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17、謎の美女とプール②


「さてさて、お姉さんの水着のお披露目もすんだことだしー。プールを満喫することにしよっかー」


 ご機嫌な様子のあいさんは「準備体操を忘れたらだめだよー」と言って、屈伸運動を始めた。

 ……よっぽどプールで遊びたかったんだなぁ。

 俺はそう思いつつ、同じように準備体操を行いつつ、言う。


「そうですね。あいさんのやりたいことあれば、付き合いますよ」


 俺がそう言うと、彼女はうーんと首を傾げて考えこんだ後。


「……急にそう言われると、あんまり思いつかないかなー」


 たははー、と舌を出して笑った。。


 ええ、あいさんがプールに来たかったんでしょ!?

 

「ていうか。……プールって何して遊ぶところですか? 泳げばいいんですか? 競争でもします?」


 俺の言葉を聞いたあいさんは、「それは別にしなくてもいっかなー」と呟いてから、一番近くにあった、普通のプールに勢いよく飛びこんだ。


「やーん、冷たー!」


 と、嬉しそうにはしゃぐあいさん。

 近くに人が偶然いなかったからよかったけど、飛び込むのは危ないでしょ……。


 俺はゆっくりとプールに入ることにした。


「おー、確かに。冷た……」


 ヒンヤリと冷たい水温に、俺も反応した。


「……えいっ!」


 そんな俺に、あいさんがいきなり水をかけてきた。


「わ、ちょ……いきなりなんですか、冷たいじゃないですか!」


「いやぁ、男女がプールや海ですることといえば、これしかないでしょ。……水の掛け合いっこ―!」


 楽しそうに、「それー」とか言いつつ、問答無用で俺に向かって水かけを続けるあいさん。

 そのたびに、胸が……いや、だめだ。見てはだめだ。

 俺は不屈の精神で、なんとかその魅惑のボディから視線を逸らすことに成功。

 その後、バシャバシャと為す術もなく、水を食らい続ける羽目となる。


 俺はただ突っ立っているだけなのに、あいさんは飽きもせずに続ける。


「ちょ、長いですよ……」


「まだまだー」


 ……俺も水をかけ返すことにしよう。


 俺は無言のまま、これまでの不満を表明するように、あいさんに向かって思いっきり水を掛ける。


「あ、やったなー。お返しだよー」


 あいさんはこの期に及んで楽しそうにそんなことを言っていた。


 俺は無言で応戦する。


 そして、普通に腕が疲れ始めたころに、俺は口を開いた。


「……これ。別に楽しくないです」


 俺のどんよりと沈んだ表情を見たためか、あいさんも手を止めた。

 そして、少し考えこむ仕草をしてから、閃いたように、笑顔を浮かべた。


「あ、それならさ! 私のことを、君の好きな女の子だと思ってやってみなよ! きっと楽しくなるよー?」


「……思いませんよ。ていうか、そんなことで楽しくなるわけがないです」


「そーお? お姉さんはもとべぇ君と水の掛け合いっこ出来て、楽しかったけどなー」


 そりゃあいさんは良いストレス解消になったでしょうね、という皮肉は心の内に留めておく。


「でも、それなら仕方ないね。移動しよっかー」


 あいさんがそう提案したので、お互いにプールから出ることにした。

 そして、アトラクション系のプールの鉄板とも言える流れるプールへと、俺たちは向かうことにした。

 

 そして、混雑する流れるプールを見て、俺は戦慄することとなった。


「……ストップ、あいさん。危険です、ここから先は超危険です」


「危険? 大丈夫だよ、足つくし、ほら浮き輪だって借りてきてるし」


「いいえ、危険です。ここにいるやつらを見てください!」


「何言ってるの、もとべぇ君……?」


 不思議そうに首を傾げたあいさん。

 流れるプール、そこにいたのが誰なのか……。


「お子様1割女性客1割、残り8割バカップルしかいません! 見てくださいよ、人目を憚らずイチャイチャちゅっちゅするこの馬鹿どもを……!」


 小さな子供もいるし、真昼間から何やってんだ……と思わずにはいられない。

 カップルたちの多くが密着していたり、キッスをしていたり。

 こんなところで俺とあいさんが流されるのは、危険だ!


 そう思って力説しているのだが、あいさんはただこちらにジト目を向けてくるばかり。

 くそう、なぜわかってくれないんだ。

 そう焦った俺に……、


「うひゃぁっ! 何するんですか?」


 あいさんは、指先でわき腹をつんと突いてきた。

 思わず、情けない声をあげてしまう。


「お姉さんと流れるプールに入って、周りの人にカップルだと思われるのが、恥ずかしいのかなー?」


 悪戯っぽく微笑みを浮かべつつ、ツンツン、と俺のわき腹を突き続けるあいさん。

 わき腹を突かれるのが、無性に恥ずかしくて。俺は彼女の手を握って


「ち、違いますから、そういうことじゃないですからっ!」


「やーん、もとべぇ君ムキになっちゃってー、このこのー。お姉さんのこと、意識しすぎだぞ―♡」


 握られた手に視線を向けながら、嬉しそうにはしゃぐあいさん。

 そういうわけじゃないのに……!

 俺は恨めし気にあいさんを見てから、一つ溜め息を吐いて、彼女の手を離した。


「ま、そだねー。君の好きな女の子と来た時のために。イチャイチャちゅっちゅのお楽しみにとっといたほうが良いのかもね-」


 こちらをニヤニヤとした笑い顔で見ながら、あいさんは言った。


 いろいろ言い返したかったが、確かに綾上と一緒にここでイチャイチャしたい。

 そう思った俺は下手な反論はしないことにした。


「それじゃ、次は……ウォータースライダーでも行かない?」


「お、良いですね。プールに来たって感じがします、ウォータースライダー」


 そういえば、そういうものがあるのか、プールには。

 水をかけあうことや流れるプールよりも、よっぽど楽しそうだ!


 俺は少しテンションが上がるのだが、その前に……トイレに行っておきたい。


「……あ、すんません。俺ちょっとトイレ行ってきます」


「分かったー。この辺でぶらぶらしとくから。すぐに戻ってきてねー♡」


 こちらに手を振るあいさんに、俺は首肯して、トイレへと向かうことにした。



 そして、トイレを済ませた後。

 先ほどあいさんと別れたところへと向かう。

 5分も経っていないだろうし、そんなに暇はしていないだろうけど、早めに向かおう。


 そんなことを考えていると……見つけた。



「お姉さんマジタイプなんだけど。良かったら、俺らと一緒に遊ばね?」


「一人でいるより、三人の方が絶対楽しいってさ!」


 チャラそうな金髪とパーマの二人組の男に、ナンパされているあいさんを。


 ……すげぇ、5分も目を離していないはずなのに、本当にナンパされちゃったよあいさん。


「あー、ごめんなさい。私、一緒に来てる人がいるからー」


 困ったように、引き攣った笑顔を浮かべながら、あいさんは言った。


「えー、何? 友達?」


「そしたらその子も一緒に遊べばよくね?」


 金髪とパーマは、困惑するあいさんに向かってそう言った。


 拒絶を示すものの、それでもしつこく男二人は食い下がるのだ。



 困った様子のあいさんを見て、俺は思った。



 ……助けなくっちゃいけないな。



 すぐに俺は三人に近づいて、後ろからあいさんに声をかける。


「お待たせしました。……あれ、この二人は、あいさんの知り合いですか?」


 ぱっと振り返ってから、明るい表情を見せたあいさんが、口を開いた。


「ううん、違うよー。ちょっと遊ばないか、って声を掛けられちゃってて」


 あいさんが俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。

 ついでに胸も押し付けられてきた。


 あまりの威力に一瞬意識をすべて持っていかれたが、自分の役割――ナンパよけを果たすために、俺は二人の男に向かって言った。


「あー、こういうことなんで。すみません」


 すると、ナンパ男二人はバツが悪そうな表情を浮かべてから。


「あー、彼氏持ちかよ。ほらみろ、やっぱこんないい女が一人でいるわけないんだよ」


「いやいや、ダメで元々つったのは、お前もだろ? てっか彼氏くんさぁ、こんな綺麗な彼女一人にしたらナンパされるって分かってるでしょ? 傍にいなきゃいかんでしょー」


「あ、ははは。気を付けます」


「んじゃ、邪魔して悪かったねー」


「楽しんでいってねー」


「あ、どもです」


 意外とあっさり引いたナンパ男二人。


 俺がその二人の背中を見送ったあと。



 隣にいるあいさんが、こちらに満面の笑顔を向けてから、問いかけてきた。


「ねぇ、もとべぇ君。……『こういうこと』って、どういうことなのかなー?」


 ……。


「こんな可愛い彼女を一人にしたら? ナンパされるの分かってるよね?? 傍にいなきゃいかんよね???」


 …………。


「――もう、お姉さんを一人にしちゃだめなんだぞ♡」






 ぎゅ、とさらにきつく俺の腕に抱き着き、頬を擦り付けてくるあいさん。




 


 俺は大きくため息を吐いてから、脱力しつつ言う。



「……勘弁してくださいよ」



 俺の情けない哀願を聞いたあいさんは、その魅力的な笑顔を、さらに輝かせていた――。


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新作投稿!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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