終
それから、綾上の小説(ついでに、鹿島アイラの新作)を購入してから、本屋を出た。
それからしばらく歩いてから、近くの市民公園へ行くことにした。
ベンチに腰掛けて、一息を吐いてから、
「今回の新作。綾上的に手ごたえはどうなの?」
と率直に問いかける。
「私は、自分の作品を。いつだって、世界で一番面白いと思ってるよ」
綾上は即座に答えた。
かなり強気な言葉だが、同時にとても頼もしいな、と思った。
「だから、今度こそ。もとべぇ君を見返す作品に。……誰もが認める作品になってるはずだよ」
続けて、綾上は自分に言い聞かせるようにそう言った。
綾上は、定期的な出版こそしているものの、ヒット作と言えるものはまだない。
だから、彼女の内心では、不安や焦り、苦悩など、そういう弱気な感情が多くを占めているはずだ。
それでも、強気な言葉を使うのは。
絶対にヒットに恵まれないままでは終われない、という強い決意があるからだろう。
……そこまで、無理に頑張らなくても良いのに。
なんて、ただの読者に過ぎない俺は、そう思うけど。
そんな風に、綾上の決意をないがしろにする言葉は、口が裂けても言えない。
だから、代わりに俺は言う。
「綾上になら絶対にできるよ、なんて無責任なことは言わないけど、……綾上が成功するか、諦めるまで、俺は絶対に三鈴彩花作品を読み続けるよ」
俺の言葉に、綾上はハッとした表情で顔を上げ、
「それって、つまり――」
泣きそうな表情を浮かべ、
「プロポーズ、ってこと?}
と、両手で口を覆いながら、そう言った。
「プロポーズじゃないよねぇ!?」
俺は大きな声で元気よくツッコミを入れた。
またしても、綾上が暴走している……!
こういうところも、高校生の頃から何も変わらない……っ!
「え、そうなの……?」
と、残念そうに、キョトンとした様子で綾上は呟く。
しかし、その次の瞬間には思いついたように言った。
「ところで、式場見学はいつにしよっか?」
「いやいや、流石にそれはおかしくない? 何段階関係をすっ飛ばしてるの綾上さん!?」
俺はもう一度、大きな声で元気よくツッコんだ。
しかし、綾上は俺が異を唱えても、全く動じていない。
「確かに、私たちの関係を考えればまだ早いかもだけど――」
彼女のおねだりをするような表情を見て、俺は察した。
あ、これはいつもの奴だ、と。
「次回作の取材にもなるし――お願い、ね? 」
思えば、俺は何度も彼女のこの『取材だから』作戦にはめられている。
流石に、式場見学なんてものは、きっぱりと断るべきだろう。
はぁ、と溜め息を吐いてから、決意を固めた俺は口を開き、はっきりと言葉にする。
「取材だったら 仕方ないな!」
と。
☆☆☆☆☆
静かな夜だった。
こんな日は、お気に入りの音楽を聴きながら、ゆっくりと小説を読むに限る。
俺は小説を手に取り、しおりを挟んでいたページを開いた。
紡がれた文字を読み進め、ページをめくる。
その時、紙の捲れる音が耳に届き、印刷されたばかりの新しインクの匂いが鼻腔をくすぐる。
それらもまた、物語への没入を誘う。
一言一句を読み飛ばさないように、視線を動かすと、いつの間にか物語が脳裏に鮮明に思い浮かんでいた。
ページをめくる手は止まらない。
夢中になって読み進め――気づけば、一度の休憩もなく読み終えていた。
日付は既に変わっていた。
心地の良い倦怠感に包まれたまま、良い物語を読み終えた心地よさの余韻に浸っていた。
このまま眠りにつけば、どれほど幸福なのだろうかと考えるものの、興奮しきっているため、どうにも眠りにつくことは出来なさそうだ。
だから俺は、ノートPCを立ち上げた。
普段利用している書評サイトのマイページから、新しい記事を作る。
キーボードに指を置き、それからどんな言葉を紡ぐかを考える。
そして、ふと苦笑してしまった。
俺のレビュアーとしての活動は、何度も言うように、結局はただの自己満足なのだ。
どれだけ俺が声高らかに、
「この作品はクソみたいです!」
と叩いたところで、俺以外の誰かがそれを
「完璧で素晴らしい物語でした」
と讃えることもある。
そして、そ例え少数の読者でも、誰かが素晴らしい作品だったと思えば、その作品には何物にも代えがたい価値があるのだとも思う。
綾上にとっては、幸那ちゃんがまさにそのような存在だった。
それでも。
自己満足に過ぎないこの行動を何年も続けてたのは……。
かつての綾上のように、俺の言葉が誰かにとっての救いになるかもしれない、と。
そう思っているからかもしれない。
――ただ、今回の場合は、わざわざネットに書きこまなくても良いかもしれないな。
本人に直接言えば、それで済むのだから。
とはいえ、俺はこの感動が薄れない内に、何を書こうかまとまらないまま書き連ねる。
『三鈴彩花作品は全て読んでいる物好きですが、今作は本当に素晴らしかったです。以下、ネタバレ含むので未読の肩は注意してください――』
そして、長い時間をかけてレビューとも言えない散文を書き終えてから、俺は一息ついて、窓の外を見た。
既に朝日は昇り、青い空が見えていた。
ふと、その青空を見て不思議と確信をした。
きっと、俺の物語は今一つの区切りがついた。
これまでの俺の物語にタイトルをつけるのなら、
『クソレビュアーの俺が美少女作家を叩いた結果→告られました』
とか、そんなところだろう。
クソレビュアーの俺が美少女作家を叩いた結果、俺の心にはかけがえのない感情が生まれて、彼女には辿り着きたい目標が出来た。
彼女の目標に辿り着いた、その先の物語は――当然まだ誰も知らないけれど。
きっと、誰もが読み進めることを躊躇う、心底甘ったるい物語になるような――。
そんな、確信に似た予感がするのだった。
(終)
『クソレビュアーの俺が美少女作家を叩いた結果→告られました』
これにて完結です!
連載当初からお付き合いいただいた読者の方、完結までお大変お待たせしてすみませんでした…(´;ω;`)
定期的に更新再開をコメント等でいただき、そのおかげで完結まで書くことが出来ました(∩´∀`)∩
更新再開後、凄い勢いで話を畳んでしまいましたが、とにかく完結させることが出来て良かったです(´;ω;`)
もっとじっくり書いてほしかった…と思う読者の方もいるかもしれません。本当にごめんなさいなのです(´;ω;`)
そして、ここ最近連載を読者の方も、ここまで読んでくれてありがとっ(≧◇≦)
もっと読みたかった―、と思ってくれる読者の皆は、「友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ?(書籍4巻発売中&2月22日コミカライズスタート!)」「完璧美少女の幼馴染が実は駄目人間だと、俺だけが知っている(現在不定期更新中!)」「美少女に付きまとわれて困るぼっちの話(現在超不定期更新中!!)」など、他の連載中の作品や、短編、完結済みの作品も読んでもらえると、とっても嬉しいのです(*´∀`*)
そして、「祝!エタりそうになったけどなんだかんだで完結!」と言うことで、作品の内容、登場人物及び愛花の土俵際の粘りを評価してくれる読者のみなさんは、ぜひ広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をしてくれると、嬉しいのです(*´σー`)エヘヘ




