辻斬り その13
石碑は池辺と県警の刑事に任せ、
加藤は巡査を連れて本堂へ向かった。
「県警で家捜ししたとは思いますが、付き合ってください」
「遠慮はいらないですよ。事情が変わりましたからね」
そうなのだ。
肝心の辻斬り事件は第一被害者の周辺からも、
第二被害者の周辺からも何の手掛かりも得られていない。
両者の繋がりも不明。
辻斬りの方も、それらしい人物は見つかっていない。
となれば斬殺された二匹の犬の件に期待するしかなかった。
巡査の眼力を信じれば、鮮やかな斬り口であった事になる。
試し斬りの可能性が排除できない。
そして、それ以前に発生していた行方不明事件が、
勘だが、何やら臭った。
行方不明が犬の斬殺、辻斬りに関連性しているようでならない。
それに、何が盗まれたのか、と気にかかる。
関連性があるのなら盗まれた物が鍵になるに違いない。
こじんまりとした本堂だが、奥に鎮座する仏像には驚かされた。
右手に宝剣を持ち、左の掌には宝珠を乗せ、
カッと目を見開いて招かざる闖入者を睨み付けていた。
「これが御本尊ですか」
「はい。明王だそうです」
明王の視線を憚りながら、本堂を隅々まで検めた。
こじんまりしている上に、部屋数が少ないので手間はかからない。
それに県警が調べているので、「見落としはないか」と注意を払うだけ。
隠し部屋もなさそうだ。
次ぎに僧房に入った。
こちらは住職の一人暮らしを前提に建てられていた。
本堂に比べて更にこじんまりしており、部屋数も少ない。
生活の匂いがしない。
「住職は掃除好きだったのですか」
「そういえば暇なので掃除をよくしていましたね」
檀家がないので暇を持て余していたのは事実だろう。
僧房だけでなく本堂も古いが清潔感があった。
念入りに乾拭きしていたに違いない。
考えてみると寺の維持管理は副次的なもの。
それ以外の何かが、目的が何かあったはずだ。
盗まれた物は、電話の様子から住職の私物でないのは確か。
おそらく毬谷家の絡みだろう。
だとすればどこかに隠して保管していた。
隠し部屋か。
でも、本堂からも僧坊からも隠し部屋は見つかっていない。
となれば何らかの、からくりがあるはず。
もしかするとだが、
掃除ついでに隠し場所を毎日点検していた、
・・・と言うこともありうる。
そうなると、人目についても不自然でなく、かつ怪しまれない場所・・・。
そういえば本堂は照明設備が全くなかった。
「本堂は火気厳禁でしたよね」
「はい。蝋燭も線香も厳禁です」
火気厳禁に加えて照明設備がなければ漏電の心配もない。
大事な物を保管するには、もってこいの環境だ。
そういう疑問を巡査にぶつけると、彼も同意した。
「それでは本堂を調べ直しますか」
本堂に戻ったものの、どこから手を付ければいいのか迷った。
それを見て巡査が助言した。
「湿気を避ける為に隠すなら上でしょう」
屋根裏部屋がないのは確かめてある。
そうなると残されたのは隠し棚。
あるいは内部を刳り抜いた柱。
ドラマや時代劇でしか見た事のない絡繰りだ。
壁に空洞はないか、
構造に支障のない柱が余分に用いられていないかを調べた。
照明設備がない点を、明かり取りの窓を多用することで補っており、
本堂内は隅々まで明るく、調べるのに何の不自由もしない。
巡査と二人、手分けして壁を柱を叩いて回った。
終わり近くになった時、巡査が声を上げた。
「あっああー」と。
一本の柱に必死で取り組んでいた。
加藤は自分の手を止めた。
「見つけたのですか」
「これらしい」と巡査の緊張した答えが返ってきた。
そして、「パカッ」と音がした。
柱の表面がまるで蓋のように外れた。
長さニメートルほどの細い空洞であった。
最初から、そこに何かが入っている事は期待していない。
入っていないという事こそ、
ここから何かが盗まれたという傍証に他ならない。




