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6、クソレビュアーと謎の美女

 とある日の放課後。


 俺は以前綾上とも来ていた、書店に一人で訪れていた。

 

 ここに来たのは、好きな作品の発売日だったからだ。


 本日発売の第6巻で、累計発行部数が50万部を突破した、超人気シリーズ。

 著者は「鹿島アイラ」。

 2シリーズ目となる本作を執筆している、ライト文芸作家。

 


 俺は入店してすぐに、レジへと向かった。

 すると、顔なじみとなった中年の男性店員が、俺を見て話しかけてくる。


「お、本部君。鹿島アイラ先生の新刊だね? 予約してもらってたから、ちゃんと取り置きしてるよ」


「ありがとうございます。やっぱり今回も、売れ行き好調ですか?」


「うん、やっぱ人気だねぇ。特に、若い子がたくさん買っていくよ。次の巻も、予約してくれた方が良いと思うなぁ」


「そうします」


 話してから、カウンター奥から予約していた文庫本を持ってきてもらう。


 俺は代金を支払ってから、商品を受け取り、店員と一言二言会話を交わしてから、店を出ようとしたのだが……。



 

「もとべくーん」




 と、急に呼び止められた。


 聞き覚えのない女性の声だった。

 

 え……何? 誰? 


 そう思いつつ、俺は振り返る。


 俺よりも少し年上の女の人が、にこにこと眩しい笑顔をこちらに向けていた。

 ついでに彼女は……胸が大きくて、めちゃくちゃな美人だった。

  

 こんな美人と会ったことがあれば、けして忘れることはない。


 つまり、初めましてだった。

 

「なんでしょう? ……ていうか、なんで俺の名前を知っているんですか?」


 俺は、当たり前の疑問を口にした。


 すると、その美人は眉根を申し訳なさそうに歪めてから言った。


「急に呼び止めてごめんねー、ちょっと気になることがあって。多分、意味の分からない質問だとは思うんだけど……」


 俺の目をまっすぐに見てくる彼女の瞳が、一瞬真剣みを帯びた……気がした。


「レビュアーの「もとべぇ」だったりしないよね?」




 ……え?


 一拍置いてから、俺は問いかけられた言葉の意味を理解し、そして驚愕した。


 



「あー、その顔。……マジなんだ」


 質問をした側の美人も、どこか驚いたような表情を浮かべていた。


 いやいや、絶対俺の方が驚いているから。

 どうしてそんなことわかった?

 何この人、エスパーか何か?


「……良かったらさ、お茶でも飲みながら話そうか?」


 という美人の言葉に。


 混乱した思考のまま――


「あ、はい」


 俺は思わず、頷いていた。




「それじゃ、自己紹介。私はS大学の2回生。あい、って読んでくれたら良いから」


「俺、健全な男子高校生なんで、女性を下の名前で呼び捨てって、結構緊張しちゃうんですよね。できれば苗字を教えてください」


「あい、って呼んでね! お姉ちゃんでも可!」


「はぁ。……じゃあ、あいさんで」


「何そのため息! ま、しょうがない、心の広いあいお姉さんは、特別に許してあ・げ・る♡」


 書店近くのファミレス。

 俺と「あい」と名乗った美女JDは向かい合っていた。

 


「はい、次はもとべぇ君の番だよ」


 こちらに向かって掌を差し出しながら、今度は俺に自己紹介を促す。


「……ご存知、クソレビュアーのもとべぇです」


「……それだけ?」


「これだけで良くないですか? あまりパーソナルな話は、流出した時が怖いんで」


 クラスメイトの綾上とは違い、ほとんど知らないあいさんに対して、流石に踏み込んだことは言えない。

 ……そんな警戒するなら、ほいほいついてくるなという話でもあるのだが。


「もー、別にもとべぇ君のリアルをネットでばらしたりしないってば」 


「いやいや、俺のアンチはネットに大量にいますからね。あいさんがそうじゃないとは断言できないですから」


「確かに、もとべぇ君には大量のアンチがいるねー」


 おかしそうに笑いながら、あいさんは言った。


「そうそう、それで! 君は何のためにそんなレビューを書いてるの? 私、結構そこんとこ、気になってるんだよねー」


 ドリンクバーで注いだウーロン茶をストローを使って飲みながら、あいさんは俺に問いかける。


「なんでそんなことが気になるんですか?」


「だって。小説の作者だったら、作品を発表すれば収入を得られるし、面白いって思ってもらえたら嬉しいだろうし。だけど、叩かれることが分かっているレビューを上げ続けるって、どうしたらそんなことができるのかなって思って」


 その返答に、俺はあいさんが「もとべぇ」のこと、けっこう詳しく知ってるんだなぁ、と気恥ずかしくなった。

 いや、確かにネットでは悪名高いけど、リアルでこんな風に突っ込まれたこと、綾上相手でもなかったわけだし。


 俺は彼女の質問に答えるために、口を開いた。


「……使命感、ですね」


「使命感?」


 俺の言葉を繰り返すあいさん。


「そうです、使命感です。俺のレビューを見た読者が、クソみたいな小説を読んで、時間を無駄にしないために。俺は自分の時間を削ってでも、作品批評をネットにアップしているんです」


 俺は真面目に答えた。

 あいさんは俺の言葉に、一度悲しそうな、そして申し訳なさそうな表情になってから――


「な、なにそれ……あはははは、おっかし~」


 と。

 お腹を抱えて笑うあいさん。


「でも、まぁ。嫌いじゃないかな、そういうの。……叩かれる方は、たまったもんじゃないだろうけど~」


 そして、笑い終えたあいさんと俺は、小説の話を始めた。

 一般文芸、ライト文芸、ライトノベル。

 大衆小説なら、基本的にジャンルを選ばずに読むようで、最近の小説のおすすめを教え合ったり、初対面とは思えないほど、俺とあいさんは話をした。


 なんだか、綾上と話している時を思い出すような心地よさだった。


 ――いや、綾上と話していたら心地よさよりも恥ずかしさやドキドキが上回るから、あいさんとの方が落ち着いて話せているかもしれない。


 そんなことを思っていると、あいさんは何かを思い出したように、パンと両手を合わせてから、


「そうだ。今日、「鹿島アイラ」の新刊、買ってたよね?」


 と、聞いてきた。


「はい、そうですけど……」


 俺が答えると、彼女はどこか試すような視線を、こちらに向けてきた。


「もとべぇ君はまだ……鹿島アイラが好きなの?」


「まだ、って。……どういうことですか?」


「……ううん、別に、深い意味はないよ」


 にこにこと、これまでと変わらぬ笑みを浮かべるあいさん。

 その様子は別段不思議なものでもなかったため、抱いた違和感は気のせいだと思うことにした。


 

 そして、俺はあいさんの質問に、一言応える。



「嫌いですよ」


「え?」


「俺、鹿島アイラのこと。結構嫌いなんですよね」


 俺の言葉を聞いたあいさんは、首を傾げて問いかける。


「それじゃ、なんでまだ……。鹿島アイラの小説を買うの?」


「作者は嫌いですけど。作品は面白い。……それだけのことです」


 俺の言葉を聞いたあいさんは、ぽかんとした表情になってから。

 なぜだか少しだけ嬉しそうに、口元をほころばせた。


「そっか」


 一言応えた後、うーん。と大きく伸びをした。


「さて、と。それじゃそろそろ帰るとしますかー」


 そう言って伝票をひょいとつまみ上げて、立ち上がる。


 一緒にレジに向かうと、あいさんはパパっと俺の分まで会計を済ませた。


「あ、自分の分は払います」


 そそくさと店の外に出たあいさんに向かって、俺は言った。


「高校生なんだから。ここは素直におごられてた方が、お姉さん、可愛げがあると思うなー」


 パチッとウィンクを決めて、あいさんは財布をさっさとしまった。


「……ありがとうございます、ごちそうさまでした」


 俺は、彼女の言葉に甘えることにした。


「うん、ちゃんとお礼が言える子って、お姉さん素敵だと思うよ」


「あ、そうだ。連絡先、交換しよ?」


「へ?」


 俺は驚いて、呆けた声で返事をした。

 すると、あいさんは不満そうな表情になった。


「何? 私みたいな巨乳美人JDの連絡先がいらないって、もしかして……そういう趣味なの?」


「変な勘繰りはやめていただきたい」


「じゃあ、交換しようよ。あっ、おごりのお礼、ってことで!」


「めっちゃ押し付けがましいですね……まぁ、良いですよ」


 俺たちは同じメッセージアプリを起動させて、連絡先をサクッと交換した。


「おお、もとべぇって名前で登録してるんだ。強気だねー」


 このこのー、と俺の胸を肘で突くあいさん。

 俺はあいさんの気が済むまで、されるがままだった。


 気が済んだあいさんは、肘で突くのを唐突にやめてから言った。


「そういえばもとべぇ君は、ここら辺に住んでるの?」


「いえ、違います。これから電車に乗って帰るんで」


「あ、そうなんだ。じゃ、ここでお別れですな。お姉さんとお別れは辛いだろうけど、またいつでも会えるから、そんなに寂しがることはないからね」


 泣きまねをしつつ、そんな戯言を抜かしたあいさん。


「いや、別に寂しくはないですよ。それじゃ俺、ここで失礼しますね」


 そう言って俺は駅に向かって歩き始めた。

 

 あいさんは「お姉さん、悲しい!」とか「あ、あれ? 無反応?」とか「え、ちょ本当に!?」と、俺の背後で騒いでいた。

 俺は歩みを止めないまま、首だけで振り返って胡乱な視線を向けた。


 すると、目が合う。

 嬉しそうに笑ったあいさんは、大きく手を振って、言う。


「もとべぇくーん、また連絡するからー! バイバーイ」


 あいさんが大きく手を振る度。

 





 ――彼女の大きな胸が、めっちゃ揺れていた。

 





 俺はその圧倒的破壊力から目を逸らしつつ、会釈で応じたのだった。




 その日の夜。


 俺は購入した「鹿島アイラ」の新刊を読みふけっていた。


 そして、三時間ほどかけて、読了。

 ふぅ、と大きく息を吐いてから、


「……やっぱ面白いな」


 クソレビュアーと言われる俺だが、こうも面白いと叩くこともできない。


 それが――複雑な気分であった。



 

 俺は表紙に書かれた著者名をもう一度見た。



「鹿島アイラ」

 

 本日発売の第6巻で、累計発行部数が50万部を突破した、超人気シリーズを書く実力派の作家。

 


 ――俺が初めて叩いた作品の、著者で。


 そして俺が、もっとも軽蔑する小説家だ。




いよっ!!!

【世界一】とにかく可愛い超巨乳美少女JK郷矢愛花24歳【可愛い】だよん♡


 新コーナー

「これってどうなの!? 教えて☆愛花先生♡」

 のお時間です(*'ω'*)


このコーナーでは、愛すべき読者のみんなが思ったであろう疑問に、愛花が勝手にお答えするコーナーだよ(*'▽')


もしかしたら、みんなが全然疑問に思ってないことを、愛花が張り切ってお応えすることもあるんだけど……えへへ、許してね♡


それでは、記念すべき第一回目の質問です(*´ω`*)!


愛すべき読者のみんな「「「なんであいさんは、もとべぇがもとべぇだって思ったの??」」」


愛すべき郷矢愛花「確信をもってたわけじゃなくって、もしかして……って思ったら、本当にもとべぇがもとぇでびっくり! したんだよ♡」


愛すべき読者のみんな「「「じゃあ、あいさんはなんで、もしかしたら……って思ったの???」」」


愛すべき郷矢愛花「一つは店員さんとの会話を聞いて、本部っていう本名を知ったからなの。もう一つは……ナイショだよ♡」


愛すべき読者のみんな「「「……」」」



そして愛すべき読者のみんな「「「ナイショって、そりゃないぜよー!!!」」」



えへへ、次回更新も楽しみにしてくれると、愛花とっても嬉しいなっ(≧◇≦)!

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新作投稿!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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