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お勉強

これから数話、第二章と第三章の間の短編を投稿していきます(/ω\)


第三章は、もう少し待っててね(*'ω'*)!

「来ちゃった♡」


 玄関を開けると、満面の笑みを浮かべる綾上がいた。


「うん、どうぞ、中に入って」


 綾上を迎えて、俺は返事をする。


「うん♡」


 ご機嫌な様子の綾上が「お邪魔しまーす」と口にしてから、家に上がった。


「いらっしゃい、鈴ちゃん」


 そして、待っていましたとばかりにリビングから顔を出してきた幸那ちゃん。


 綾上が来ることを知っていたため、普段のリラックスした部屋着ではなく、お出掛けようの洋服に着替えていた。

 大好きな綾上に、オシャレした自分を見てもらいたかったのだろう。

 そう思うと、お兄ちゃんはなんだか胸がキュンとときめいてしまう。


「お邪魔します、幸那ちゃん!」


 綾上は、幸那ちゃんに微笑みかけてから、頭を撫でる。

 撫でられた幸那ちゃんは照れくさそうに俯いたが、その横顔を見ると、喜んでいるのがすぐにわかった。


 尊い……。

 二人の仲睦まじい様子を見て、そんなことを思いつつ、俺は綾上に言った。


「それじゃ、部屋で準備してるから」


「あ、うん。お願いします」


 幸那ちゃんを堪能しながら、綾上は返事をした。


「す、鈴ちゃん……、私は良いから、兄さんの部屋に行ってください」


 綾上に抱きしめられながら、幸那ちゃんはそう言った。

 

「……うん、そうするね」


 名残惜しそうな表情で綾上は応えてから、最後にもう一度ギュッと幸那ちゃんを強く抱きしめてから、俺の後を追うように階段を上る。


「頑張って、ください」


 幸那ちゃんは綾上に向かって、顔を真っ赤にしながら声をかけた。

 嬉しいのと恥ずかしいのでどうにかなってしまいそうなのだろう。


 そして、俺は綾上とともに自室へと入った。


「……君の部屋に入るのは、初めてだね」


「そうだな」


 俺は、かつてこの部屋の入り口で追い返した綾上のことを思い出していた。

 おそらく、綾上も扉を見て同じことを考えていた。


「今日は我慢、できそう?」


 悪戯っぽく問いかけてくる綾上。


「できるっての。ちゃんとした目的があるわけだしな」


 俺は答えてから、しっかりと今日の目的を思い出す。


 夏休みも、もうすぐ終わるのだ。

 俺の夏休みは、綾上とあいさんのおかげ(せい)で、かなり刺激的な日々だった。

 そして、綾上はそんな俺よりもずっと大変な日々を過ごしたに違いない。


 その証拠に。


「それじゃ、ちゃちゃっと初めてぱぱっと終わらせるか。……夏休みの宿題を」


「うん、よろしくお願いします!」


 残り夏休み三日。

 にもかかわらず、綾上は一切宿題に手を付けていなかった。


 というのも、綾上は夏休み期間中は執筆ばかりで、学校の課題に全く手を付けていなかったのだ。

 例年ならば速攻終わらせるようなのだが、今年は全く手を付けておらず、どうしようかと思って俺を頼ったようだった。


 もちろん。俺は既に宿題を終わらせていた。

 

 そういうわけで、今日は部屋で綾上の宿題を手伝うことにしたのだ。


 ローテーブルを使って、二人で隣同士座りながら、俺の宿題を写したり、教えたりする。


「とりあえず……数学はかなり課題少なかったし、サクッと済ませようか」


「うん♡」


 俺がテキストをテーブルに広げると、綾上も同じようにした。

 そして、俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。

 

 ……早速すぎる。

 宿題をサクッと済ませる流れはどこにいってしまったのか……?


「助けてくれて、ありがと! お礼に、今日は……なんでも言うこと聞くね?」


 ちらり、とベッドを一瞥してから、綾上は言った。

 心なしか、胸も押し付けられているような気がする。

 

 ……やっべー、すごいドキドキする。

 俺は少し気まずくなるが、彼女の「なんでも言うことを聞く」を利用することにした。


「あの……綾上さん。それじゃ早速言うことを聞いてほしいことがあるんだけど」


「ん、早速だね。ちょっと、恥ずかしいけど……うん、いいよ♡それで、何かな?」


 首を傾げつつ、上目遣いで反応する綾上。

 可愛い。抱きしめてキスをしたくなる。


 しかし、俺はその可愛さに惑わされぬように気を確かに持つ。


「……宿題が終わるまでは、イチャイチャ禁止ね」


 俺が言うと、


「……え?」


 と、唖然とした表情で呟いた綾上。


「宿題終わんないと、綾上が大変だろ。イチャイチャしまくって、結局終わんなかったら、こうして一緒に勉強する意味がないだろ」


 俺の言葉を聞いて、神妙な表情で頷いた綾上。


「……分かった、君と一緒に居るのにイチャイチャできないのはすっごく悲しいけど。君が私のことを考えてくれているのが分かったので、言うことを聞きます」


「うん、そうしてくれ」


「でもね、頑張って宿題終わらせたら……たくさん甘えても良いよね?」


 涙を浮かべたまま、綾上が問いかける。

 ……可愛すぎだろ、綾上。

 これ、卑怯だから。

 甘えさせたくなるに決まってるじゃん。


「だめだと思います」


 しかし俺は固い意志でそう告げた。


「……うぅ」


 俺の返事を聞いて、酷く悲しそうな表情をした綾上に、


「……少しだけなら、良いけど」


 俺はそう言った。


「……えへへ」


 綾上は笑ってから、俺のほっぺにキスをした。

 彼女の頭をポンポンと撫でてから、俺は宣言する。


「……それじゃ、こっからはイチャイチャ禁止。勉強に集中な」





 数時間ほどが経過した。

 あれから、俺たちは真面目に、イチャイチャせずに課題に取り組んだ。

 

「これで、数学の課題と英語の課題は終わりだね」


「そうだな。これまで集中してできたし、ちょっと休憩するか。飲み物、追加で取ってくるよ」


 俺はそう言って立ち上がり、部屋から出ようとするのだが……。

 

「離れたくないです……」


 綾上は後ろから俺の腰にしがみついて言った。 


「あの、綾上さん? すぐ戻ってくるんだけど」


「それでも、折角一緒にいるんだから、離れたくないの!」


 いや、俺も綾上とは離れたくないと思ってるけどさ!

 ほんのちょっとだけじゃん!?


「……分かった」


 と思いつつ、俺は綾上の言葉が嬉しかったので一緒に居ることにした。

 座ると、綾上が俺の腕にぎゅっと引っ付いてくる。


「イチャイチャ禁止って言ったよね?」


「宿題が終わったら、甘えても良いって言ったよね?」


「まだ終わってないよね?」


「でも数学と英語は終わったよね?」


 綾上の強い意志を秘めた瞳に見つめられて、俺は言葉に詰まる。


「……10分だけ、絶対それ以上イチャイチャはしないから!」


「やった! じゃあ、10分間で沢山甘えさせてね♡」


 綾上が嬉しそうに言って、俺の首筋にキスをしてきた。


 首筋から唇を離した後、ベッドに視線を送ってから口を開く。


「ねぇ、ベッドがあるね」


「ベッドがあるよ。不思議なことじゃないよ」


「……また腕枕、して欲しいな♡」


 つん、と俺の上腕二頭筋に指を突きつつ、綾上は甘えた声で言った。


「ダメです」


 しかし俺は、流石にそれを拒絶した。


 それは、甘やかしすぎだろう。

 今日はイチャイチャをする日ではなく、宿題を終わらせる日だ。

 休憩のたびにここまでいちゃついていたら、終わる課題も終わらない。


 しかし、綾上は納得がいかない様子。

 必死に俺を説得してくるが……俺の意志は固い。


 そんな目で見てきても、ダメなものはだめだから!


 悪いが今日の俺は、そこまで綾上を甘えさせてあげられないからなっ!


~1分後~


「やっぱり私これ好き―♡」


 綾上が俺に腕枕をされながら、幸せそうに言った。




 ――俺は即堕ちだった。




 あれ? あれれ? おかしいですよ? あれー?

 こんなはずじゃなかったのに、いつの間にか綾上に腕枕をしていた。


 うーん、……どうなってんだこれ?

 俺が思い出そうとしていると、綾上が俺の首筋にキスをする。


「君からもキスして欲しいな♡」


 綾上がおねだりをしてくる。

 俺は彼女のおでこに、軽くキスをした。


「……好き♡」


コンコンコン


 綾上はそう言って、俺の耳たぶに甘噛みをしてきた。


コンコンコン


「ちょ、それなんかヤバ……くすぐったいから!」


 俺が身をよじると、それが面白かったのか、


コンコンコンコン


「やめないよー?」


 と、悪戯っぽく微笑みながら――


ガチャ


 と、いう音が、唐突に耳に届いた。

 扉が開けられた。俺と綾上はそちらへと視線を向けた。


「え、えと……」


 そして扉の前では、飲み物とお菓子をトレーに乗せた幸那ちゃんが、呆然と立ち尽くしていた。


「課題を頑張ってると思って、差し入れを持ってきたんだけど……」


 幸那ちゃんの表情が強張っている。


「えと、これはどういうことなの?」


 幸那ちゃんは俺に生気の宿らない瞳を向けてそう尋ねた。


「二人はまだ、ちゃんとお付き合いしていないんだよね?」


 ……幸那ちゃん、ちょっと怒ってる?


「う、うん。そうです」


 俺の返答に、幸那ちゃんは大きくため息を吐いてから、ゆっくりと告げた。


「――二人とも。大事なお話があるので、私の部屋に来てください」


 幸那ちゃんの無表情が怖かったので、俺と綾上は無言で頷いた。


 

 こうして。

 幸那ちゃんの説教が、始まるのだった――

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ぜひ読んでください(*'ω'*)

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