るがなく、互いに翔は睨み、樫本は見下ろしていた。
翔は包括され、体が強張り動けなくなった。
だが、拳銃を握りなおし、拳銃を樫本の腹部に当てた。
樫本は体を離し、見下ろした銃口から翔の顔を見た。
「……。殺せばいい」
翔の銃を持つ手は微かに震え、樫本を見上げた。
やっぱり無理だ。撃つ度胸なんか無い。手も足も震えてくる。
翔は彼を見上げ、激しく瞬きした。
樫本は今にも崩れそうな黒目がちの目をしていたからだ。
「……ライカを殺せば、お前が手に入ると思った……」
………
翔は瞬きを止め、苦し紛れにそう言った樫本の目を凝視した。
「だがどうしても俺を許せねえなら殺せ」
翔は目を見開いて、樫本を見た。
……ライカをなんだって?
この前……自分が帰ってきて眠りくさっていたライカを蹴り落として、ライカはぼうっと亀の様に起き上がって、いつもの様にチェストの上を片付けて着物に包まって眠っていた。
翔が片目を開けて肩越しに見ると、すやすやとでかい図体を丸めて眠っていた。
安眠していた。
あのライカのペットの騒々しい白いオウムもクークー眠っていた。
「………、」
翔は瞬きし、樫本を思い切りぶん殴っていた。
彼は砂を巻き上げ転がりその彼を跨り激しく殴りつづけた。樫本は避けることも無かった。彼の胸倉を掴みドンッと地面に叩きつけ、樫本は鋭い目で歯を噛み締める翔を、目を開き見上げて、翔は背後に飛んで行った従を飛び拾って樫本に銃口を向けた。
紫貴は驚いて紫のハーレーを転がし降りて翔の銃を撃ち壊した。
翔はその方向を鋭く睨み紫貴を見て、拳を震わせて背後の木を殴りつけ何度も殴り血が噴出したのを拳を震わせ木に額を付けて体中を震わせた。
その目を見て、黒の方だと分かった。紫貴は彼等の所に走り兄貴を引き起こし翔のところに行ったが翔は紫貴を激しく蹴り飛ばした。
「てめえ等兄弟なんか糞ッ垂れだ!!!紫貴とももう絶好だ!!!海外にでも何処にでも勝手に行けよ!!」
そう怒鳴り銃を拾い大またで歩いて行った。
バイクに跨り乗り、そのまま乱雑に走らせて行った。
「………、」
紫貴は、愕然としてその方向を見て、しばらく動くことさえ出来なくなっていた。
★決断★
翔は俯き、気に囲まれた場所で額をその幹に付け目を閉じていた。
いきなり何かの銃声が短く鳴り響いた。
眉を潜めあたりを窺った。何処だ?
分からない……。
翔はしばらくその場にいたのを、立ちすくみ目を閉じた。
ライカが殺されていたなんて知らなかった。
白がどういう気でそれを受け止めたかは分からないが、きっとあいつの事だから泣き叫んで絶望した筈だ。
この怒りをどう鎮めればいいのかが全く分からずに、ただ、思った。
俺は、そんな時に何をのうのうとしていたのかだ。
俺の片割れが苦しんでいる時に俺は確かにそれも知らずにのうのうとしていた。
なんでずっと俺は俺のままで白は白のままだったんだ?ライカが殺された強大なショックの内に白は何を思いつづけていたんだ。
「……白」
あいつはきっと、泣き続けていた。目覚めた時とんでもねえ格好していたから気が違えていたんだろうとも思っていたが、それもいつもの白の感覚狂った格好でもあった。
だが、妙に楽しい感覚で目を覚ました。だから気づかなかった。
余りに楽しい状況で目覚めた。
きっと……、
白自身が自分をどうにか死に向わせないように心を保とうと虚勢を貼り付けて気分を上げようと街に繰り出したんだろう。
哀しいのも全部明るさで覆い隠して自分が取り乱さないようにだ。
白がそういう女だと、半ば分かってもいる。
それを自分はカバー出来なかった。
女は女であることの、結局の心の弱さを俺の男としての心で受け止めてやる事をだ。
どんなに強がっていようが、女の心は弱く繊細だという事をだ。
それを、強がってしまわなければ生きてなどいけない心の窮屈さを抱えて行きつづけて、それを自分が分かってやりしっかり優しく受け入れてやる事は今まであったか?
この同じ身を持って、他の男がしてやれるように彼女を彼女と認めて包括してやる事をだ。
強がらずにいれば言いと言ってやれる事だ。だが甘える事等今まで白には出来なかったんだろう。自分の体、自分の性、自分の内の葛藤。
それを、全て受け止めて上げていたライカの存在が、そんなに白には大きく、ようやく落ち着き心を安心させて強がることのしなくてもいいんだと、ハードルを下げる事が出来た出会いだったのだと。
翔は固く閉じていた目を開き、決意した。
あいつは大切なものを失った。
俺は何もしてやれる事等出来なかった。
俺は悲しみに耐えつづけた白を応援してやるべきだという事。
それしか、……ライカと白にしてやれる事など無い……
………俺は、チタンを辞める
★神出鬼没★
夕は戻って来た翔を見て、慌ててこさせてバイクから掴み降ろした。
その場の盗難車両を警官達が数人いて、持ち主と共に現場を見ていた。
「あっちゃー届けてやがった〜」
「当然だ。遊飴は逃げた」
「やっぱり〜?」
「あのなあ。何処に行ってたんだよ」
「バイクで、宇宙〜」
「知らねえよ……」
持ち主はこちらを見てきて、翔はヤッベと言って人をなぎ倒して恐ろしい程の逃げ足で走り逃げて行った。
持ち主と警官は怒鳴り少年エックスを追いかけていき、夕はそんな背に呆れて溜息をつき首を振った。
★ラストライブ★
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
広がる灰
お前の心と俺の体
一つになった
この一つの地球上
俺の魂は一つ
俺の雄叫びは百
お前の涙は一粒
愛している
愛している
好きだ
お前等が大好きだ
★エアポート★
紫貴は待ったのだが、空港に翔は現れなかった。
6時間待ったが姿を見せない。
紫貴は先に彼らを行かせると、3日間翔の見送りを空港内で待った。
彼は3日間同じ場所でずっと突っ立っていた。
だが、やはり現れる事は無かった。
最後のライブの夜、祝杯を上げ、翔は一度微笑み、路地を闇の中、消えて行った。
一度振り返り、紫貴達に手を掲げて珍しく気障ぶって手を掲げて歩いて行った。
いつもの身慣れた荒んだ空気に身を浸し、彼は残ることを決めた。
紫貴は諦め振り返り、
「をああああっ!!!!」
名無しのゴン子が真後ろに突っ立っていた。いや、突っ立ちつづけていた。
彼女は長い黒髪から目元を紫貴に下げ、彼の頭を一度抱き寄せた。
「………」
紫貴は口元が震えて歯を噛み締めて、しばらくゴン子の無い胸の黒革ビキニに泣き付いた。
彼女はそっと言った。
「心は一緒だ。届いてる。あいつはあたし等の魂だ」
初めて聞いた低い声は、紫貴をもっと激泣きさせた。
≪END≫
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
読み進めてくださった方には心より感謝いたします。
本編はZEBRANAプロローグ TITANIUM、ZEBRANA BLACK、ZEBRANA WHITEの4作品で一つの物語となっておりました。
ながきを読み進めていただき有難う御座います。
女紫