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彼方に飛ばされて  作者: 渡良瀬ワタル
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辻斬り その9

 ヒイラギは不機嫌になっていた。

サクラが勝手に付けた「ヒイラギ」という名に対してなのか、

それとも厚かましいと思える態度のサクラに対してなのか、

とにかく空気が重い。

 サクラが言う。

「精霊には大雑把だけど二つのタイプがあるの。

一つは、まっさらな状態で生じる精霊。

私のように願いによって生じる言霊も同類よ。

人に喩えれば新生児誕生ということかな。

途中で発育不全で消滅するモノもあれば、悪霊化するモノもあるわ。

この私のように立派に育つのが珍しいのよ」自分を誇りながら続けた。

「もう一つは死んだ筈なのに成仏できないモノよ。

この世に居座り、背後霊とか地縛霊とかで括られているわ

これは残留する力が強いから手を焼くわ」


 果たしてヒイラギがどのタイプなのかは知らない。

そういう会話以前に、考えた事すらなかった。

 ヒイラギが何も言わないので、毬子は場を和ませようとした。

「サクラ、聞くけど貴女はどうして、みんなの願いを叶えないの」

「簡単な理屈よ。

願いは自分で叶えるもの。自分の力で勝ち取るもの。

分かってくれるかな」

「理屈は分かるけど・・・」

「私の前で願うのではなく、

願いの筋を事前通告するのが正しいやり方なの。

かくかくしかじかの理由により、なにそれを行なう。

そして最後に、神よご照覧あれ、と言って締めるの」

「何よ、それ」

「つまりね、私達を頼るのではなく、覚悟をもって事に当れという事なのよ」


 毬子は思い当たる節があった。

「・・・もしかしてアレね。

神仏を敬えど、これに頼らず、ただ己のみの力にて事に当る。

そんな言い回しだったかしら、昔の人の言葉だけど」

「それで結構よ。

要するに、神仏の前で覚悟を披露する。

そして、こうと決めたら迷わず、ただ粛々と実行する。

そういう者こそが願いを叶える資格があるの」

「そうか、ここは迷いを断ち切る場所なのね」

「そういう事。

それにね、私は神域からは一歩も動けないの。

つまり、ここでのみ存在するわけね。

だから同行して助けたくても助けられないの」

「精霊なら軽くて動き易いモノだとばかり」

 初めてサクラの口調が変化した。

「不自由にも神域に縛られているの。

これでは、まるで地縛霊よ」

 何やらヒイラギが小さくクスクスと笑っている気配。


 不意に別の声。百合子だ。

「これ読める」

 彼女は大きな掛け軸の前で首を捻っていた。

毬子は隣に並んだ。

見事な隷書体ではないか。

しかし見慣れぬ文字が多すぎた。

「これは無理ね」

 すると田村と川口も寄って来た。

「中国の古い文字かな」と川口。

「習っていないから読めない」と田村。

 少し離れた所にいた吉田がヤレヤレとばかりに首を左右に振った。

隣の吉田弟が兄の脇腹を軽く突っつく。

「いいの」

「何が」

「さあ、何だろう」


 サクラが毬子に囁いた。

「もてるのね」

「何が」

「男の子達の目の色が違うでしょう」

「相手はユリよ」

「どうかな、私はアンタだと思うけどね」

「ユリの方が女らしいわ」

 突然、ヒイラギが笑った。

「はっはっは・・・、この娘はウブでどうしようもない」

 サクラが乗っかった。

「男心が分からぬのか。それは残念なオナゴだね」


 日曜日でも、「新宿渋谷連続斬殺事件」合同捜査本部に休みはない。

汗を拭きながら戻ってきた二人の刑事が篠沢真一の前に立った。

「警部、それらしい人間はおりませんでした」 

 二人には、「辻斬りは剣道の有段者、しかも真剣に慣れた人間。

剣道界の中に身を置く、あるいは置いた者に違いない」と捜査させていた。

幸いにも背格好が判明しているので、犯人は絞り込みやすい筈であった。

「ちゃんと調べたのか」

「はい。それらしい奴は一人も浮かび上がりません」


 篠沢は二人を睨んだ。

「酔っぱらい達や腰の抜けたようなドライバーが目撃者だが、

襲撃は短時間で終わっている。

切断された箇所を見たが、鮮やかでケチのつけようがない。

斬り口に躊躇いがない。

よほど真剣に慣れていないと出来ない。

では辻斬りはどこで真剣に触れた、分かるか」

「今のご時世、真剣に触れられるのは居合いの道場だけですね」

「そうだろう、そちらも調べたのか」

「有名どころは調べました。

銃砲刀剣類登録の線も追いました」

 別の一人が言う。

「類似の事件はないかと、そちらも調べたのですが、皆無です」

「初犯にしては剣に慣れている」

「試し斬りはしますよね」

「ああ、周到な襲撃だから、試し斬りくらいはするだろう。

それが人なのか、犬猫なのか」

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