7、美少女作家と恋愛相談
「恋愛相談? ……私に?」
「う、うん。ウチが相談できるのなんて、綾上ちゃんしかいないし……」
放課後。
教室に残って欲しいとクラスメイトの原田さんに言われた私。
みんなが帰ってから、二人きりになったタイミングで、照れくさそうに言った原田さん。
「私しかいないって……原田さん友達多いし、相談する相手ならたくさんいるでしょ?」
「……その、めちゃくちゃ恥ずかしい話なんだけどさ」
気まずそうに俯きながら、原田さんは続けて言う。
「ウチ! 恋愛上級者気取って色んな子の恋愛相談受けてて! ぶっちゃけ今更他の子に恋愛相談なんて……できないって感じなわけ!」
「すごい、見事なまでの自滅だね」
私は呆れつつ応えた。
「だ、だからさ! ウチが恋愛相談できそうな彼氏持ちの子って……綾上ちゃんしかいないの! お願い、相談に乗ってよぅ」
両手を合わせて、こちらに上目遣いを向けてくる原田さん。
……彼とは今、別れている状況だけど。
「良いよ、私で良かったら、相談に乗るよ」
その点について私は、あえて触れません!
「マジ? 超助かる~」
原田さんもぱぁっ、と表情を明るくさせた。
「それで、どんな相談なの?」
せっかく頼ってもらえたんだから、役に立つアドバイスができたらいいなぁと思いながら聞いてみる。
すると、俯きがちに
「ウチ、ナオと付き合い始めてから2週間経ったんだけどさ」
ナオ、とは同じクラスの小川君のことだ。
なんだかすごい告白をされたらしいけど、詳しくは知らない。
「うん、それで?」
「結構順調にステップを踏んでるっていうか、手も繋いだし、この間はハグもしたし」
「う、うん。良かったね」
あれ、普通に惚気られてる?
これ私、相談乗る必要ある?
そう思っていると……
「そ、そろそろキスもしたいなぁって、思ったんだけど。その、タイミングが全然わからなくって。綾上ちゃんたちの時はどうしたのかなって思って」
……
「手を繋いだらドキドキするし、ぎゅっと抱きしめられたらすっごく幸せだし……だけどさ、それだけじゃなくって。キ、キスもできたら……多分、もっとナオのこと好きになるんだろうなって、思って。そしたら、キスしたい、っていうかしてほしいっていうか……、綾上ちゃんなら、ウチの気持ちもわかるよねっ!?」
…………
「あ、あれ? どったの綾上ちゃん?」
無言の私が心配になったのか、原田さんはそう問いかけてきた。
「あー、キス。キス……鱚ねー。鱚は一般に彼岸前後が旬って言われてて、春~初秋が良いタイミングになるんじゃないかなー」
とりあえず私は、鱚の旬を説明することにした。
「魚の話じゃなくて! ちょっと、綾上ちゃん、ウチ本気で相談してるんだから、茶化さないでよー!」
少しムスッとした表情で原田さんは言った。
原田さんが怒るのも、分かる。
だけど……だけどね?
キスだよっ!?
私だってまだ、彼としたことないのに……そんな相談答えられるわけない!
っていうか、私も彼と……キスしたいからっ!
「うーん、わ、私たちの場合はー」
と思いつつも!
せっかく私に頼ってもらえたんだから、最大限のアドバイスはしたい!
そう考えた私は、あの時のことを思い出す。
彼と私が恋人同士だったあの日のこと。
あの夜の公園で、見つめあって……キスをしてもらえそうだった時のことを。
あの経験がある私は――まだ、ぎりぎり原田さんの相談に応えられる! はずっ!!!
「デートの帰り、もっと一緒にいたいって思って。私の家の近くの公園で、ちょっと休憩したの」
「うんうん」
原田さんは、興味深そうに頷いていた。
「それで、デートの話をして。良い雰囲気になって……」
「そ、それで!?」
「『キスしても、良いか?』って聞かれて、後は私は目を閉じて――」
そして、結局キスをしなかったのでした。
私の話を聞いた原田さんは、自分がもしもそうなったら、と想像、というか妄想しているのだろう。
顔を真っ赤にして、身もだえしていた。
「そ、そっか。本部って結構男らしいところあるんだ……」
「う、うん。最高にカッコいいです……」
私が言うと、
「もう、綾上ちゃん惚気ないでよー」
と、原田さんに笑われたのだった。
「……それじゃ、良い雰囲気を作ったら、後は彼氏に任せるのが良い……のかな?」
「私は、それで良いんじゃないかなぁと思うけど」
て、いうか。
それ以外に私から教えられることはないのです!
ごめんね、原田さん!
と、私は心中で謝る。
「よ、よしっ! 今度のデートで、絶対キスしてもらうぞー!」
そんな私の謝罪なんて原田さんには関係なく。
腕を上げて、張り切っていた。
「ありがとね、綾上ちゃん! ……なんか、変な相談しちゃってごめんね」
そして、原田さんは少し申し訳なさそうに、私に向かって頭を下げた。
頭を上げた原田さんと目を合わせてから、私は言う。
「ううん、気にしないで。……だって原田さんは。暗くて人見知りな私にも、声をかけてくれた……友達、だから」
私の言葉に、耳を傾けてくれる原田さんに、続けて言う。
「だから、原田さんの相談に乗れて、役に立つことができて。私は嬉しいよ」
私の言葉に、原田さんはぱぁっと表情を明るくさせてから――
「やーん、綾上ちゃん可愛いー! 好きー!」
そう言って、勢いよく私に抱き着いてきた。
そのことがびっくりしたし、夏で気温も高いから暑苦しかったりしたけど。
――不思議と、嫌な気持ちではなかった。




