27、美少女作家とご休憩
どうしてこうなった……?
ラブホテルの一室、ベッドに一人腰かける俺の耳に、シャワー室から漏れる音が届いた。
雨宿りのために、どこかの店に入る、というのは分かる。
だけど、それがなぜラブホテルなんだよ……。
しかも今、綾上は俺とあいさんの仲を誤解している。
綾上は怒っていることだろう。
ここは、その怒りを向けている相手と来るような場所じゃないはず。
……酷く落ち着かない。
考えが、まとまらない。
ガチャリ
いつの間にか、綾上は浴室から出てきた。
「次。入ったら? 濡れたまんまだと風邪ひくよ」
冷たい声の綾上。
「う、うん。次入って……うおぉぉぉぉぉぉおおぉ!??」
顔を上げて、出てきた綾上を見て、俺は叫んだ。
叫ばずにはいられないっ!
「……何?」
胡乱気な視線を俺に向けてくる綾上。
「あ、綾上! 服、服は!?」
そんな綾上――バスタオル一枚だけを胸元に巻き付けた綾上に。
俺は当然のことを聞いた。
綾上は、胸元のタオルを握りしめて、赤くした顔を俯かせて言う。
「……濡れた服を着っぱなしだと、気持ち悪いでしょ」
「……そ、そうですか」
そうかもしれないけど……濡れた服は気持ち悪いかもだけど!
そう思いつつ、俺は浴室へと逃げた。
脱衣してからシャワーを浴びる。
浴室にあった特徴的なバスチェアを見て、鼓動が高鳴る。
やっぱりここは、そういうところなんだなぁ、と顔が熱くなる。
俺はいつもより少し長くシャワーを浴びて。
浴室から脱衣所へ戻るのだが。
……脱いだはずの服が無かった。
どうしたものかと考え込むが、どうしようもないことにすぐ気づく。
溜め息を吐いてから、腰にタオルを巻いて脱衣所からでる。
「うわ、寒っ」
部屋は、いつの間にか冷房が効いていて、かなり寒かった。
「え、なんでこんな冷房きかせてるの? ていうか、俺の服……」
ベッドの上で腰かけている綾上は、部屋の片隅を指さしてから俺に応える。
「そこに干してるよ。冷房の風で、ちょっとは乾くかもでしょ?」
応えた綾上は、タオル一枚腰に巻いただけの俺を見て、顔を赤くしていた。
「立ちっぱなしじゃ疲れるでしょ。……座ったら?」
ぽんぽん、と自分の隣を叩く綾上。
……いや、そこはまずい。
「座って」
立ち尽くす俺に、今度ははっきりと告げた綾上。
怒っていらっしゃる……。
俺は素直に、その言葉に従って彼女の隣に腰かけた。
……。
会話はなかった。
気まずい。
恥ずかしい。
そして……ヤバい。何がヤバいって……ヤバくない要素がない。
とりあえずそのくらいヤバい。
俺も綾上も半裸だ。
そして、ベッドの上だ。
意識しないようにするのは難しい。
綾上が何を考えているのかも……やはり、わからない。
「服乾かすためって言ってもさ、さすがに寒くない?」
沈黙に耐えかねて、俺はそう問いかけた。
「うん、寒いね」
綾上は首肯した。
「……空調、弱くするから」
そう告げて、立ち上がろうとしたのだが、そうさせないように俺の手を握り締めてきた綾上。
振り返ると、綾上が潤んだ瞳でこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「……どうせこれから汗だくになるんだから。このままでいいよ」
「……は?」
綾上の言っている意味が分からなくて、思わず俺は呟いた。
「ここが、どういうことをする場所か……君もわかってるよね?」
「……分かってる、けど」
ダメだった。
綾上と、まともに目を合わせることができない。
「ねぇ。私のこと、今もホントに好き?」
「……うん、好きだよ」
顔を合わせられないまま、俺は答えた。
返事を聞いた綾上は、掴んだ手に強く力を込めた。
「なら……して?」
耳元で、綾上が甘く囁いた。
その囁き声を聞いて、俺の全身は緊張で強張った。
その瞬間、彼女は俺の身体を押し倒す。
急なことで抵抗ができなかった俺は、ベッドの上に仰向きに倒された。
そして、俺の上に馬乗りになった綾上。
彼女は妖しく、暗い魅力を湛えた笑みを浮かべた。
「あ、綾上!? 」
俺の唇に、綾上は細くしなやかな人差し指で触れて、口止めをした。
「君は、ひどい人だよね。こんなに私は君のことが大好きなのに。君は平気で浮気するんだもん」
唇から、胸へ指先が伝う。
俺の左胸に手を当てて、愛おしそうな表情を見せた。
「すごい、ドキドキしてるね」
浮気なんてしていない、そう言いたかったのに。
――彼女の危うさに見惚れて、俺は何も言えなかった。




