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彼方に飛ばされて  作者: 渡良瀬ワタル
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四面楚歌 その33

 田原が手真似で、「後部座席に座らせろ」と要求した。

「どうします」池辺は加藤に尋ねた。

 加藤は微妙な苦笑い。

「ここで断ると騒ぎ出しそうな顔だ。入れろ」

 疑問に思いながらも後部ドアのロックを外した。

田原が、「すまないな」と笑顔で乗り込んで来た。

手には細長い棒状の袋。竹刀袋。

思わず池辺は、「こんな時間まで稽古をしていたのか」と聞いた。

「違うよ」田原。


 その竹刀袋を運転席の池辺に手渡した。

掴んだ感触は竹刀ではないが、木刀にしては重い。

「まさか」と思いながら中の物を掴みだした。

やはり・・・、白鞘。

「刃引きを持って歩く趣味はないよな」

「ないなあ」澄まし顔の田原。

 街灯の明かりが運転席の足下にまで差し込んでいた。

ハンドルの上で白鞘の鯉口を切った。

軽く拳二つほど抜いた。

思わず、「うっ」と唸ってしまった。

明かりに照り映える刃紋に見惚れた。

何度か真剣を扱った覚えはあるが、ここまで美しいのは初めてだ。


 言葉を無くした池辺に代わって加藤が問う。

「これは」

「差入れ」意味するところが分からず加藤は押し黙った。

 田原が続けた。

「バンパイアを相手にするのに銃だけじゃ心許ない。

ましてや麻酔銃なんてのが当るのかどうか。

相手は身体能力が獣並みだからな。

象なら当るかもしれないが、バンパイア相手じゃ無理があるだろう」

 警察内部で秘密になっているし、それを踏まえた行動もしてきた。

その甲斐あってか、出入りのマスコミは当然として、

この辺りに目を光らせている所轄にさえ露見してはいない。

なのに目の前の田原が・・・。


 加藤も池辺も顔に色を出さぬように努力した。

「どうして、お前が知っている」と問い詰めたいのだが、

それでは認めたも同然。

辛うじて、

「バンパイアが東京に入ったという情報は聞いていない」加藤が否定した。

 池辺は刀を田原に返した。

田原は仕様がなさそうに受け取るも、空いた隣席に置いた。

持って帰るつもりはなさそうだ。

「戦後のバンパイアを封じた戦いがあったろう。

それにはウチの一族の者も加わっていた。

その一人が十数年前まで生きていたので、

親父はその時の話しを何度も聞かされたそうだ。

子守歌代わりだったそうだ」


 話しに二人は乗った。

「どういう戦い方だったんだ」と加藤。

「簡単に言えば、

毬谷家から剣術に長けた者達が呼び寄せられ、

これに方術師、呪術師、エクソシストや調伏僧達が加わり、

白兵戦で挑んだ。

勿論米軍も邪魔にならぬように狙撃兵で遠巻きに包囲した」

 二人が目の色を変えたのを見て、田原は詳しく話す事にした。

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