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11、美少女作家とお化け屋敷

 小川と原田がジェットコースターから戻り、合流した。


 二人は俺たちが手を繋いでいるのを見て、ニヤリと笑ったが、俺は気にしないことにした。


「良かったねー綾上ちゃん?」


 ……そんなこと言われても、絶対に気にしないぞ!



 ――そして、今度は案内を見ながら園内を歩きつつ、興味のあるアトラクションで遊ぶことに。

 

「コーヒーカップ、人全然いないし、ウチ乗ってみたいかも!」


「極寒体験ができるアトラクション!? ちょっと暑いし、入ってみよーぜ」


「巨大迷路……興味ある、かも」


「VR体験アトラクションもあるんだ、これやってみない?」



 そんな風に、いろいろなアトラクションを楽しんでから、俺たちはあるアトラクションを発見した。



「あれってさー」

「お化け屋敷だよな?」

「お化け屋敷だな」


 

 原田が指さした方向を、俺と小川と綾上が見た



「……行ってみたい」


 綾上が俺の手をぎゅっ、と握りしめて、言った。

 

 ……不意にそんなことをされるとさ、めっちゃドキッとするんだよね。


「「それ、あり!」」


 綾上の言葉に、小川と原田が応えたことにより、次の目的地が決まったのだった。





「はい、何名様ですかー?」


「二名です」


 にこにこと笑顔を浮かべる、死装束姿のお姉さんに案内をされて、前を歩く小川と原田がお化屋敷へと入場した。


 恐ろしげな雰囲気が演出されたアトラクション内。

 次は、俺と綾上の案内される番。


 そんな時に、彼女が耳打ちをしてくる。


「幸那ちゃんは怖いの苦手みたいだけど。君は、こういうの平気なの?」


「うん、幸那ちゃんの頼れるお兄ちゃんでいるために、ホラー系にはかなり耐性があると自負している」


 幸那ちゃんは怖いのがとっても苦手なのだ。

 一緒にホラー映画とか見ると、怯える幸那ちゃんが俺にくっついてきて、超楽しいし超かわいい。


「綾上はどうなんだ?」


「……実は私、怖いのって平気なんだよね」


「……へぇ、そうなんだ」


 俺はてっきり、


「きゃー、こわーい」

「怖いことなんかないさ」

「きゃー、頼りになるー! ……好き」


 みたいな?

 超絶頭の悪いやり取りがあるのかなと、勝手に思っていた。

 

 それはなさそうで、少し安心したと同時に、少し残念にも思った。


「うん。私、夜中寝付けない時にネットで怖い話を検索してるから。そして、その怖い話を作家としての想像力をフル活用して脳内でイメージ再生しているから、ホラー系には耐性があるの」


「何やってんの綾上……そんなんしてたら寝付けるわけないじゃん」


 涼しげな表情で語る綾上に、俺はちょっと引き気味で言う。


「えと、そういう時はもう開き直るのが私のスタンダードなのです」


 ……変わってんな、綾上。


「えへへ、変だよね?」


 そう言って、上目遣いでこちらを覗き見る綾上。

 変だけど可愛いから問題なし。


「変だけど、別にいいんじゃね?」


 俺が返答すると、横から声がかけられた。


「次、お二人ですね?」


 案内役のお姉さんだ。

「はい」と、一言応じると、


「それでは、どうぞいってらっしゃい」


 と、お化け屋敷に通じる扉が開かれた。

 そうして、アトラクション内へと俺たちは足を踏み入れる。



「……さっきのとこより、暗いね」



 そう言って、これまでよりも距離を詰めてくる綾上。

 ……というか、腕を組んでくる綾上。

 かなり密着していて、歩きにくいというか恥ずかしいというか柔らかい、というか……。


「あの、綾上さん。……怖いの平気だったんじゃないの?」


 俺は必死に理性を働かせて、綾上へと問いかける。


「……えへへ」


 ぎゅ、とさらにきつく俺の腕に抱き着く綾上。


「いや、えへへじゃなくて」


「えと、せっかくだし。お化け屋敷で好きな男の子に抱き着いてドキドキする女の子の気持ちを味わいたくて。大事な取材なんだけど……」


 綾上は上目遣いでこちらを見て……。


「ダメ、かな?」





 俺におねだりをしてきた。

 




 薄暗いこの施設内。

 綾上と密着するなんて、俺の理性はもつのだろうか?



 ――俺には全く、自信がなかった。











「ダメじゃないです」









 自信はなかったが、せっかくのこのシチュエーションを逃したくないとも思った俺は、そう返答していた。



「やった! 嬉しいです♡」



 綾上が、満面の笑みを浮かべたので、俺はもう満足だった。



 ……そして、二人でお化け屋敷の中をゆっくりと進んでいった。


 道中、様々な仕掛けがあり、怖さに耐性のある俺でも驚く場面があったのだが。


 そのたびに、


「きゃー、怖いよー!」

「わぁ、びっくりした!」

「やだ、もう……怖い!」


 わざとらしくあざとく恐れおののく綾上が、お化け屋敷の仕掛けに驚くたびに、俺に密着をしてきたため、瞬時に恐怖は消え失せてしまうのだった――。



「う、うん。……それな!」 


 抱き着いてくる綾上のことを極力意識しないように、適当に言葉を返しつつ、思う。

 まさかお化け屋敷の中だというのに、俺は恐怖とではなく自分の理性と戦うことになるとはな、と。


 




「おーい、こっちだ。どうだった? 結構ビビったよなー」


 綾上の誘惑に耐え、何とかアトラクションを無事に終えた俺たち。


 出口近くには、小川と原田がいた。


 心なしか、お化け屋敷に入る前よりも、イチャイチャ感が増しているように思える。

 原田は頬を上気させ、満足そうに笑っているし。


 ……が、それは綾上と俺も同じだろう。


「それじゃ、次のところ行こうか」


 それを追及しないまま、俺たちは移動を開始した。


 ――そして。

 俺たちは遊園地を堪能した。

 各アトラクションを楽しみ、そしてもう一度、一番最初に乗ったジェットコースターにも再チャレンジした。


「ふぅ、やっぱり良いな、このジェットコースター」


「ねー、ウチめっちゃ楽しかった」


 小川と原田の言葉に、俺と綾上も苦笑を浮かべつつ頷いた。


 覚悟をして乗った今回は、一回目よりも様々な意味で負担が軽かったため、休憩を要するほどではなかった。

 純粋にジェットコースターを楽しめたと思う。


「それでさ。最後にさ、もう一個乗りたいのがあるんだよねー」


 原田が目を輝かせて指さしたのは……観覧車だった。


「うん、うん! 良いね、観覧車! 乗ろうよ!」

 

 綾上が激しく同意を示していた。


 俺と小川は顔を見合わせてから、互いに頷く。


「それじゃ、最後に観覧車に乗ろうか」



「ジェットコースターとは違って、ゆっくりできるね」


「そだな。今日は歩き回って疲れたし。ちょうどいいな」


 狭いゴンドラの中、俺と綾上は二人きりだった。

 

 ゆっくりと上昇するゴンドラ。

 対面に座る綾上は、窓から見える周囲にも目を向け、風景を楽しんでいた。


「今日は、すっごく楽しかったね。ダブルデート、新鮮だったよ」


 視線を窓の外に向けながら、綾上は言う。


「うん、俺も楽しかった。取材にはなった?」


「うん。素敵な取材になったよ。……ありがとね」


 視線を俺に向け、綾上ははにかんだ笑みを浮かべた。


「……息抜きにも、なったか?」


 俺は、彼女の目を見つめながら言う。

 

 ハッとした表情のあとに、照れくさそうに俯いた綾上。


「うん。……すごくリフレッシュできた、かな。ありがと。気を使ってくれて、嬉しいです」


 綾上は、少し照れくさそうに笑う。

 夏休みに入ってから、俺とも連絡を取れないくらい根を詰めて企画書を作っていたみたいなので、息抜きになったようで良かった。


「もうちょっとでさ、企画が通りそうなの」


「良かったじゃん!」


 企画が通れば、新作が世に出ることになるだろう。

 純粋に、めでたいことだと思った俺は、すこし興奮しつつそう言った。


「だから、その『もうちょっと』のために。私また……頑張るね」


「……うん、頑張ってくれ」


 寂しそうに言う綾上につられて、俺も少ししんみりとしてしまう。


 また、企画を考えるために、綾上は俺とも連絡を取らずに、頑張るのだろう。

 俺は彼女の重荷にはなりたくない。だから、ここで駄々をこねることはしない、が。

 


 それでも、せっかくの夏休みに思い出を作れないのは、寂しいと思った。



「うん、私。頑張るから。だから……君から、ご褒美が欲しいな」


 と、悪戯っぽい笑みを浮かべて、綾上は言う。


「ご褒美? 俺にできることなら、力になるよ」


「本当!? 嬉しい!」


 喜んだ綾上は、シートから勢いよく立ち上がる。

 そのはずみで、ゴンドラがわずかに揺れ、そのせいかバランスを崩した綾上が……。


 俺の胸に飛び込む形となった。

 飛び込んできた彼女を、俺は怪我をしないように優しく抱きとめた。


「だ、大丈夫か!?」


「う、うん。大丈夫です……」


 綾上はそう言いつつも、立ち上がろうとしない。

 それどころか額を俺の胸に押し付け、離れようともしない。


「あ、綾上。大丈夫だったら……」


 一旦離れよう。

 そう続けようとした言葉を、彼女の一言が遮った。


「一緒に、夏祭りに行って欲しいな」


 うるんだ瞳で、こちらを上目遣いで見つめている。

 真っ赤に頬を染めながら、彼女は切なそうに言った。



 ご褒美の話だろう。

 俺を誘うのに、少し緊張したためだろうか。

 服の裾を握る手が、震えていた。

 


 綾上の仕草の全てが愛おしくなって、このままきつく抱きしめたくなる欲求にかられるが、それに耐えてから、俺は彼女に向かって告げた。 



「うん、もちろん。一緒に、夏祭りに行こう」



「……っ! 約束、だよ?」



 幸せそうな笑顔を浮かべながら、上目遣いに問いかけてくる彼女に。



「うん、約束だ」



 俺は、一言頷いて応えたのだ。

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新作投稿!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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