33、美少女作家と夏祭り(下)
突然のことに、俺は動揺する。
「ちょ、綾上……いきなりどうした!?」
「好き、好き、大好き♡もう我慢できないよっ!」
俺の身体に抱き着きながら、綾上は首筋にキスをしてくる。
何度も何度も、何度も。
人気のない場所で、抱き着いてくる大好きな可愛い女の子。
……理性が持ちそうにないです。
「綾上、ブレーキ! ちょっと止めて!」
「いやっ!」
そう言って、頬にもキスをしてきた。
「口にもチューしたいです♡」
耳元で囁いてから、綾上は俺の唇を指先で触ってくる。
エロい、エロいです綾上さん……。
「ストップ! 本当にどうしたの、綾上!?」
肩を掴んで、強引に身体から引き離す。
綾上はとても残念そうにしてから、恨めしそうにこちらを見てから、
「可愛いって言ってくれたり、歩くペースを合わせたり、私の不調にすぐに気づいてくれたり……。今日の君が、とっても素敵なのがいけないんだから! ……責任取って。私とキスして。結婚して!」
そう言って、綾上はまた俺に抱き着いた。
ぎゅっと、力を込めて俺から離れようとしない。
「それは……お互い、待つって話だっただろ?」
俺は困惑しながらも、そう言った。
その言葉を聞いて、綾上の動きが止まる。
「待つけど、そうだけど。……でも、君がかっこよすぎるから、私、待つのがすっごく辛いんだよ? ……ちょっとだけ甘えても良いでしょ?」
綾上は上目遣いにそう言った。
その言葉と表情が可愛すぎて、理性が止めるのも振り切って、思わず俺も彼女を抱きしめた。
そして、綾上の首筋にキスをする。
「ホントは唇にして欲しいのに……」
綾上は、俺の耳元で嬉しそうに囁く。
そして、彼女も俺の首筋にキスをした。
抱き合って、互いの体温を感じて、長いキスをした。
「キスだけじゃ我慢できないよ……」
綾上が切なそうな声を出す。
俺も我慢が出来そうにない。
「……我慢してください」
だけど、自分に言い聞かせるように俺は呟いた。
「……うん、我慢する。だから、もっとぎゅっとして?」
俺は彼女の身体をきつく抱きしめて、無言のまま応えることにした。
☆
俺たちはそれから何度もキスを繰り返した。
しばらくしてから冷静さを取り戻して、それからようやく雑木林から出た。
「うわ、花火の時間もうすぐだ!」
スマホで時間を確認してから、驚く。
ここに来る前は、結構余裕があったと思ってたんだけど……。
「……君が私を離してくれなかったからだよ♡」
悪戯っぽく綾上は言って、俺の頬を指先で突いてきた。
それはお互い様だ。
そう文句を言ってやろうかと思ったのだが、
「綾上、着崩れてる! 胸元が……」
明りに照らされた綾上を見ると、胸元が乱れて、非常におエロいことになっていた。
「君が激しくするから……♡」
綾上は両手で顔を隠しながら、そんなことを言った。
「絶対に正しい表現じゃないのに、言い返せないのが悔しい……」
俺の返答に満足したのか、笑顔を浮かべた綾上は手早く着崩れを直した。
それを見てから、俺も落ち着いて綾上に話す余裕ができる。
「それじゃ、もうすぐ花火だし。どっか落ち着いて見られそうな場所を探そうか」
「ちょっと待って」
「ん、どうかした?」
俺が尋ねると、綾上は視線を動かした。
どうしたんだろう?
そう思った俺の耳に、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「やっほー、久しぶりだねー、二人とも」
その声を聞いて、俺は緊張に身体を強張らせた。
どうして、この人がここに?
「こんばんは、鹿島先生」
動揺する俺をよそに、綾上は平然とその女性――あいさんに返事をした。
「こんばんはー。お姉さんは一人で寂しかったのに、二人は仲良く夏祭りデートをしてたの? 酷いなー……ね、もとべぇ君?」
「なんで……ここにいるんですか?」
俺の言葉に応えたのは、目の前に佇むあいさんではなく、隣に立つ綾上だった。
「ここで会ったのは偶然だったけど。元々今日は鹿島先生に会うつもりで、私が呼んでいたの。……ちゃんと、話がしたかったから」




