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10、美少女作家と遊園地


「おー、遊園地、久しぶりに来たわー」


「ウチも! だから、今日めっちゃ楽しみにしてたし!」


「んじゃ、今日は楽しもうな! 本部と綾上も、よろしく!」


 降り注ぐ太陽の光。

 熱気が肌にまとわりつく、夏真っ盛り。

 

 晴れ渡る青空、今日はまさしくデート日和だ。


 混雑する入場ゲート、俺と綾上の前を歩く小川が、振り返って言う。


 俺と綾上は、


「お、おう。よろしく」


「う、うん。よろしく」


 どこか、ぎこちない笑顔を浮かべながら言った。


「……なんか今日、二人とも様子おかしくない?」


 原田が不思議そうに尋ねる。


「え? そんなことないけど?」


「うん、そんなことないよ?」


 俺は視線を泳がしながら答える。

 綾上も、声を震わせていた。


 訝し気な視線を向ける原田だったが、小川から声を掛けられたためか、その違和感を追及することはなかった。


 俺と綾上は、隣り合って歩いているのだが、その間に会話はなかった。


 そう、無言だったのだ。


 なぜか?



 綾上が可愛いからだ。


 ……約10日ぶりに会った綾上が、可愛すぎるからだ。



 清楚で可憐な綾上の私服姿。

 いつもより少しだけ気合を入れたメイク。

 鼻腔をくすぐる女の子特有の、甘い香り。


 そのすべてが、俺を魅惑する。


 そして――緊張させていた。


 

 いや、マジで。

 ……綾上可愛すぎね?

 こんな可愛い女の子と、気軽に話すって……。


 無理じゃね?


 俺はそう思い、綾上と目を合わして会話をすることができなくなっていた。


「……えと、久しぶり、だね」


「うん、久しぶりだよな」


「元気にしてた?」


「うん、元気だった。綾上も、元気だった?」


「私も、元気だったよ」


 ……会話も続かない。

 なんだか当たり障りがないにもほどがある、全く中身のない会話しかできない。

 

 なぜだか、綾上にもいつものような積極性がなかった。


「そういえば、ダブルデートって俺、初めてなんだけど。香織はどうして本部たちも誘おうって言ったんだ?」


 入場ゲートをくぐってから、小川が改めてそんなことを言った。


「えーと、実はウチ、ナオとのこと綾上ちゃんに相談しててさー」


「え、マジ!? どんなこと!!?」


 小川が原田の発言に食いついた。

 俺も、それはちょっと気になった。

 一体、綾上はどんな相談を受けたのだろうか?


「えー、そんなんナオにも秘密だし―。ねー、綾上ちゃん?」


「う、うん。そだね、人に言うことじゃないよね」


 照れくさそうに、綾上は頷いた。


「マジかよっ、超気になるわ、それ!」


「秘密だしっ」


 悪戯っぽく、原田は笑いながら答える。


「それで、ウチの相談に乗ってくれた先輩カップルの綾上ちゃんに、ちゃんとウチらが上手くいっていることを見てもらいたいなー、って思ったわけなの」


 原田は綾上に視線を向けて、ぱちりとウィンクをして見せた。


「上手くいってるみたいで、その……良かった、かな」


 綾上は、先ほどよりも顔を赤くしつつ、応えた。


「……その、一応言っておくけど。俺と綾上は、別に付き合ってるわけじゃないから」


 先輩カップル、という点に引っ掛かりを覚えたのは、俺だけのようだった。

 自分自身に言い聞かせる意味を込めて、俺は一応言葉にした。


 すると、原田が大きなため息を吐いて、呆れたように言う。


「本部、あんたまだそんなこと言ってるの? 綾上ちゃんは、健気にあんたのことを想っているのに……、カワイそー」


「マジそれな!」


 二人の言葉に、綾上は伺うように俺を見てから、恥ずかしそうに、さっと目を伏せた。


 ……やっべ、超かわいい。


 照れくさくなって、俺も綾上から視線を逸らした。


「ウチがナオに、『付き合ってないから』とか言われたら、多分悲しくて死ぬわー」


「ちょ、俺が香織にそんなこと言うわけないだろ」


 ナオがカオリに、ゅった。


「やっぱりウチ、ナオのそういうところ……好き」


「俺も、香織のこと好きだ……」


 二人はお互いの名前を囁き合いながら見つめている。




 ……なんじゃこのバカップル。




 そう思いつつ、俺は心中で二人に中指をおっ立てた。


「……とりあえず! まずはどのアトラクションから回ろうか!?」


 俺はそんな空気を払しょくしたかったため、いつもより大きな声でそう言った。


「「あれがいい」」


 間髪入れずに小川と原田バカップルが指をさしたのは……


「おお、いきなりあれか……」


 この遊園地の名物ジェットコースター。

 最高速度が百キロを超え、真っ逆さまに落ちていくような……ビジュアルからしてすんげーアトラクションだ。


「良いじゃん、いきなりで! 景気づけになるって」


「そうそう! 綾上ちゃんは、どう思う?」


「私も……乗ってみたいかも」


 綾上も、二人の意見に賛成した。

 まぁ、この遊園地に来たのなら、あれに乗らないわけにはいかないだろう。

 綾上の取材のためにも、外せないアトラクションだ。


 俺も反対ではなかったため、返答する。

 

「そうだな。それじゃ、あれから乗るとしようか」




 30分ほど列で待ってから、俺たちの番となった。

 スタッフのお姉さんに案内されて、俺と綾上・小川と原田のペアで隣り合う。


 がっちりと安全バーで体が固定されてから、お姉さんの元気な声に送られて、ジェットコースターは出発した。


「この、ゆっくりレールをのぼっていく時間って……かなり緊張しない?」


 隣の綾上が、緊張の滲む声を漏らす。


「分かるわ。……超緊張する」


 俺は一言返す。

 ぶっちゃけジェットコースターの緊張と可愛すぎる綾上が隣にいる緊張が重なった結果。

 そう言うのが精いっぱいだった。

 

 その後、頂点に達っしてから、一瞬の停止。

 ゆっくりと下方に向かって進み……


 勢いよくレール上を落下・・する。


ギャーー!!!


 他の乗客の絶叫が響く。

 もしかしたら俺も叫んでいたかもしれない。

 叫んでいたと断言できないくらい、余裕がない。


 重力が襲い掛かり、前後も上下も左右もわからなくなるような感覚が、容赦なく襲い掛かる。 


 やべぇ、こえぇ。

 なにこれ、俺死ぬんじゃね?


 ジェットコースターの事故とかたまにニュースになるけど……俺も今日死ぬんじゃね?


 そんな風に俺はビビっていた。

 心臓が爆発しそうなくらい、ドキドキしていた。




 のだが……。




 いつの間にか、綾上が俺の手をギュッと握りしめていたことに、気づいた。




 ジェットコースターで、考える余裕なんてないはずなのに。

 俺の意識は触れ合う綾上の手にばかりいってしまう。





 あ、あれ?






 怖くてドキドキしてんのかと思ってたけど。

 もしかして、俺今、綾上に手をギュッと握られてるからか、ドキドキしてるんじゃね!?

 吊り橋効果ってやつ!? いや、それとは違うのか??


 えげつない挙動で体を揺さぶられながら、俺はそう思うのだった。




 あっという間に、ジェットコースターは終了した。

 笑顔のお姉さんに迎えられ、自然とふらつく両足に活を入れてから降り、小川と原田の二人と合流する。


「やばー、チョー楽しかったんですけど!」


「確かに! ずっとこれだけでいいよな!」


「うんうん、もう一回、あれ乗ろーよー!」


 二人は、元気な様子でそんなことを言っている。


 俺と綾上は、かなりのグロッキー状態。

 互いに顔を合わせてから、興奮している二人に言う。


「流石に、連続で乗るのはキツイわ」


「私たちはちょっと休んでいるから、二人で乗ってきてもらっても良いかな?」


 俺たちの様子を見て、二人は少し申し訳なさそうな表情を見せた。


「あ、悪い。興奮しすぎて周りが見えてなかった」


「良いよ、気にするな。俺たちはちょっと、マジで。一回休憩したいから、丁度いいくらいだ」


 小川の言葉に返すと、綾上も頷いた。

 その様子を見て、


「じゃあ、二人はここで休憩しててくれ」


「ゴメン、二人とも。ウチらだけで、もう一回乗ってくるね」


 二人はそう言い残して、ジェットコースターの待機列へと歩いて行った。


 そして、残された俺と綾上。

 二人の背中を眺めながら、俺は言う。


「元気だなー」


「元気だねー」


 元気のない俺たちは、一度ベンチへと並んで腰かけた。


 お互いに、まだいつもの調子ではない。

 なんと話を切り出したものかと考えていると。



 ――唐突に、綾上が俺の手に、自分の手を重ねてきた。



「え、あ、綾上?」


 動揺した俺は、彼女の名を口にする。

 

 頬が朱色に染まる、その横顔がとても綺麗で。

 俺の鼓動は、また高鳴っていた。


「久しぶりに見る君は。会えなかった時間の分だけ素敵に見えて……今まで私、すっごく緊張していました」


 綾上はそう言いながら、指を絡ませて、俺の手を握ってきた。


「君が素敵なのはいつものことなのに、変だよね」


 それがくすぐったくて、暖かくて。


 俺も彼女の手を握る力を強めていた。


「俺も。今日の綾上がいつもより綺麗に見えて、緊張してた」



 ――綾上が綺麗なのは、いつものことなのにな。


 その言葉は、口から出さずに飲み込んだ


「今日は、ダブルデートの取材です」


 照れくさそうに、はにかんだ綾上は、楽しそうに言う。


「うん、まぁ。そうだよな」


 今この場で、デート「風」だと強調はしなかった。


「まだ、ホントの恋人同士じゃなくっても……せめてこうして、手を繋いでいたいです」



 ひゅい、と横を向いて俺の視線を逃れつつ、綾上は言った。


 

「ダブルデートの取材なら。……そうした方が自然だし、いい経験になるよな」


 

 俺はまたしても、自分に言い聞かせるように言ってから、彼女の手を握る力を強めた。

 綾上も、そっぽを向いたまま、強く握り返してくれた。

 



 



 ――ああ、やっぱり。

 あのドキドキは、ジェットコースターに乗った恐怖からではなかった。



 なぜなら今は。


 あの時よりもよっぽど、ドキドキしているのだから。

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新作投稿!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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