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下着

「綾上ちゃんって、本部と会うときはどんな下着を着けてるの?」


 原田さんが私に、唐突にそんなことを問いかけてきた。


 どういう下着って……普通? 

 だと思うけどなぁ。


「え、っと。いきなり、どうしたの?」


「その……どんな下着なら、男子、ていうかナオにだけど。見られても恥ずかしくないかなって、思ったってゆーか」


 もじもじとしながら告げる原田さんに、私は察した。


「あっ、なるほど……」


 原田さんも小川君も、健全な男女なのだから、お付き合いをしていたら、そういうことになるんだろう。


 ……私だって、その。

 ちゃんとお付き合いをしたら、多分そういうことになるんだと思う。

 だって、彼。

 ……すごくエッチだし。


「綾上ちゃんに聞けば、間違いないと思ってさ! お願い、教えてよ!?」


 一生懸命な表情で問いかける原田さん。

 でも、困ったなぁ。

 私、彼に下着を見せたことなんてないんだけどなぁ……。

 タオル一枚身体に巻き付けただけの姿は見られたことはあるんだけど、流石にそれを言えば色々と疑われそう。


 私は、うーん、と迷いに迷ってから、原田さんに向かって答える。


「うん、私に任せて!」


 そして私は、ぐっと親指を立てる。

 すると、彼女はぱぁっと表情を明るくさせた。


「流石、私の恋愛師匠の綾上ちゃん! 頼りになる!}


 とても嬉しそうだった。

 キスもしたことがない私を師匠と言い、教えを仰ぐのは正直どうかと思ったけど……頑張るので許してください。


「やっぱり………エロい方が、男子は嬉しいのかなー?」


 照れくさそうに、原田さんは言う。

 見た目はギャルっぽいのに、彼女は結構純情だ。


「間違いなく、エッチな方が喜ぶと思うよ!」


 だってこの前彼に聞いたとき、黒くてエッチな下着が好きって言ってたし!


「やっぱ、そだよね! それで、結構良さげな奴みっけてさー、こういうのはどっかな?」


 原田さんはスマホを弄って、画面に画像を表示させた。

 私は彼女の手元を覗き込んで、どんな下着かを見てみるのだが……


「え?」


 その画面に映るのは……その。

 私の知っている下着とは異質なものだった。

 え、ていうかこんなのあるの? ……え?

 ちょっと、ええ??


「綾上ちゃん的には、これどう?」


「……原田さん、流石にこれは引かれるんじゃない? ブレーキ踏も、ブレーキ」


「そ、そっかな? ……いや、でも確かにこれは大胆すぎる? うん、やめとこー」


 私の言葉に、原田さんは正気になって、頬を赤らめた。

 原田さんはどうやら、浮かれすぎているらしい。

 私がしっかり判定をしなくっちゃ……。


 それから、原田さんは次から次にエッチというよりも、ド淫乱なお下着の画像を私に見せて、反応を伺ってくる。


「え、とね。原田さん……、攻め過ぎだって!」


「そ、そっかな? 男子なんて、エロければエロいほど喜ぶものなんじゃないの?」


 あまりにも私がボツを出しすぎるからだろうか?

 原田さんは私の判定に疑惑を抱き始めていた。


「……小川君がエロければそれで良し、な変態であれば問題ないかもだけど」


「ナ、ナオは紳士だから!」


 私の言葉に、原田さんは必死な表情でそう言った。

 私も、彼のことを変態だって言われたら、きっとこんな感じになると思う。


「う、うん。そうだよね。だから、エッチだけど、可愛らしさもあるエッチな感じが、一番いいんじゃないかな?」


「なるほど……よし、その線いくー!!」


 真剣な表情で頷いた原田さん。

 彼女はそのまま、スマホを片手に下着を検索し続ける。

 私も、どういったのが良いか検索をしてみる。


 というわけで、私たち二人は無言のまま、ひたすらパンツ画像を検索することに。


「ねぇ、綾上ちゃん……これ、なんじゃない?」


 原田さんは、喜びに震える声で私に告げた。


「え、どんなの?」


 私が尋ねると、原田さんはニヤリと笑みを浮かべてから、私にその下着画像を見せてきた。


 その下着は――。





 紐パンだった。





 結構大胆な奴だった。

 私はそれを見てから、深く頷いた。

 そして、原田さんに告げる。



「――アリ、何じゃないかな!?」



 さっきまで原田さんが見せてきた常軌を逸したド淫乱さもなく、普通にエッチな下着。

 そして、ものによっては可愛らしいデザインもあるヒモパン。


 なるほど、これが彼氏に見せる下着の最適解……っ!


「やっぱ、そだよね!」


「うん、これアリだよね、可愛いし、エッチな感じもするし、完璧!」


 私たちは、二人で大はしゃぎだった。

 

「ねぇ、綾上ちゃん? 良かったら今日の放課後、一緒に下着を買いに行かない? 綾上ちゃんもさ、本部に見せるおニューの下着、買ってったら?」


「……そ、そだね。放課後、一緒に買いに行こっか」


 私は、原田さんの提案に乗り、一緒に放課後、ランジェリーショップに行くことにした。

 

 そして――




「こ、これを私が身に着けちゃうのか……」


 自室で、買ってきたばかりの、黒いエッチな上下セットのヒモな下着を広げて、私は茫然となる。


 買うまでは良かったけど。 

 買ってから冷静になると――。


 ヤバい、すごく恥ずかしい。


 だって、これ、普通にエッチな下着だもん……。

 ああ、もう!

 原田さんがド淫乱な下着ばっかり私に見せるから、感覚がマヒしたっ!


 どうしよう、これ?

 そんな風に悩む私だったけど、一つ思いついたことがあった。


 私が恥ずかしくっても、彼が着て欲しいって言えば、それでオールオッケーだったりする。


 購入したばかりの下着の写真を撮って、それを彼にメッセージで送る。

 流石に、着ているところは送れなかった。


 どんなことを言ってくれるかな?

 もしも、エッチすぎて引かれちゃったら……クーリングオフだ。

 下着って、出来るんだったっけ?


 などと考えていると、彼からのメッセージが届いた。

 なんて書いてあるのかな? とドキドキしながら、私は通知画面を開いた。


 そこには――。



『なんていうか……綾上に似合うんじゃないかな。あと黒い下着で嬉しいかもしれない。ただ……、俺には刺激が強すぎます』



 多分、最後の一文だけを送ろうとしたんだけど、彼は私のことを考えて、色々と伝えてくれたんだろうな。


 そう思うと、私は嬉しくなって。


 ――この下着を着けた姿を、彼に見せる日が早く来ればいいのにな、なんて思うのでした。


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