12、謎の美女と待ち合わせ
今日の天気は晴れ。
外は、地獄のような暑さだ。
流石に外出する気も起らず、俺は冷房が良く効いた部屋の中で、黙々と読書をしていた。
……うん、この作品は叩くところなさそうだな。
結構、面白かった。
読み終えた本を閉じ、そしてクソレビュアーとしての俺の出番がなかったことに、安堵の息を漏らす。
なぜ安堵したのかというと……。
俺は、スマホでレビューサイトのページを開いた。
『マジで、クソレビュアー君、投稿頻度上がりすぎw』
『一緒にいてくれる友達も彼女もいなくて? やることが小説叩きwww』
『やっべ、かわいそうになってきたわwww』
「かわいそうと思うのなら、心をえぐるようなことを言わないでいただきたい……」
俺の投稿についたコメント。
やはり、俺自身のアンチが多い。
レビューを投稿すれば、おそらくまためっちゃ叩かれる。
それにしても……くぅ、辛い。
誰も俺の崇高な思想に共感してくれず、辛いっ!
スマホをスリープさせてから、今度はため息を吐く。
……一心不乱に小説を読んでたからか、少しのどが渇いたな。
下で何か飲もう。
そう思った俺は、スマホを握ったまま部屋を出ようとするのだが。
「ん、電話か?」
スマホが振動し、着信を告げていた。
画面を見ると『あいさん』の文字が。
……
見なかったことにしようかなとも思ったけれど、かなり長い時間コールが続いている。
俺は決意してから、画面の【通話】ボタンを押した。
『こらー、電話に出るの、遅いよー? お姉さん、ちょっぴり悲しい』
シクシク、とわざとらしく言うあいさん。
「はぁ、すみません。それで、どうしたんですか、電話なんて?」
単刀直入に、俺は用件を聞いた。
『一緒にご飯を食べたかったから。そのお誘いだよー』
「ご飯ですか? ……俺と? 彼氏とかと行けばいいんじゃないですか?」
『……わ!? 何、今の。もしかして?今お姉さん……もとべぇ君に口説かれてるー!?』
驚いたような声を出すあいさん。
何を言っているんだ、この人は。
「口説いてないです。どうしてそうなったのか、聞きたいくらいです」
『いやいや、今のは「俺の彼女になれば、一緒にご飯くらいいくぜ、は~ん?」っていうことでしょー? いやぁ、大胆な告白だなぁ、お姉さん、びっくりしたぞ!』
「電話切っても良いですよね」
『はい、ストップ! 今のは、もとべぇ君もいけないと思うよ~。彼氏いないの? 発言は普通にセクハラ! 以後、気を付ける様にねー』
「普通に彼氏いないって言ってくれたらよかったのに」
『はいもとべぇ君は今、お姉さんを怒らせました。今日会った時にお仕置きをするので、覚悟をしていてね♡』
プツッ、とスマホから電話が切れた音が。
……確かに、ちょっと失礼なことを言ったな、と反省する俺。
そうしていると、スマホにメッセージが届く。
あいさん:18時30分にこの間の駅、改札前集合! 逃げちゃだめだぞ♡
俺はそのメッセージを見てから、
もとべぇ:了解です。……反省してます。
とだけ、送ったのだった。
☆
時刻は18時27分。
電車から降りて、改札前に来たのだが、丁度良い時間の電車があって良かった。
集合時間まで少し時間はあるものの、あいさんももうすぐ来るだろう。
俺がそう思っていると……唐突に、視界が真っ暗になった。
「だーれだ?」
飴玉を転がしたような、甘い女性の声が耳に届く。
目元には、温かな感触が。
俺は、どうやら目隠しをされているらしい。
俺にこんなことをする女の子は、綾上か幸那ちゃん(ここ3年はされていないが)くらいしか思いつかない。
だが、偶然俺を見つけた二人がはしゃいだわけではないだろう。
……背中にふにっ、と当たる二つの暴力的なその質量が、何よりも確かな証拠だ。
「……あいさん」
「わー、正解だー」
と、言うものの、あいさんは俺の顔から手をどけようとしない。
「あの、あいさん。……そろそろやめてもらっても良いですか?」
俺は問いかけるのだが。
「もとべぇ君は、どうして私だってわかったのかなー?」
言いつつ、あいさんは俺の背中に当たる二つのそれを、さらに押し付けてきた。
……これ、絶対気づいてる。
言わせる気だ、この人。
初心な男子高校生の口から、ちょっぴりエッチなセリフを……!!
「いや、待ち合わせたのがあいさんだったか「胸、でしょ?」……はい」
図星だった俺は、神妙に返事をして、頷いた。
その言葉に、返答はなかった。
どうしたのだろうか、そう思っていると、
「エッチだね、もとべぇ君は……♡」
耳を、あいさんの吐息が撫でた。
俺はくすぐったさと恥ずかしさを覚え、全身をびくりと震わせてた。
「さて、もとべぇ君の恥ずかしがる顔も見られたし、お仕置きはこれでおしまいかな。……それでは。何か、言うことはないかな?」
俺の目元から手を離し、正面に回り込んだあいさんが、首を傾げながらそう言う。
「……失礼なことを言いました。すみません」
俺は、素直に謝ることにした。
すると、あいさんは背伸びをして、俺の頭にぽん、と手を置いて。
ゆっくりと、優しく頭を撫でてきた。
「ちょ、あいさん!?」
これは、まずい。
何故なら、あいさんの今日の服装は……結構、胸元が開いている。
その状態で、正面から頭を撫でられたら、こう、絶対意識してしまう。
俺は、申し訳なくなって、無理矢理そこから視線を逸らした。
「えらいね、もとべぇ君は。ちゃんと謝れて」
そう言ってから、頭から手を離し、今度は俺の額に、軽くデコピンをしてきた。
「いてっ」
俺が反応すると、あいさんは満足げな表情を浮かべて、言った。
「だけど次は、この程度のお仕置きじゃ済ませないからねー」
快活に笑うあいさんを見て、俺は思った。
……どっちかというと、これってご褒美でしょ? と。




