8、クソレビュアーの夏休み
「はい、それじゃお前ら。明日から夏休みだな。部活、予備校、バイトがあるやつは頑張れー。ただ、不純異性交遊だけは認めないからなー、絶対だからなー」
担任の女教師(20代後半・最近悲しかったのは、残業後、車を運転しながら「がんがえー、あたしがんがえー」と意識せずに呟いていたのに気づいて泣いたこと)が、小川を睨みながら言った。
「分かってんのかー」
小川を睨みながら、先生は再び言った。
嫉妬のターゲットが俺から小川に移ったようで、何よりだ。
当の小川は、全く気にしている様子はないのだが。
そんな能天気な小川を横目にしつつ、俺は先生の言葉を頭の中で反芻した。
明日から夏休み――。
そう。
一学期、憂鬱な期末テストも無事終わり、今日が終業式だったのだ。
夏休みとなり、学校もしばらく休み。
面倒な課題やバイトはあるものの、学校に通っているよりも自由な時間は当然長くなる。
ここのところ小説のレビューが全然できていなかったから、今年の夏は出来る限り小説を読んで、レビューをネットに投稿するとしよう。
隣の席の綾上を見る。
帰りの支度をしているようで、俺の視線には気づいていない。
この一学期でずいぶんと親しくなった、クラスの美少女。
親しくなったどころか、元恋人同士。進級直後、そんな関係になるとは夢にも思わなかった。
ただ……あくまで俺たちは、「元」恋人。
楽しい夏休みに、自然とデートに行くようなことはないだろう。
特に、綾上はこの夏休みの期間を利用して、執筆も頑張ることだろう。
いつもと変わらない夏休みのはずなのに、いつもより少しだけ憂鬱な気分になるのは、仕方ないことだ。
俺はそう思いつつ、席を立ちあがる。
すると、
「あ、あのさ……」
帰り支度を終えた綾上が、俺に声をかけてきた。
「うん、どうした?」
俺は、彼女の言葉に応じる。
「えと、その……夏休みだね」
「そうだな、夏休みだな」
俺は綾上の言葉に頷く。
「また連絡するし、君からも連絡をしてくれたら……私は嬉しいです」
「うん、また連絡する」
照れくさそうに俯いてから、さらに続ける綾上。
「あと……また、私の思い付きの取材に付き合ってくれたら、とっても嬉しいです」
上目遣いでこちらを見やる綾上。
俺は心中で拳を握る。
取材。
その免罪符があれば……綾上と夏休みあってもおかしくない!
「……都合が合えば。協力するよ」
と、素直になりきれない俺は、そう応じた。
「えへへ……。うん、ありがとっ」
綾上は俺の言葉を聞いて、笑顔を浮かべた。
その笑顔を見て、先ほどまで抱いていた少しの憂鬱な感情は、吹き飛んでいた。
☆
『夏休みだからか、クソレビュアー君最近よく投稿してるなw』
『それにしても頻度上がりすぎじゃね?』
『一緒に遊んでくれる友達がいないんだろww』
『なるほどwwww』
「……くそう、なにこれ、めっちゃムカつく」
夏休みに入ってから早くも一週間が過ぎていた。
その間俺は、小説を読んだり、レビューを投稿したり、バイトに励んだり、たまに課題に手を付けたり。
それなりに有意義な毎日を送っていた。
ただ、レビューについては困ったことも発生していた。
これまでの分を取り戻すように積読を崩していき、クソ作品に当たったときは問答無用でレビューを投稿しているのだが……
これまで以上に「もとべぇ」自身も、ネットでブッ叩かれていたのだ。
……まぁ、仕方ない。
俺も小説家の方々をブッ叩いて嫌な気持ちにさせてしまっているのだから。
俺も、甘んじて嫌な気持ちになるとしよう。
――やっぱだめだ、無性にイラっとする。
こういう時は、可愛い幸那ちゃんに癒されるに限る。
そう思って、部屋から出る。
幸那ちゃんの部屋をノックするが……出ない。
リビングにいるのだろうか? そう思って下に降りるのだが……いない。
困った。今の俺の荒んだ心を癒せるのは幸那ちゃんだけだというのに。
一体、どこに言ったのだろうか?
そう考えていると、玄関の方から物音がした。
俺はリビングを出て、そちらに向かう。
すると、
「あれ、幸那ちゃん。これからお出掛け?」
「あ、兄さん。うん、これから友達と会う予定だから」
幸那ちゃんが玄関から出ようとするところに遭遇した。
どうやら、これからお出掛けだったようだ。
あまり長くお話はできないが、それでも幸那ちゃんの顔を見ることができたお兄ちゃんのストレスは、約99パーセント消えてなくなったよ。
「ありがとう、幸那ちゃん……」
「なんかよくわからないけど……兄さんはバイト以外ずっと引きこもってるね」
唐突に、幸那ちゃんが言う。
「鈴ちゃんとデートすればいいのに」
と、続けた幸那ちゃん。
「あ、あはは……」
俺は視線を逸らして愛想笑いをする。
そんな俺を、ジト目で見た幸那ちゃん。……そんな幸那ちゃんも可愛い。
「それじゃ、兄さん。私、出かけてくるね」
「う、うん。気を付けて」
幸那ちゃんは俺の言葉に、「うん」と頷いてから、手を振ってから玄関から出た。
可愛すぎてお兄ちゃんのストレスはすべてなくなった。
「さて、と」
幸那ちゃんを見送ってから、俺はポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを起動した。
そして、綾上とのやり取りを表示させる。
……夏休みに入ってから、俺はまだ一度も綾上とは会っていなかった。
連絡をくれたら嬉しい。
そう言われてはいるが、今のところ彼女から連絡は来ていない。
おそらく綾上は、執筆活動を頑張っているんだろう。
そうなると、軽々しく連絡を取りづらい。
……綾上の頑張りの、邪魔をしたくないのだ。
だが、それでも――。
声を聞きたい。
会いたい。
俺は、そう思うのだった。
綾上自身、俺といるのは息抜きになるようなことを以前言っていた。
そうであれば、少しくらいなら良いんだろうけど……。
口実がなければ、どうしても連絡がしづらい。
「……俺、ヘタレすぎる」
ため息とともに吐き出す言葉。
とりあえず、ラノベでも読もう。
そう思って、自室に戻ろうとしたのだが、そのタイミングで手に持ったスマホが震えた。
綾上だったら良いな……。
そう思いつつ俺は画面の通知を見た――。
【世界一】とにかく可愛い超巨乳美少女JK郷矢愛花24歳【可愛い】です(^3^)/
さてさて(*'ω'*)
もとべぇのスマホが受信したメッセージは、一体誰が送ったのかな??
みんなで予想してみましょー(*'▽')!
①鈴ちゃん ②幸那ちゃん ③あいさん ④小川
正解は、君の目で直接確認してくれよな(≧◇≦)!




