エピローグ④
そして、翌日。
高校時代、よく綾上と立ち寄っていた駅近くに俺はいた。
もちろん、綾上との待ち合わせのためだ。
昼前、待ち合わせの時間より、15分程前だ。
余裕を持って到着できたことにホッとしていると、トントン、と肩を叩かれる。
振り向くと、頬を押される感覚があった。
どうやら、古典的ないたずらに引っかかってしまったらしい。
「今日も、君に負けちゃった。まだ15分前なのに」
「まぁ、暇だしね」
俺は自らの頬をついている指を振りほどいてから、彼女に向かって言う。
……暇だから、という理由以上に、単純に綾上と一秒でも早く会いたいという気持ちがあるため待ち合わせ場所に端役到着しているわけだが、そのことについてはもちろん言わない。
「ふーん、そうなんだー?」
綾上は俺の言葉を聞いて、上目遣いにこちらを見た。
それから、
「私は、一秒でも早く君と会いたいから、いっつも約束の時間より早く来ているんだけどなぁー」
と、不満そうに言う。
「はいはい」
と俺は答えつつ、綾上も俺と同じ気持ちなんだ、やったぁ! と内心で大喜びをした。
「えー、何か適当だなー」
綾上は頬を膨らませながら、そう言った。
「……とりあえず、お昼を食べに行こうか」
俺の言葉に、綾上はとても嬉しそうに、「うん!」と頷いた。
彼女と並んで歩きながら、俺は時折視線を向ける。
大学生になっても、高校生の時と変わらず可愛い……いや。
高校生の時よりも、数段可愛くなっている。
「ん、どうしたの?」
俺の視線に気づいた綾上が、こちらを向いてそう尋ねてくる、
「何でもない」
俺はそう答えるものの、彼女は揶揄うように問いかけてくる。
「私に見惚れてたの?」
「……まぁな」
「もう、君ってバカだよ」
目尻を細め、綾上はまたしても嬉しそうに笑う。
「俺がここまで馬鹿になるのは、綾上と幸那ちゃんの前だけだからなっ!」
やや気恥ずかしかったが、俺は言った。
すると、
「え、あ……う、うん」
とどこか気まずそうにそう呟いたのだった――。
☆
以前から綾上が来てみたいと言っていたカフェで、軽く昼食を済ましてから、今日の目的地へと向かう。
「昨日連絡が来た時、嬉しかった。いっつもありがとね」
「何のこと?」
道中、綾上が俺に向かってそう言った。
「新刊が出るたびに、一緒に本屋さんに来てくれて。すっごく心強いよ」
「気にしないで。俺も、やっぱり綾上の小説が出る時は、気になるから」
俺がそう答えると、
「そうだよね、君としては、一刻も早く私の小説を認めて、お付き合いしたいわけだし?」
揶揄うように、綾上は言った。
俺は大きく頷いてから、
「その通りです!」
と答える。
幸那ちゃんにも言われたが、いい加減綾上とちゃんと付き合いたい。
そのためにも、綾上の書いた小説を、面白いと認めたい……。
もちろん、つまらないものを面白い、と称賛することはないけど。
「毎度のことながら、将来に直結するからプレッシャーなんだよなー……」
綾上は遠い目をしつつ、そう呟いた。
それからすぐに、本屋に到着した。
ここは、高校生の頃から通っている書店であり、出会ったばかりの頃も一緒に来ていた場所だった。
目当ての新刊コーナーに向かおうとして――。
「うわぁ……鹿島先生の作品めっちゃ積まれてる」
ひときわ目立つ場所に、特設コーナーがあった。
見ると、そこは鹿島アイラ作品のコーナーだ。
もちろん、綾上の新作と同日に発売され、俺も昨日本人から頂いた新作が山のように積まれていた。
この特設コーナーを見ると、ここぞとばかりに推されているのが分かる。
「出版社からの宣伝材料だけじゃなくって手書きポップまで……」
「あいさんは今一番勢いのある売れっ子だから。そこは仕方ないって」
落ち込む綾上の肩を叩いて、慰めると、
「……そうだね、売上勝負なら、現状完敗だし」
と、乾いた笑いを漏らしつつ、綾上は応える。
俺は苦笑を浮かべるが、美味いことフォローする言葉が見つからない。
そのまま無言で少し歩き、通常のライト文芸の新刊コーナーに辿り着いた。
売り場を見ると、綾上の作品の表紙が目に入った。
鹿島アイラ作品に比べると少ないものの、それなりの数が積まれていた。
「他の作品と比べてみても、結構入荷されてるんじゃない!?」
俺が綾上に言うと、
「私の作品だけ売れ残ってて、他の作品よりも入荷されているように見えているだけじゃない……?」
落ち込んだ様子で綾上は言う。
えぇ、何このネガティブシンキング、めんどくせぇんですけど。
鹿島アイラの平積みは羨むくせに、自分の作品の平積みは売れ残りだと自嘲するのかよ……。
「売れ残りかどうかは知らないけど。これで一冊は売れたわけだ」
俺はそう言ってから、三鈴彩花の最新作を手に取った。
「……お買い上げありがとうございます」
そう言ってから、綾上も一冊手に取り、「これで2冊……!」と小さく呟いた。
俺は苦笑しつつ、
「他に、何か気になる本ってある?」
と問いかける。
彼女は首を振ってから、
「特にないけど。売り場は色々見てみたいな」
と答えた。
俺は頷き、一緒に売り場を見て回る。
そして、高校生の頃と同じように、俺たちは並んだ本を眺めながら、お互いの最近のおすすめの作品や気になっている作品、そして好きな作品の話をしながら、書店を存分に楽しんだのだった――。
ちょっと長くなったので、分割です(*'ω'*)
23時ころ、最終話を投稿します(*´σー`)エヘヘ




